【取材】「面会交流の選択肢を増やしたい」日本初の面会交流アプリraeru
更新日: 2023年08月01日

両親の離婚を経験した子どもが、離れて暮らす親と過ごす面会交流。その形はさまざまですが、「そもそも相手との連絡が苦痛」「面会日を決めるのが大変」「相手が何をしているのか不安」などの悩みを抱えている人も多いようです。そんな課題を解決しようとリリースされたのが、面会交流をスムーズにする日本初の面会交流アプリraeru(らえる)。アプリ上で日程調整や場所の提案、面会内容の報告などが完結するので、心理的な負担を減らせるといいます。raeruを運営するGUGEN Software合同会社代表の境領太氏に、アプリ開発の背景などを伺いました。
「子どものために」と、面会交流のストレスに耐えているお母さん・お父さん
――raeru開発のきっかけは何ですか?
シングルファーザーの知人から、「子どものために面会交流をさせてあげたいけど、相手と直接連絡は取りたくない」という話を聞いたのがきっかけです。もともと私は、ソフトウェアエンジニアとして10年ほど、企業のシステム開発や運用を手がけていました。その後、スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)として働く中で、「社会課題を解決するようなサービスを作りたい」と考えるようになりました。
2021年に今の会社を立ち上げ、アイディアをソフトウェアで具現化するというビジョンのもと、サービスやアプリの受託開発していました。その中で、知人をはじめ面会交流にストレスを感じている父母が多いことを知りました。
彼いわく「相手からLINEで感情的なメッセージが多く送られてきて精神的に参っている」と。そもそも相手と直接連絡を取りたくない方が多いですし、「約束どおりに面会しているか不安」など多くの悩みがあると知りました。でも「子どものために」と我慢して、なんとかやっている方がたくさんいらっしゃいます。その負担をアプリで少しでも軽くできればと思っています。

アプリ名の由来は「これな"ら"あ"える"」から。傘をさした子どものロゴマークについて、「大人が嫌がる雨の日も、水溜りを探して遊ぶ元気な子どもをイメージしています。子どもには、生まれつき持つ能力を十分に伸ばして成長する権利があります。raeruは、そんな子どもを優しく守る傘のようなサービスでありたいと思っています。」と境氏は述べる。
日程調整は “定型文だけ” のやり取りでスムーズに
――raeruの基本的な使い方を教えてください。
使い方はシンプルです。まずはLINEや弁護士経由で、相手に招待コードを送ります。そのコードで相手がログインすると、アプリ上に「面会グループ」ができ、日程調整や場所のやり取りができるという流れです。
LINEだとどうしても、感情的な言葉や、余計なコミュニケーションが生じますよね。でもraeruなら、定型文で場所と時間、特記事項や面会条件などが決められるので、数回の簡単なやり取りですみます。
――定型文しか入力できないとなれば、相手も「シンプルに伝えよう」と思ってくれそうですね。
その点をかなり意識して、感情的にならないユーザーインターフェースを心がけています。利用者さんからは「今までいかに長文LINEが苦痛だったか気づいた」とか、「精神的な負担が減った」「スムーズにやり取りができるようになった」などのお声をいただきます。
「はじめは元夫に子どもを会わせること自体に不安があったが、何回か続けていくうちに、子どもが笑顔で帰ってくるので少しずつ不安がなくなった。今は子どもが喜んでくれて嬉しい」と語ってくれた方もいました。

公式noteでは、離婚を経験した利用者へのインタビューも配信中。
無料のワケは「子どもが成人するまでずっと使ってほしいから」
――開発と運営は、どんな体制でおこなっているのですか?
基本的にすべて自社で行っています。特にこのサービスは、子どもが成人するまでずっと使っていただきたいので、途中で中断することがあってはならないと考えています。基本機能である面会交流の日程調整は無料ですし、今後もその方針は変わりません。持続的にサービスを提供するには、ビジネスとしても成立させていく必要はあるので、マネタイズのために有料機能も少しずつ追加しています。
とはいえ自社がソフトウェア開発企業なので、外注の必要がなく、低コストでの開発体制が整っています。マネタイズができずすぐにサービス提供を中断する心配はないので、安心して使っていただきたいですね。
――今後、アプリの中で追加しようと考えている機能はありますか。
手紙や画像、学習ノートやテストなどをアップロードして、子どもの成長過程を知らせる「間接交流」の機能をつける予定です。より子どもの成長を後押ししできるような体験を作ってあげたいとの考えからです。実は総務省の『令和3年度全国ひとり親世帯等調査』では、約6割のひとり親が子どもの教育や進学について悩んでいます。
別居親の利用者さんからも「面会交流では子どもと遊ぶ以外にも、宿題や勉強のサポートに関われると嬉しい」という声をいただいています。そのような希望に、少しでも応えたいと考えています。
「支援団体に頼るほどでもないけど、苦しい」親たちの存在が見えるようになった
――これまで面会交流については、面会交流支援団体や弁護士、行政がサポートするものだという前提があったように思います。
そうですね。親子交流支援団体(※注)は、全国に70~80あります。ただし住んでいる地域になかったり、条件が合わなかったり、費用が高かったりして、利用を諦める方もいるんですね。こうした団体さんはそもそも、面会について葛藤のある難しいケースを扱うことが多く、「自分はそこまでではない」と思っている父母も多いんですよ。弁護士さんや行政についても同じです。
(※親同士の連絡調整や、子どもの受渡し、見守りなどをしてくれる支援団体のこと)
だからこそraeruは「支援団体さんにお願いするほどでもないけれど、自分たちでコミュニケーションを取るのは難しい、でも我慢してLINEでやるしかない」という人たちに使っていただきたいです。今までは、この層の心理的な負担が可視化されていませんでした。アプリによって「これくらいの悩みでも、サービスやツールに頼っていいんだ」という方が増えてくれるといいですね。
面会交流の目的は、子どもに「両親に愛されている」と伝えることで、これは子どもの権利だと思います。そこが目的なのに、両親の仲が悪いだけで子どもの権利が侵害されてしまうのは社会的損失だと思います。raeruはそこに貢献したいです。

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)
面会交流支援団体や行政ともタッグを組み、シームレスな支援を
――利用者さんは、これからも増えそうですか。
少しずつ増えています。今後も支援の輪を広げていきたいですね。日本で両親の離婚を経験する子どもは、毎年約20万人もいます。その中には、支援団体や行政、弁護士が介入しなければならない深刻なケースもあるでしょう。しかし「葛藤はそこまで高くないけれども、心理的な負担を感じている」方もたくさんいます。この層への面会交流支援はまだ行き届いていません。
支援団体や弁護士さんとも、連携してサポートしていきたいですね。すでにいくつかの団体さんとは、アプリの「専門家相談」機能を通して、リンクでつなげるようにしています。問題がなければraeruを使えばいいし、やっているうちにトラブルが出てきたら支援団体さんを頼ってもらえばいい。
「もう支援団体は必要ないです」となったら、またraeruに戻ってきてもらえばいいと思います。利用者さんが、さまざまな支援をシームレスに行き来できるのが理想です。raeruだけで面会交流やひとり親の子育ての課題は解決できません。
最近は、子どもを中心に同居親、別居親、祖父母、地域・行政、支援団体、専門家など、周りの人々が子育てに協力する「子育てチーム」を育成するのがraeruのミッションだと感じています。
リコ活はraeruと共に、離婚から面会交流、その後のお悩み解決までサポートします!

その他の記事