離婚は人生の大きな岐路で、決断すべきかどうかは慎重に判断しなければなりません。離婚に向けた事前の準備も必要です、一方で離婚前に絶対やってはいけないこともあります。後悔しない最善の道を選択するためにやってはいけないことと、離婚前にやっておくべきことを紹介します。
離婚前にやってはいけないことがある?やっておくこととは?
いくら夫や妻にひどいことをされていようと、離婚を決意するのは簡単なことではありません。離婚後の生活や子供の教育などを考えなければなりませんし、周囲の反応も気になります。いろいろな心配事や不安もあり、誰かに相談したくなることもあるでしょう。しかし、明確に離婚を決意するまでは、何があるかわかりません。
相手が離婚についてどう考えているのか、はっきりしませんし、夫婦関係の修復の道が残されている可能性もあります。この段階で軽率な行動を取ってしまうと、離婚しか道がなくなり、自分が不利な立場に置かれることもあります。後悔のない選択をするために、離婚前にやってはいけないこと、逆にやっておくべきことについて解説します。
離婚前に絶対にやってはいけない5つのこと
離婚を決断する前は、非常に微妙な時期です。些細なことから関係修復の道が開かれることがありますし、逆に離婚に向けて流れが止まらなくなることもあります。不用意な行動で不利な立場に置かれてしまう恐れもあります。離婚は人生の岐路となるだけに、決断するまでは慎重に行動することが大切です。
特に、事態をコントロールできなくなったり、不利な立場に置かれたりする可能性がある絶対にやってはいけない行動を5つ紹介します。
安易に離婚を口にする
よく夫婦喧嘩ですぐに「もう離婚しかない」などと口にする夫や妻がいますが、本当に離婚を検討しているときに、「離婚」の2文字を決して口にしてはいけません。離婚を検討しているということは夫婦関係が微妙な状況にあるわけですから、相手に離婚を考えていることが伝わってしまうかもしれません。
まだ離婚するかどうかを決めていないうちに、自分の本心が相手に伝わってしまうと、相手も真剣に離婚を考えだす可能性があります。そうすると、流れが一気に離婚へと傾き、相手も離婚に向けた準備を始めるでしょう。もしかすると、離婚の話し合いの主導権を相手に握られてしまうかもしれません。
離婚を決断した後、話し合いを有利に進めるには自分の手の内を明かさないことも大切です。準備が整わないうちに対策を講じられないよう、不用意な言葉から本心を悟られないようにしてください。
財産を隠したり勝手に処分する
離婚した後の生活費を考えると、離婚前からある程度の貯金や資産を作っておくことは大切です。だからといって、自分の預金や資産を隠したり、家にあるものを勝手に処分して現金化したりしてはいけません。結婚前から持っていた預金や資産なら別ですが、結婚後に作った預金や資産などは夫婦共有のものとみなされ、離婚時に財産分与の対象となります。
もし、自分の預金や資産などを隠したり、別居直前に多額に費消していること等が わかった場合、離婚調停や離婚裁判で裁判所からの印象が悪くなる可能性があります。調停にしろ、裁判にしろ、裁判所は夫婦の個別事情に基づいて判断を下します。「財産を隠すなどの不誠実な行動がある」と見られてしまうのは、決して得策ではありません。
一方的に攻撃的な言動をする
離婚を考えている相手に対して不満が溜まり、愛情も薄れている場合は、つい冷たい態度を取ったり、攻撃的な言葉を口にしてしまったりすることがあります。しかし、離婚を成立まではできるだけ平静を装いましょう。決して感情的になってはいけません。冷たい態度や攻撃的な言葉は相手にモラハラと受け止められる恐れもあります。
もし、暴言を録音されてしまった場合、モラハラの証拠となり、自分が加害者だと扱われてしまうかもしれません。それに常に平静な態度を取っていれば、相手はまさか離婚を考えているとは思わず、油断するはずです。その間に有利な証拠を集めることも可能になります。
また、長く相手のひどい仕打ちに耐えてきた夫や妻の中には、離婚したことを相手に後悔させてやろうと考える人も多いようです。そうした人たちは、わざと優しい態度を取り、相手に愛着を感じさせようともします。離婚後に後悔する相手の顔を楽しみに、平静を保ちましょう。
勝手に家を出る
モラハラやDVを受けている場合、すぐに家を飛び出したくなることもありますが、衝動的に家を飛び出すのはよくありません。特に子供がいる場合、子供を置いて家を出ると離婚後に親権を取得するのが難しくなることがあります。一方、子供を連れて家を出るのも「違法な連れ去りだ」と訴えられてトラブルになる恐れがあり、慎重に行動する必要があります。
また、無断で家を飛び出して、相手に連絡も取らずにいると、夫婦の義務を放棄したとして不利な立場に置かれることも考えられます。DVや児童虐待などがあるときは、やむを得ない別居と判断される可能性がありますので、別居を考えたときも弁護士に法的なアドバイスを受けながら進めましょう。
浮気や不倫をする
夫婦関係が冷え込み、セックスレスとなって離婚を考えるようになったとき、つい、ほかの異性に心が向いてしまうことがあります。「ほかの異性と結婚していれば」「結婚してこんな寂しい思いをするとは」などといつも考えていれば、ほかの気が合いそうな異性に心を奪われるのも仕方のないことです。
そうした女性と会話を楽しんだり、複数で食事に行ったりするのも、たまにはいいでしょう。しかし、絶対に一線を越えてはいけません。浮気や不倫は「不貞行為」と言われ、民法では離婚の理由の一つと定められています。
不貞行為が発覚すると、離婚の原因を作った配偶者として「有責配偶者」と呼ばれます。有責配偶者は、自分から離婚裁判を起こすことができなくなり、相手から慰謝料を請求されるリスクも負います。離婚が成立するまでは、夫婦としての責任を果たさなければならないことを自覚しましょう。
離婚を相談する相手やタイミングも考えて
離婚について一人で悩んでいると、考えが堂々巡りになりまとまらないことがあります。だれか信頼する人に相談すると、良いアドバイスを受けられたり、話をすることで考えがまとまったりすることがあるのですが、相談する相手やタイミングも重要です。
相談する相手や方法を間違えると、かえって考えが混乱したり、自分の希望とは違う方向へ話が進んでしまうことがあります。夫に話が筒抜けになってしまう危険性もあるでしょう。誰かに離婚について相談するときの注意点を説明します。
離婚を前提に相談しない
離婚を考え始めた当初は感情的になって「もう離婚するしかない」と思っていても、気分が落ち着くにつれ「離婚は大変そうだから、関係修復をしたほうがいいかもしれない」などと考えが変わることもあります。このため、最初のうちは離婚が前提にならないよう相談したほうがいいでしょう。
「離婚したいんだけど、どう思う」「離婚にはどんな準備が必要なんだろう」などと相談されると、相手は離婚が前提だと思ってしまいます。その相談相手が親身であればあるほど、離婚のほうに話が進んでしまうかもしれません。気が付くと離婚する方向で話が決まり、後戻りできなくなったということもあります。
最初のうちは「離婚したいって悩んでいる人がいるんだけど、大変なのかなあ」「離婚するかしないかの判断基準ってなんだろう」などと一般論として話を聞くのがいいでしょう。それだけでも、さまざまな見方を知り、体験談も聞けるので参考になるはずです。
できるだけ多くの人に相談する
相談する相手にはさまざまな人が考えられます。友人や知人、会社の同僚、両親、カウンセラー、自治体の相談員、弁護士といった人たちが挙げられますが、できるだけ多くの人の意見を聞きましょう。それぞれの立場や経験によって考えは変わるはずで、「つらいなら離婚したらいい」という人から「頑張って関係修復を図ったら」という人までさまざまな意見があるはずです。離婚経験の有無や夫婦との親密度によっても答えは異なります。
あまり多くの人に話を聞いて回ると夫の耳に入るかもしれないので注意が必要ですが、それでも口の堅い複数の知人に相談したほうがいいでしょう。異なる意見を聞くことで、一つの考えに固執するのを防ぎ、さまざまな面から考えられるはずです。
具体的な相談は気持ちが固まってから
どのように離婚を切り出したらいいのか、話し合いをどう進めていけばいいのかといった具体的な話は、離婚の決意が固まってからにしましょう。最初はまず、「本当に離婚したいのか」「離婚して生活していけるめどがあるのか」「子供のためによいことなのか」といったことをとことん考えることが大切です。
基本的な考えもまとまらないうちに離婚の手続きの話を進めてしまうと、いよいよ離婚というときに「やはりもっと考えておくべきだった」と後悔することにもなりかねません。悔いを残さないためにも、最初に自分の気持ちと向き合いましょう。
その意味では、弁護士に相談するときは、自分の気持ちをある程度固め、相談内容を整理してからのほうがいいでしょう。事情にもよりますが、離婚するのかしないのか気持ちが定まっていないと、思うようなアドバイスを受けられないことがあります。
ただし、法律に関する相談ができるのは弁護士だけです。弁護士以外の人が法律の相談業務を行うと法律違反となります。離婚の法的手続きや親権、財産分与、養育費、相手に対する法的措置など法律が関わる相談は必ず弁護士にしましょう。
離婚前にやるべきこととは
離婚前にやってはいけないことがあるように、離婚を相手に切り出す前にやっておかなければならないこともあります。離婚した途端、生活に支障が出ることのないよう、しっかり準備をしておきましょう。
必要な生活費を確認し、収入源を確保する
離婚後にどのくらいの生活費が必要なのか、きちんと試算しておきましょう。これからは夫の収入に頼ることはできません。仕事を始めたり、資格を取得したりして収入源を確保しておくことも重要です。
子供への影響を考える
離婚したら子供は必ず、どちらかの親と引き離されることになります。なかなか会えなくなることもあれば、定期的に会える場合もあるでしょう。そうした生活の変化が子供にどのような影響を与えるのか、よく考えましょう。もちろん、離婚後も子供の様子に注意を払う必要があります。
離婚の理由を明確にし証拠もそろえる
夫との話し合いに備えて、離婚の理由を明確にし、夫婦関係が破綻していることの証拠もそろえましょう。離婚の理由や証拠によって、相手側が「離婚に反対しても、裁判で離婚が認められるだろう」と判断すれば、スムーズに話が進むこともあります。そのために、弁護士ともしっかり打ち合わせしておくことが大切です。
離婚前にやってはいけないことを守り離婚を有利に進めよう
離婚をすると決めたら、自分に落ち度がないかぎり、できるだけ自分に有利に話し合いが進むよう準備することが大切です。手の内を知られないよう、「離婚」の「り」の字も出さず、平静を保って毎日を過ごすことも必要でしょう。
離婚前には、やってはいけない言動を避け、弁護士ともよく相談しながら、後悔のない新生活のスタートを目指して準備を進めましょう。
塚本 亜里沙/東京山手法律事務所(第一東京弁護士会所属)
20年以上の経験を持つ弁護士。
弁護士が行うリーガルカウンセリングもカウンセリングの一種であり、カウンセリング能力の向上は不可欠であると考え、日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー・(一財)日本能力開発推進協会家族療法カウンセラー・アンガーコントロールスペシャリスト取得。
夫婦関係・離婚のお悩みに真摯に向き合い、幸せな離婚に向けた解決をモットーに全力を尽くしている。