親の離婚が子どもの心に与える影響は決して小さくありません。しかし、正しい理解と適切なサポートがあれば、その経験を乗り越えることは可能です。本記事では、離婚が子どもに及ぼす具体的な影響や、トラウマを残さないための取り組みなどについて詳しく解説します。

親の離婚は子どもにトラウマを残してしまう?
実際には離婚を経験した子どもが全員トラウマを抱えるわけではありません。しかし、日常の中で親の言い争いを目の当たりにしたり、家族の一部が急にいなくなることで、強い喪失感や心の傷を負うリスクが高まることがあるようです。

小学生の時に両親が離婚し、母は間もなく再婚しました。母と義理の父から離婚・再婚の説明を受けた時の衝撃は強く、その後に生まれた義理の兄弟への嫌悪感は、今も私の心に根付いています。
この体験は私の人間関係にも大きく影響し、友人との関係でも本音を話せず、「いつか離れていってしまうのではないか」という不安が常につきまとっています。幼い頃の家族関係の急激な変化は、私の中で深いトラウマとなり、今も安定した対人関係を築くことを難しくしています……。



離婚して母と一緒に暮らしました。不倫があった父は慰謝料を支払うことになりましたが、父のことを考えると大人になった今でも複雑な気持ちになります。
街で見かける幸せそうな家族の姿に、もう自分にはそんな日常は戻ってこないのだと実感し、毎晩涙を流しました。今も恋愛や異性関係で不安定なのは、納得できる説明もないまま余りにも突然父と離れての暮らしが関係していると思います。
離婚が子どもに与える影響は?
親が別れることで起こりうる、子どもの生活面・感情面での変化を整理していきましょう。


集団生活や社会適応への影響
親の離婚を経験した子どもは、学校などの集団生活において自分の家庭と周囲の家庭との違いを敏感に感じ取る傾向があります。友達の何気ない会話で、無意識に孤立感や疎外感を覚えることもあるでしょう。
また、家の中で注意深く振る舞う習慣が身につき、自己主張を控えるようになる場合もあります。こうした遠慮が集団の中でも続き、自分の言いたいことを言えないまま過ごすことがきっかけで社会適応に苦労するケースがあります。
対人関係や未来への不安
親の離婚を間近で見た子どもは、将来のパートナーシップや結婚に対して悲観的なイメージを持つことがあります。自分がいつか結婚しても同じように破局を迎えるのではないか、という不安が頭をよぎるのです。
実際に若い世代の中には、親の離婚によって強い不信感を持ち、恋愛に前向きになれなくなった人もいるといいます。また、他者との深い関係を避けることで、再び傷つくリスクを回避しようとする傾向も出るようです。
自己肯定感の低下
離婚によって家族構成が変わると、自分が大切にされているという感覚が揺らぎ、自己肯定感が下がる子どももいます。どちらかの親がいなくなったり、再婚により新しい親や兄妹がやってきたりしたとき、「自分は本当に家族の一員なのか」と疑問を抱くことがあるのです。
特に幼少期から思春期にかけては、周囲の友人たちと比較しながら自分の家庭環境の違いを強く意識します。愛情に飢えた状態が続くと、自分の存在価値に自信を持てなくなることもあり、学業や対人関係に悪影響を及ぼす場合があります。
一方、離婚に至るまでの状況や子どもの性格によっては、逆に自己主張を強めて自分を守ろうとするケースもあります。
親への不信感
子どもにとって親は自分の安定した居場所を築いてくれる存在です。しかし、親の離婚によってその基盤が揺らいだと感じると、親への不信感や恨みが生まれやすくなります。
片方の親がもう一方を激しく批判する状況や、突然姿を消してしまうケースでは、子どもは「本当に愛されていたのだろうか」と疑念を抱いてしまうことがあります。こうした不信感は、本人が将来構築する人間関係にも影響しがちです。
調査結果から見える親の離婚が子どもに与える影響
実際、親の離婚を経験した子どもはどのように受け止めているのでしょうか。子どもへの影響について、2021年に法務省が1000人を対象に行った「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00199.html)の結果を見てみましょう。
離婚直後の感情
・悲しかった: 228人 (37.4%)
・ショックだった: 182人 (29.9%)
・状況が変わることが嬉しかった: 67人 (11.0%)
・ホッとした: 87人 (14.3%)
・怒りを感じた: 58人 (9.5%)
・割り切れなかった: 62人 (10.2%)
・自暴自棄になった: 37人 (6.1%)
・将来に不安を感じた: 98人 (16.1%)
・経済的な不安を感じた: 68人 (11.2%)
・恥ずかしかった: 45人 (7.4%)
(複数回答可)
最も多かったのは「悲しみ」の感情で、およそ3人に1人がこの気持ちを抱えていたことがわかりました。また、約30%の子どもが「ショック」を受け、5人に1人が精神的な不安定さを訴えています。
子どもの立場からの受け止め方
また、子どもたちは親の別居をどのように理解していたのでしょうか。同調査によると、3人に2人の子どもは状況を理解していたと答えています。しかし、約4人に1人は「何が起きているのかよく分からなかった」と回答しており、中には現実から目を背けるように「考えないようにした」という子どもも見られました。
パートナー関係・結婚観への影響
約24.3%が「恋愛・結婚生活に悪影響があった」と回答しました。「とても悪い影響」と回答した人は6.0%、一方で、21.2%は良い影響があったとも回答(「とても良い影響」6.6%、「良い影響」7.2%、「まあまあ良い影響」7.4%)しています。
親子関係への長期的影響
同居親との関係は63.6%が良好な関係を維持(「とても良い」32.4%、「良い」18.6%、「まあまあ良い」12.6%)し、別居親との関係については37.3%が良好な関係(「とても良い」14.6%、「良い」13.6%、「まあまあ良い」9.1%)と回答しています。
次世代への影響
子どもがいる回答者のうち30.4%が、両親の離婚が自身の子育てに良い影響があったと回答したのは20.8%(「とても良い影響」(12.5%)と「良い影響」(8.3%))である一方、悪影響を感じているのは5.6%にとどまることが明らかになりました。
トラウマは離婚よりも両親の争いが原因の可能性も


トラウマの原因は離婚そのものよりも、むしろ両親の激しい争いにある可能性が高いでしょう。子どもは、親同士の罵倒や暴力的な言動を日常的に目撃することで深刻な心の傷を負います。
離婚後も両親の葛藤が高いと、子どもは自分を責めたり、争いのはけ口にされたりする危険を感じます。安定した生活のためには、離婚が一つの選択肢となりますが、親の関係性が険悪であれば、子どもの不安は増大してしまうでしょう。
両親の激しい争いは、子どもの脳に慢性的なストレスを与え、学業や社会的発達に悪影響を及ぼす可能性もあるようです。感情コントロールが未熟な子どもは、繰り返される緊張や不安により、平穏な環境でも安心を感じにくくなることがあります。
これらの影響は長期的に残るリスクがありますが、親が争いを避け、安心できる環境を用意し、専門家や周囲のサポートを適切に利用すれば、子どもが再び健全な心の成長軌道に戻る可能性は十分にあるでしょう。離婚前後を通して、できる限り穏やかなやりとりを心がけることが、子どものトラウマを軽減する大きなポイントとなります。
親の離婚で子どもにトラウマを残さないためにできる7つのこと
離婚によって子どもの心に深い傷が残らないように、親としてどう対応すべきかを考えていきましょう。


1.離婚のタイミングを考える
子どもの重要な学年や受験、行事の時期を避けて離婚のタイミングを選ぶことが望ましいです。子供の生活リズムと感情への影響を最小限に抑えるため、大きな行事が終わった後など、落ち着いて対応できる時期を選ぶ配慮が大切です。
ただし、家庭環境が深刻で、子どもの自己肯定感や精神的サポートに悪影響を与えている場合は、早期の離婚が適切な選択肢となることもあります。特にDVや虐待などの問題がある場合は、子どもの心身の安全を最優先に考える必要があります。
2.子どもに年齢に応じた適切な説明をする
幼児期の子どもにはシンプルな言葉で安心感を与え、小学生以上には少し踏み込んだ理由を伝えるなど、年齢に合わせた説明が求められます。年齢や子どもの性格によっては、漠然とした説明は、かえって不安を増幅させることがあります。
子どもが疑問を持った際には、曖昧にせず正直に答える姿勢が大切です。答えにくい内容でも、子どもの理解度に合わせて丁寧に話すことで「自分は大切にされている」という感覚が芽生えます。
中高生の年齢になると、家庭の状況を理解する力が高まります。離婚理由や今後の生活の見通しを具体的に伝えることで、自分の将来像をイメージしやすくなるでしょう。
3.嘘をつかない
子どもの感情と信頼を守るため、離婚に関する説明では誠実さが最も重要です。相手を一方的に攻める表現は避け、子どもの年齢や発達に応じて事実を冷静に伝えることが大切です。
不倫や借金などの具体的な詳細は最小限に抑えつつ、子どもの疑問に真摯に向き合う姿勢が大切です。子どもは大人が想像する以上に状況を敏感に感じ取るため、少しでも曖昧な説明や嘘は、その後の親への信頼関係に影響を及ぼす可能性もあります。
4.離婚は子どものせいではないと伝える
離婚話を聞いた子どもが最初に感じるのが「自分が何か悪いことをしたのだろうか」という罪悪感です。特に言い争いや夫婦の不和を直接目撃していた子どもは、自分の存在が原因かもしれないと考えることが多いです。
だからこそ、繰り返し「離婚は決してあなたが原因ではない」と伝える必要があります。何度も伝えることで、子どもの自己否定を防ぎ、精神的な安定をもたらすでしょう。
大人の都合であることを明確にし、この先も子どもを愛し続けるということをしっかり言葉と行動で示すことが重要です。「子ども側の責任ではない」というメッセージこそ安心の土台になります。
5.面会交流は子どもの意見を聞く
離れて暮らす親との交流は、子どもの気持ちを安定させる上で大きな役割を果たすことがあります。一方で、子どもが望まない状況で無理に会わせることは、逆に心の負担になることもあるため注意が必要です。
子どもの年齢や性格、離婚に至る経緯などを踏まえ、可能な限り子どもの希望を尊重して面会の頻度や場所を調整しましょう。子どもが日常的に安心して過ごせるよう、細やかな配慮が大切です。
もしトラブルが生じたり、子どもが極度の不安を示したりする場合は、面会交流支援団体などの第三者機関への相談やカウンセリングを導入することも検討しましょう。
6.離婚後の子どもの環境を整える
離婚後の生活では、子どもが新しいリズムやルールを早めに把握し、安心して過ごせる環境を整えることが何より大切です。ひとり親との新生活であっても、これまでと同じ習慣をなるべく維持するだけでも安心感が得られます。
また、離婚後の経済面や子育て方針の変化を子どもにきちんと伝えておくことで、余計な期待や不安が生じにくくなります。親子のコミュニケーションを密に取り、困ったことがあればすぐに相談できる関係を築けると安心です。
7.専門家のサポートを活用する
子どもの心のケアが難しかったり迷ったりする場合には、スクールカウンセラーや児童心理士などの専門家に相談することが有効です。子どもの行動の変化や学業成績の低下、対人関係の問題が続く場合は、早めに専門的なサポートを検討しましょう。
客観的な立場から子どもの心理状態を評価し、適切なカウンセリングや対処法を提案することで、子どもの健全な成長を支援できます。また、親自身のストレスケアにも役立ちます。
親の離婚がトラウマにならないよう子どもへの配慮を忘れない
離婚後も子どもの心に寄り添い、長期的なサポートを続ける姿勢が大切です。
離婚が成立しても、子どもの心のケアはすぐに終わるわけではありません。むしろ離婚後こそ、新しい生活に順応するまでの長期的な見守りが必要になるケースが多いのです。
日常の学校生活や友人関係などで、小さな変化にも気づけるようコミュニケーションを惜しまないことが大切です。困った兆候が見えたら早めに声をかけ、必要であれば専門家に相談できる体制を整えておきましょう。
最終的に、離婚という出来事自体は変えられませんが、子どもへの向き合い方や環境づくり次第で、トラウマの有無は大きく変わります。時間はかかっても、親からの愛情と適切なサポートがあれば、子どもは前向きに未来へ進んでいける可能性が高まります。