【共同養育コーチ/後編】親権を持たない別居親の私が共同養育を実現するまでの5年間
更新日: 2023年07月12日
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調停の末、月に4回の面会交流を行えることになった別居親の山本麻記さん。しかし次第に約束が反故にされるようになり娘さんに会える頻度が減ったため、履行勧告を行うことに。共同養育コーチとして活動する山本さんに、現在までの道のりと娘さんへの想い、共同養育コーチとしてのビジョンを語ってもらいました。

山本麻記(やまもとまき)/1979年生まれ、長野県在住。離婚後の子育て「共同養育」のコーチ。 コーチングスクールの認定コーチを卒業、パーソナルコーチとして活動する。経営者、フリーランスのコーチで人材育成や社内研修も行う。中学1年生の娘と暮らす。
約束した面会交流が守られず履行勧告へ
――調停で決まった月4回の交流は順調に行われましたか。
1年ほど月に4回のペースで会えていたのですが、なぜか娘が長期休みに入ると会わせてもらえなくなったり、月に3回や2回と頻度がまばらになったり。「体調不良のため会えない」など一言あれば納得できたのに理由を言わずに来ないので、履行勧告を行い、その後、反応がなかったので損害賠償請求に踏み切りました。
――損害賠償を受けることはできましたか。
2年半ほどかかり、受け取ったのは請求額の1/3ほど。でも、賠償額は1円でも構わないので娘に会わせなかった責任の所在を明確にしたかったんです。
――損害賠償請求中は娘さんに会えていなかったのでしょうか。
月1回程度は会えていました。月4回の面会から頻度が減ってしまってからは特に、帰り際「次はいつ会えるかな」と泣いてしまうことが増えました……。
私も離れがたいのに、時間だから別れなければならずつらかったです。「短い時間しか一緒にいられないけれど、同じ街のあそこの家に住んでいるから大丈夫だよ」と、何が大丈夫なんだろうと思いながらも声をかけることしかできませんでした。
娘のストライキにより、二つの家を行き来する共同養育がスタート
――損害賠償請求裁判の後、娘さんとの交流は月4回に戻ったのですか。
面会交流を減らす理由は一切ないという内容の和解勧告だったので、月に4回、プラスアルファで平日の学校帰りにも、うちに寄っていいということになりました。
裁判が終わってから1カ月経った頃、うちに来ていた娘が「もう帰りたくない」と泣いてストライキを起こすことがあったんです。そうは言っても帰らなくてはいけないので帰らせる……。
そんなことが何回か続き、こちらと向こうの弁護士さんと話し合いの場を設けました。以前、調査官調査の時に娘がカレンダーを指さし「この1週間はパパの家だったら、この1週間はママの家がいい」と言っていた記録が残っていて。向こうの弁護士さんが父親に伝えてくれて、娘の様子を見ながら1週間交代の子育てを試してみることになりました。
1週間交代の子育てを始めたからといって、監護権と親権者変更を主張しないということが条件でしたが、私は権利よりも実を取りたかったので、それに対してはすぐに応じました。こうして共同養育がスタートしたんです。
「帰る家は一つ?」アップデートが必要なのは大人
――2013年から別居親になり2018年、一週間おきとはいえ、やっと娘さんと一緒に暮らすことができたのですね。
娘に会えなくなるという不安から解放されました。それに、娘が泣きながらも「私はこうしたい」と父親に自分の意志を伝えて、それが叶ったことは娘の自信になったようです。
共同養育が始まってからは、子どもがいる一週間はとにかく子育てに専念して、いない間にまとめて仕事を進めていました。5年間子どもと一緒に暮らしていなかったのでペースを掴むまでは大変でしたね(笑)。
娘が中学生になった現在は、2週間か3週間ごとにそれぞれの家を行き来しています。「帰るつもりだったけれど、やっぱりもう1週間こっちにいようかな」「この日は用事があるから向こうの家に行ってくる」と割と自由に。

※写真はイメージ(iStock.com/miya227)
――娘さんの意志を尊重しているのですね。二つの家を行き来することを娘さんはどのように捉えていると感じますか。
「家が二つあるから、クリスマスもお正月も誕生日も2倍もらえて嬉しい」と子どもらしい感想を聞いています。
それに親が離婚をしている友だちは何人かいるけれど、片方の親とはほとんど会えていないという状況を聞くと「うちは両方とも会えているし、近くに住んでいるからよかった」という話をしています。
二つの家を行き来する生活は、確かに周りの子とは違うけれど大人が想像するほど負担には感じていないように思います。娘の場合は物心ついた頃から週末はママの家といった環境があったので、本来家は一つであるべきという感覚がないといいますか。
大人の方がその感覚をアップデートする必要があるのではないかと感じていて。私は元々離婚してからも両親で子育てをしたかったのですが、父親はそこに至るまでに5年ほどかかりました。今では私だけでなく父親も共同養育のメリットを感じていると思います。
離婚後の荒野で迷わないために 共同養育コーチとしての想い
――共同養育のメリットを教えてください。
共同養育だと、子どもがいない間は自分のために時間を使うことができますし、大人が考えるよりも子どもは順応する力を持っている。離婚後も、三者三様の大切な絆を保ち続けることができるのだと思います。
私に関しては、「全てを注いで子育てに専念しなければ」という母親の呪縛のようなものを背負わずに母親でいることができていると思います。子どもといい距離感で、きちんと人と人として向き合えているのではないでしょうか。
――共同養育の利点を感じる一母親としての思いが、今の活動に繋がっているのですね。そもそもなぜ、共同養育コーチを始めようと思ったのですか?
別居親になってから娘に会えたり会えなかったり、気持ちの面でジェットコースターのような日々だったんですよね。
当事者の集まりにも参加しましたが、子どもに会えない悲しみを共有し合うことで余計につらくなってしまって。私は頻回に会えていた方なので、どうすればもう一方の親と子育てができるか相談する場所がほしかったのですが、当時はそういう場がなかったんです。
また、私の場合はたまたま弁護士さんが手厚くサポートしてくださり、先を見据えて段階的に計画を立ててもらうことができました。でも、1回の係争で全て終わらせ、裁判が終わればあとは荒野に野放し……という状況も見聞きします。
自助会などで相談を受ける機会が多くなってきたこともあり、荒野で迷ってしまった人のためのサポートができればと思い共同養育コーチを始めました。

――共同養育コーチとしてのビジョンを聞かせてください。
講座を定期的に受けられるようなシステムを作ろうと考えています。今はまだ理想に留まっていますが、ゆくゆくはこのプログラムを受けることで、共同養育の準備が整っていることを示す一つのガイドラインになればいいなと思っています。
――どのような人たちに山本さんの活動内容を知ってほしいですか。
離婚をしたいと思っているけれど、子どもにとって可哀想だからと1ミリでも思って踏みとどまっている方には、お互いに自立しながら子どもを育てる方法もあると知ってもらいたいですね。
それからあまり気乗りしないまま面会交流を始めた方にも、ぜひ知っていただければと思います。
親から大切に思われているという実感や、親の存在そのものを感じながら子どもはアイデンティティーを育みます。離婚後に子どもを育てていくための環境整備と関係作りから一緒に始めていきましょう。
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