【後編】ADRが向いているのはどんな人?家族のためのADRセンター代表インタビュー
更新日: 2024年09月13日

前編ではADR(裁判外紛争解決手続)の基本について、家族のためのADRセンター代表の小泉道子さんに伺いました。後編は小泉さんが家族のためのADRセンターを立ち上げた経緯や、ADRが向いているケースや不成立になるケースなどについてお話いただきます。
裁判所とADRの違いは「納得感」
前編:【取材】ADR(裁判外紛争解決手続)とは?協議/調停離婚との違いを解説
――小泉さんが家族のためのADRセンターを立ち上げた経緯を教えてください。
私は元々、家庭裁判所調査官という仕事をしていました。主な役割としては、面会交流や親権について話がまとまらない時に、お子さんに会ってお話を聞いたり家庭環境を調査したりする仕事です。
やりがいを感じる反面、裁判を行うのは全体の十分の一で、紛争性が高まっていることもあり、なかなか子どもの福祉を一番に考えることが難しい状態にある人々です。残りの9割の方々に関わることで、もっと子どもの福祉を見据えた解決を目指せるのではないかと思い裁判所を辞め、ADRの認証の取得をすることにしたのです。

※写真はイメージ(iStock.com/takayuki)
――裁判所での経験とADRでは、ギャップや違いを感じますか?
裁判所の調停ではお二人の合意を元に話し合いを進めていくわけですが、どこか「合意させられた」という感覚が拭えないのかもしれません。そのため、決まり事を翌月には反故にする方もいます。
一方で、ADRでは前提として紛争性が低いということもありますが、当事者の納得感が全く違うことに何より驚きました。
「相手がいることだから結果には納得できていない部分があります。でも、それを決めた過程には納得できています」という感想をいただき、今でも印象に残っています。
「対話できる関係」なら穏やかに解決できる
――ADR調停で不成立になるケースについて教えてください。
不成立にはさまざまなケースがありますが、ADRならではのケースもあります。
たとえば紛争性の低い方たちの場合、ある程度方向性を示すことで「あとは自分たちでできます」と申立を取り下げることがあり、不成立となります。
あるいは、「家庭裁判所ではこうなる」と見通しを示せないケース。親権や面会交流やお金の問題など、家庭裁判所でも判断が別れるケースが多々あるのですが、そうした問題に直面した時に「自分たちの合意の範囲内でADRで解決をする」のか、「それでは納得できないので判決をもらうまでやる」のか。後者を選択した場合は不成立となります。
しかしADR調停が成立しなかったとしても、それは悪いことではなく、自分が納得する選択をしたということです。

※写真はイメージ(iStock.com/shutter_m)
――ADRが向いているケースはあるのでしょうか。
夫婦の一方が離婚に合意していない、夫婦での協議が困難、離婚についての知識が乏しい、相手には弁護士がついているが自分は依頼したくない、というケースはADR調停に適しています。
一方で法律の範囲を超えて自分の主張を通したい、絶対に主張が揺らがないという人は難しいかもしれませんが、「対話ができる人」ならADRで穏やかな解決ができるはずです。
調停人の多くが「子どもの福祉」に精通する弁護士
――家族のためのADRセンターの特徴を教えてください。
特徴としては、子どものいる夫婦の案件が非常に多いこと。そして調停人である弁護士のほぼ全員が子どもの福祉に関する情報が豊富であること。そのため法律のお話だけではなく、お子さんの幸せを目指す調停ができています。
――家族のためのADRセンターは法務省の認証を得ている親族間紛争を扱う機関が数少ない機関ですが、なぜ認証を受ける機関が少ないのですか?
認証を得るまでの手続きが煩雑であることがハードルの一つですし、収益が上がりにくいことも参入障壁になっていると思います。
法律が異なるため同様に考えることはできませんが、アメリカではビジネスとして確立しているほどADRのニーズがあります。
――ADR調停の他、離婚カウンセリングや離婚講座なども展開されていますが、幅広く離婚を扱う理由について教えてください。
家庭裁判所の調査官時代から「人の気持ち」に関心を持っていました。調査官としてつらい思いをする子どもたちの生の声に触れ、「子どもたちの力になりたい」という想いが今の活動につながっています。
いろいろな方が子どもに対するサポートを行っていらっしゃると思うのですが、私の場合はそれがたまたま離婚分野だったんですよね。
また、離婚問題は、ADRだけではなく、ADRにたどり着くまでの情報提供や気持ちの整理をするためのカウンセリングも必要になってくるため、幅広く離婚を扱う業務を行っています。
離婚ADRのリーディングカンパニーとして質の高い解決を目指す
――どのような方にADR調停を勧めたいですか。
自分の権利を主張したいけれど一人では難しいという方ですね。
そして、ホームページの内容に共感いただける方。たとえば「相手から1円でも多く取りたい」「何があっても子どもを会わせない」といった方に来ていただいてもいいアドバイスができません。
法律の範囲内で子どもの権利と自分の権利を守り、相手を尊重しながら妥当な話し合いをしたいという方にお越しいただければと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Tero Vesalainen)
――家族のためのADRセンターが見据える未来について教えてください。
認証を取得したのが6年前。親族間紛争全般において「穏やかで納得のいく解決」を目指し、今後はADRの周知広報を他の機関と連携しつつ進めたいと考えています。
また、離婚ADRのリーディングカンパニーとして質の高いものをしっかりと形づくり、見本になれたらと。調停人の育成はこの先もずっと続いていくでしょうし、ADRの立ち上げ支援なども考えています。
――最後に小泉さん個人のビジョンについてもお聞きしたいです。
細く長く働きたいです(笑)。この仕事はゴールがあってないようなものというか、終わりのない仕事だと思うんですよね。
過去の利用者から問い合わせがありますし、約10年は記録を残します。つまり簡単に潰してはいけない。そういった意味でも長くしっかりと続けられる土台を作ることが私個人としての目標です。
小泉 道子(こいずみ・みちこ)/家族のためのADRセンター代表。平成14年4月 家庭裁判所調査官補(国家公務員一種)として採用。以降、各地の家庭裁判所にて勤務。平成29年3月 東京家庭裁判所を最後に辞職。平成29年4月 家族のためのADRセンター離婚テラス設立。行政職員向け等研修講師。法制審議会仲裁法制部会会議及び法制審議会家族法制部会会議に参考人として参加。
※この記事は2024年4月9日に公開しました
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