【体験談】未成年者略取の訴えを退け最高裁で勝訴、シングルファザーが娘に抱く申し訳なさ
更新日: 2024年11月18日
父親が親権を獲得できるのは1割程度とされる中、裁判を経て娘の親権を得た高橋さん(37歳・仮名)。離婚までの経緯の他、仕事と育児のバランスや、シングルファザーとして娘に抱く思いなどをお話いただきました。
妻の不倫… 話し合いでは解決できない
――結婚から離婚に至るまでの経緯を教えてください。
結婚して4年後に娘が生まれました。その後セックスレスが続いていたタイミングで妻が職場復帰したんです。その頃から何となく怪しい動きがあり、「不倫しているのではないか……」という疑念を持ち、妻のスマホを確認したところ確信に変わりました。
その他にも、妻として、母親として信用できない決定的なことが発覚しましたが、不倫が直接的な理由というよりも、普段の生活の中で感じる私への愛情の薄れを感じていました。
※写真はイメージ(iStock.com/baona)
妻と離婚するか、修復をするか――職場の方を含めて数人に相談し、いろいろなパターンを想定した上で、自分の中で「離婚して子どもは私が育てたい」という結論が出たのです。
――離婚を決意した後はどのように行動したのでしょうか。
3~4軒の弁護士事務所を回って相談しました。
最終的に依頼した弁護士以外は「まずは話し合いを」と勧められたのですが、ネットで情報を集めていると、「子どもの親権を持って離婚したい」と話し合いを持ちかけても、妻が子どもを連れて実家に逃げてしまうケースが多いようでした。
その場合、相手側の監護期間が長引き、こちらが不利になることが多く親権を得るのは難しいという印象を受けていました。
そこで、自分が子どもとより長く、深く接してきた事実をどのように示すかが重要だと考え、その点を踏まえた提案をしてくれた弁護士に依頼しました。
約半年間、妻に気づかれないよう水面下で準備を進め、同時に裁判に備えて証拠集めも行っていました。
未成年者略取誘拐罪で訴えを起こされ、勝訴
――万全に準備を整えてからアクションを起こしたのですね。
妻が会社に行っている間、当時5歳の娘を保育園から連れて帰り、そのまま一時的にウィークリーマンションに引っ越し、別居が始まりました。
その後は弁護士を通じたやり取りになり、スムーズに離婚できればよかったのですが、その手前で私の方が未成年者略取誘拐罪の訴えを起こされたのです。最高裁まで争い、約二年かかりましたが、最終的には私が勝つ形で終わりました。
その後に離婚の話し合いが進み、家庭裁判所で和解が成立して離婚しました。
――離婚の話し合いの争点は、やはり親権に関してだったのでしょうか。
そうですね。他の部分に関しては一般的な結論に落ち着きましたが、親権については時間がかかりました。
家庭裁判所の調査官調査では、自宅に来て、私がどのように娘と遊んでいるかを観察されました。また、保育園の園長に電話で話を聞き、子どもと調査官が直接話す時間もありました。その過程で、保護者とのやり取りに違和感がないかなど、親子関係や子どもの状況について調べられました。
――共同親権が話題になっていますが、どのように感じていますか?
既に離婚している場合でも、相手が共同親権を求める場合には、家庭裁判所に親権者変更の申立てをして、共同親権への変更を求めることができるとニュースで見聞きし、不安に感じています。
夫婦間の折り合いが悪くて裁判まで発展しているにも関わらず、面会交流でしか子どもと接していない相手と進学先や習い事に関してまで協議するのは現実的ではないと思っています。
一方で、相手は暴力を振るうなど子どもに直接的な被害を及ぼしていたわけではないので、「子どもにとって悪い母親ではない」と捉えられる可能性もある。子の福祉を重んじた時に、司法がどのように判断するのか、注意深く見守っていく必要があると感じています。
※写真はイメージ(iStock.com/y-studio)
離婚しても晴れやかな気持ちにはなれない娘への思い
――養育費や面会交流については、どうなったのですか。
養育費は月々2万円を支払ってもらっていて、面会交流は移動時間を含めて約5時間確保し、3カ月に一度は泊まりで面会しています。調停中も弁護士を介して面会交流を実施していたため、離婚後もそのフォーマットで運用している形ですね。
――娘さんには離婚についてどのように説明されましたか。
特にしていません。娘はすごく空気を読むタイプで、小学校3年生の今日に至るまで「なんでお母さんと一緒に住んでいないの?」といった説明を求めたことがないんです。面会交流の後も「今日は何をしたの?」と聞くと、「〇〇に行ったよ」と答えますが、母親の話を自分からすることはありません。
彼女なりに「聞いてはいけない」と思っているようで、私はそれがとても心苦しくて。子どもには何の罪もないのに、他の子と違って母親がいない環境で育てていることに対して、申し訳なさを感じています。
離婚前に望んでいた通り、相手と別れ、子どもの親権を得て一緒に暮らせているものの、「離婚して幸せ」という感覚でないことは確かです。それよりも、「毎日子どもに寂しい思いをさせているのではないか」と今も思い悩み続けています。
※写真はイメージ(iStock.com/Edwin Tan)
――離婚後、住環境や働き方に変化はありましたか?
今は私の妹と一緒に暮らしています。
週の半分はリモートワークができて、出社日はほぼ定時で帰り、娘と妹だけの時間がなるべく短くなるようにしています。妹も働いているので頼りきることはできず、別居してから一度も飲み会に行ってないんですよ(笑)。
仕事が忙しい時は、朝4時頃から朝残業をしたり、子どもが寝た後に残業するなど調整して、子どもと過ごす時間を大切にしています。職場の方々には、離婚前から相談していたこともあり、家庭の状況を考慮して仕事量や内容を調整し、最適なポジションにアサインしてもらいました。職場のサポートにはとても感謝しています。
「子どものための再婚」はあり得るのか
――将来的に再婚を考えることはありますか。
いや……悩みますよね。「“母親”という存在が身近にいる方が娘の成長にとって良いのではないか」と思い、マッチングアプリに登録してみたものの、子どものために結婚するという形が本当にあり得るのかと考えてしまいます。
結局、母親としての機能だけを期待しているようにも感じますし、そんな結婚を受け入れる女性もいないでしょう。私自身、結婚に対して苦手意識を持ってしまったのかもしれませんが、今は再婚を考える気持ちにはなれていません。
――妹さんの助けがあるとしても、シングルファザーとして娘さんを育てていく上で、不安や心配なことはありますか?
現時点で大きな不安はありませんが、娘が成長するにつれて、体の発達について男親に相談しづらくなることもあるかもしれません。その際には、一緒に住んでいる私の妹に相談してくれると良いのですが、妹が結婚や仕事の都合で離れる可能性も考えられるので、そうなった場合は心配です。
幸い近所に家族ぐるみで仲良くしている友人がいるので、今後も頼りにできる人たちを地域に増やしておきたいですね。
ただ、気になるのは、統計的に母子家庭よりも父子家庭の子どもが非行に走る割合が高いというデータです。父親が子どもと一緒に過ごす時間が少なく、愛情不足によって子どもが孤独を感じることで、そうした状況に陥りやすいのかもしれません。
もちろん、統計データはあくまで数字で、我が家がどうなるかは別の問題だと理解していますが、そうならないように娘と一緒に過ごす時間を多く作り、愛情をしっかりと伝えながら育てていけるよう父親として今後も向き合っていきたいです。
※写真はイメージ(iStock.com/Nadezhda1906)
ー親権取得率約1割、父親が子どもと暮らすためにー
妻の不倫が発覚した際、感情的になることはなかったという高橋さん。「怒りに向かなかっただけで、とても悲しい気持ちになりましたよ」と続けます。
冷静に慎重に、離婚後も娘と暮らす方法を模索し、ある日別居に踏み切ったが、未成年者略取誘拐罪で訴えを起こされてしまいました。
母性優先の原則が働き、父親の親権取得が難しいとされる中、離婚後も子どもと生活を共にしたい父親はどうすればよいのでしょうか。一般的にどのような行為が未成年者略取誘拐罪に該当するのか、父親が親権を得られるケースについて、新大塚法律事務所の鈴木 成公弁護士に教えてもらいます。
【鈴木 成公弁護士監修】未成年者略取誘拐罪に該当するケースと父親が親権を得られるケースとは
【1】未成年者略取誘拐罪
未成年者略取誘拐罪の構成要件は、未成年者を、暴行・脅迫等の強制的手段(略取)、あるいは偽計または誘惑(誘拐)の方法によって、自己又は第三者の事実的支配の下に置くことです。離婚前の夫婦はいずれも親権者ですが、親権者が子を略取・誘拐する場合にも、未成年者略取誘拐罪の構成要件に該当します。
ただし、子を連れ去った親も親権者であることによって、違法性が阻却される場合もありますし、その連れ去り行為が正当行為などに当たる場合も、違法性が阻却されることがあります。
もっとも、判例では、妻が子供を置いて家を出ていき、しばらくの間夫が子を育てていたところ、妻が保育園に来て、保育園の担任の制止を振り切って連れ去ったケースで、違法性は阻却されず、未成年者略取誘拐罪が成立するとしています。
したがって、別居している夫婦の一方と子が平穏に生活している状態で、他方の配偶者が子を連れ去る場合は、未成年者略取誘拐罪となる可能性が高いと思われます。
夫婦相互が子を連れ去り合うようなことは、子の負担もかなり大きいので、本来は夫婦が話し合って子の監護者を決めるべきですが、離婚及び親権について争っている夫婦において直接話し合うことは難しい場合が多いので、そのような場合は、子の引渡しを求める調停や審判を申し立てることを検討すべきです。ただし調停や審判は時間がかかるので、緊急性が高い場合は、審判前の保全処分によって、子の引渡しを仮に命じてもらうという方法が有用です。
子の引渡し求める審判や審判前の保全処分においても、離婚時の親権者を定めるのとほぼ同じ枠組みで判断されますが、子の引渡しにおいては、特に子が連れ去られる前に主として監護していたのが誰かは、重要な考慮要素になるので、離婚前から、父親であっても、積極的に育児をし、子の監護に努めることが肝要です。
【2】父親が親権を得られる場合
親権を決定する判断基準の1つに、母性優先の原則があるため、母親が育児放棄したり子を虐待したりしていた場合、母親の監護能力に問題がある場合などを除けば、母親が有利になることが多いですが、父母の監護能力に優劣がない場合でも、これまで子の監護養育を主として父親が担ってきて、別居後も父親が監護養育を継続していた場合(父親の親族が母親代わりに監護養育を補助している場合も含みます。)は、父親を親権者とした事案もあります。
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※この記事は2024年11月14日に公開しました
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