【弁護士解説】養育費の「特別費用」とは?医療費、学費、習い事は該当する?

更新日: 2024年11月18日

多くのシングルマザーが気になっているという「特別費用」。ご自身もお子さんの歯の治療費をどう捻出すればよいか困っているというリコ活ユーザーの本田さん(仮名)が、法律事務所UNSEENの稻川 静弁護士に質問します。

特別費用とは? 息子の治療費は払ってもらえる?

――まずは本田さんの現在のご状況を教えていただけますでしょうか。

本田さん:婚姻期間は約6年、1年ほどの別居期間を経て昨年3月に協議離婚しました。現在は小学生の息子と共に実家で暮らしています。

先日、息子が先天性欠如といい、生まれつき歯が6本以上足りないことがわかりました。歯を増やす方法としてインプラントをすることになった場合、かなり高額な治療費が発生することが予想されます。

離婚する際、公正証書に治療費などについて別途協議することを記載しなかったので、どうすればよいか困っている状況です。

※写真はイメージです(iStock.com/edwardolive)

稻川弁護士:離婚の際に取り決めをした養育費には含まれていない、一時的に発生する多額の出費のことを「特別費用」といいます。

離婚の際に、特別費用が発生した場合の取り決めをしていれば当然請求は可能ですが、離婚時に合意をしていないからといって、一切請求できないわけではありません。

本田さん:元夫とは連絡がとれない関係性ではないのですが、前もって相手に伝えた方がよいのか、伝えるとしたらどのタイミングで伝えればよいか迷っています。

稻川弁護士: 過去の養育費の請求については、遡って認められるとする判断もある一方、請求により義務者が遅滞に陥った以後の養育費を認めるとする裁判例もあるので、費用負担が確定した時点で早めに請求をするのが望ましいのではないでしょうか。

本田さん:治療の必要があるかどうかまだわからない状況にあるのですが、その場合は「治療費が必要になるかもしれない」と、それとなく心づもりを促した方がよいのでしょうか? 私が逆の立場なら早めに知っておきたいと思うのですが……。

稻川弁護士:そうですね。心情的にも、やはり早めにお伝えしておいた方がよいのではないでしょうか。

本田さん:仮に成人後に治療が必要となった場合、養育費同様に相手に特別費用を請求することは難しいのですか?

稻川弁護士:まず、養育費の対象となる子は、未成熟子、すなわち自己の資産又は労力で生活できる能力のない者をいいます。父母には、成年年齢で義務がなくなるわけではなく、「子どもが自立して未成熟子でなくなるまで扶養義務がある」ということになります。

18歳を超えている場合でも夫婦の収入や学歴、社会的地位などから子が大学に進学しても不釣り合いでないといえる場合には、大学生も未成熟子といいうるということですね。

※写真はイメージです(iStock.com/west)

このような養育費の考え方からすれば、成人後の医療費については請求できない、というわけではありません。

ただ、既に成人しているのなら養育費ではなくお子さんが自身の扶養料として請求する形が筋であるといえるかもしれません。

特別費用として認められやすいのは……

――本田さんの場合は歯の治療費ということですが、特別費用として認められやすい費用、反対に認められにくい費用はあるのでしょうか。

稻川弁護士: 婚姻費用分担請求において、私立学校の費用、塾や習い事の費用が分担の対象とされた例があり、「大学進学のための費用のうち通常の養育費に含まれている教育費を超えて必要になる費用は、養育費の支払義務者が当然に負担しなければならないものではなく、大学進学了解の有無、支払義務者の地位、学歴、収入等を考慮して負担義務の存否を判断すべきである」とされています。

――「相手が承諾していたかどうか」も考慮要素になるのですね。たとえば子どもが不登校になってフリースクールなどに通う場合などの費用も、相手の承諾や理解が求められるということでしょうか。

稻川弁護士:支払義務者の考えは、一考慮要素であって全てではありません。その必要性に応じて、当事者の経済状況等を勘案したうえで、社会通念上相当と認められる範囲で義務者に分担させることになります。

同様の考え方により、歯列矯正費用の分担が認められた例があります。

――子どもの習い事について認められているケースはありますか。

稻川弁護士:学習の必要性が高い場合に経済状況等を勘案して塾や習い事の費用が分担の対象とされたケースはあります。

もともとの夫婦の所得から考えたときに、特別費用の全額を賄うのが困難といえる場合、たとえば奨学金をもらって進学することが想定されていた場合には、そのような収入があることを前提に分担額を決めることになろうと思います。

請求のための労力と特別費用、天秤にかけると?

本田さん:特別費用として請求される「学費」とは大学が多いのでしょうか。

稻川弁護士: 標準算定方式では、養育費は高校までについて、公立学校に通う子の学校教育費を含むとされているので、問題になるのが多いのは大学の費用かもしれませんね。

本田さん:そうなのですね。息子はまだ小学校低学年ということもあり、約10年も先のことは考えられなくて。目の前の「今」のことで精一杯なんですよね。

だからいろいろと調べてたどり着いた「特別費用」には、どんなものが該当するのだろうと気になっているシングルマザーは私だけではないと思います。

※写真はイメージです(iStock.com/kohei_hara)

今回お話を聞いて特別費用請求についてイメージすることができました。今の気持ちとしては、相手に請求するということに対してのハードルが高く感じたので請求については状況を見ながら検討したいと思います。

――稻川先生の元には特別費用に関するご相談をされる方もいらっしゃいますか。

稻川弁護士:特別費用については、離婚成立の段階で「協議によって費用分担を定める」といった条項を入れた形で終わることが多く、正直なところ、その後の特別費用についてご相談いただくことは多くない印象です。

――本田さんにお聞きします。シングルマザーの方々が特別費用について気になっているというのは、養育費だけではカバーしきれていない部分が多いと実感されているからなのでしょうか。

本田さん:私の場合はありがたいことに毎月算定表で定めた養育費を受け取っているのですが、そもそも養育費を受け取っている方が少ない中で、すがる思いでいろいろと調べている方が多いのではないでしょうか。

今回の取材にあたり、周りのシングルマザーに聞いてみたのですが、学費や習い事費用の他、「誕生日やクリスマスのプレゼント、お年玉なども該当するのか知りたい」という声がありました。お話を聞く限り特別費用での請求は難しそうですね。

※写真はイメージです(iStock.com/Inside Creative House)

稻川弁護士:そうですね、プレゼントなどは相手のお気持ちによるものなので、権利として主張するのは非常に難しいと思います。

本田さん:やはりそうですか。特別費用について知るチャンスすらないので、今回実際のところを教えていただき、ありがたいです。

――たとえば、面会交流の際に子どもから別居親に進路の相談をするなど、特別費用を相手に払ってもらいやすい関係性を構築しておくことも大事なのでしょうか。

稻川弁護士:夫婦としての関係は終わっても子どもの親であることに変わりはないので、離婚しても協力して子どもを育てられる関係性が作れればそれがベストだと思います。

ただ、離婚に至るまでに相手との関係で深い傷を負った方も少なくない中で、とても「そうすべき」とは言えません。

なお、面会交流を実施していないからといって養育費の支払義務の判断要素になることはありません。ただし、調停申立の際に相手の居所がわかっていなければならないため、関係は繋がっていた方が望ましいとは思います。

本田さん:子ども本人が強く望むのであれば、自分の言葉で伝えればいいと思いますが、私は子どもの口から言うように促すことはしたくないです。どうしてもお金が必要であれば、私から相手に向けて説明する動きを取ります。

養育費は守られている 執行力のある書面で合意を

――将来に備え、離婚前にできることはありますか。

稻川弁護士:必ず行っていただきたいこととして、養育費についての取り決めを公正証書や調停調書といった執行力のある書面で合意をしてほしいと思います。

養育費の強制執行は法的に守られていて、たとえば、給料に対し、養育費や婚姻費用を強制執行で差し押さえる場合、他の債権では給料手取り額の4分の1までしか認められないところ、2分の1まで差し押さえることが認められています。

また、その他の債権が差押命令送達から四週間経過しないと取り立てられないのに対し、養育費の場合は一週間で取り立て可能です。

※写真はイメージです(iStock.com/Maxxa_Satori)

強制執行を申立てられた側の代理人をした際に、養育費の権利はこんなにも強いのだと実感した経験があります。そのため、執行力のある書面で約束しておくことは非常に重要であると、強くお伝えしたいです。

また、私が代理人として公正証書を作成する際には基本的に、「進学、留学、傷病その他の事由により特別の費用を要するときは、協議の上、その負担方法を定めるものとする」との条項を入れています。

なお、離婚協議書において、仮に、合意したもの以外の債権債務がないことを定める「清算条項」が定めてあったとしても、養育費については子どもの大事な権利ですから、別途請求は可能です。

――特別費用を請求するには弁護士費用や労力がかかりますが、どうしても必要なお金ならば、最初から諦めるのはもったいないのかもしれませんね。

稻川弁護士:おっしゃる通りです。ただ、これは家事事件に限ったことではありませんが、一般的に判決よりも和解をした方が金銭の回収可能性は高いです。判決や審判で「払いなさい」と命令されるよりも、和解という形で自分が納得した形の方が実行力があるということですね。

そういう意味でも、離婚する時の協議書の内容に将来起こり得ることについては約束しておいてもらった方がいいと思います。

 

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法律事務所UNSEEN 創設パートナー弁護士。第二東京弁護士会 子どもの権利に関する委員会所属。弁護士業務の他に、米国CTI認定プロフェッショナルコーチ(CPCC)としても活動を行う。心の葛藤が生じやすい離婚事件で、クライアント様の感じる痛みや思いをお話いただくことで「心からそうありたい」と願う人生を送るためのお手伝いをする。

 

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※この記事は2024年6月14日に公開しました。

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