共感性のない夫はモラハラ?サイコパス?
モラハラの被害を受けている妻の中には「夫はサイコパスだ」と言う人がいます。そうした人は夫の性格について、攻撃的な言動に加え「他者に対する共感性がない」と訴えることが多いようです。果たして、共感性のない夫はモラハラ気質なのか、サイコパスなのか。それともその両方なのか、説明していきます。
そもそも『サイコパス』とは?
サイコパスと聞くと、冷酷で非情な犯罪者を思い浮かべるかもしれません。サスペンス映画などに登場する犯罪者はサイコパスを想定して描かれていますが、実際にはサイコパスだから犯罪者だというわけではありません。サイコパスの傾向があるという人の中には、シビアな経営判断で成功する起業家も含まれているとされます。
サイコパスはアメリカの精神科医が提唱した考え方だといわれています。他者への共感性に乏しく、それが原因で人間関係にトラブルを引き起こす人というのが一般的な説明です。こうした傾向に衝動性や攻撃性が強く現れると犯罪に走ることがありますが、決断力や実行力という良い形で現れると、政治や経営の分野で成功するとも言われます。
反社会性人格障害の一種
精神病の診断では「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」というものが使われますが、サイコパスはこの中の「反社会性人格障害」にあたるとされています。人格障害(パーソナリティ障害)とは考え方や人との接し方に特徴があり、それによって人間関係のトラブルを起こしたり、社会に適応できなかったりすることで、10種類に分類されます。
反社会性人格障害は、自分や他人がどうなるのかを考えずに、自分の欲望を満たすことを目的に行動する傾向があります。このため他人の感情や権利、ときには法律までも軽視するのが特徴です。ちなみにモラハラ気質の人は「自己愛性人格障害」の人が多いと言われます。自己愛性人格障害の人は、自分の能力を過大評価し、自分への賞賛を求める傾向にあるとされます。
反社会性人格障害の人がそのまま、サイコパスというわけでなく、脳の働きなど先天的要因が強い場合を「サイコパス」、成育環境など後天的要因が強い場合を「ソシオパス」ということがあります。ただ、人格障害の診断は非常に難しく、素人判断は禁物です。
製薬会社MSDが監修している医学事典「MSDマニュアル」から診断基準を紹介します。
反社会性パーソナリティ障害の診断を下すには、患者は以下の3つ以上により示されるように、他者の権利を軽視し続けている必要があります。
・逮捕の対象となる行為を繰り返し行うことに示されるように、法律を軽視する。
・繰り返し嘘をついたり、偽名を使ったり、個人的利益や快楽のために他者を言いくるめたりすることに示されるように、詐欺的である。
・衝動的に行動し、前もって計画を立てない。
・繰り返し体を使った喧嘩を始めたり、他者を攻撃したりすることにより示されるように、怒りやすかったり、攻撃的であったりする。
・自分や他者の安全を向こう見ずに軽視する。
・別の仕事のあてもなく仕事を辞めたり、請求書の支払いをしなかったりすることに示されるように、一貫して無責任な行動をとる。
・他者を傷つけたり虐待したりすることに対し無頓着であったり、そのような行為を合理化したりすることに示されるように、後悔の念が欠如している。
反社会性パーソナリティ障害は18歳以上の人でのみ診断されます。
モラハラとサイコパスの共通点
モラハラ被害者の妻からは似ていると言われることの多いモラハラとサイコパスですが、専門的な診察基準に照らし合わせてみると決して同じではありません。しかし、目的に違いがあっても、同じような行動をすることもあります。モラハラとサイコパスにはどのような共通点があるのか、よく指摘されるものを3つ紹介します
他者に攻撃的
反社会的人格障害の人格の特性をサイコパシーと呼ぶことがありますが、サイコパシーには利己的で、他人の心の痛みや感情に共感できない傾向があります。このため、相手に暴言を吐いたり、ときには暴力を振るったりしても、罪悪感を全く感じない人もいます。程度の差はあれ、他者に対して非常に攻撃的な一面を持つのが特徴です。
モラハラ気質の夫も、妻に攻撃的な言動をします。妻の感情を無視し、自分の考えや意見、要求を一方的に押し付けるので、妻には夫がサイコパスにしか見えないこともあるでしょう。
平気で嘘をつく
利己的で、他人への思いやりにも乏しいサイコパスの人は、自分の目的を達成するためには平気で嘘もつきます。これは、嘘をついていたことがわかったら周囲の人はどう思うだろうか、自分はどうなるのだろうか、などと考えられないためです。そして、人をだますことへの罪悪感もあまりありません。
モラハラ気質の夫も、自己保身のために嘘をよくつきます。これはプライドが高く、他人から失望されたくないとの思いが強いためです。失敗をしても、自分より立場が弱い人間に責任転嫁するための嘘もよくつきます。
他人を操ろうとする
サイコパシーの特徴の一つに、自分の目的や欲望を達成するには手段を選ばないという点があります。他人を巧みに誘導して自分の意のままに操ることも平気です。そして、目的を達成した後は、相手にどんな功績があろうと、平気で切り捨てるところもあります。優秀な政治家や経営者には、こうしたタイプの人がいるとも言われます。
モラハラをする夫も、妻に自分を認めさせ、自分にとって従順な人間になるよう自分の支配下に置こうとします。夫に抑圧され続け、完全に夫に操られている妻も少なくありません。目的は違っても、自分の欲望のために他人を操ろうとするのはモラハラもサイコパスも同じです。
モラハラとサイコパスの違い
共通点のあるモラハラ気質とサイコパスですが、モラハラは「自己愛性人格障害」に近いとされ、サイコパスは「反社会性人格障害」に含まれるなど違いもあります。モラハラ気質とサイコパスを見分けるにはどうしたら良いのか、目安となる特徴的な違いを3つ紹介します。ただし、これはあくまでも目安で、正確に知りたい場合は専門医の診察を受けてください。
自分自身に関心があるか否か
サイコパシーの特徴は他人への共感性に乏しいことですが、自分に対する関心も薄い傾向があります。このため、わが身を顧みずに危険なことをしたり、後のことを考えない無鉄砲な行動に出たりします。
一方のモラハラ気質の夫は、「自己愛性人格障害」の名前の通り自分が大切です。自分ではリスクを取らずに、他人から賞賛されることを考えています。ですから、自分が傷つくようなことはしませんし、失敗しても他人のせいにします。自分のことが一番大切なのがモラハラ気質の人です。
他者に依存するか否か
サイコパスの人は人と協力したり、信頼関係を結んだりするのが苦手で、一人を好みます。人を利用することがあっても、依存することはないでしょう。サイコパスの人は孤独でも平気です。
モラハラ気質の夫は多くの場合、妻に依存しています。彼らがモラハラをするのは、妻をつなぎ止めておいて支配するためであり、妻が自分から離れそうだと感じると慌てます。モラハラに「ハネムーン期」という、妙に相手に優しくなる期間があるのは妻をそばに置いておくためです。他人に依存するモラハラ気質の人は孤独に耐えられません。
相手を選ぶか否か
他人への関心が薄いサイコパスは、誰に対しても同じような態度を取ります。相手が部下だろうが、上司だろうが、彼らは自分の目的を達成するのに必要な人間かどうかで、人を判断する傾向があります。そして、自分にとっての利用価値がなくなると関心を失います。
一方、モラハラ気質の夫は、自分より立場の弱い妻や会社の部下らには強権的な態度を取るのに、目上の人や上司には従順なところがあります。相手を見て、自分より立場が上かどうかを考え、自分より弱い人を支配しようとするのがモラハラ気質の特徴です。
モラハラ・サイコパス夫の対処法は?
モラハラをする夫や、サイコパシーの傾向のある夫にはどう対処すればいいのでしょうか。モラハラ夫、サイコパス夫、モラハラ気質をもったサイコパス夫への対処法をそれぞれ紹介します。
モラハラ夫は『断固とした態度で屈服しない』
モラハラ夫は激しい言動や冷たい態度で妻を屈服させ、支配下に置こうとします。ですから、妻は夫の理不尽や要求や言いがかりをまともに取り合ってはいけません。軽く受け流して、決して屈服しないという態度を示しましょう。そうすれば、夫も妻への接し方を改善してくれるかもしれません。
夫と妻は対等の関係で、夫を立てるのと、夫に従順なのは違います。互いに信頼しあえる夫婦関係を築けないのなら、別居や離婚を検討することも必要でしょう。
サイコパス夫は『良心に訴えても無駄』
サイコパシーの傾向のある夫は、何らかの目的があって妻と結婚した可能性があります。もともと他人に共感できない人ですから、心が通じ合ったと感じたのは妻の思い込みだったのかもしれません。目的を達成した後は相手への関心を失う傾向がありますから、既に妻への関心を失っていることもあります。
暴言を吐いたり、相貌な態度を取ったりするサイコパス夫に対し、良心に訴えるようなことを言っても無駄です。そうした言葉が夫の胸に響くことはないでしょうし、「自分にすがろうと情に訴えているのだ」と感じるだけでしょう。妻は自分も同じように夫に無関心になるか、それに耐えられなければ別居や離婚を検討すべきでしょう。
モラハラ・サイコパス夫は『距離を取る』
サイコパシーの傾向があるうえ、モラハラ気質まで持っている夫への対処は困難です。夫は妻を支配するため、激しく妻を責め立て、自分の思い通りにならないと感情を爆発させます。妻はそんな夫の顔色をうかがいながら生活することになります。
そうしたモラハラ・サイコパス夫とは、できるだけ距離を取ることが必要です。夫をできるだけ刺激しないように近寄らず、口もあまり挟まない。それでも、夫は機嫌が悪いと、妻に八つ当たりすることがあります。家庭内での関係だけでなく、別居や離婚で物理的にも距離を取ったほうが良いかもしれません。
モラハラ・サイコパス夫には気を付けよう
「喜びも悲しみも幾歳月」という灯台で働く夫婦を描いた古い映画がありますが、夫婦とは喜びや悲しみを共有しながら歩んでいくもの。しかし、他者への共感性に乏しいサイコパス夫とそのような夫婦関係を築くのは困難な道のりです。
サイコパシーは生まれつきの脳の働きが原因と言われ、治療で直すことは難しいと言われます。もし、夫にサイコパシーの傾向が見られ、モラハラ行為を繰り返すのであれば、夫婦だけで問題を解決するのは非常に困難です。夫婦関係が専門のカウンセラーや弁護士に相談してみましょう。きっと、良い解決策を一緒に考えてくれるはずです。
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
2009年の事務所開設以来、女性側の離婚・男女問題の解決に注力しています。年間700件以上、累計5000件以上の相談実績があり、多様な離婚のノウハウを蓄積。経験豊富な男女20名の弁護士が所属し、新聞・テレビ・雑誌・Webなど多くのメディアからの取材も受けています。