「旦那の浮気をチェックするために携帯を勝手に見る」という妻がいます。離婚の証拠を集めるため、夫の携帯を見る人もいるようです。しかし、夫婦の間でも携帯ののぞき見はプライバシーの侵害。携帯を勝手に見ると離婚で不利な立場になるのか、罪に問われるのかを解説します。
旦那の携帯が気になり、つい見てしまう…
夫がこそこそと自分のスマホを触っていると「何をしているのだろう」と気になることがあります。特に、トイレにまで持っていくなどスマホを肌身離さず持ち歩いていると、「もしかして、旦那が浮気?」などと疑ってしまう人もいるでしょう。そんな疑念から、夫のスマホを勝手に見ることがある妻は少なくないようです。
しかし、夫婦間とはいえ、携帯をのぞき見されるのは嫌なもの。疑わしい点はないのに、ついのぞき見してしまい、夫と「他人のスマホを勝手に見るな」と喧嘩になってしまう妻もいます。中には、携帯ののぞき見がやめられなくなったと悩む妻がいるほどです。
浮気をされてから、夫の携帯確認がやめられません。
結婚して2年目で夫の浮気が発覚しました。
ホテルに行った証拠があったため突き詰めると「デリヘルだから。」と言ってきましたが、そんなはずはないと調べるために夫の携帯のメールを自動転送にし、通話記録を取るようにしました(夫は知らないはずです)。
メールではその後怪しいものは確認できませんでしたが、浮気が発覚した月の通話記録から怪しい番号を見つけ出し突き詰めると浮気と白状しました。
夫からはやり直したいと言われ、今回が初めて(私が気付く限りですが)だったため、許すという事で徐々に夫婦生活は元に戻ってきていますが、毎回夫のメールを確認して、月初めには通話記録で誰と話したのか確認しています。
浮気発覚後から3ヶ月経ちますが、これを繰り返しています。
旦那の携帯チェックをやめたいです。
前に一度興味本位で見てしまいました。
浮気などはありませんでしたが、やはり見て気分の良いものではありませんでした。
(小さな嘘があったりしました)
もう見るのはよそう!と思ってるのに、携帯が見れるタイミングがあると見てしまいます。
その度に『何もなくてよかった・・』と思ったりまた落ち込んだりする自分がいます。
自分の気持ちに振り回されてとても疲れます。
いくら夫の携帯だと言っても、妻が勝手にLINEやSNS、メールなどの履歴をチェックするのはプライバシーの侵害です。夫にバレてしまうと夫婦関係が冷めるきっかけとなることがあり、最悪の場合、慰謝料を請求されたり、罪に問われたりする可能性もあります。
離婚に向けた証拠集めで夫のスマホをチェックする妻もいますが、そうした行為がバレると、離婚手続きなどにどのような影響があるのでしょうか。携帯を勝手に見ることのリスクのほか、のぞき見でつかんだ証拠の有効性、携帯ののぞき見が罪に問われるケースなどについて解説します。
携帯を勝手に見てしまう心理とは
大抵の人は、家族といえども他人の携帯を見てはいけないということは知っているはず。それなのに、つい夫の携帯をのぞいてしまうのはなぜなのでしょうか。携帯を勝手に見る心理について説明します。
旦那の浮気が心配
夫が急に画面にロックをかけるようになったり、常に持ち歩くようになったりとスマホの使い方が変わると、妻は「旦那の様子が何か怪しい。ひょっとして浮気では」と疑いの目を向けるようになります。そのとき、浮気の証拠をつかむ方法として、真っ先に思いつくのが携帯のチェックです。そこで、何とかして携帯をのぞき見しようとします。
また、自分に自信がなく、「旦那に浮気をされるのではないか」と不安な妻は、特に夫を疑っているわけではないのに、安心するために携帯をチェックしようとします。夫の携帯を勝手にみることで安心できる妻は、その後も、不安を打ち消すために何度も繰り返し携帯をのぞき見するようになってしまいます。
旦那を信用していない
以前、浮気されたことがトラウマになっていたり、夫の行動を信用できなかったりする妻は、どうしても夫の行動が気になります。そのため、携帯に限らず、夫の財布や背広のポケットの中身などを、どうしても確認したくなります。特に、裏切られた経験のある妻は「再び裏切られないよう、チェックするのは当然」と考えがちです。
こうした妻を持つ夫も、後ろめたい経験があるので、妻には強く「携帯を見るな」とはなかなか言えません。「また、何か隠し事があるの?」と責められるのが分かり切っているからです。むしろ「嫁に疑われるくらいなら、携帯を堂々と見せたほうがいい」と考えていることもあります。妻はそうした夫の心理も見込んで、勝手に携帯を見るのです。
好奇心を抑えきれない
人の秘密をのぞいてみたいという誘惑はだれにでもあるものです。相手が好きな人であれば、1日中の行動を知りたい、どんな友達がいるのか、どんなふうに仕事をしているのか知りたいと思うこともあるでしょう。そうした思いから、つい夫の携帯を見てしまうという人もいます。
好奇心から夫の携帯を勝手に見ることで、浮気の兆候がなければ安心しますし、夫の意外な一面を知ることができるかもしれません。こうした妻は「ちょっと見てみるだけ」と思いながら、何度も夫の携帯を勝手に見ることも多く、夫にのぞき見がバレて夫婦関係が冷める原因となる可能性があります。
旦那を支配したい
夫の携帯を勝手に見る妻は「旦那を独占したい、支配したい」と思っていることがあります。こうした妻は自分に自信がないことが多く、夫が誰かに奪われるのではないかと常に不安でいます。そして「自分は旦那のすべてを知っている」と思うことで安心感を得ます。また、夫の愛情が自分に向いているということを確認しないと落ち着きません。
このように、夫を独占したい、支配したいと考える妻はモラハラ気質かもしれません。モラハラ妻は、普段の生活でも夫の行動をチェックしたがり、しつこく夫の気を引こうとしたり、無理難題を言って夫の愛情を確かめようしたりする傾向があります。
旦那の携帯を勝手に見るのは犯罪?
夫の携帯をチェックしていたことがバレ、怒った夫から「他人の携帯を勝手に見るのは犯罪だ。慰謝料を請求するぞ」と言われたことはないでしょうか。確かに、携帯ののぞき見は良くないことですが、本当に犯罪になったり、慰謝料を請求されたりするのでしょうか。携帯ののぞき見は法律上、どのような問題があるのかを紹介します。
携帯を勝手に見るのはプライバシー権の侵害
「犯罪」とは刑法などで刑罰が定められている行為のことです。現在の法律では「他人の携帯を勝手に見る」という行為に関する定めはなく、ただちに犯罪になるわけではありません。画面がロックされた携帯にパスワードを入力して解除し、画面を見ることも犯罪には該当しません。しかし、犯罪にならないからと言って許されるわけではないことに注意が必要です。
携帯の中には、LINEなどのSNSやメールのやり取り、個人的に撮影した写真、ウェブサイトの検索履歴など、他人には見られたくないプライバシーに関わる情報が数多く保存されています。こうした情報を勝手に見ることは、相手のプライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
相手の権利を侵害すると、民法の不法行為に当たる可能性があります。民法に違反したからと言って、逮捕されたり起訴されたりすることはありませんが、相手から損害賠償を請求される可能性があります。実際の裁判で請求が認められる可能性は低いものの、あまりに悪質な場合は離婚の理由となり、慰謝料の支払いも命じられるかもしれません。
不正アクセス禁止法違反になる恐れも
携帯を見ただけでは犯罪にはなりませんが、夫のアカウントを使って勝手にメールやSNSを見ると、不正アクセス禁止法違反という犯罪にあたる可能性があります。不正アクセス禁止法とは、他人のIDやパスワードを盗んだり、他人になりすましてログインしたりすることを禁じる法律です。
夫のIDやパスワードでメールやSNSを開くだけでなく、浮気相手に偽のメールやメッセージを送る妻もいるようです。これは不正アクセス禁止法違反の証拠を残すことにもなりかねません。もちろん悪いのは浮気をするほうですが、限度を超えたチェックや嫌がらせは禁物です。不正アクセス禁止法違反には3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
携帯を勝手に見るのは離婚事由にあたる?
携帯を勝手に見ていたことを理由に、夫から離婚を求められた場合、妻の意思にかかわらず離婚しなければならなくなることがあるのでしょうか。「嫁が携帯を勝手に見るのが許せない」という理由で、離婚できるのかを解説します。
妻の同意なしで離婚するには離婚裁判を起こす
基本的に、離婚する場合は夫婦の合意が必要です。通常は夫婦で話し合い、離婚の条件などを決めます。このように話し合いで離婚することを協議離婚といいます。離婚で最も多いのが協議離婚で、離婚の理由を問われることはありません。
妻が離婚に応じない場合、離婚裁判を起こして裁判所に認められれば、相手の同意がなくても離婚が可能です。しかし、離婚裁判を起こすには、条件があります。その一つは、裁判の前に離婚調停を行わなければならないということです。調停とは家庭裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。
調停でも合意できる見込みがないときは調停不調となり、調停が打ち切られます。こうして、ようやく離婚裁判を起こせる状況になります。
離婚裁判には離婚事由が必要
調停が不調に終わったからといって、すぐに離婚裁判を起こせるわけではありません。裁判を起こすには「離婚事由」が必要です。離婚事由とは次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
離婚裁判では、夫婦間の事情がこれら離婚事由に当てはまり、夫婦関係を継続させるべきかどうかが審理されます。たとえ離婚事由があっても、「夫婦関係の継続させるべきだ」と判断されて離婚が認められないこともあります。
携帯を勝手に見るのは離婚事由にあたる?
「嫁が携帯を勝手に見る」という理由が離婚事由になるのかとの点ですが、一般的には夫婦間で何度か携帯を盗み見た程度では、離婚事由には該当しないと考えるべきでしょう。もし、夫が本当に浮気などをしていたのであれば、離婚の原因をつくったのは逆に夫側で、妻を責められる立場ではありません。
しかし、浮気をしているかどうかもわからないのに、「旦那の様子がおかしい」という理由だけで、何度も不正アクセスしたり、メッセージやメールを勝手に送信したりしていた場合は事情が異なります。悪質で重大なプライバシー権侵害や不正アクセスにあたると判断され、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると裁判所が認める可能性があります。
この場合は、プライバシーの侵害や不正アクセスといった不法行為によって、夫婦関係が修復不可能な状態になっていると判断されれば、離婚が認められることもあるでしょう。
携帯を勝手に見ても浮気の証拠になる?
浮気の証拠をつかもうと妻が夫の携帯をのぞき見したとき、「携帯を勝手に見ると、たとえ浮気の証拠が見つかっても、裁判では証拠として認められない」と言う夫がいます。果たして夫の言い分は正しいのでしょうか。携帯ののぞき見で集めた証拠について解説します。
のぞき見で集めた証拠も認められる可能性が高い
警察や検察の捜査では、違法な手続きで収集された証拠は刑事裁判で採用されません。「のぞき見で集めた証拠は、裁判で認められない」と言う夫は、刑事裁判から連想しているかもしれませんが、離婚裁判などの民事裁判では、そこまで厳格に判断されることはありません。一般的には、携帯をのぞき見して集めた証拠も裁判で使えるでしょう。
ただし、のぞき見をするための手段によっては、証拠として認められない場合もあります。たとえば、暴力や脅迫、監禁といった方法でIDやパスワードを聞き出したり、別居している夫の家から携帯を盗み出したりすると、それは犯罪行為です。犯罪まで使って得た証拠については、裁判所も証拠能力を認めない可能性があります。
加藤 惇
証拠を集めようとしたことで犯罪にあたる行為をしてしまったり、せっかく証拠を集めたのに使うことができないものであったりということは決して珍しいことではありません。どのような証拠を収集すると裁判で有効か、どのような手段で証拠を集めることができるかといったことについても弁護士に相談をしながら対応をすると良いでしょう。
旦那の携帯を勝手に見ると罪に問われる可能性も
夫が浮気の事実を認めない場合、離婚裁判を起こしたり慰謝料を請求したりするには、どうしても証拠が必要になります。そのため、つい夫の携帯をのぞき見したくなることもあるでしょう。しかし、妻の思い違いだった場合、夫にバレると愛情が冷める原因になりますし、最悪の場合、罪に問われる可能性もあります。
夫が浮気をしている疑いが濃厚なのに、どうしても証拠をつかめないときは、弁護士に相談するといいでしょう。離婚するにはどのような証拠が必要なのかなどをアドバイスしてくれるはずです。くれぐれも罪に問われるような無理な方法で証拠をつかもうとはしないでください。
加藤 惇/CSP法律会計事務所(第一東京弁護士会所属)
弁護士として、婚姻費用・財産分与・養育費・慰謝料・不貞・親権・面会交流など、離婚にかかわる事件を特に重点的に取り扱う。依頼者の意向を丁寧にくみ取り、常に依頼者の利益を最大化することを目標に活動している。離婚事件のほか、いじめなどの学校事件も多く扱っており、子供に関する問題にも詳しい。CSP法律会計事務所所属。