離婚したくない場合の奥の手をご存知でしょうか。離婚を迫られている人の中には「離婚したら生活が苦しい」「まだ愛情が残っている」「子供がかわいそう」などの理由で離婚を回避しようとする人もいます。離婚をしたくない場合の奥の手を紹介しますので、参考にしてください。
離婚したくない場合の奥の手なんてあるの?
「相手から離婚を求められているけれど、まだ愛情が残っている」「離婚の話し合いを拒否し続けたら、離婚調停を申し立てられた」「せめて子供が自立するまで同居を続けたい」など、離婚の回避に懸命な妻や夫がいます。果たして、相手から離婚を求められたら、応じなくてはならないのでしょうか。
どうしても離婚したくない場合、どうすれば離婚を回避できるのか。徹底抗戦して離婚を避けるための奥の手を、実際の離婚手続きの進め方とともに紹介します。
そもそも離婚の手続きとは?
急に「離婚したい」と言われても、実際に離婚するには、どのような手続きが必要で、どのように進められるのかをよく知らない人も多いのではないでしょうか。多くの場合、離婚届けに2人の署名をして役所の窓口に提出するというだけでは終わりません。一般的な離婚手続きの進み方を紹介します。
協議離婚
離婚は基本的に、夫婦同士が話し合い、双方が離婚に同意することで成立します。話し合いで離婚することを協議離婚と言います。夫婦同士では冷静に話し合いができないときや、条件を話し合ううえで法的な知識が必要なときなどは弁護士を代理人に立てて話し合うこともあります。
話し合いでは、財産分与や親権、養育費が主に話し合われます。不倫や浮気、DVなどが原因の場合は、被害の確定や慰謝料の額、「今後は直接連絡を取らない」などの約束について協議することもあります。話し合いの結果、同意した条件は離婚協議書としてまとめます。
互いに条件を含めて離婚に合意していれば、ここまでの流れもスムーズに進むでしょう。後は離婚届に双方が署名して役所の窓口に提出するだけです。離婚届が受理されれば離婚が成立します。協議離婚では裁判所が関与することはありませんし、特に問題がなければ弁護士に依頼しなくても進められます。
調停離婚
話し合いをしても、どちらかが離婚に同意せず、協議離婚が難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。離婚の話し合いを拒否し続けたら離婚調停への出席を求められたという人もいるでしょう。
離婚調停とは家庭裁判所の調停委員が間に入り、離婚に向けた話し合いを進めることです。通常男女1人ずつの調停委員と裁判官が話し合いの仲介をします。調停では基本的に調停委員と話をし、離婚の条件がまとまると裁判所は調停調書を作成します。調停調書は判決と同じように強制力があり、その内容は基本的に必ず守らなくてはなりません。
調停をしても、夫と妻の主張の隔たりが大きかったり、どちらかが調停に応じなかったりして合意に至らない場合は調停不成立として調停が打ち切られます。
審判離婚
離婚調停が不成立になった場合、もう一度協議離婚を目指して話し合いをするか、離婚裁判を起こして、離婚を認めてもらうしかありません。しかし、調停でほぼ合意がまとまっている場合、裁判官が職権で離婚を成立させることがあります。これを審判離婚と言います。
調停でほぼ合意しているにもかかわらず、ささいなことが原因で調停が不成立になりそうなときに行われ、当事者の夫婦に余計な労力や費用をかけさせないのが目的です。ごくまれなケースに限られ、普段はほとんど行われません。審判の内容に対して、当事者から2週間以内に異議申し立てがなければ、離婚が成立します。
裁判離婚
調停が不成立となり、その後も相手に話し合いに応じる姿勢が見られない場合、残された手段は離婚裁判を起こして離婚を認めてもらうことだけです。しかし、だれでも離婚裁判を起こして、離婚ができるわけではありません。離婚裁判を起こして離婚が認められるためには、民法の法定離婚事由に当てはまる離婚理由が必要です。
法定離婚事由とは次の5つで、要するに、客観的に結婚の継続が困難と思われる理由がないと裁判は起こせないということです。たいていの理由は「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に当てはまるのではないかと思われるかもしれませんが、「重大な事由」と裁判所に判断してもらうのは容易ではありません。
第二款 裁判上の離婚
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
離婚裁判で離婚が認められれば、相手の合意とは関係なく離婚ができます。しかし、実際の離婚裁判は負担が大きく、実際に裁判で離婚する夫婦は少数です。夫婦関係が破綻していることを立証するのも容易ではありません。裁判が決着するまで1年以上かかることもありますから、裁判の見通しを弁護士によく確認することが大切です。
離婚したくない場合に事前にすべきこと
相手からの離婚要求に対し「絶対に離婚には応じない」と決めたら、まずやらなければならないことがあります。何事も最初が肝心。離婚したくない場合に事前にすべきことを説明します。
すぐ返事をしない
離婚に応じないと決めたら、相手から冷静に話を聞く場を設けましょう。肝心なのは聞き役に徹するということです。相手が離婚したい理由を聞き出すことが最大の目的です。そして、離婚に応じるのか、応じないのかを聞かれても、「考える時間をください」などと答えて即答は避けましょう。
相手の主張に納得がいかない部分があっても、反論してはいけません。そして、自分に非があると思った部分にはしっかりと謝罪し、改善すれば修復が可能なのかを尋ねます。相手は会話を録音している可能性もあります。離婚を避けようと、事実と異なる主張を認めたり、相手の要求に応じたりしないように気を付けましょう。
離婚を切り出されたとき、とりあえず今は相手の気が済むように離婚に応じて、後から復縁を目指そうと考える人もいますが、一度離婚に応じたら復縁は容易ではありません。離婚を望まないのであれば、離婚には応じないという姿勢を見せることが大切です。
離婚届不受理申出書を提出する
離婚には夫婦双方の同意が必要だとは言っても、実際には形式が整った離婚届を勝手に提出されると届が受理されて離婚が成立してしまいます。もちろん、同意のないまま届を出したり、他人が無断で離婚届に署名したりすることは違法行為ですが、一度受理された離婚届を無効にするには、大変な手間と労力がかかります。
このため、離婚届が提出されても受理しないように求める「不受理申出制度」があります。本籍のある市区町村の役所に不受理の届け出をしておけば、離婚届が勝手に提出されても受理されません。相手が強硬に離婚を求めてくる場合は、念のため不受理を申し出ておきましょう。
離婚したくない場合の奥の手とは?
離婚の手続きは離婚協議から始まり、一般的には調停、裁判へと進みます。離婚を回避するには各段階で「離婚には応じない」「夫婦関係の修復は可能だ」と説得力のある主張をするのが欠かせません。具体的に、離婚を回避するための「奥の手」を紹介します。
離婚したくない場合の奥の手①協議離婚に同意しない
最初の離婚協議でははっきりと「離婚には応じない」「夫婦関係は修復できる」ということを伝えましょう。不用意に、いろいろな主張や理由を訴えると、それにつけこまれて不利になってしまう恐れもあります。主張はできるだけシンプルにすることが大切です。
条件闘争に持ち込まれないようにする
離婚したくない理由は「愛情が残っていて、別れたくない」というだけではなく、「愛情は冷めたけど、経済的に別れたくない」「子供のために別れたくない」という場合もあるでしょう。しかし、そうした本音を言う必要はありません。あくまでも夫婦関係の修復を望んでいるというスタンスを貫くことが大切です。
もし「経済的に苦しいので別れたくない」「子供への影響が心配」などと言ってしまうと、「じゃあ、財産分与の配分を考えましょう」「養育費を手厚くしましょう」などと離婚するための条件の話に持ち込まれてしまう恐れがあります。条件闘争になってしまうと、離婚が前提条件になってしまい、「離婚には応じない」と言う主張を貫きにくくなってしまいます。
別居には応じない
離婚に応じない姿勢を見せると、相手から「別居して冷却期間を置きませんか」と提案されることもありますが、これにも応じていけません。別居が既成事実化されてしまうと、そのままずるずると別居が長期化し、夫婦関係の修復が難しいことの証明になってしまう恐れがあります。
それに、別居していては話をする機会も減り、関係修復に向けたアプローチもできません。関係修復に努力するという姿勢をみせるためにも別居にも応じず、離婚ではなく関係修復を目指そうと説得を試みましょう。
離婚したくない場合の奥の手②調停委員を味方につける
離婚協議に応じず、離婚を拒み続けると、相手が離婚調停を申し立てる可能性があります。突然、裁判所に呼び出されると、驚いて感情的になってしまうかもしれませんが、あわてる必要はありません。調停も話し合いですから、これまで通り「離婚には応じない」「関係修復を目指したい」と言い続ければ調停は不成立になります。
もちろん、調停内容を全て拒否し、調停にも出席しないという方法もありますが、少し工夫して調停を有利に進められるよう頑張ってみましょう。
新大塚法律事務所
離婚調停は、夫婦関係調整調停の1つですが、夫婦関係調整調停には円満調停というものもあります。夫婦関係を修復するための調停です。
離婚調停を申し立てられたら、その中で離婚を拒否して関係修復を求めることも可能ですが、逆に円満調停を申立てて、関連事件として離婚調停と同日に期日を入れてもらい、話し合うことも可能です。
円満調停を申し立てることで、夫婦関係修復に対する本気度を裁判所にアピールすることもできます。
関係修復に共感してもらう
調停では夫婦が直接話をする機会はほとんどなく、話をする相手は調停委員です。調停委員は互いの話を聞き、離婚の条件をまとめていきますが、主張が自分勝手で無理な要求ばかりだと、あまり共感してはもらえません。少しでも調停を有利に進めるには、調停委員に心情的に共感してもらい、「話をよく聞いてあげなければ」と思ってもらうことが大切です。
もちろん調停委員がどちらかに肩入れすることはありませんが「真剣に関係修復を考えているのだな」と思ってもらえれば、離婚を強く勧められることもないでしょう。本心はともかく、余計なことは言わず「離婚には応じないつもり」「自分も努力して関係修復を図りたい」と訴えれば、調停委員の心も動くかもしれません。
離婚に応じない理由を具体的に説明する
調停委員はこれまでも多くの夫婦を見てきています。そのため、口先だけで「関係修復をしたい」と言っても共感を得るのは容易ではありません。そこで離婚できない理由を具体的に説得力を持って説明しましょう。関係修復に向けて、これまでどのような努力をしてきたか、今後も粘り強く関係修復を働きかける意思を示すのもいいでしょう。
離婚調停では多くの場合、離婚するための条件(円満調停の場合は、関係を修復して婚姻を継続するための条件)を話し合います。調停委員も、片方が離婚を求めて調停まで申し立てている以上「双方が納得する形で離婚したほうがいいのではないか」と考えがちです。そんな調停委員に「離婚せずに関係修復を図る道もあるかもしれない」と思ってもらうことが大切です。
離婚したくない場合の奥の手③離婚裁判で徹底抗戦する
調停が不成立になっても、まだ相手には離婚裁判を起こすという手があります。ただし、裁判で離婚を認めてもらうには、かなり高いハードルがあります。浮気や不倫、暴力、合理的理由のない家出(同居義務違反)など法定離婚事由に該当するような事実がない限り、離婚は難しいはずです。もちろん、裁判でも徹底して「関係修復は可能だ」と訴えましょう。
関係修復の可能性を裁判所に認めてもらう
もし、離婚を求められた側に法定離婚事由に該当する事実があったとしても、離婚が決まったわけではありません。裁判所は夫婦の事情を個別に判断して、離婚を認めるべきかどうかを判断します。法定離婚事由があっても「夫婦関係が破綻しているとまでは言えず、関係修復の可能性がある」と判断される可能性もあるのです。
もし、過去に夫婦関係を損なう失敗があったとしても、その後反省して態度を改め、関係修復に取り組む姿勢をみせれば、その態度が裁判所に認められるかもしれません。希望を失わず、誠実な態度で裁判所に自分の考えを訴えましょう。
離婚したくない場合の奥の手を探すなら弁護士に相談
相手に離婚を求められても、それに応じる義務はありません。どのような事情があろうと、一方が「離婚には応じない」という姿勢を貫けば離婚は簡単ではありません。「離婚しなくても、うまくやっていける」という自信があるのなら、奥の手を繰り出しながら徹底抗戦するのも一つの方法でしょう。
しかし、現実的には離婚裁判にまで発展した夫婦が関係修復を図るのは容易ではありませんし、離婚の条件にこだわれば有利な条件を引き出せる可能性があるのも確かです。あくまでも離婚を回避するのか、有利な条件を引き出して離婚するのか、どちらが正解だとは一概には言えません。
あくまでも離婚を回避するというのなら、法律に精通した弁護士に相談するのが確実です。協議や調停が進み、「有利な条件で離婚したほうがいいのでは」と迷ったときも、適切なアドバイスがもらえるでしょう。
新大塚法律事務所(第一東京弁護士会所属)
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