【体験談②】親権が争われた離婚裁判、別居親である父の元に家出をした娘の想い

更新日: 2023年02月03日

離婚後、慣れない東京での生活、再婚相手への反発……息苦しさから逃れるために中沢美夢さん(仮名)が向かったのは、裁判で母と親権を争った父の元でした。「親権一つで私の意思が全て通らなくなる。“親権”って何だろうと思いました」そう語る中沢さんに、10代の頃に感じていた想いや、23歳になった今、親に向けて伝えたい言葉を聞きました。

4人の子どもの親権を争い離婚裁判、父と会う時は内密に

前編:【体験談①】母に突然告げられた離婚と転居、兄妹で私だけが気付いていた母の浮気

――新潟から東京へ引っ越す際、父親には内緒で母と子どもたちだけで家を出たというお話がありましたが、父親は離婚に応じたのでしょうか。


すぐに離婚できず、私たち子ども4人も母と一緒に新潟の家庭裁判所に行ったことがあります。父親は、離婚にも、母親を親権者とすることにも、なかなか応じてくれなかった結果、調停ではまとまらず、離婚裁判にまでなり、親権者については調査官による調査にまでなったんです。

――家庭裁判所で調査官にどのような話をしたか覚えていますか?

私はよくわからず、ただ連れていかれただけという感覚でしたが、兄がすごく感情的になっていた記憶が残っています。兄2人は私よりも父と過ごした時間が長いので、それだけ父に対するいろいろな感情があったのではないかなと。

――離婚後の実の父との交流について聞かせてください。

東京に来てから母に連れられて一度東京で父に会いました。私は父に対する恨みも特になかったので、そこからは一人で連絡を取り、こっそり会っていました。

母に会ってはいけないと言われたわけではないのですが、父に買ってもらった服を持ち帰った時に父と会っていたことが母に知られてしまって。微妙な表情をしていたことを覚えています。新しい父親からも「ちゃんと母親の気持ちを考えなさい」といったことを言われたのですが、私は新しい父親のことをまだ受け入れていなかったので煩わしく感じたこともありました。

それでも普段から実の父と電話やメールで連絡を取っていましたし、中学生から高校生くらいまでは会っていたので、兄妹の中では私が離婚後一番父に会っていたと思います。
中沢さん

――実の父との交流の話は、兄弟間でも共有していなかったのですか。

そうですね、内緒だったので誰とも共有できないことでした。特に弟は義理の父とすごく仲がいいので、話したところで理解されないというか。

でも、大人になってから兄と話した時、一番上の兄は東京に来てからも結構父に会いに行っていたと聞いています。

「親権って何…?どうして私の意思は尊重されないの」

――お父さんが会いに来ることはなかったですか。

少し話が遡りますが、母が再婚する前、実の父が東京のアパートに来たことがありました。その日はちょうど朝方、母親が家にいない日でした。父親が家に来ていることを母に連絡したところ、母親が警察を呼んでしまって。

警察を呼ばれ、「あなたは他人なので出て行ってください」と言われる父の姿を見て、今、目の前で起こっている状況は何なのだろうと。

――そんなことがあれば、たとえ禁止されていなくても面と向かって「父親に会う」とは言いにくいかもしれませんね。

そのことがあってから数年経っても、悪いことをしているわけではないのに、ばれないように隠れなければ父親に会えない雰囲気でした。

高校二年生の時、家出をして父の元に行っていたんです。冬休みが終わる頃には、そろそろ学校に行かないと出席日数が足りず、退学しなければならない状況になってしまって。父には「さすがに帰りなさい」と言われたのですが、私はどうしても義理の父と暮らしたくなかった。

高校生が住める寮に住み、そこから学校に通おうと思うと実の父に相談し、東京の家とは縁を切る覚悟で父に付き添ってもらって寮に足を運びました。

でもなぜか母親がそのことを知っていて、先回りして寮に連絡をしていたんです。「親権者は私で、今から娘と一緒にくる男の人には何の権利もありません」と。足止めを受けてしまい、結局は東京の家に帰るしかありませんでした。

その時に「親権って何だろう」と思いました。親権一つで私の意思が全て通らなくなるのだと。(成年年齢引き下げ前だったので)20歳になるまで、この家で我慢するしかないのかと……。
※写真はイメージ(iStock.com/ipopba)

母も私のことを思っての行動だということを今では理解していますが、父は悪いことをしようとしているわけではないのに、娘と会うだけで悪者扱いされてしまう状況が悲しかったです。

――今、共同親権が話題となっていますが、中沢さんはこれについてどう考えますか。

何でしょうね……それでも当時の私は「母親を裏切れない」って思っちゃったんですよね。あの頃、共同親権があったとしても、両親のどちらかを傷つけることに変わりがないのなら、私は母のことを考えてしまったのかなと思います。

それに、母は父親とせっかく離れて暮らすことができたのに、私が家出をして父に会いに行っていたことで、またコミュニケーションを取らなければいけないきっかけを作ってしまったと、自分を責めたりもしました。

いつも不安定だった10代、感謝の念を抱くようになった20代

――ここまでご家族のお話をうかがってきましたが、現在の中沢さんの家族観について聞かせてください。

何が“いい家族”なのかはわかりませんが、「本当の家族ってこれじゃない」と思いながら過ごしていました。

母が離婚して再婚した後は、家族で過ごす時間も増えましたし、お金の面で困ることもありませんでした。でも、お金で幸せになれるとは思っていなくて。私が異性に対して求めるとしたら、お金は条件には入りません。家族を守ってくれて思いやりのある人であれば十分です。

――親の離婚が、中沢さんにどのような影響をもたらしたと思いますか?

新潟の父親の元に家出したりと相当反抗していたので、10代の頃のメンタルはいつも不安定だったと思います。

当時は、自分のことをすごく不幸でかわいそうな子どもだと思っていましたが、その分、すごく考える子どもだったのかもしれません。周りの子よりもいろいろと経験して、なかなか抱けない感情も感じてきたのかなと思います。

あの頃は全員恨んでいましたけど、兄妹と話し合う場もたくさんあって絆が深まったし、再婚してくれてよかったと今では思っています。

それに東京に越してきたことで、人生の選択肢が広がったことは親に感謝しています。今、起業に向けて準備を進めている最中なのですが、東京にいるからこそ抱けた決意なのではないかと思っています。
※写真はイメージ(iStock.com/gong hangxu)

――母親と2人の父親、それぞれに伝えたい言葉はありますか。

新潟の父親は3年前に他界しているのですが、父親と私は「人生楽しんだもん勝ち」みたいなところがあり、性格が似ているんですよね。離婚して寂しい思いをしても、とりあえず人生を楽しんでいこうという前向きな姿勢は、父に教えてもらったのですごく感謝しています。

義理の父は厳しかったけれど、物事の捉え方など社会に出てから「こういうことだったのか」と繋がったことから、必要なことだったと気付きました。それに、やりたいことは全部やらせてもらえたし「最後は自分で決めなさい」と、厳しさの中に優しさを持ち合わせている点にも感謝しています。

最後に、母には幸せになってほしいと思います。専業主婦が長かったのですが、やりたい仕事を見つけてすごく頑張っているのでフォローできたらなと。いろいろ苦労もかけてきたので、私もしっかり返していければと思っています。

―子どもの意思を尊重する離婚のあり方とは―

モデルのようにスラリと長い手足を持ち、周囲の雰囲気を華やかなものにする中沢さん。

「当時の思いは年々変わっていて。今は仕方ないと思えるけれど、やっぱり寂しかった……ですかね」取材を終え、駅までの道を歩く途中、中沢さんがこのように話していたのが印象に残っています。

親権を持たない別居親が娘の寮生活を認めても、親権を持つ同居親がそれを拒んだ出来事から、「親権とは何だろう」という問いが生じたと中沢さんは話します。共同親権についての議論が展開される今、親の離婚を経験した当事者である子どもの想いを置き去りにしてはならないと感じる取材でした。

今回は、子どもが同居親に隠れて別居親に会うケースについて、Authense法律事務所の安部直子弁護士に解説していただきました。

【安部直子弁護士監修】同居親に内緒の交流は「面会交流」と呼べるのか?

子どもと、別居親とが、会って話をしたり、電話や、手紙などで交流することを面会交流と言いますので、同居親と隠れて会っていたとしても、「面会交流」とは呼べます。

ただ、同居親に隠れて別居親と会わなくてはならないということ自体が、子どもの健全な成長を阻害しますので、健全な「面会交流」とは呼べないと思います。

子どもが、同居親に気を使って、別居親と会えないよりは、隠れてでも会えた方が子どもの健全な成長のためにはいいと思いますが、子どもが自分の親と会うことについて、もう一方の親に気を使わなければいけないという事態については、両親が話し合い、改善する必要性があるでしょう。

また、別居親が、子どもと一緒にいた場合に問われる可能性がある犯罪としては、未成年者略取誘拐罪(警報第224条)が考えられます。ただ、「略取」とは、暴行または脅迫を手段として、子どもを連れ去る行為ですので、子どもが自ら望んで会いに行った場合には、「略取」にはあたりません。

次に、「誘拐」とは、欺罔または誘惑を手段として、子どもを連れ去る行為です。別居親が、嘘をついたり、積極的に同居親に隠れて会いに来ることを提案して子どもをそそのかすといった例外的な場合ではなく、子どもが本心から自ら望んで会いに行った場合には、「誘拐」にもあたりません。

そして、子どもが自ら望んで会いに行ったか否かについては、その前提として、子どもがその判断を自らの意思でできる年齢であることが必要ですので、中学生以上であることが目安になるのではないかと思います。

そのため、中学生以上の年齢の子どもが、本心から自ら望んで別居親に会いに行った場合には、別居親は、未成年者略取誘拐罪にはならず、逮捕もされないということになります。

但し、会いに行くのをこえて、同居親に隠れて、別居親と同居をしてしまうと、話が変わってくる可能性がありますので、同居まで望む場合には、親権者変更の手続きが必要です。

迷った場合には、お近くの弁護士に相談されるのをお勧めします。
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弁護士: 第二東京弁護士会

安部 直子

Authense法律事務所 北千住オフィス

〒120-0034 東京都足立区千住4丁目19-11サーパスビルディング4階

24時間受付(平日/土日祝)

初回無料

*料金詳細は各弁護士の料金表をご確認ください

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