妻が「もう別れたい」と思っても、離婚してくれない夫がいます。話し合いを拒否したり、「やり直したい」と言って離婚に応じなかったりと、ケースはさまざまですが、夫の合意を得られなければすぐには離婚できません。離婚してくれない夫の心理や説得法などを解説します。
離婚してくれない夫に疲れた…どうすれば良い?
互いに愛し合って結婚した2人も、結婚後に互いの価値観や考え方の違いに気付き、愛情を失ってしまうことがあります。なんとか2人で協力して幸せな家庭を築いていけないかと努力したものの、どうしてもうまくいかないということもあるでしょう。しかし、妻は離婚したいと思っているものの、夫が離婚に応じないこともあります。
半同棲生活を約1年経て結婚しましたが、結婚してからずっと、何となく違和感を感じてきました。
性格の不一致で、私が今まで折れてきましたがもう限界で、先月持ち家を建てるための土地を契約後、離婚を切り出しました。
夫はびっくりして謝っていましたが、客観的に見て夫は真面目で悪い部分が無いため、謝られても意味は無く、合わないものは合わないので私は離婚したいのですが、夫が離婚に同意してくれません。
とりあえず私は今、ウィークリーマンションを借りて別居をしています。
あと、離婚届は自分の名前は書いて用意しています。
年末には契約期間が過ぎて一旦アパートに戻らないといけないのですが、多分夫の考えは変わりません。
どうすれば離婚できるでしょうか?離婚届を見せてサインを求めようとは思っていますが・・。
付き合っていた頃は彼のことが大好きで、嫌なところがあまり目につきませんでした。結婚して同居するようになってから、日々彼の嫌なところが目についたり、価値観の不一致に悩むようになりました。
今までも新婚の頃から4年近く、私の方から何度も話し合いを持ちかけましたが応じてくれず、何度も喧嘩になりましたがうやむやのまま終わってきました。
今回、とうとう私が我慢できなくなり初めて離婚したいと伝えました。
すると、今まではどんな話し合いや喧嘩をしても応じなかった夫が愛している、別れたくないと泣いて縋り、人が変わったかのように色々なところを直すようになりました。
私も付き合いが長いため情はあるため憔悴している夫をみてかわいそうだと思う反面、気持ちが完全に冷めきっていて別れたい一心です。
私としてはこのような状態が続くのが精神的に苦痛で少しでも早く別れたいのですが、このような状態から別れることは難しいでしょうか。
また、どのように夫を説得すればいいのでしょうか。
離婚話から逃げる夫を説得し、離婚への合意を取り付けるにはどうすればいいのでしょうか。離婚に応じない夫の心理や、効果が期待できる説得方法などを解説します。
離婚してくれない夫の心理は?
妻から離婚を求められても頑なに応じない夫は、どのようなことを考え、妻との関係をどのようにしたいと思っているのでしょうか。よくある夫の考えや心理を紹介します。
やり直したいと思っているから
妻は夫に愛想をつかしていても、夫は妻への愛情があり、関係を修復したいと思っているケースがあります。夫婦喧嘩や気持ちのすれ違いが多くても、夫は「これくらいのことはよくあること。離婚するほどの問題ではない」と思っているのかもしれません。
こうした夫は「いずれ妻も考え直してくれるだろう」と楽観的に考えている可能性もあります。こうした夫の間で強引に離婚の話を進めようとしても、夫は関係修復の話ばかりをするため、話し合いも噛み合いません。ゆっくり時間をかけて説得することが必要です。
子供と会えなくなるかもしれないから
未成年の子供がいる場合、離婚した場合、親権をどちらが持つかが問題になります。世間のイメージでは、母親が持つのが良いと思われているため、夫の中には「子供を奪われて、会えなくなってしまうのではないか」と考える人もいます。また、親権を得て、自分のもとで育てたいと思う夫もいるでしょう。
こうした夫と離婚するには、親権や子供との面会などについてよく話し合うことが必要です。離婚に双方が合意しても、親権をめぐる条件でなかなか最終的に合意できないというケースもよくあります。
離婚後の生活が不安だから
これまで家事をしてこなかった夫は、離婚したあとの家事に不安を抱くことがあります。それまで、仕事から帰ってきたら食事が用意されている生活が当たり前だった夫にしてみれば、「これから食事や洗濯はどうすればいいんだ」と困惑するのも当然でしょう。
また、自分の親の介護を妻にしてもらうつもりでいた夫も、「親の介護をしてくれる人がいなくなる」という身勝手な理由で離婚を拒否することがあります。多額の借金があり、妻の収入も頼りにしていたというケースも、離婚後の生活を心配して離婚に応じない可能性があります。
離婚する理由が理解できないから
夫が妻のつらい気持ちや離婚したいと決意した理由を理解できず、離婚に応じない場合もあります。夫の実家との付き合いなど、夫にはわからない悩みもあるでしょうし、もともと夫が他人の気持ちを推し量ることができない性格だというケースもあります。
また、夫がモラハラ気質だった場合、妻が「夫から嫌がらせや暴言を受けた」と訴えても、「妻のためを思って厳しく接していただけだ」と主張して、自分の非を認めないこともあります。
世間体を気にしているから
最近は離婚する夫婦も珍しくなくなりましたが、離婚をするのは世間体が悪いと思っている夫もいます。会社や近所では愛妻家で通っていた場合などは、離婚すると陰口を言われるのではないか、と心配になる人もいます。また、本人は「離婚もやむを得ない」と思っていても、親が離婚を許さないというケースもあります。
特に離婚の理由が浮気や暴力だった場合、理由を他人に知られると信用を失ってしまう恐れもあります。悪いのは夫自身ですが、何とか関係を修復を図って、世間体を取り繕うと考えるのも当然でしょう。
プライドが許さないから
夫婦仲がどうであれ、妻から離婚を突き付けられるのはプライドが許さないという夫もいます。こうした夫は、自己愛が強く、妻は自分よりも下の存在だと見下しています。このため、妻から離婚を突き付けられると、「自分の立場が汚された」「自分はそんな人間ではない」と怒りを覚え、妻の思い通りにはさせないと考えるのです。
また、自分は妻よりも正しい人間だと思っているため、自分の正しさが否定されたようにも感じます。このため、妻の目の前で離婚届を破り捨てたり、わざと無理難題を言って困らせるような嫌がらせをしたりして、妻に仕返しをしようと考える夫もいます。こうした夫はモラハラ気質の可能性があり、嫌がらせがエスカレートしないよう注意が必要です。
妻に財産を渡したくないから
離婚する際には、結婚生活の中で2人で築き上げた財産を分け合います。夫婦で作った財産を共有財産といい、共有財産は基本的に均等に分け合います。これを財産分与といいます。しかし、妻が専業主婦だったり、パートだったりした場合は「自分で稼いだ分はすべて自分のものだ」と考える夫も少なくありません。
こうした夫は「離婚すると自分の財産が妻に奪われてしまう」と考えて、離婚に反対することがあります。夫の浮気が発覚した場合などは、慰謝料まで請求される恐れがあるので、なおさらでしょう。
離婚に応じない夫を説得するには
妻が離婚を求めているのに、夫が応じない場合、まずは夫の説得を試みる必要があります。離婚してくれない夫に対して、効果が期待できる説得方法を紹介します。
本気で離婚を考えていることを伝える
離婚をするときは、夫婦の話し合いによって合意し、円満に離婚するのが基本です。話し合いで離婚することを協議離婚といいます。話し合いでは、本気で離婚を考えていることを伝える必要があります。相手に遠慮してあいまいな言い方をすると、夫は「話し合えば、思い直してくれるのではないか」と考えるかもしれません。
また、話し合う場合は感情的にならず、冷静に話すことも大切です。感情的になると、夫は「一時の感情で言っているだけで、落ち着いたら気持ちも変わるだろう」などと軽く考える可能性もあります。ただ「離婚したい」だけでなく、財産分与や親権、養育費、離婚後の生活など具体的な話も伝えると、夫にも本気度が伝わるでしょう。
調停や裁判でも通用する証拠を集める
話し合いで決着がつかない場合は、裁判所に離婚調停を申し立て、それでも合意できない場合は離婚裁判を考えることになります。裁判所での手続きに進むことも想定して、離婚を求めるだけの理由があることを証明するための証拠を集めましょう。
離婚の理由が浮気なら、浮気の証拠を集めることが大切ですし、暴力が原因なら病院の診断書や録音した音声も有効です。セックスレスなら、日記をつけたり2人の会話を録音したりするといいでしょう。「離婚の理由があることを証明する証拠がある」と夫に告げれば、夫も「調停や裁判に持ち込まれるくらいなら」と離婚に応じてくれるかもしれません。
別居を提案する
夫が離婚に応じてくれない場合、一時的な別居を提案する方法もあります。「お互いが冷静になって今後のことを考えるために、しばらく離れて暮らしましょう」と言えば、夫も断りにくいはずです。別居生活を通じて、夫も「離婚も仕方がないかもしれない」と考えるようになってくれるかもしれません。
また、別居期間が長くなれば、夫婦関係が破綻してしていると判断されやすくなり、裁判で離婚が認められる可能性も高まります。ただし、数カ月の別居では離婚の理由にはならず、数年の別居期間が必要です。長期戦にはなりますが、離婚を実現するための一つの方法になります。
ただし、夫の同意がないまま別居してしまうと、「夫婦が同居する義務」に違反したとして、離婚調停や裁判で不利になる可能性があります。別居する際に子供を連れていってしまう人もいますが、状況によっては違法行為とみなされる恐れがあります。親権を決める際に不利になることもあるので、同意のない別居や子供の連れ去りは避けてください。
弁護士に間に入ってもらう
どうしても夫婦の間で話し合いが進まない場合、夫婦問題に詳しい弁護士を代理に立てて交渉してもらう方法もあります。弁護士を立てれば、妻に代わって離婚の理由について、論理的に説明してくれ、財産分与や親権についても交渉してもらえます。なにより、離婚に対する本気度が夫に伝わるはずです。
離婚の話し合いというのは精神的に疲れるものです。弁護士に間に入ってもらえれば、精神的に楽になり、今後の生活のことなども落ち着いて考えられるようになるでしょう。
説得しても夫が離婚してくれないときの対処法
妻が懸命に話し合い、説得しても離婚してくれない夫に対しては、法的手続きによって離婚を求めていくしかありません。具体的には離婚調停や離婚裁判といった手続きを踏むことになりますが、実際にどのように進めていくのか、ご存知ない人も多いでしょう。離婚調停や離婚裁判について簡潔に説明します。
離婚調停を申し立てる
夫が離婚に反対したり、離婚には同意してもらえても条件で折り合えなかったりした場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。調停とは裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。しかし、合意できる見込みがないときは調停不調として打ち切られてしまいます。
調停が打ち切られると、再び夫との間で協議離婚を目指して話し合うか、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を求めることになります。裁判の結果、離婚が認められた場合は、夫の合意がなくても離婚が可能です。また、離婚の条件についても裁判所が判断して決定します。
離婚裁判を起こす
離婚裁判を起こすには決まりがあります。一つは「調停前置主義」といって、裁判の前に離婚調停を行わなければならないというルールです。また、民法で定められた「離婚事由」がなければ、裁判を起こせないことになっています。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
離婚裁判では、夫婦間の事情がこれら離婚事由に当てはまり、夫婦関係が修復不可能な状態にあるかが審理されます。たとえ離婚事由があっても、「夫婦関係の修復は可能だ」と判断されて離婚が認められないこともあるので、十分な証拠の収集など事前の準備が重要です。
佐々木 裕介
特に、モラハラ夫やDV夫との離婚は長期戦になりやすい傾向があります。離婚調停や裁判をしても「妻から離婚を申し立てられることが許せない。」「主導権を渡したくない。」「勝手にされては困る。」「どうしても離婚は認められない。」というスタンスに固執して、最後まで離婚に反対の立場を崩さない夫が多いと言わざるを得ません。
実務的には、離婚の意向を伝えてから最低3年間の別居期間があると、裁判所も「婚姻を継続しがたい重大な事由がある。」と認めてくれる可能性が高まり、最終的には離婚を成立させることができます。
離婚してくれない夫へのNG行動
離婚話から逃げる夫や、断固拒否する夫に対しては、さまざまな方法で説得を試みることが必要ですが、やってはいけないことや、かえって事態をこじらせかねないこともあります。離婚してくれない夫にしてはいけないNG行動を紹介します。
暴言を吐いたり暴力を振るったりする
離婚話が思うように進まないと、焦りやストレスから感情的になってしまうこともあります。だからと言って、離婚への同意を求めて暴言を吐いたり、物を投げたり殴ったりするなどの暴力を振るってはいけません。もし、警察に通報されるようなトラブルに発展すると、離婚を進めていくうえで不利になってしまう恐れがあります。
勝手に離婚届を出す
夫が離婚に応じてくれないからと言って、夫の署名を勝手に書いて、離婚届を出してしまう妻もいますが、これも絶対にしてはいけません。文書を偽造したとして罪に問われる可能性があります。勝手に離婚届を出しても、相手が「離婚の無効」を裁判所に求める可能性があり、無効になれば慰謝料を請求される恐れもあります。
両親を交えて話す
離婚の話し合いをするとき、知人や友人らに立ち会ってもらったり、間に入ってもらったりすることがあります。第三者を交えて話し合いをするのも悪くはないのですが、親を間に入れるのはやめましょう。親は基本的に自分の子供の味方をするものです。中立的な立場から話し合いに参加してもらえることはほとんどありません。
時には親が当事者の夫婦以上に感情的になり、話をこじらせてしまうこともあります。親とはいえ、関係のない第三者が当事者以上に興奮しては、落ち着いた話し合いはできません。できるだけ、親が話し合いに加わらないようにしましょう。
離婚してくれない夫に悩んだら専門家に相談を
離婚は基本的に、夫婦間の合意によって成立するものです。互いに話し合って円満に解決するのが理想です。しかし、どうしても二人の意見が食い違ってしまうことがあるものです。感情的な対立から、こじれてしまうこともあるでしょう。そうしたときは、夫婦関係に詳しい弁護士に相談しましょう。きっと問題解決に向けて力になってくれるはずです。
佐々木 裕介/チャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所(第二東京弁護士会所属)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。