冷え切った夫婦関係に悩んでいる人の中には「子連れ離婚になるので、タイミングが…」と離婚をためらっている人も多いのではないでしょうか。確かに子供への影響を考えると簡単には離婚できません。子連れ離婚に最適なタイミングや子供への影響を抑えるポイントを紹介します。
子供がいる夫婦にとって離婚のタイミングは重要?
子持ちの夫婦の不仲は子供の成育に悪影響を及ぼします。両親がいつも喧嘩をしていたり、口も利かなかったりする状態では、子供の精神状態も不安定になりがちで、なかには「生まれてこなければよかった」とまで考える子供もいます。
不仲な両親と暮らすくらいなら、いっそのこと離婚したほうがいい場合もあるのですが、タイミングを誤ると、子供が学校に通いにくくなったり、受験勉強に支障を来たしたりすることもあります。子連れで離婚をする場合の最適なタイミングはいつなのでしょうか。子連れ離婚を検討する際のポイントや子供に影響の少ないタイミングについて説明します。
子連れ離婚で注意すべきポイントは?
子持ちの夫婦が離婚するとき、どのようなポイントに気を付けて判断すればいいのでしょうか。離婚はあくまでも夫婦の問題ですが、2人の間に生まれた子供への影響を考えないのは無責任です。子供への影響を最小限に抑えるため、どうすればいいのかを考えるのは、親としての責務ともいえるでしょう。
子連れ離婚をすることになったとき、子供のために考えておかなければならない大切な3つのポイントを紹介します。
精神面への悪影響
親の不仲と同様に親の離婚も、程度の差はあれ、子供に精神的なダメージを与えます。どちらかの親と暮らせなくなるというショックだけでなく、生活環境が大きく変化することへの不安も子供の心に重くのしかかります。離婚によって、転校したり友達と別れたりすることも子供にとって大きなストレスとなります。
ただし、子供の前でも激しい喧嘩を繰り返してしまうほど夫婦関係が悪化している場合や、両親のどちらかに子供に対する暴言や暴力が見られる場合は、できるだけ早く離婚して、子供が落ち着いた環境で暮らせるようにすべきでしょう。
教育資金の確保
子連れで離婚する場合は、子供の将来のため、教育資金のめどをつけておくことが大切です。既に一定額の預金がある場合や、収入面で心配のない場合は別ですが、大抵の場合、離婚した家庭は離婚前より収入が落ちてしまいます。養育費をもらう約束をしていても、相手の事情で打ち切られてしまう可能性はゼロではありません。
奨学金を受けて大学にまで進学する道もありますが、子供が経済的な理由から夢を絶たれることのないよう、収入の見込みや養育費を含め、用意できる教育資金について将来設計を立てておきましょう。
面会交流は子供の権利
たとえ離婚して別居しても、子供にとっての親は変わりません。子供が親に会いたいと思ったら、できる限り会える環境を整えておくことが必要です。面会交流は、親の権利であるかのように考えられがちですが、本来は「子供が親に会う権利」を保障するものです。できるだけ子供の希望に沿うことが重要です。
離婚の話し合いがこじれると、面会交流と養育費がセットであるかのように交渉の材料に扱われることがあります。「子供に会えないのなら、養育費は払わない」「養育費が滞ったら、面会は中止する」といった主張が典型ですが、面会交流と養育費は本来、切り離して考えるべきものです。あくまでも子供の幸せと希望を最優先に話し合いましょう。
子連れ離婚に最適なタイミングとは
子連れで離婚するとき、子供への悪影響を抑えるのは、どのようなタイミングを選べばいいのでしょうか。もちろん、DVやモラハラなどがあり、できるだけ早く離婚したほうがいいときもあります。そうしたケースを除いて、ある程度時期を選べるときに、最適なタイミングはいつなのかを解説します。
子供が物心つく前
子供がある程度年齢が上がって物心もつき、両親にも懐いているのに、突然、どちらかの親と引き離されてしまうと、子供はショックを受けます。幼少期に親と引き離されたという記憶は、長く心の傷として残ることも少なくありません。そう考えると、あまり両親との記憶が残らない、赤ちゃんの頃から2,3歳くらいまでの年齢のうちに離婚するのも一つの選択です。
子供が赤ちゃんのうちは、母親との十分なスキンシップが必要だという考え方もありますし、育児も大変な時期なので、親にとっては離婚をためらう時期ではあるのは確かです。しかし、子供のショックを和らげるという意味では幼少期、少なくとも幼稚園に入園する前というのが一つのタイミングでしょう。
子供の進学に合わせて
幼稚園や保育園に通っている子供であれば、小学校入学前が離婚のタイミングの一つです。同じように中学、高校入学前など学校の環境が変わる時期だと、人間関係も変わるため、両親が離婚しても学校で噂になったり、変に気を使われたりすることも少ないでしょう。
両親の離婚は子供の精神状態に影響しますから、子供が受験勉強に取り組んでいる間は、離婚の話を進めていても、気づかれないようにするのが大切です。ただ、せっかく志望校に合格しても、その直後に両親が離婚するようでは喜びも半減します。その後の大学進学のことも考えると、高校生の時期はできれば避けたほうがいいかもしれません。
学校の夏休みに合わせて
小学生や中学生の子供を連れて離婚するときは、春休みや夏休みの時期も一つのタイミングです。一定期間の休みがあれば、その間親子でじっくり話をする時間も取れるでしょうし、精神的に落ち着く時間もあります。夏休みであれば、なおのこと長い休みを利用して、しっかり子供と向き合うことが大切です。
学年途中での転校や、急な友達との別れと、子供にとってはつらい経験になるかもしれませんが、そこは離婚後も、元夫婦が父親、母親としてケアをしていくことが大切です。
子連れ離婚を避けるべきタイミングとは
子連れ離婚は子供を最優先にすることが大切ですが、子供の事情ばかりを考えるわけにはいかないときもあります。子供の学校のことを考えて離婚時期を選んだつもりでも、そもそも離婚すべきタイミングではなかったということもあります。
「こんな時期に子連れで離婚するんじゃなかった」などと後悔しないよう、子供とは直接かかわらないポイントについても十分検討しましょう。
離婚の準備が整っていないとき
自分一人だけで家を出ていくのならまだしも、子供を連れて家を出る場合には、離婚後の生活設計も考えておく必要があります。感情的になって、子連れで離婚するのは、どんな理由があるにせよ、無責任だと言わざるを得ません。たちまち住むところや生活に困り、後先を考えない行動だったと後悔することになるでしょう。
離婚するときには、事前に決めておくべきことが数多くあります。住むところや仕事だけでなく、財産分与や養育費などの離婚の条件、困ったときの相談先などをしっかり決めて準備しておかなければなりません。準備がまだ整っていないと思ったら、よほどの事情がないかぎり、無理はせず離婚は留まるべきです。
貯金がないとき
離婚して家を出ることになれば、新しい生活を始めるためにお金が必要です。実家に身を寄せるのなら、新居の契約費や家賃などはかかりませんが、引っ越し代や新しい生活を始めるための費用など、何かと出費がかさむものです。実家に頼らず、全くイチから生活を始めるのなら、100万円くらいかかってしまうこともあります。
また、離婚前に仕事をしていなかった場合、すぐに仕事が見つかったとしても、給料が入るまでの生活費は、貯金を取り崩すなどしてしのぐしかありません。財産分与や養育費もすぐに支払われるとはかぎりませんから、当面の生活費も用意しておく必要があります。離婚する際は、すぐに使える貯金を確保しておくことが大切です。
忙しくて時間がとれないとき
離婚には夫婦で話し合う時間が必要ですし、手続きや今後の生活の準備にも時間を取られます。そのうえ、肉体的、精神的にも疲れることが多いはずです。このため、離婚するのは時間的に余裕があるときにしましょう。忙しくて、あまり時間もとれないときにバタバタと離婚してしまうと、十分な話し合いはできませんし、準備もおろそかになってしまいます。
また、離婚や引っ越しにともなう手続きや準備に追われ、子供のケアを怠ってしまう可能性もあります。離婚するときは、夫婦ともに仕事に時間的な余裕があり、融通が利くときを選びましょう。
子連れ離婚すると時期によって税金の負担が変わる?
専業主婦だった妻が離婚したときに不安になるのは税金のことではないでしょうか。特に夫が会社員だった場合、あまり税金の額を意識したことがない人も多いでしょう。子連れ離婚したときのタイミングによって税金の負担額が変わるのかについて説明します。
妻や夫が扶養家族だった場合は控除の対象外に
妻や子供が夫の扶養家族になっていた場合、離婚によって夫の納税額が増える可能性があります。なぜなら、離婚すると納税額を確定する際の「配偶者控除」や「扶養控除」の対象から外れてしまうからです。子供も扶養から外れると、控除の対象ではなくなってしまいます。
控除とは、所得税を計算する時の所得額から、一定額を差し引くことです。控除額を引いた残りを「課税所得」といい、課税所得に税率をかけると納税額が決まります。控除額は配偶者が最大年間38万円、被扶養者は1人当たり最大63万円となっており、控除の対象者が減るとその分、課税所得が上がってしまいます。
子連れ離婚の場合「ひとり親控除」の対象になることも
一方で、離婚して母子家庭、父子家庭になると、寡婦控除、ひとり親控除の対象になる可能性があります。寡婦控除とは夫と離婚したり死別した女性を対象とした控除で、所得金額が500万円以下などの条件を満たした場合、年間27万円の控除が受けられます。
一方、ひとり親控除は、夫と離婚したり死別したりして子供がいる女性や、未婚で子供を育てている女性、妻と離婚したり死別して子供がいる男性が対象です。所得金額が500万円以下などの条件を満たせば、35万円の控除が受けられます。
また、離婚した際に受け取った財産分与や養育費、慰謝料などは基本的に課税の対象外となります。しかし、金額や資産の譲渡の仕方によっては課税対象と見なされることがあります。詳しい課税の仕組みや、課税されるケースについては、税理士に確認するといいでしょう。
子連れ離婚では子供を最優先にタイミングを考えよう
DVや虐待などの緊急性の高い離婚を除いて、子連れで離婚する場合は、できるだけ離婚が子供に悪影響を及ぼさないようタイミングを図ることも大切です。タイミングよく離婚するには、事前の準備も欠かせません。後悔のない離婚ができるよう、夫婦関係に詳しい弁護士にも相談をしながら準備を進めましょう。
塚本 亜里沙/東京山手法律事務所(第一東京弁護士会所属)
20年以上の経験を持つ弁護士。
弁護士が行うリーガルカウンセリングもカウンセリングの一種であり、カウンセリング能力の向上は不可欠であると考え、日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー・(一財)日本能力開発推進協会家族療法カウンセラー・アンガーコントロールスペシャリスト取得。
夫婦関係・離婚のお悩みに真摯に向き合い、幸せな離婚に向けた解決をモットーに全力を尽くしている。