「価値観の違い」という理由で離婚する夫婦がいます。もともと育った環境が違うので、価値観や性格で合わない部分があるのは当然です。どんなときでも「価値観の違いがある」という理由だけで離婚できるのでしょうか。価値観の違いを理由に離婚できるケースについて解説します。
夫婦の価値観の違いがつらい…離婚したい
結婚した後に、互いの価値観や性格が違い過ぎることに気づき、「こんな人と結婚生活を続けるのはつらい」と考える人がいます。一度、「この人とは価値観が合わない」と考えると、相手の嫌な部分にばかり目がいくこともあります。子なし夫婦の中には「子供ができる前に別れよう」と離婚まで考えてしまう人もいるようです。
主人との価値観があまりに違いすぎて正直どうしていいのかわからなくなってしまいました。
育った環境も極端に違いますし、性格も全然違います。
頭で理解しているつもりですが、どうしても我慢できない事もあります。
自分が思う事を一生懸命伝えても彼には理解出来ないらしく、また、私もどうしてそんな行動をとるのか理解が出来ません・・・。
精神的に参っており、しばらく不眠症に悩んでいます。
色々我慢していたことが一気に出てきて自分でもどうして良いのか解りません。
妻と性格的に合わないと感じ結婚生活が辛く感じます。
つまらない喧嘩などがきっかけとなり、よくよく考え、
ここ数ヶ月で2回離婚を切り出しましたが、子供が2人(1歳と3歳)いることもあり
子供のことを考えて離婚の結論まで至りませんでした。
(妻が子供のために別れるべきでないと考えて話合いで)
毎日がストレスで仕事のやる気も落ちている毎日です。
疲れやすく体調も優れません。
子供のことを考えるとやっぱり離婚は考えられないかなとは最近思ってますが、
自分自身のストレス大きいのが実情です。
旦那と全く性格が合わないので離婚したいです。
子供が二人います。旦那とは同い年で結婚11年目。
思いやりのない態度に長年さらされ、最近は会話も面倒になってきました。
無口な旦那とおしゃべりな私。私が黙ればまるで年中お通夜みたいな家庭です。
今までも自分なりに、何とか明るくしようと努力してきたつもりです。でも無理です。相容れない性格なんです…。
このままでは子供達にも影響が心配です。もうすでに、上の子には影響してると思っています。
夫や妻と価値観が合わないと感じたら、もう離婚するしかないのでしょうか。「価値観が合わない」という理由で離婚できるケースや、価値観の違いを乗り越えて危機を克服する方法などを紹介します。
夫婦の価値観の違いを理由に離婚を進めるにはどうする?
夫や妻との価値観の違いに耐えられなくなったとき、「価値観の違いが大きすぎる」という理由で離婚できるのでしょうか。価値観の違いを理由に離婚できるケースや、離婚が可能かどうかを判断するポイントなどを紹介します。
離婚理由で最も多い「性格があわない」
最高裁判所が毎年公表している司法統計データ(令和4年度)によると、離婚調停を申し立てる理由(複数回答)で最も多いのが「性格が合わない」で、申立人の44.3%が理由の一つに挙げています。男女別に見ても男性の60.1%、女性の38.6%が理由に挙げ、どちらもトップになっています。
「性格が合わない」と答えた人すべてが、価値観の違いを感じているとは限りません。しかし、結婚前は「相手の性格が好き」と思っていても、相手の価値観に違和感を覚えるようになると、しだいに相手のことを嫌いになることもあります。価値観の違いは、夫婦関係の破綻に大きく関わると言っていいでしょう。
相手と合意できれば離婚も可能
価値観の違う夫や妻と離婚したいと思ったとき、話し合いの結果、相手も離婚に同意してくれれば離婚は可能です。価値観の違いから、互いに「もう結婚生活を続けるのは難しい」と考えている場合もあります。子なし夫婦であれば、親権の問題もなく合意は比較的容易でしょう。このように話し合いで離婚することを協議離婚といい、離婚の理由は問われません。
しかし、相手が価値観が違うとは考えていなかったり、「多少の違いがあっても問題ない」と考えていたりする場合は時間がかかります。子供がいる場合は、離婚に合意しても、親権や養育費をめぐって折り合えないこともあります。そのときは時間をかけて離婚について話し合うか、法的な手続きに基づいて離婚を求めていくしかありません。
離婚の合意を得られないときは調停という手も
夫が離婚に反対したり、離婚には同意してもらえても条件で折り合えなかったりした場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てるという方法があります。調停とは裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。しかし、合意できる見込みがないときは調停不成立として打ち切られてしまいます。
調停が打ち切られると、再び夫との間で協議離婚を目指して話し合うか、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を求めることになります。裁判で認められれば、相手の合意がなくても離婚が可能です。
離婚裁判で必要な離婚事由
離婚裁判を起こすには条件があり、離婚調停の後にしか起こせません。また、民法で定められた「離婚事由」がなければ、裁判を起こしても離婚が認められません。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
離婚の裁判では、夫婦間の事情がこれら離婚事由に当てはまり、夫婦関係が修復不可能な状態にあるかが審理されます。たとえ離婚事由があっても、「夫婦関係の修復は可能だ」と判断されて離婚が認められないこともあります。
夫婦の価値観の違いを理由に離婚を切り出す前に
「価値観の違い」を理由に離婚を切り出したものの、相手の同意が得られないとき、最終的に裁判を起こせば、離婚が認められるのでしょうか。裁判覚悟で離婚を切り出すときに、注意しなければならないポイントについて解説します。
価値観の違いだけでは離婚が認められないことがある
「価値観の違い」という理由は、離婚事由には該当せず、これだけでは裁判を起こしても離婚は認められません。このため、裁判で離婚を認めてもらうには、夫婦間で価値観の違いがあまりに大きいため、結婚生活が続けることが困難だと主張することになります。それならば「婚姻を継続しがたい重大な事由がある」と裁判所に判断してもらえるかもしれません。
例えば「価値観の違いから、不仲になりセックスレスになった」「どちらかが家を出て別居している」といった事情があれば、離婚が認められるかもしれません。また、価値観の違いのほかにも、「浮気をしている」「生活費を渡さない」という事情があれば、「不貞行為」や「悪意の遺棄」などの離婚事由があると主張できる可能性があります。
慰謝料は請求できないことが多い
離婚の際の慰謝料は、どちらかに不法行為があった場合、精神的苦痛に対する損害賠償として支払われます。例えば、相手の不倫が理由で離婚する場合、「平穏な夫婦生活を送る権利を侵害された」などとして慰謝料を請求できることがあります。しかし、「価値観の違い」はどちらかに非があるわけではなく、基本的には慰謝料が認められないケースがほとんどでしょう。
もちろん、価値観の不一致から夫婦仲が悪化し、どちらかが浮気したり、暴力を振るったりといった不法行為があれば、慰謝料の請求が認められる可能性があります。
親権と養育費でもめる場合がある
離婚する夫婦の間に子供がいて、双方が親権者となることを希望した場合、離婚協議や調停、裁判の中で「どちらが親権者にふさわしいのか」を争うことになります。子供への虐待などの特別な事情がない限り、父親と母親のどちらかが有利ということはありません。最終的に裁判所の判断に委ねられた場合、裁判所は次のような点を検討し結論を出します。
・これまでどちらが主に子育てを担ってきたか
・子供が、授乳など母親を必要とする年齢かどうか
・子供自身の気持はどうか
・親が健康で子供を育てられるかどうか
・離婚した後の生活環境が子供にとって望ましいものか
子供が乳幼児の場合は、結果的に母親のほうが親権を取りやすいともいえますが、母親の言動や養育環境によっては、父親が親権を取ることもあります。
離婚の結果、親権を相手に渡した場合は、離婚の理由を問わず、子供が経済的に自立するまで養育費を支払うことになる場合が多いです。ただし、子供を引き取った親が再婚する際、再婚相手と子供が養子縁組をした場合、養育費の支払い義務がなくなることもあります。
養育費の額については、裁判所が「養育費算定基準表」を公表しており、おおよその相場があります。具体的な養育費の額は基準表に基づき、夫婦の年収や子供の数、年齢などで決められます。離婚理由による金額の増減はありません。
離婚理由として認められる可能性のある価値観の違いとは
一般的に「価値観の違い」は離婚事由には含まれず、それだけを理由に裁判を起こすことは困難です。しかし、価値観の違いによって具体的な問題が生じ、夫婦関係を修復できないと判断されたときは離婚が認められることもあります。離婚が認められる可能性のある価値観の違いの例を紹介します。
金銭感覚の違い
金銭感覚の違いは、夫婦の間でよくトラブルを引き起こします。たとえば「高級なものを長く使う」と「比較的安い物を頻繁に買い替える」という考え方はどちらも間違いではなく、価値観の違いと言えますが、しばしば夫婦喧嘩の原因となっています。ただ、この程度では離婚の理由とはならないでしょう。
しかし、夫婦のどちらかが高級品を次々と購入する浪費家で、片方が極端な節約家だった場合、結婚生活を続けられない深刻なトラブルが生じる可能性があります。特に、浪費で家計に支障が生じた場合は「婚姻を継続し難い重大な理由」に、逆に生活費を渡さないという場合は「悪意の遺棄」に該当することがあります。
出典: リコ活MEDIA
性に関する価値観の違い
性に関する考え方の違いによって、相手に耐え難い苦痛を与えることもあります。夫や妻の中には、セックスにあまり興味のない人もいて、相手が求めてもあまり応じないこともあります。結婚後しばらくして、何らかの理由でパートナーとのセックスに嫌悪感を感じるようになることもあります。
このような性への価値観の違いでセックスレスになった場合、正常な結婚生活を維持することが難しいと認められる可能性があります。その場合は「婚姻を継続し難い重大な理由」に該当することになり、裁判で離婚が認められることがあります。
宗教的価値観の違い
宗教をめぐり、限度を越した布教活動や多額の寄付が夫婦間のトラブルになることがあります。憲法では信教の自由が認められており、どのような宗教を信仰するのかは自由ですが、宗教活動によって家事や仕事が疎かになったり、家計にまで影響を及ぼしたりすると、「婚姻を継続し難い重大な理由」に該当する可能性があります。
宗教的価値観の違いでいえば、同じ宗教でも宗派の違いや、宗教活動の熱心さで夫婦の間でトラブルになることもあります。しかし、金銭的なトラブルや暴力にまで発展しない限りは、一般的に離婚事由とまで認められることはないでしょう。
夫婦の価値観の違いの乗り越え方は?
夫婦間の価値観の違いは離婚の原因となることも少なくありません。しかし、一時の感情で離婚まで突き進んでしまうと、「価値観の違いを乗り越えて関係を修復する方法があったのではないか」と後悔することもあります。
価値観は年齢によって変化することもあり、何年か経てば、相手の価値を理解できるようになるかもしれません。夫婦の間の価値観の違いを乗り越えるにはどうすればよいのかを紹介します。
相手を理解する
人の価値観は、子供の頃の成育環境や社会での経験、対人関係、これまで得てきて知識などによって形成されていきます。誰一人全く同じ価値観、考え方を持つ人はいません。このため、相手の生い立ちや過去の出来事などを知れば、相手の価値観を理解できる可能性があります。
金銭にシビアな人は、経済的な事情から苦労して進学した経験があるのかもしれませんし、子供の教育に対する考え方は両親から影響を受けているのかもしれません。夫や妻の価値感を理解できないと思ったら、どのような経験や体験が価値観のもとになったのかを考えてみましょう。相手を理解しようとすることで、価値観も受け入れられるようになるかもしれません。
夫婦でよく話し合う
互いの価値観が全く合わないと感じたら、一度お互いの価値観について話し合ってみましょう。互いに、好きなことと嫌いなこと、なぜそう思うのかを話し合えば、2人が歩み寄れる部分が見つかるかもしれません。また、譲れない部分については、互いに尊重し合うことも必要です。
夫婦として一緒に生活していれば、互いの考えが影響し合い、歩み寄ることで夫婦2人だけの価値観も生まれてくるはずです。よく話し合うことで2人が分かち合える価値観を増やし、協力して結婚生活を続ける道を探っていけば、夫婦の危機も克服できるでしょう。
夫婦でカウンセリングを受けてみる
2人で話し合っても価値観の違いを克服できないときは、2人で夫婦カウンセリングを受けてみてはどうでしょうか。夫婦カウンセラーは、第三者の視点から相談にのってくれ、お互いの価値観を近づけていけるようサポートしてくれます。
カウンセラーは臨床心理士の資格を持っている人や心理学に精通している人が多く、相談を通じて数多くの夫婦を見てきています。過去の相談経験に基づく、専門的な立場からの的確なアドバイスが受けられるはずです。
夫婦の価値観の違いに悩んだら専門家に相談を
夫婦生活を長く続けていれば、相手との価値観の違いから夫婦喧嘩になったり、離婚を考えたりすることもあります。しかし、もともとは相手の価値観を含めて好きになり、結婚したはずです。価値観の違いは「自分にはない良さ」でもあるのではないでしょうか。
夫婦の間の価値観に悩んだら、カウンセリングなどで専門家の力を借りながら、相手を理解し歩み寄る努力をしてみてはいかがでしょうか。それでもうまくいかず、どうしても離婚したい場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談すると的確なアドバイスを受けられます。
加藤 惇/CSP法律会計事務所(第一東京弁護士会所属)
弁護士として、婚姻費用・財産分与・養育費・慰謝料・不貞・親権・面会交流など、離婚にかかわる事件を特に重点的に取り扱う。依頼者の意向を丁寧にくみ取り、常に依頼者の利益を最大化することを目標に活動している。離婚事件のほか、いじめなどの学校事件も多く扱っており、子供に関する問題にも詳しい。CSP法律会計事務所所属。