「離婚は先に言ったほうが負け」と言われることがあります。離婚を先に切り出すと不利になるという意味のようですが、本当にそんなことがあるのでしょうか。離婚するなら有利な条件で進めたいもの。気になる人も多いでしょう。本当に「先に言ったほうが負け」なのかを解説します。
離婚を先に切り出したら不利になる?
「離婚は先に言ったほうが負け」という言葉を聞いたことがある人は多いようです、中には、夫に浮気をされたり、DVを受けたりしているにもかかわらず、「自分から離婚を切り出したら不利になるのでは」と考えて我慢している人もいるようです。
離婚は言い出した方が負け、立場が弱くなる、というような事を母(50代前半)が言っていたのですが(昔はそうだったらしいです)、今でもそういうものですか?
でもそれなら、夫からDVを受けていて明らかに被害者になっている妻はいつまでも救われませんよね?
例えば1年以上も別居生活が続き、互いの連絡も途絶えているような場合、
どちらかが離婚を言い出すとなったら、
言い出した方が有利になるとか、不利になるとか、
そういうことってあるのでしょうか?
本当に離婚を先に切り出したら、離婚を進めるうえで不利になってしまうのでしょうか。「もっと上手に話を進めるんだった」と後悔しないよう、離婚をできるだけ有利に進める方法を紹介します。
どちらが先に言い出しても不利にはならない
「離婚を先に言ったほうが負け」とよく言われるようですが、結論から言うと、夫と妻のどちらが先に切り出しても、有利不利はありません。もちろん、さまざまな事情で有利な状況や不利な状況が生まれることはありますが、「どちらが先に切り出したか」ということとは直接関係ありません。
どちらが先に言い出したかよりも、もっと大切なことがあり、離婚の話し合いや手続きを有利に進めるには、十分な準備を進めておくことが大切です。
先に言ったほうが負けと言われる理由とは
法律や手続きから見れば、離婚話を進めるにあたって、どちらが先に切り出しても、それだけで不利になることはありません。しかし、離婚話を切り出すタイミングによっては有利になったり不利になったりすることがあります。
たとえば相手に全く落ち度がないのに、自分から離婚を切り出すと、「こちらの条件を飲めば離婚してもいい」などと、いきなり不利な条件を突き付けられることがあります。そうなると「それは不公平だ」と思っても、自分から離婚を切り出した以上、後には引けなくなってしまいます。
このように、相手の出方を予想せずに離婚を切り出すと、予想外の反論で不利になることがありますし、相手の言い分を聞いてから対策を考えたほうが有利に事が運ぶ可能性もあります。こうした離婚の話し合いを進める駆け引きを指して「先に切り出したほうが不利になる」と言われるようになったのではないでしょうか。
離婚前に言ってはいけない言葉はある?
離婚は基本的に夫婦の話し合いによって進められます。このため、うっかり口を滑らせて余計なことを言ってしまうと、話がうまく進まなくなることがあります。言葉によっては、いきなり自分が不利に置かれてしまうこともあります。離婚前に口にすると不利になる言葉を紹介します。
「お金はいらないから早く離婚したい」
理由がなんであれ「とにかく早く離婚したい」「お金はいらないから別れてほしい」などと不用意に言ってしまうと、相手に足元を見られ、相手にとって有利な条件を提示されるかもしれません。一刻も早く離婚したいと、財産分与など当然の権利までも放棄しても構わないと考えてしまう人もいますが、それは得策ではありません。
一時の感情で「何もいらないから」と言い、本当に財産もなにも手にすることなく離婚してしまうと、落ち着いた頃に「あんなことを言わなければよかった」と後悔することになります。
「好きな人がいる」
どんなに夫婦仲が冷え切っていても、離婚するまで法律上は夫婦であり、互いに夫婦としての義務を果たす必要があります。不倫や浮気などの不貞行為も絶対に行ってはいけません。間違っても「好きな人がいる」「交際している人がいる」などと言わないでください。
判例などでは不貞行為は「性的行為をともなう」とされており、「好きな人がいる」程度では「不貞」とは言えないかもしれません。しかし、不貞行為を強く疑わせる言葉で、離婚を進めるうえで不利な状況に置かれてしまう恐れがあります。
「破滅させてやる」「会社に居られないようにしてやる」
離婚の話し合いでは、つい感情的になって激しい言葉を使ってしまう人がいます。しかし、感情的になっても得することはほとんどありません。それどころか、言葉が過ぎると相手から「脅された」「侮辱された」などと訴えられることもあります。
よくあるのが「言う事を聞かないと破滅させてやる」「会社に居られないようにしてやる」といった言葉です。状況や言葉の使い方によっては脅迫や強要、侮辱といった罪に問われることがあります。相手が被害届を出す恐れがあり、離婚の話し合いにも影響する可能性がありますので、感情的な言葉は発しないよう、十分に気を付けましょう。
離婚前にやってはいけないことはある?
離婚前は、有利な形で離婚できるかどうかの大切な時期です。言ってはいけない言葉だけではなく、やってはいけないこともあります。離婚の話し合いが不利にならないよう、絶対にやってはいけないことを説明します。
配偶者以外の異性と交際する
言ってはいけない言葉に「好きな人がいる」を挙げましたが、言葉だけならまだしも、本当に交際してはいけません。民法で離婚の理由として定められている「不貞行為」は「性的行為をともなう」というのが法律の解釈ですが、たとえ食事をするだけの仲だとしても、相手の不信感を招き、離婚の話し合いに悪影響を及ぼします。
もし、既に浮気や不倫の相手がいるのなら、配偶者には絶対に知られてはいけません。もし、浮気や不倫が発覚すると、離婚の原因をつくった「有責配偶者」となってしまいます。有責配偶者は基本的に離婚裁判を起こしても認められず、相手側から慰謝料を請求される恐れもあります。
子供を連れ去る
「離婚したときに、子供を連れて別居すると親権を取りやすい」などと言われることがありますが、これは誤りです。以前は、子供を連れ去った側の「生育環境の現状維持」や「監護実績」といった事情が重視され、親権を得るというケースがあったのは事実です。このため、子供を連れて別居する女性も多くいました。
しかし、近年、離婚をめぐる子供の連れ去りが社会問題化したほか、2014年には国境を越えた子供の不法な連れ去りを禁じたハーグ条約を日本も締結しました。このため、今では家庭裁判所も、男女を問わず、一方的な子供の連れ去りには厳しく対応しています。
現在は、子供を一方的に連れ去ると調停や裁判で「親権者としてふさわしくない」と判断されてしまい、多くの場合、不利になってしまいます。場合によっては、未成年者略取罪に問われる恐れもあります
新大塚法律事務所
別居後の監護実績などが考慮されるのは事実ですが、単独で子供の監護を始めた原因が違法性の高い方法による連れ去りであった場合、その連れ去り後の監護実績は考慮要素から除かれて判断されます。
脅迫したり暴力を振るったりする
離婚の話し合いが上手くいかないと、つい感情的になってしまうことがあります。中には離婚を有利に進めようと、相手の弱みにつけこんで「条件に応じないと、都合の悪いことを職場に触れ回る」などと、脅迫まがいのことをしてしまう人がいます。さらにエスカレートして、相手に暴力を振るってしまうケースもあります。
もちろん、こうした行為は犯罪行為で許されません。離婚調停や裁判になったときは、調停委員や裁判官の心証も悪くなり、離婚をするにあたって不利な状況となってしまいます。もちろん、相手側から被害届を出される恐れがあり、罪に問われたり、慰謝料を請求されたりすることも覚悟しなければなりません。
理由もなく家を出る
夫婦の義務の一つとして「同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と民法に定められています。そのため、正当な理由なく一方的に家を出てしまうと、同居義務に反したとして離婚で不利になってしまいます。
もちろん、正当な理由がある場合は、別居をしても問題はありません。多いのは、配偶者からのDVや子供への虐待があり、被害から逃れるために避難するケースです。また、既に離婚の協議や調停が始まっている場合も、正当な理由となります。夫に転居先を知られたくないときは、弁護士に相談するといいでしょう。
夫婦共有の財産を隠したり使い込んだりする
離婚する際、結婚生活で築いた財産は双方で分けることになっています。分配の割合は、専業主婦の家庭でも、共働き家庭でも基本的に2分の1ずつとなります。これは互いの協力によって、財産が築かれたという考えに基づくものです。しかし、男性の中には、自分が働いて稼いだお金を妻に渡したくないと考える人もいます。
こうした男性は、妻に気付かれないように自分の財産を隠すことがあります。また、それとは逆に財産を受け取れないかもしれないと考えた妻が、勝手に財産を使い込んでしまうこともあります。いずれの行為も離婚を進めるうえで、不利になりかねない行為です。夫婦で築いた財産は、互いの貢献を認めて正当な形で分けましょう。
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離婚前にやってはいけないことをやってしまった状態で相談があった場合、弁護士は、それを踏まえて不利になる状況を最小限にとどめる方策を提案はします。しかし、その不利になった状況を元の状態まで戻すのは、至難の業であることも少なくありません。そのため、離婚をしたいと考えた時点で、やっておくべきこと、やっていはいけないことを含めて、早めに専門家である弁護士などに相談することをお勧めします。
離婚を有利に進める方法とは
「離婚を先に言ったほうが負け」と言われるのは、先を見通さずに安易に離婚を口にし、その不用意さを相手に利用されてしまう人がいるからです。そうした人には、離婚を進めるための事前準備をしっかりしていないという特徴があります。
逆にいえば、準備さえしっかりしていれば、離婚の話し合いを有利に進められる可能性もあります。相手の出方を予測しながら準備をしておけば、相手が反論しても上手に対応できるはずです。離婚を先に切り出しても不利にならない方法を紹介します。
離婚する理由を明確にする
離婚は結婚したときと同様、双方が合意すれば成立します。お互いが条件も含めて納得すれば、何も問題なく離婚できます。しかし、相手が離婚に同意しなかった場合は、離婚を求めて家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。さらに調停でも合意できなければ、離婚裁判を起こして家庭裁判所に離婚を認めるよう求めることができます。
しかし、裁判で離婚が認められるには、民法で定められた「離婚事由」が必要です。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
このため、離婚を切り出すときは、相手が離婚に同意しないことを見越して、裁判を起こせるか、裁判で離婚が認められるかを見極める必要があります。もし、裁判を起こせないのなら、相手は「どうせ同意しなければ離婚はできない」と自分に有利な条件を提示してくるかもしれません。
裁判になっても離婚できるのか、相手の同意が無ければ離婚は難しいのかで、話し合いの進め方も変わります。しっかりとした方針を立てられるよう、離婚する理由は何か、それは離婚事由に該当するのかといったことを明確にしておきましょう。
証拠をそろえる
話し合いによって離婚することを協議離婚といいますが、協議離婚では離婚の理由を問われることはなく、厳格な証拠を揃えなくても離婚できる可能性があります。しかし、離婚調停や裁判では、自分の主張を証拠で裏付ける必要があります。証拠がなければ、相手が「そんなことはしていない」と言われたときに反論できません。
証拠は第三者が見ても、事実を確認できるものでなくてはなりません。写真や動画、音声の録音、SNSのメッセージ、手紙などは有力な証拠となります。ほかにも、日記も証拠として認められる可能性があります。DVを受けている場合は、診断書も取っておきましょう。
不倫や浮気など自分の力では証拠をつかむことが難しい場合は、興信所や探偵事務所などに調査を依頼する方法もあります。相手に離婚の原因がある場合、しっかり証拠を揃えていれば、相手も裁判を回避するため、不利な条件を受け入れることがあります。
弁護士に相談する
離婚を切り出す前に準備をしっかりすると言われても、法律や裁判に詳しくない人は「いったい何をしたらいいのか」と戸惑ってしまうかもしれません。そんなときは離婚問題に詳しい弁護士に相談しましょう。法律や裁判例をもとにした適切なアドバイスが受けられるはずです。
具体的には、どのような証拠があれば相手の責任を立証できるのか、離婚裁判を起こすことは可能か、どのような方針で臨めば有利に離婚協議を進められるのか、といったことを個別の事情に合わせて判断してもらえます。
離婚を先に切り出しても不利にはならないが、事前の準備はしっかりしておこう
「離婚は先に言ったほうが負け」と言われて、不安になる人もいますが、先に切り出したからと言って不利になることはありません。むしろ、事前にしっかり準備しているかどうかが、有利不利に関係してきます。相手が離婚に応じず裁判になっても、有利な条件での離婚を勝ち取れるよう、弁護士とも相談して準備を進めてから、離婚を切り出しましょう。
新大塚法律事務所(第一東京弁護士会所属)
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