妻から夫へのモラハラ…その理由とは。9000件の夫婦問題に向き合ってきた離婚カウンセラーに聞く
更新日: 2023年08月29日
ここ数年で妻からのモラハラに悩む男性が、夫婦問題カウンセリングに訪れることが増えているといいます。しかし、妻がなぜそのような態度をとるのか夫側が理解できていないケースも少なくないようです。離婚を考えるパートナーと修復関係を結ぶには、どのような行動が求められるのでしょう。離婚カウンセラー歴13年、延べ9000人の夫婦問題に向き合ってきた高草木陽光さんに聞きました。
妻のモラハラに悩む夫、その原因とは
――どのような相談が多いのですか?
近年増えてきたと感じるのは、浮気やDVといった直接的な要因よりも、普段の生活態度や会話に含まれるちょっとした威圧感ですとか、モラハラの相談が多いですね。はたから見たら「少し言い方がキツイだけでは?」と思うような小さなことが、何年も積み重なると離婚を考える要因になるのだと思います。
――相談にいらっしゃる方の年齢や男女比を教えてください。
5年から10年ほど前までは40代、50代の方が多かったのですが、年代的にはここ数年で30代、40代と若い方の相談が増えてきた印象です。
月によってばらつきはあるものの、私のところに相談にいらっしゃる方は男性が約40パーセント。相談内容はさまざまですが、妻からモラハラを受けていると相談に来る方は以前より増加したと感じます。
――男性の相談が増えているのはなぜでしょう。
以前は男性が女性にハラスメントを受けていると公言するのは、恥ずかしかったり、みっともないといった感覚が強くありました。それがここ数年で、男性側から声を上げてもいいんだという意識の変化があり、男性が安心して相談に訪れることのできる土壌を作っているのではないかと感じます。
1997年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回り(リンク:https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s03.html)、その差は年々開いています。共働き世帯の女性ほど「家庭で夫に対等を求めることは当然だ」という意識を持っていますし、若い世代の男性ほど「家事や育児を分担することは当たり前だ」と思っていること自体は、いい傾向だと思います。
しかし、時短勤務で仕事と育児を両立したり、子どもが急に発熱すれば仕事を中断して迎えに行ったり……どうしても女性の負担の方が大きくなってしまいがちです。それでも仕事と家庭を両立させるため自分に厳しくする分、夫にも求めるものが大きくなってしまうのかもしれません。
そこで夫婦間で不満をきちんと話し合えればいいのですが、話し合いがないまま蓄積された不満は、言葉や態度のトゲになって現れ、相手にモラハラとして受け止められてしまう。
※写真はイメー(iSrock.com/PeopleImages)
妻のモラハラ相談にいらっしゃる男性のお話を聞いていて感じるのは、仕事と家事、育児を両立する妻にこれ以上物理的に何かを求めているわけではないということ。精神的な気遣いを求めているのです。
ただ、男性自身がなぜ妻がそうした言動をとるのか理解できていない場合も多い。「俺だって忙しいし大変なんだ」と夫婦間の話し合いを避けていることもあります。妻の機嫌が悪いからと話を聞き流していたら、突然離婚や別居を切り出されたということは、よくあるパターンの一つです。
夫婦の問題認識に生じるズレが離婚の引き金に…
――妻からのモラハラと、妻から突然離婚を切り出されるケースは地続きになっていることもあるのですね。男性側が相談にいらっしゃるのは、離婚と修復どちらを目的とされる方が多いですか。
修復を目指す方が多いです。女性にとっては全く突然ではなく、これまでの集積から離婚と言っているわけですが、男性からすると突然に聞こえてしまうんですよね。「妻から突然離婚と言われたんです、どうすればいいですか」と狼狽しながらご連絡をくださる方もいます。
傾向として、女性側が比較的早い段階で相談にいらっしゃるのに対し、男性は相談に来るタイミングが遅い方が多いんですよね。もう少し早く相談に来てくれればとよく思うことがありますが、男性の場合はギリギリのところまで何とか一人で解決しようとする。あるいは現実と向き合えていないと感じることもあります。
――男性の相談のタイミングが遅い理由は何ですか?
「我慢が美徳」という文化的な背景が関係しているのではないでしょうか。相談者には医師や弁護士、一部上場企業の役員など、社会的地位の高い男性も多くいらっしゃいます。地位の高い方ほど周りに相談しづらく、夫婦問題を先送りにしてしまうのかもしれません。周囲に相談できないことだからこそ、専門家であるカウンセラーを頼っていただけるのでしょうけれど。
――男性と女性で相談のタイミングが異なるということは、夫婦関係の危機的な状況の認識にズレがあるということですよね。
それは大いにあると思います。爆発寸前まで不満や悩みを抱える妻の言葉が「いつものグチか……」と流されてしまう。そこから段々とズレが生じて、妻が諦めの境地に達してしまうと、離婚しか考えられなくなってしまうんですよね。
夫婦問題に対して、男性側は些細なことと流すのではなく危機感を持つことが大切ですし、女性側は問題の深刻さやご本人の本気度を相手にしっかり伝えることが大事です。
確認するのは「普段の言葉遣い」
――カウンセリングはどのように進めるのですか?
状況によるので詳しくお話をお伺いしながら、まずはどういったことができるのかを探っていきます。
※写真はイメージ(iSrock.com/lithiumcloud)
たとえば、別居して一年半後に初めて相談にいらして関係修復をご希望の男性の場合。別居期間中に何をしていたか尋ねると、ただ待っているだけだったと。迎えに行くなり、手紙を送るなり、修復に向かうためにできることを提案させていただきます。
ポイントは妻のタイプに合わせた対応をすること。それは余計に怒りを買いそう、この方法なら響くかもしれないと、一緒に見極めながら対応策を探り、相談者には手を尽くしていただきます。
それから、男女関わらず私が確認させていただくのは普段の言葉遣いや会話の内容です。自分では普通に伝えているつもりでも、責めるような言い方をしている場合があります。また、「何時に帰るの?誰に会うの?」と過剰に質問している場合も、相手を信用していないことを伝えていることになるため注意が必要です。
普段の会話や行動を見直し改善を実行すると、相手が受け取る威圧感や違和感が和らぐんですよね。自分から言動を変えることで、相手から返ってくる言葉や態度も変わっていくのです。
日本は同意さえあれば簡単に離婚することができますが、離婚後に「あの時こうしていれば……」と考えるのは非生産的ですよね。そうした感情が湧かないよう、やるべきことは全てやったから悔いはないと思えるところまで手を尽くす。一種の開き直りというか覚悟ができたら、結果として離婚することになっても自分自身が納得できるはずです。
きめ細やかなシミュレーションで離婚後の生活を考える
――納得感を得ることが、次のステップに進むために必要なことなのかもしれないですね。
そうですね。ただ、頑張れる気力のない方もいます。これまでご自身でいろいろな手を尽くしたけれど、それでも相手が変わらず一緒に生活すること自体に苦痛を感じている方もいらっしゃいます。そのような方に「こんな方法をやってみましょう」といった提案は適切ではありません。
そのような場合には離婚をしたいのか、ただ離れたいのかをヒアリングし、後者ならばまずは別居をおすすめしています。それでも離婚をしたいという場合には、離婚後の生活のシミュレーションから始めます。
離婚後は、実家に戻るのか、新しい家を探すとしたらどの辺りで物件を探すのか。夫に伝えるタイミング、子どもへの説明の仕方。婚姻費用分担を拒否されたらどのような手続きが必要になるのか……相談者と共に一つひとつ不安を減らしていきます。
※写真はイメージ(iSrock.com/kazuma seki)
――そういったシミュレーションは弁護士事務所でも行われるものなのでしょうか。
当たり前のことではありますが、弁護士さんが扱うのは法律関係です。そのため弁護士相談に行ったら、内容証明の書き方や送り方など、離婚前提でお話を進められる場合が多いかもしれません。
しかし、一般の方は弁護士と離婚カウンセラーの仕事内容の違いがはっきりしていない方もいらっしゃるので、本当は関係修復を望まれているにも関わらず弁護士事務所に相談に行かれる方も多いんです。今後の夫婦関係をどうしていきたいか、ご自身の中でも整理がついていない状態では、弁護士の先生も対応しようがない場合もあるでしょう。
修復を望まれていたり、まだ離婚の意思が固まる前の段階であれば、弁護士さんに相談する前に、離婚カウンセラーと一緒に状況や気持ちの整理を行うことをおすすめします。
「夫婦はチーム」そのことに気付いてほしい
――高草木さんがカウンセラーとして大切にしていることを教えてください。
カウンセリングと聞くと、直すべきところを指摘され説教をされるのではないかと思ってしまう方もいるでしょう。しかし、そうではなくてカウンセリングを通して私は本当に相談者の抱える悩みをわかりたいんです。
気軽に「わかるわかる」と言うわけではなく、真剣にお話をお伺いしたうえでわかろうとしたい。「直そうとしないで、わかろうとするカウンセリング」をモットーに活動しています。
カウンセラーとして13年間活動し、これまでおよそ9000人のカウンセリングを行ってきましたが、一つひとつの相談内容がさまざまなので日々勉強だと思っています。
――高草木さんがカウンセラーになろうと思ったきっかけは何ですか?
私自身に離婚経験はないのですが、結婚してすぐの頃、結婚に対する抵抗感のようなものを感じていて。結婚を機に会社を辞め、専業主婦になったので完璧に家事をこなさなければと思っていたんです。私は完璧にやっているつもりなのに、それに対する夫の反応というか、コミュニケーションのすれ違いがあって別居をした時期もありました。
夫と離れている時期に、岡野あつこ先生に出会い、夫婦の問題について学んでみたいと思ったんです。思いやりというシンプルなことで夫婦問題は意外とうまくいくんだということを学ぶにつれ、多くの方にこのことを知ってほしいと思いカウンセラーになりました。
私は「夫婦はチーム」だと思っています。本来、夫婦は一番身近な味方であるはずなんです。そのことをすっかり忘れてしまったが故に、チームメイトを蹴落とすような言葉をかけてしまう。チームであることを忘れずにいれば、チームメイトが悩んでいる時に声をかけられると思うんです。そこに気付かないと夫婦関係は変わらない。
最初に相談者にお伝えしていることでもあるのですが、カウンセリングの時間だけで何かが解決するわけではありません。その時間で一つでも二つでも、何かしら気付きを得て帰っていただきたい。そのためのお手伝いをできる人間が離婚カウンセラーなのです。
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