
養育費は、家庭裁判所の算定表や標準算定方式をもとにおおよその目安を把握できます。ただし、実際の離婚では収入状況や子どもの年齢、生活環境などの個別事情によって金額が変動するため、単純な計算だけで最終的な金額が決まるとは限りません。
本記事では、養育費の基本的な計算方法や算定表の見方、標準算定方式によるシミュレーションの手順を解説します。
この記事でわかること
・離婚時の養育費の算出方法
・実際の養育費のシミュレーション例
・養育費を相場よりも減額したいと考えたときに検討できる手段

弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
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養育費の減額は事情により認められる

養育費は、家庭裁判所の実務で用いられている算定表や、その基礎となる標準算定方式をもとに算出するのが一般的です。これらは父母それぞれの年収や子どもの人数・年齢などを前提に、子どもの生活費をどのように分担するかという考え方に基づいて設計されています。
実務上は、まず算定表で相場を把握し、そのうえで個別事情に応じて調整する流れになるケースが多いといえるでしょう。ここでは、養育費の代表的な計算方法といえる「算定表」と「標準算定方式」の2つについて、それぞれの特徴と考え方を解説します。
算定表の養育費の相場を参考にする
養育費算定表は、父母それぞれの年収と子どもの人数・年齢を組み合わせたマトリクス形式の資料で、月額の養育費の目安が示されています。家庭裁判所の調停や審判でも広く参照されており、実務上の相場を把握するうえで役立つ指標といえるでしょう。
算定表の見方は、まず義務者(養育費を支払う側)と権利者(子どもを監護する側)の年収帯をそれぞれ確認し、該当する交点から金額の目安を読み取ります。子どもが複数いる場合や年齢区分によって表が分かれている点には注意が必要です。
ただし、算定表はあくまで標準的なケースを前提に作成されており、個別事情までは反映されていません。例えば、私立学校への進学や医療費の負担、収入の変動などがある場合には、算定表の金額から調整が行われることもあります。
標準算定方式で計算する方法もある
算定表では対応しきれないケースや、より厳密に養育費を検討したい場合には、標準算定方式によって計算する方法が用いられます。これは算定表の基礎となっている計算ロジックそのものであり、数式を用いて養育費を導き出す仕組みです。
標準算定方式では、父母それぞれの基礎収入や子どもの生活費指数といった数値を用いて、子どもの生活費をどの程度負担するべきかを算出します。そのため、算定表よりも柔軟に個別事情を反映しやすい点が特徴といえるでしょう。
標準算定方式による養育費シミュレーションのやり方

標準算定方式による養育費計算は、父母それぞれの基礎収入、子の生活費、養育費額の三段階で進める構造になっています。原則として家庭裁判所の算定表も同じ考え方に基づいているため、計算過程を理解しておくと金額の妥当性を検討しやすくなるといえるでしょう。
ここでは、標準算定方式による養育費シミュレーションの流れを紹介します。
父母それぞれの基礎収入を計算する
最初に、父母それぞれの基礎収入を計算します。基礎収入とは、年収に対して一定の基礎収入割合を乗じることで算出される、婚姻費用や養育費に充てられる部分の目安額を指します。
標準算定方式では、給与所得者・自営業者ごとに定められた基礎収入割合を年収に乗じて算出する必要があります。給与所得者・自営業者それぞれの基礎収入割合は、以下のとおりです。
【給与所得者のケース】
| 総収入(給与の収入金額) | 基礎収入割合 |
| 0~75万円 | 54% |
| ~100万円 | 50% |
| ~125万円 | 46% |
| ~175万円 | 44% |
| ~275万円 | 43% |
| ~525万円 | 42% |
| ~725万円 | 41% |
| ~1,325万円 | 40% |
| ~1,475万円 | 39% |
| ~2,000万円 | 38% |
【自営業者のケース】
| 総収入(課税される所得金額) | 基礎収入割合 |
| 0~66万円 | 61% |
| ~82万円 | 60% |
| ~98万円 | 59% |
| ~256万円 | 58% |
| ~349万円 | 57% |
| ~392万円 | 56% |
| ~496万円 | 55% |
| ~563万円 | 54% |
| ~784万円 | 53% |
| ~942万円 | 52% |
| ~1,046万円 | 51% |
| ~1,179万円 | 50% |
| ~1,482万円 | 49% |
| ~1,567万円 | 48% |
同程度の収入であっても、給与所得者と自営業者で基礎収入割合が異なることに注意しましょう。これらの基礎収入割合を用いて算出した基礎収入を基に、養育費を計算することになります。
子の生活費を計算する
次に、子どもの生活費を算出します。標準算定方式では、子どもの人数や年齢に応じて設定された「生活費指数」を用い、親子全体の生活費のうち子どもに配分される割合を計算する仕組みになっています。
義務者の生活費指数を「100」としたうえで、子どもの生活費指数を合算し、その比率から子どもの生活費を導き出します。年齢が高くなるほど生活費指数は大きくなるため、同じ人数であっても年齢によって養育費の目安が変わる点には注意が必要です。
養育費の計算をする
最後に、算出した子どもの生活費を父母それぞれの基礎収入割合に応じて分け(按分)、義務者が負担すべき金額を求めます。その金額を12で割ることで、月額の養育費の目安が算出されます。
この計算により、算定表に依拠しない場合でも収入と生活費のバランスを踏まえた金額を数式ベースで導き出すことが可能です。一方で、実際の離婚協議では、教育費の方針や生活環境、双方の合意状況などによって調整が行われることも少なくありません。
そのため、標準算定方式による結果はあくまで判断材料のひとつとして捉え、最終的には当事者間の合意を前提に検討していくことが重要といえるでしょう。
離婚時の養育費計算のシミュレーション例

ここでは、家庭裁判所の改定標準費算定表(令和元年改定版)をもとに、具体的な条件に当てはめた養育費の目安とシミュレーション例を紹介します。
なお、以下の金額はあくまでも目安であり、実際の養育費は個別事情や当事者間の合意によって変動します。
父会社員・母パートの給与所得世帯(子1人・小学生)
【シミュレーションの前提】
・父(義務者):年収500万円(会社員)
・母(権利者):年収100万円(パート)
・子ども:1人(10歳、小学生)
このケースでは、養育費算定表の「給与所得者同士・子1人(0〜14歳)」の区分に当てはめ、父500万円・母100万円の交点を参照します。
その結果、月額4万〜6万円程度がひとつの目安といえるでしょう。
標準算定方式で計算すると、給与所得者の場合年収500万円では基礎収入割合は42%、年収100万円では50%とされるため、父は約210万円、母は約50万円が基礎収入です。
次に子の生活費を算出します。0~14歳の生活費指数は62であるため、計算式は以下になります。
【子の生活費の計算式】
210万円(父:義務者の基礎収入)×62(子の指数)÷(父の指数100+子の指数62)
この結果、子の生活費は約80万円(年額)です。
最後に養育費を算出します。
【養育費の計算式】
80万円(子の生活費)×210万円(父:義務者の基礎収入)÷(父:義務者の基礎収入210万円+母:権利者の基礎収入50万円)
ここから、養育費の年額は約64.6万円、月額に換算すると約5.4万円です。
【参考】裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)
共働きフルタイム世帯(子2人・小中学生)
【シミュレーションの前提】
・父(義務者):年収700万円(会社員)
・母(権利者):年収300万円(会社員)
・子ども:2人(8歳と13歳)
この条件では、「給与所得者同士・子2人(第1子・第2子ともに0〜14歳)」の算定表を用い、父700万円・母300万円の該当区分を参照します。その結果、算定表上の目安は、月額8万〜10万円程度です。
標準算定方式で算出する場合、父の基礎収入は約287万円、母は約126万円であり、子の生活費は年額約159万円です。
さらに、この生活費を父母の基礎収入に応じて按分すると養育費の年額は約110.5万円であり、これを月額に換算すると、約9.2万円となります。
【参考】裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)
ボーナス多めの高収入世帯(子2人・高校生と中学生)
【シミュレーションの前提】
・父(義務者):年収900万円(会社員:うちボーナス300万円程度)
・母(権利者):年収200万円(パート)
・子ども:2人(16歳と13歳)
このケースでは、「給与所得者同士・子2人(第1子15歳以上・第2子0~14歳)」の算定表を参照し、父900万円・母200万円の区分に当てはめます。
その結果、月額10万〜14万円程度が目安となる水準です。
標準算定方式に当てはめると、父の基礎収入は約360万円、母は約88万円となります。子ども2人の生活費は、年齢区分(15歳以上・0~14歳)を踏まえると、年額で約214.2万円と算出されます。
この金額を父母それぞれの基礎収入に応じて配分すると、養育費は年額で約172.1万円となり、月額にすると約14.3万円です。
【参考】裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(表4)養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)
算定表の相場より養育費を減額したいなら

養育費は算定表をもとに目安を把握することができますが、実際の取り決めでは当事者それぞれの事情によって金額が調整されることもあります。そのため、算定表の水準がそのまま適用されるとは限らず、状況によっては減額を検討したいと考えるケースもあるでしょう。
そのような場合には、適切な方法で見直しを検討することが重要です。
弁護士に依頼する
養育費の減額を求める場合には、収入状況の変化を示す資料の整理や、算定表・標準算定方式に基づいた再計算、さらには家庭裁判所での調停申立てなど、専門的な対応が必要になることがあります。
弁護士に依頼すれば、現在の状況に照らして妥当と考えられる金額の検討や、主張・立証について任せることが可能です。法的な観点からのアドバイスを受けながら進めることで、手続を適切に進めやすくなるといえるでしょう。
ADRの利用を視野に入れる
裁判所での手続に進む前の選択肢として、ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する方法もあります。ADRでは、中立的な第三者が間に入り、当事者双方の事情を整理しながら話し合いを進めていきます。
当事者同士だけでは意見がまとまらない場合でも、第三者の関与によって冷静な話し合いがしやすくなり、算定表や個別事情を踏まえた柔軟な解決を目指すことができる点が特徴です。裁判所の手続に比べて、心理的な負担を抑えながら進められるケースもあります。
養育費の話し合いにADRを活用するメリット

養育費の金額は算定表や標準算定方式によって目安を把握できますが、実際には当事者同士の合意によって決まるため、意見の隔たりが大きい場合には話し合いが難航することもあるかもしれません。こうした場面では、第三者が関与するADR(裁判外紛争解決手続)を活用することで、冷静に合意形成を進めやすくなる場合もあります。
ADRでは、中立的な立場の調停人が双方の事情を整理しながら話し合いを進めるため、感情的な対立を和らげつつ、算定表や個別事情を踏まえた現実的な落としどころを探ることが可能です。裁判所での調停とは異なる柔軟な運用ができる点も特徴といえるでしょう。
以下で、養育費の話し合いにADRを活用するメリットについて、解説します。
オンライン対応が可能なケースもある
一部のADR機関では、オンライン会議システムを利用した手続きに対応しています。対面でのやり取りが難しい場合でも、自宅などから参加できるため、移動の負担を軽減しながら話し合いを進めることが可能です。
特に、仕事や子育てで時間の確保が難しい場合や、遠方に居住している場合には、オンライン対応の有無が利用しやすさに影響するポイントとなるでしょう。
時間の融通が利きやすい
ADRでは、平日昼間に限られがちな裁判所の手続と比べて、日程調整の柔軟性が高いケースがあります。夕方以降や休日に対応している機関もあり、仕事や家庭の事情に合わせて話し合いの時間を確保しやすい点が特徴です。
そのため、生活リズムを大きく崩さずに手続を進めたい場合にも適した選択肢のひとつといえるでしょう。
裁判所に行く必要がない
離婚調停では家庭裁判所への出頭が求められますが、ADRは家庭裁判所へ出頭する必要がありません。裁判所という環境に心理的な負担を感じる方にとっても、比較的落ち着いた環境で話し合いを進めやすい点はメリットになり得るでしょう。
また、当事者同士だけでは整理しきれない論点についても、第三者の関与によって客観的に整理されることで、合意に至るまでのプロセスが進みやすくなることがあります。
養育費の金額に納得できない場合はADRを利用するのもひとつの方法

養育費は、算定表や標準算定方式をもとに目安を把握することができますが、その金額がそのまま合意に至るとは限りません。実際の離婚協議では、「相場より高いと感じる」「提示された条件に納得できない」といった理由から、話し合いでの解決が難しくなるケースも見られます。
こうした場合には、当事者同士だけで解決を目指すのではなく、第三者の関与を取り入れることも選択肢のひとつです。ADR(裁判外紛争解決手続)を利用すれば、中立的な立場の調停人が双方の事情を整理しながら話し合いを進めるため、感情的な対立を抑えつつ、現実的な落としどころを見つけやすくなります。
算定表やシミュレーションで目安を把握したうえで、それでも金額に納得できない場合には、こうした手続の活用も視野に入れながら、自身の状況に合った解決方法を検討することが重要といえるでしょう。
