モラハラ夫は実はアスペルガー症候群の可能性がある?
日頃、夫から激しい暴言を吐かれ、冷たい態度を取られることに疲れた妻が専門家に相談したところ「(夫は)アスペルガー症候群ではないか」と指摘されることがあるそうです。モラハラとアスペルガー症候群はどこが違うのか、そんな夫との離婚を考えたとき、どのように対処すればいいのかを解説します。
モラハラとアスペルガー症候群の共通点は?
モラハラとアスペルガー症候群はよく似ていると言われることがあります。なぜなら、アスペルガーの人の中には、他人の感情を理解できず、自分の感情もうまくコントロールできない人がいるからです。このためモラハラのような言動をすることがあります。具体的にどのような言動がモラハラと見られるのでしょうか。
妻に精神的攻撃をする
アスペルガー症候群の人は、相手の気持ちを想像したり、その場の空気を読んだりすることが苦手で、自分の言動が相手にどう受け止められるかをあまり考えていません。また、感情をコントロールできない人が多いのも特徴です。
このため、感情的になって夫が妻をののしったり、威圧的な態度を取ったりすることがあります。また、自分に関係のないことには関心を示さない傾向もあり、妻は冷たい態度を取られたと感じてしまいます。夫は意識的でなくても、こうした言動は妻にとって相当なストレスです。そして、妻は心身ともに疲弊してしまいます。
妻はカサンドラ症候群になる可能性がある
モラハラにせよ、アスペルガー症候群にせよ、夫から精神的な攻撃を受け続けると、妻は精神的、身体的な不調をきたす可能性があります。ひどくなると抑うつ症状や不安障害、不眠症、自律神経失調症などの診断を受けることもあるでしょう。
特に、アスペルガー症候群の夫や兄弟、職場の上司らとの関係がうまくいかず、こうした症状を発症することを「カサンドラ症候群」と呼びます。カサンドラ症候群は正式な病名ではありません。しかし、最近は関心も高まり、行政や医療機関などで相談に応じてもらえるようになってきました。カサンドラ症候群当事者らのグループによる相談窓口も増えています。
どのような人がカサンドラ症候群の可能性があるのでしょうか。カサンドラ症候群の人が抱きがちな感情や、よく見られる症状を挙げました。こうした感情や症状に心当たりがある人は、一度専門の病院やクリニックを受診することをお勧めします。
・配偶者と理解し合えず無力感を感じている
・配偶者の言葉や態度に傷ついている
・配偶者が何を考えているのかわからず悩んでいる
・配偶者の言動にイライラし、ストレスが大きい
・自分に自信が持てない
・眠れない・眠りが浅い
・気分が落ち込むことが多い
モラハラとアスペルガー症候群の違いは?
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、アスペルガー症候群は「自閉症」「広汎性発達障害」などとも呼ばれてきましたが、2013年以降アメリカ精神医学会(APA)の診断基準「DSM-5」に沿って、自閉スペクトラム症(ASD)と診断名が統一されています。病院でASDと診断されたら、アスペルガー症候群を含む症状があると考えて良いでしょう。
モラハラに近い言動が見られるアスペルガーの人たちですが、厳密にはモラハラとアスペルガーは違うものと区別されます。モラハラとアスペルガーの違いを説明しますので、「自分の旦那はアスペルガーではないか」と感じたときの判断の目安としてください。ただし、アスペルガーの人がモラハラ気質になることもあり、最終的には専門家の診断が必要です。
発症の仕方
アスペルガーの原因は、医学的に特定されているわけではありませんが、生まれつきの脳の働きなど先天的な要因によるものだと考えられています。親の育て方が原因ではありません。一方、モラハラは「自己愛性人格障害」が関わっていることがあると考えられています。
自己愛性人格障害の人は自尊心のコントロールが難しく、自分への賞賛を求めるあまり人間関係でトラブルを起こしてしまいます。これが配偶者に向かうと、夫婦間でのモラハラとなります。自己愛性人格障害の原因もよく分かっていませんが、遺伝などの先天的な要因のほか、成育環境など後天的な要因が関わっていると考えられています。
相手の気持ちを理解しているか
アスペルガーの人は基本的に人の気持ちを理解するのが苦手で、すぐに感情的な行動を取ってしまいます。ですから、どんなに感情を爆発させていても、問題が解決したとたん、人が変わったようにおとなしくなることがあります。こうした感情の起伏に振り回されて、周囲の人は傷つき、疲れてしまいます。
一方、モラハラには相手を支配して自分を認めさせたい、優越感を得たいという目的がありますから、相手が自分の言動をどう受け止めるかを計算しています。いつも計算しているわけではありませんが、相手の気持ちを理解したうえで激しく叱責したり、冷たい態度を取るといった行動パターンが染みついています。
妻にのみ攻撃的か
アスペルガーが感情を爆発させるのは、自分の思い通りにならなかったときや予期せぬ事態に遭遇したときなどです。場所や相手を選びません。結婚している男性であれば、妻に怒りの矛先が向かうことが多くなります。しかし、決して妻だけを攻撃の対象にしているわけではありません。
これに対し、モラハラ夫のターゲットは妻です。妻を支配し、自分の思い通りにするのが目的ですから、他の人に攻撃的になることはありません。むしろ、目上の人や自分より力のある人に従順で、世間体を気にする傾向がありますから、家庭の外では温和な性格だと思われていることが多いようです。
妻に対して嫉妬や束縛が激しいか
アスペルガーの人は興味を持つ対象が狭い人が多く、他人への関心も少ないようです。このため、妻が他人と親しくしても嫉妬することは少なく、束縛したいと強く思うこともほとんどありません。
モラハラ夫は独占欲が強く、常に妻がそばにいてほしいと考えています。このため、妻の行動を監視したり外出先を問い詰めたりします。
妻に対して常に否定的か
モラハラ夫は妻に対して否定的な態度を取ります。これは、妻を否定することで、自分が優越的な立場に立とうとするためです。
一方、アスペルガーの夫に、妻を否定しようという意図はありません。ただ感情的になって妻を否定するような失言をしたり、冷たい態度をみせたりするだけです。ときには、相手がどう受け止めているのか気づかず、それが愛情表現の1つだと思い込んでいることもあるようです。
アスペルガー症候群の夫の対処法は?
アスペルガー症候群の夫の言動に悪気はないといっても、心無い言葉に傷つけられたり、冷たい態度に振り回されたりすると、妻もカサンドラ症候群で心身が弱ってしまいます。アスペルガーの夫への対応に悩んだときの解決法や対処法を紹介します。
病院で診察やカウンセリングを受ける
まずは病院で、夫がアスペルガー症候群なのかどうかの診断を受けることが大切です。素人判断で病名を決めつけるのはいけません。しかし、本人の同意もないままいきなり病院に連れて行くのも問題です。妻が正直に、悩んでいることや体の不調を夫に話し、夫にも「原因は自分にあるかもしれない」と自覚してもらえたのなら、一緒に病院に行きましょう。
問題は、本人が「自分には何も問題はない」と考えている場合です。「あなたはアスペルガーや発達障害かもしれない」などと言ってはいけません。「受診してみよう」という気持ちにさせることが大切です。「メンタル専門の病院に行きたいのだけど、ついて来てくれない」と誘うと案外うまくいくかもしれません。最初に妻だけで受診してみるのもいいでしょう。
コミュニケーションの仕方を工夫する
アスペルガーの人は他人とのコミュニケーションが苦手で、相手の言っていることを理解できないことがあります。相手の感情や願望を察することもできません。また、先のことを考えるのも苦手で、予定にない出来事が起きると、パニックになることがあります。
夫がアスペルガーの場合は、妻もコミュニケーションの方法を工夫する必要があります。アスペルガーの人は視覚的な情報を処理する能力が高いことが多いので、大切なことはメモにして渡すといいでしょう。
予定があるときは、結果の見通しを事前に伝えておくのも大切です。「これをして終わりだから」「2時間ほどで終わるから」などと見通しを伝え、予測できないことが起きたらどうしたらよいのかを事前に説明しておくと、落ち着いて行動できるでしょう。
家庭内でのルールを決める
アスペルガーは臨機応変に対応することは苦手ですが、決められたルールやローテーションはしっかり守る傾向があります。このため、日ごろから生活上のルールを決めておくことも有効です。その際は「ごみ収集日には夫が午前8時までに、ごみを出す」「毎週金曜日の午後9時からは夫婦で話し合う時間をつくる」など、具体的で明確なルールをつくりましょう。
アスペルガーの人は「手が空いたほうがやる」「時間ができたらやる」などといったあいまいなルールが苦手で、納得できないことは「どうしてそんなことをしなければならないのか」と考えがちです。「自分で考え、こちらの気持ちや事情を察して行動してくれるだろう」と期待するのはやめたほうがいいでしょう。
うまくいかなくても落ち込まない
アスペルガーの夫を持つ妻の中には「夫とのコミュニケーションがうまくいかない」と悩む人もいます。しかし、相手はもともとコミュニケーションが苦手な人で、悪気はありません。本人はコミュニケーションがうまくいかないことを気にしていない可能性があり、妻が悩んでいることにさえ気づいていないかもしれません。
どんな人が相手でも、うまくコミュニケーションできないことはあります。ましてや、相手はコミュニケーションが苦手な人です。うまくいかなくても気にすることはありません。「それも個性の1つ」と考え、あまり落ち込まないようにしましょう。
どうしようもない場合、別居・離婚を検討する
夫の傍若無人な振る舞いが目に余る、カサンドラ症候群で妻がつらい思いをしている、子供の成育にも悪影響を及ぼすといった場合は、別居や離婚を考える必要も出てきます。なんとか夫婦関係を維持しようと努力するのも必要ですが、それで心や体の健康を損なっては元も子もありません。
ただ、アスペルガーの人は事態が呑み込めず、感情的な行動をする可能性もあります。別居や離婚を切り出す前に、カウンセラーや弁護士などの専門家に相談したほうがいいでしょう。離婚に至るまでにはさまざまな葛藤もありますが、「離婚してよかった」と感じている人も少なくありません。
アスペルガー症候群の元夫と離婚をして後悔はありません。
元夫と生活をしていたときは、胃腸炎や不眠、めまい、摂食障害など、さまざまな症状があらわれていました。
離婚をして、子供と一緒に実家に戻ってからは、体調が回復して元気に子育てをしています。
アスペルガー症候群の疑いがある元夫と一緒にいることに疲れて、離婚を切り出しました。ただ、日によって言うことが変わるので話が進まず、弁護士に依頼することに。協議は難しいと判断して調停を申し立てました。
調停委員が元夫を説得してくれて、調停中、1度も元夫に会わずに離婚成立できたのが最大のメリットです。おかげで解決する頃には心身ともに元気になりました。
アスペルガー症候群の夫と離婚したい時の注意点
アスペルガー症候群を乗り越え夫婦関係を維持しようと努力してきたのにどうしてもうまくいかず、心身の不調をきたしてカサンドラ症候群になってしまったような場合、妻は夫と離婚できるのでしょうか。アスペルガー症候群の夫との離婚を検討する際の注意点について説明します。
アスペルガー症候群は離婚事由にはならない
配偶者がアスペルガー症候群だという理由で離婚できるのでしょうか。離婚は夫婦双方の合意があれば離婚できますが、どちらかが合意しない場合、法律に沿った離婚の理由「法定離婚事由」が必要となります。理由の中には「配偶者が重度な精神病」というものもありますが、アスペルガー症候群はこれに該当しません。
配偶者がアスペルガー症候群だというだけでは、相手の合意なしに離婚はできないと考えておいたほうがいいでしょう。もちろんコミュニケーションをうまく取れない結果、暴言を吐くなど、ひどいモラハラ行為をするようになった場合は、離婚の理由と認められることもあります。
離婚の証拠を残す
アスペルガー症候群という理由だけでは離婚できない以上、離婚の理由と認められそうな証拠を収集するしかありません。モラハラやDVの証拠として、夫の普段の言動を録音、録画するなどして記録しておきましょう。
モラハラ夫にアスペルガー症候群の疑いがあればまずは病院へ
夫がアスペルガー症候群だった場合、妻は夫とのコミュニケーションに悩み、カサンドラ症候群という心身の不調にも苦まされる恐れがあります。「アスペルガー症候群も個性の1つ」と割り切って夫婦関係を築ければ最高ですが、そう簡単なことではなく、周囲の支援が必要になることもあるでしょう。
「夫はアスペルガー症候群では」と感じたら、素人判断でなく、専門家に診察してもらい、適切な治療やアドバイスを受けることが大切です。まずは病院に相談してみましょう。本人が診察を拒む場合、最初は妻一人で相談に行っても構いません。
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
2009年の事務所開設以来、女性側の離婚・男女問題の解決に注力しています。年間700件以上、累計5000件以上の相談実績があり、多様な離婚のノウハウを蓄積。経験豊富な男女20名の弁護士が所属し、新聞・テレビ・雑誌・Webなど多くのメディアからの取材も受けています。