サイレントモラハラとは?
最近、夫婦間のハラスメントとしてモラハラが問題となっています。モラハラとは「モラルハラスメント」の略で、モラル(道徳・倫理)に反する「ハラスメント(嫌がらせ)」という意味です。一般的に、相手に向かってひどい言葉を投げかけたり、あからさまに不機嫌な態度を取って、相手を精神的に追い詰めることを言います。
サイレントモラハラはモラハラの中でも、直接的な態度は取らないものの、相手に気を遣わせるような雰囲気を出して精神的な負担をかける嫌がらせのことを指しています。
言葉を使わないで精神的なダメージを与える
サイレントモラハラは、ほかのハラスメントと違って、直接的な言葉や態度、行動で相手を不快にさせたり威圧したりするわけではありません。一般的なモラハラは、相手に対する暴言や暴行が問題になりますが、サイレントモラハラは激しい言葉や暴力を使わないのが特徴です。
相手を無視したり、話しかけても関心がなさそうな顔をしたり、ときには、ぼそりと嫌味を言うなどして、相手を困惑させ、不安にさせます。そんなことが続くと被害者には精神的なダメージが蓄積していきます。
被害を自覚していないケースも
サイレントモラハラは直接的な言動がないため、周囲の人はなかなか気づきません。加害者の外面がいい場合は、一見夫婦関係がよく見えることもあります。中には、当事者本人が被害者であることを自覚していないケースさえあります。
最近、相手の態度がおかしく、それを気に病んでいるのなら、もしかすると既にサイレントモラハラが始まっているかもしれません。サイレントモラハラのチェックリストを紹介しますので、気になる方は相手の態度をチェックしてみましょう。
サイレントモラハラのチェックリスト
サイレントモラハラによく見られる行動や仕草を7つ紹介します。配偶者にこうした態度がしばしば見られる場合、あなたはサイレントモラハラに遭っている可能性があります。一度、チェックしてみましょう。
・無視をする
・話しかけてもそっけない態度を取る
・不機嫌さを態度で示す
・急に黙り込み話さなくなる
・無言のまま、じっとにらみつける
・大きなため息をついたり舌打ちをしたりする
・ぼそりと小言や不満を口にする
無視をする
無視をするのは、サイレントモラハラの典型的な態度です。まるで相手がその場にいないように振る舞い、相手はその態度に困惑します。相手が理由を聞こうとしても、決して答えようとしません。
無視されることで不安になった被害者側は「自分が何か悪いことをしたのだろうか」という気持ちになり、相手の顔色をうかがいながら生活するようになってしまいます。
話しかけてもそっけない態度を取る
話しかけられても、「ああ」「そう」などと生返事を繰り返し、相手の話を聞こうとしない態度もサイレントモラハラでよく見られます。「あなたのことには、関心がない」という態度を取って相手を困惑させます。
他愛もない話だけではなく、大事な相談事でも「好きにしたらいい」という態度で相手にしません。話を聞いてもらえると思っていた被害者は、そんな冷たい態度に傷ついたり、ストレスを感じたりします。
不機嫌さを態度で示す
気に入らないことや上手くいかないことがあると、露骨に態度で示すのもサイレントモラハラでよくある行動の一つです。何も言わず、黙ってドアを乱暴に開け閉めしたり、物を叩いたりして大きな音を立てます。
自分が不快であることを相手に伝えるために、そのような行動を取るのですが、された側は
困惑し、時には恐怖を感じるだけです。そんなことが頻繁に続き、音を立てるだけではなく、物を投げたり壊したりするようになると、被害者側は、いつ相手が不機嫌になるのかとおびえながら生活するようになることもあります。
急に黙り込み話さなくなる
そこで、被害者が下手に出て話さなくなった理由を何度も聞くと、ようやく口を開き理由を言います。こうやって、相手に対して優位な立場から不満を言うのが、サイレントモラハラをする側の狙いです。これを繰り返すことで、相手を自分の思いのままに行動させようとします。
無言のまま、じっとにらみつける
無言のまま、相手をじっとにらみつけるという行動もよくみられます。された側は冷たい視線に困惑し、不安を覚えます。サイレントモラハラによって既に「自分は相手に迷惑をかけているのではないか」という気持ちになっていると、恐怖を感じることさえあります。
被害者はまるで相手から監視されているような気分になり、不安や罪悪感を強めることになります。
大きなため息をついたり舌打ちをしたりする
言葉を発さず、わざとらしくため息をついたり、「チッ」と舌打ちしたりすることで、不機嫌さや苛立ちを表現するのもハラスメントの一種です。物音を立てて、自分の不満や苛立ちを表現するのと同じで、ため息や舌打ちで相手に対して「自分の気持ちを察しろ」と伝えています。
これによって被害者は、相手の一挙手一投足まで気になるようになり、生活に息苦しさを感じるようになります。
ぼそりと不平や不満を口にする
直接面と向かってではなく、独り言のようにぼそりと不平や不満を口にするモラハラもあります。被害者側は、誰に対する不満なのか分からないので、聞き流そうとしても妙に引っ掛かります。自分の事だと思って謝罪しても「別にお前のことを言っていない」と言われたり、無視されたりします。
独り言を装っていても、不平や不満を聞かされ続けていると、被害者側は罪悪感を募らせ、いつしか相手に支配されてしまいます。
サイレントモラハラを受けている人の特徴
サイレントモラハラは通常、家庭の中だけで行われており、家族以外の人にはよく分からないものです。しかし、被害者の言動を注意深く見ていると、おかしな様子に気づくことがあります。
サイレントモラハラを受けている人の特徴を紹介しますので、周囲にそんな人がいないか、自分もいつの間にか、こんな行動をしていないか、チェックしてみてください。
パートナーの顔色をうかがいながら会話をする
夫婦間で、どちらかがいつも相手の顔色をうかがっているのは、サイレントモラハラの可能性があります。モラハラが常態化すると、支配関係が生まれ、どちらかが相手に従属するようになります。
このため、会話をするときも、相手を不快にさせてはいけないと顔色をうかがうようになります。互いに配慮しあっているのであれば問題はありませんが、どちらか一方だけが顔色をうかがっているようなら要注意です。
自分に自信がない
サイレントモラハラを受け続けると「自分が悪いことをしているから、相手が不機嫌になるのだ」と思い込み、自信を失っていきます。
あまりにも自分を卑下したり、自信がなさそうな態度を取ったりしているときは、モラハラ被害を受けていることがあります。
相手の言葉に過敏に反応する
普段から、他人の言動に気を使う生活をしていると、他人の何気ない言動に対し、過敏に反応することがあります。
他人の言動をあまりに気にして、気を使い過ぎる人は、家庭でもそんな生活を強いられているのかもしれません。
他人の反応を気にする
夫婦間で相手の言動を気にする習慣が当たり前になってしまうと、それが友人らとの対人関係でも現れてしまうことがあります。
相手のことを気にしすぎるのは思いやりや謙虚さだけではなく、普段の夫婦関係が関係しているかもしれません。
友人らとの約束より家庭を優先する
相手が友人や知人と出かけたり、電話で楽しそうに話したりするのを嫌がり、とたんに不機嫌になってサイレントモラハラをする人がいます。
このため、モラハラの被害者の中には友人と疎遠になる人もいます。家庭のことを優先する家族思いの人のように見えても、実はモラハラの被害者で、友人との付き合いも制限されているというケースもあります。
サイレントモラハラを受けたときの対処法は
サイレントモラハラを受けた時、どのように対応すればいいのでしょうか。相手の態度や事態の深刻さによって対処法も変わりますが、効果が期待できる方法を3つ紹介します。
相手の言動を気にしない
サイレントモラハラが始まったばかりの段階や、被害者側の精神的なダメージがまだ大きくない場合は、相手の言動を受け流すのも一つの手です。相手はあからさまな態度で不平や不満に気づかせようとしています。それに乗って「どうしたの」と尋ねたり、自分に非があるのではと思ってしまったら相手の思うつぼです。
こんなときは相手の言動を全く気にしていない態度をとりましょう。恐ろしく鈍感で、全く気づかないふりをするのです。相手の性格によりますが、「幼稚なことをしないで」と子供扱いするのが効果的なこともあります。気にするのをやめることで、ストレスも解消し、ゆとりを持って生活できます。
相談サービスを利用する
相手の言動を無視できるほど精神的に強くない方には、相談窓口にアドバイスを求めることをおすすめします。サイレントモラハラを相談したいが、どこに相談したらよいのか分からないという方は「#8008」に電話をかけてみましょう。
これは国の「DV相談ナビ」で、最寄りの相談窓口に電話が自動転送されます。ほかに相談窓口を設けている弁護士会もあります。不眠や気分の落ち込みといった症状がある場合は、心療内科やメンタルクリニックなどで診察を受けて、相談に乗ってもらう方法もあります。
離婚を検討する
度重なるサイレントモラハラによって支配関係ができあがり、耐えがたい苦痛を感じているのなら、離婚を検討するのも一つの手です。
相手が自分のモラハラに無自覚で、今後も夫婦関係の修復の見込みがないと感じたら、離婚に向けて弁護士に相談してもよいでしょう。
サイレントモラハラで離婚は成立する?
サイレントモラハラが原因で、もう対等な夫婦関係を維持できないと感じた時、離婚や慰謝料の請求は可能なのでしょうか。
離婚や慰謝料請求に必要なものや注意点について説明しましょう。
モラハラを受けている証明が難しいので要注意
サイレントモラハラは、他人の権利や利益を不法に侵害する行為であり、民法の不法行為に当たります。そのため、離婚の理由として認められる可能性があり、慰謝料の請求も可能です。
サイレントモラハラがあったことを互いに確認し、話し合いで離婚が決まれば、話はスムーズなのですが、サイレントモラハラを自覚している人は少なく、話し合いがこじれて裁判にまで進むケースも少なくありません。その際、重要になるのが証拠です。サイレントモラハラの証明はかなり難しいので、しっかり証拠を集めましょう。
日記や音声で証拠集めがおすすめ
・日記をつける
・SNSのメッセージは保存する
・録画や録音をする
・相談窓口を利用する
・医療機関を受診する
証拠集めは他の理由で離婚するときとほぼ同じです。いつ、何を言われ、何をされたのかを日記に書き残し、LINEなどのSNSでメッセージが届いた場合は、それを保存しておきます。可能であれば録画や録音もしておきましょう。裁判では重要な証拠となります。
また、相談窓口を利用してアドバイスを受けたら、相談の記録が残りますし、不眠や気分の落ち込みで医療機関を受診したことも被害を受けた証拠となり得ます。病気とモラハラの因果関係が認められれば、慰謝料が増額される可能性もあります。
サイレントモラハラでお悩みの方は弁護士に相談
サイレントモラハラは周囲の人に気づかれにくく、被害を受けた当事者も自覚しにくいという特徴があります。被害に無自覚なまま、「自分が悪い」と自分を責め続ける方もいます。パートナーの言動を「モラハラではないか」と感じたら、できるかぎり早く専門窓口に相談しましょう。
モラハラやDVについて相談を受け付けている弁護士会や弁護士事務所も数多くあります。親身になって相談してもらえますので、ぜひ一度お尋ねください。
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
2009年の事務所開設以来、女性側の離婚・男女問題の解決に注力しています。年間700件以上、累計5000件以上の相談実績があり、多様な離婚のノウハウを蓄積。経験豊富な男女20名の弁護士が所属し、新聞・テレビ・雑誌・Webなど多くのメディアからの取材も受けています。