【弁護士監修】女性の再婚禁止期間の廃止とは?民法改正のポイントや背景を解説

更新日: 2024年09月06日

「離婚しても女性はすぐに再婚できない」と聞いたことはないでしょうか? 民法では女性にのみ100日の再婚禁止期間が設けられていましたが、2024年4月1日から嫡出推定制度が変更され、女性も離婚後すぐに再婚できるようになりました。今回は、再婚禁止期間が定められていた目的や背景、再婚禁止期間廃止のポイントと理由などについて専門家監修のもと、お届けします。

再婚廃止期間とは?廃止はいつから?

再婚廃止期間とは、女性が離婚後100日間再婚できないという制度で、男性には適用されません。もともとは6カ月間でしたが、法改正により100日に短縮されました。

再婚禁止期間は、「待婚(たいこん)期間」とも呼ばれ、民法第733条では、「女は、前婚の解消または取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない」と規定されていました。なぜ女性にのみ再婚禁止期間が定められていたのでしょうか。

その理由は、子どもの父親を明確にするため。

離婚してからすぐに再婚して妊娠した場合、母親は明らかですが、父親については元夫なのか、現在の夫なのか、混乱が生じる可能性があります。扶養義務や相続権などが生じる親子関係において、父親が誰かということは子どもの将来に大きな影響を与えます。

※写真はイメージ(iStock.com/minianne)

【嫡出推定制度】父親はどっち?混乱が生じる理由

元夫の子どもなのか、現在の夫の子どもなのか、混乱が生じる理由を詳しく解説します。子どもの父親がどちらなのかをすぐに推定することができない理由には、民法第772条の嫡出推定制度が関係しています。

<改正前のルール>
婚姻から200日以降に生まれた子ども:その婚姻中に妊娠したと推定され、夫の子供とされる

離婚後300日以内に生まれた子ども:離婚前の夫の子どもと推定さる

<問題点>
上記のルールを適用すると、離婚後すぐに再婚した場合、子どもの父親が前の夫と今の夫が重なってしまう期間が生じることがあります。

<具体例>
たとえば、離婚後50日で再婚し、さらに220日後に子どもが生まれた場合、その子供は再婚後の夫の子どもと推定されますが、同時に離婚後300日以内であるため前夫の子どもとも推定されます。

そのため、こうした混乱を防ぎ、子どもの父親をすぐに判断するための法律として100日間の再婚禁止期間が設けられていたのです。

つまり嫡出推定制度とは、生まれた子どもの父親が誰なのかを法律上できるだけ早く確定させ、子どもの利益を図るための制度です。

再婚禁止期間中に再婚できるケース

2016年6月1日付で公布された規定により、再婚禁止期間中でも証明書を提出すれば、再婚禁止期間中でも再婚できることになりました。証明書では、医師により以下のいずれかを証明する必要があります。

・離婚後に妊娠していること
・離婚後の一定の時期において妊娠していなかったこと
・離婚後に出産したこと

他にも、女性が高齢であったり、 子宮を全摘出していたりするなど、妊娠する可能性がないケースでも例外的に再婚禁止期間中に再婚することができました。

女性の再婚、嫡出推定制度に関する民法改正のポイント

では、今回どのような形で見直しが行われたのでしょうか。4つのポイントを順に解説します。

ポイント1:母親が再婚した後に生まれた子どもは、再婚後の夫の子どもと推定される

出典:「無戸籍者問題の解消と児童虐待の防止のために」(法務省) (https://www.moj.go.jp/content/001413650.pdf

改正前は、離婚から300日以内に前の夫以外の男性との間の子を出産した女性が、その子が前夫の子と扱われることを避けるために出生届の提出をためらうという事態が生じていました。それが無戸籍者の生じる一因であるとされていたため、今回の改正で母親が再婚した後に生まれた子どもは、再婚後の夫の子どもと推定されることとなりました。


ポイント2:女性の再婚禁止期間を廃止

女性の再婚禁止期間は、前夫と再婚後の夫の両方が父親と推定される重複を避けるために設けられていました。しかし、改正された民法の嫡出推定規定により、こうした重複が生じないようになったため、再婚禁止期間が不要となったのです。

 

ポイント3:これまでは夫のみに認められていた嫡出否認権を、子どもと母親にも認める

出典:「無戸籍者問題の解消と児童虐待の防止のために」(法務省) (https://www.moj.go.jp/content/001413650.pdf

改正前の民法では、嫡出否認の訴えを起こせるのは、夫に限られ、子どもが生物学的に父親と関係がなくても、母親や子供がその関係を否認することができませんでした。このように嫡出否認の権利を限定的にしたのは、家庭のプライバシーを守りながら平和を尊重し、父子関係を法的に早く安定させるためとされていました。

しかし、母親は子どもが夫の子どもと見なされるのを避けるために出生届を提出しない場合があり、これが無戸籍者の原因の一つとされていたのです。今回の法改正で子どもと母親も嫡出否認の訴えを起こせるようになりました。

 

ポイント4:嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長

子どもの法的な父親が長期間不確定だと身分関係が不安定になり、早期に父親を確定することが望ましいとされる一方、法律上の父子関係を否認するかどうかを適切に判断するためには十分な時間が必要です。これにより、嫡出否認の訴えを起こせる期間が1年から3年に延長されました。

法改正は無戸籍者問題を解消するため

民法改正のポイントで挙げた「無戸籍者」にはどのような問題があるのでしょう。

無戸籍者とは、子どもが生まれたら届け出なければならない出生届を、何かしらの理由から届け出ないために、戸籍に記載のない人のことをいいます。戸籍がなければ、以下のようなさまざまな制約により、生活上、多くの困難に直面することになります。

・公的医療保険に加入できないため、医療サービスを受けにくい
・年金や生活保護などの社会保障制度を利用できない
・原則としてマイナンバーカードや運転免許証、パスポートの取得、銀行口座開設ができない(※1)
・義務教育を受けられない場合がある(※2)
・正規の雇用が難しく、就職に不利を強いられる
・選挙権がない
・親子の証明ができず遺産相続ができない

※1:一定の要件を満たしていれば作られる場合がある

※2:文部科学省は、市区町村の教育委員会に対して、戸籍や住民基本台帳に記載されていない場合であっても、義務教育の年齢にあたる子どもについて、その市区町村に居住していれば、就学させるよう促している

 

※写真はイメージ(iStock.com/xijian)

こうした無戸籍者問題を解消する観点から民法改正が実現し、2024年4月1日から施行されています。原則として、施行日以後に生まれた子に適用されますが、2024年4月1日から1年間に限って、以前に生まれた子やその母も、嫡出否認の訴えを提起できます。

また、再婚禁止期間や嫡出推定制度は、明治時代に定められたものが、改正を経て現代まで用いられてきましたが、技術の発達によりDNA鑑定が可能となったこともあり、嫡出推定制度が新たにされたものです。

子どもの利益を守る民法改正に期待

※写真はイメージ(iStock.com/itakayuki)

父親を明確にするため設けられていた再婚廃止期間は、女性が離婚後100日間再婚できないという制度でしたが、嫡出推定制度と共に見直され、2024年4月1日から廃止されました。これにより教育や医療、社会保障の面で不利益を被る無戸籍者問題の解消が期待されています。

今回の法改正は、日本社会における家族法の進化を示す重要な一歩といえるのかもしれません。この法改正により、家庭の法的安定性が向上し、子どもの利益がより一層守られることが期待されます。


監修:早瀬 智洋弁護士/弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
2009年の事務所開設以来、女性側の離婚・男女問題の解決に注力している。年間700件以上、累計5000件以上の相談実績があり、多様な離婚のノウハウを蓄積。経験豊富な男女20名の弁護士が所属し、新聞・テレビ・雑誌・Webなど多くのメディアからの取材も受けている。

※この記事は2024年7月3日に公開しました。

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