面会交流は誰のもの?理想の制度を作るために日本がモデルとしたい国

更新日: 2023年12月25日

面会交流は誰の権利なのでしょう? 子どもの権利を考えた時に日本のロールモデルとなり得る国は? 一般社団法人 面会交流支援全国協会(ACCSJ)の代表理事であり、家族法研究歴約50年の立命館大学名誉教授、二宮周平先生にインタビューしました。

面会交流は誰のもの?

――家族法を50年近く研究されている二宮先生にお伺いしたいのですが、面会交流を軸に据えた時、家族法において“子どもの権利”はきちんと保障されているものなのでしょうか?

実のところ、あまり保障されていません。

たとえば、民法第766条「離婚後の子の監護に関する事項の定め等」では面会交流について、このように定めています。

民法第766条
第1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

「子の利益を最も優先して考慮する」とありますが、面会交流が誰の権利であるかについては書かれていないのですよね。

――そうなのですね、子どもの権利だと思っていました。

韓国を例にあげると、「別れた親子の交流は、親の権利であると同時に子どもの権利である」と定められていますし、諸外国では「面会交流は子どもの権利である」とした上で、親に限らず祖父母や親族との交流も子どもの権利だ、という書き方をしている国もあります。

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)

――日本ではそこまで踏み込んだ書き方をしていない、と。

「子の利益を最も優先して考慮」しても、結局は親が決めることになっています。そういった意味では日本の法律は子どもの権利保障が弱いように思います。

しかし、日本でも2022年にこども家庭庁が設置され、新たに制定された「こども基本法」の基本理念(第三条)に以下の条文が入りました。

三 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。

四 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。

つまり、大人が子どもの最善の利益を考えるだけでなく、年齢や発達に応じて子ども自身の意見や意向を聞き取らなければならない、ということです。子どもの声を聞こうと、ようやく一歩前進した内容になっています。

※写真はイメージ(iStock.com/seb_ra)

全国どこでも安心安全な面会交流支援を

――二宮先生は、 一般社団法人 面会交流支援全国協会(ACCSJ)の代表理事も務めていますが、子どもの育ちのために面会交流はどのような役割を果たすのでしょう。

離れて暮らす親が、自分に会いたいと思って時間を作ってくれる。これは子どもの自尊感情を育みます。

もう一つは、アイデンティティの確認です。思春期前後になると、自分のルーツを知りたくなります。その時に、離れて暮らす親に会って親を知ることは、自己形成の原点になりますから。

――面会交流をした方がよいと理解していても、葛藤が大きく実行できない方は少なくありません。支援団体の担う役割は大きいと思うのですが、全国協会(ACCSJ)を立ち上げたのはなぜですか?

どの団体に面会交流支援を頼んでも一定のスキルが保障されなくてはなりません。親子が安心して交流できるよう、中立性を保ちサポートを行なうスキルを学べる場の必要性を感じ立ち上げたのが理由の一つです。

たとえば、面会交流中に勝手なプレゼントをしない、飲酒をしない、威圧的な言動をとらない、といった決まり事を設けていなければ、同居親や子は安心して面会交流に臨むことはできませんよね。

また、面会交流支援団体は、事前に料金表を明示したり、責任を持って個人情報を守る必要もあります。

個々の団体によって異なる基準ではなく、ACCSJで定めた一定の認証基準をクリアしている団体ならば、「安心して面会交流ができますよ」と利用者に示すことができます。

さらに、こうした全国基準の認証を受けている団体なら、自治体も運営資金を一部助成したり、自治体として「この団体を使おう」という判断に繋がる可能性もあります。

面会交流支援団体が間に入ることで高まる実行力

――面会交流支援団体の活動資金は、助成を受けなければ厳しい状況なのですか?

多くの面会交流支援団体が基本的にボランティアベースで活動しています。財政的支援もなく、自分たちでファンドを作ってサポートし、支援員さんの交通費やアルバイト費用を捻出している状態です。

――継続した面会交流支援が行なわれるためにも、今後、国から助成を受けられる見込みはあるのでしょうか。

残念ながら今のところはありません。

法制審議会の家族法制部会で、「面会交流1回の不履行で5万円の支払」などと、強制執行について議論がなされていますが、それではうまくいくはずがありません。

民間の面会交流支援団体に間に入ってもらう方が遥かに面会交流の実効性が高まるということを、制度を作る側に認識してもらわなければならないと思っています。

ロールモデルは韓国

――日本のロールモデルとなりそうな各国の制度について教えていただけますか?

欧米は基本的に裁判離婚ですから、モデルにするとしたら、日本と同じ協議離婚制度を設けている国がよいでしょう。

日本では協議で離婚をする場合、役所に離婚届を出すだけです。ところがお隣の韓国は2007年に改革をしました。未成年の子どもがいて協議離婚する場合には、まずは家庭裁判所で協議離婚の申請をします。そのあとに子女養育案内という、親向けのガイダンスを受講するのです。

――それはどのような内容なのでしょう。

夫婦の問題と親子の問題は分けて考えること。子どもの前では相手のことを悪く言わないこと。子どもに離婚についてきちんと説明し、父母が離婚をしても親子の関係は変わらないこと、これからどういうことが起こるのか話をすること。そういった内容のガイダンスの受講を義務付けました。

さらに、当事者の中には精神的につらい状況の人もいます。そういった方には、民間の専門機関のカウンセリングを推奨します。全10回で1回につき2〜3時間行なわれ、料金は裁判所が持つことになっています。

ガイダンスの受講やカウンセリングが終わってから、離婚後の主たる養育者や養育費の分担、具体的な面会交流の方法を決め、協議書を家庭裁判所に提出して初めて離婚に至ります。

※写真はイメージ(iStock.com/AndreyPopov)

――離婚に至るまでの公的な支援が手厚いですね。

養育費に関しても、離婚時に裁判所で「支払調書」が作られているので、不履行があった場合に取り立て訴訟を起こすこともできます。

養育費履行管理院という行政組織も作られました。取り立て訴訟は、管理院のスタッフである弁護士さんが対応してくれるので、養育費を請求する側は管理院に電話して養育費の履行を求めるだけでよいのです。

仮に養育費を支払うべき債務者にお金がない場合は、国が立て替えて給付する体制まで整っているのです。

責任ある制度作りを

――お話を聞くと理想的だと感じます。日本で同じ取り組みができない原因として何が考えられますか。

韓国と同じように、協議離婚養育費を請求する側は管理院に電話して養育費の履行を求めるだけでよいのです。をする時には、ガイダンスを受講し、協議書を提出することを義務づける案が、検討されていました。

ただし、家庭裁判所がその中心を担うという発想はなさそうです。ガイダンスは自治体や認証を受けた民間団体へ、協議書は弁護士へ……というように、このままでは民間に任せることになるのではないでしょうか。

法制審議会で条文を作る時には、実務を担う人々が集まってどうすれば実働できるかを考える必要があると感じています。

※写真はイメージ(iStock.com/kazuma seki)

――親が離婚した後で子どもがよりよい未来を送れるよう、私たち市民がボトムアップでできることには、どのようなことがありますか。

知識を得ることです。

今は離婚するときに、何の情報提供もありませんよね。ネット社会の弊害ですが、自分に都合のいい情報が入ってきやすいため、考えが偏りがちになることもあるでしょう。

たとえば離婚時のガイダンス内で、ロールプレイとして子ども役を体験してみることで、子どもの気持ちに配慮する目線が持てるかもしれない。

まずはそういった制度や仕組みを作り、それぞれの親が正確な知識を得ることで、子どもに対して無責任なことはしなくなるのではないかと思っています。

 

この記事は2023年10月30日に配信しました。

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