モラハラを受けると後遺症が残る?症状の特徴や克服法は
モラハラはDVとは違って、相手にけがを負わせるわけではありませんが、被害者は心に大きな傷を負うことがあります。不安や恐怖などで支配され、過酷なストレスにさらされ続けるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの後遺症に苦しめられることも珍しくありません。モラハラによる後遺症の特徴と克服法について説明します。
モラハラ後遺症とは
モラハラ後遺症は、モラハラ相手から受けたさまざまな言動がトラウマとして心に残り、いろいろな症状を引き起こします。軽い後遺症であれば、時間が解決してくれることもありますが、長く症状に苦しめられる人もいます。後遺症の原因と主な症状について説明しましょう。
モラハラを受けたことによるトラウマが原因
モラハラが日常的に繰り返されると、被害者には慢性的なストレスが蓄積され、常にストレスにさらされた状態となります。こうしたストレスは脳にもダメージを与え、考え方や性格にまで影響を及ぼします。また、モラハラを受けた体験は心の傷(トラウマ)として残り、長く被害者を苦しめることもあります。
トラウマが引き起こす症状とは
トラウマはさまざまな症状を引き起こします。誰でも思い出したくない嫌な経験はあると思いますが、モラハラによるトラウマは、相手から受けた暴言や高圧的な態度とともに、そのときの不安や恐怖、絶望感、無力感なども思い起こさせます。これによって、被害者は心身の不調を訴えるようになるのです。
モラハラ被害が強いトラウマとして残った場合、次のような症状が見られることがあります。
・モラハラを受けた記憶を急に思い出し、不安になる
・異性に対し恐怖感を覚え、恋愛感情を持ちにくくなる
・他人を信じられなくなり、孤独を好むようになる
・モラハラによって失った自信を取り戻せない
・憂鬱な気分や落ち込み、不眠など鬱症状が続く
・モラハラを受けないよう、無意識に自分がモラハラ気質になってしまう
複雑性PTSDを発症していることも
心的外傷後ストレス障害(PTSD)という言葉を知っている人も多いでしょう。震災や大事故など生死にかかわる体験をした後、当時の記憶をいきなり思い出したり、悪夢として見たりして、不安や緊張が高まる症状のことです。
また、つらい体験を思い出さないように、関連する話題や関係する人を避けるようになり、いつも不安を感じていたり、孤独を感じていたりする人もいます。PTSDの症状と診断基準は次の通りです。
PTSDの主な症状と診断
侵入症状
トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってきたり、悪夢として反復されます。また思い出したときに気持ちが動揺したり、身体生理的反応(動悸や発汗)を伴います。
回避症状
出来事に関して思い出したり考えたりすることを極力避けようしたり、思い出させる人物、事物、状況や会話を回避します。
認知と気分の陰性の変化
否定的な認知、興味や関心の喪失、周囲との疎隔感や孤立感を感じ、陽性の感情(幸福、愛情など)がもてなくなります。
覚醒度と反応性の著しい変化
いらいら感、無謀または自己破壊的行動、過剰な警戒心、ちょっとした刺激にもひどくビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害がみられます。
上記の症状が1ヵ月以上持続し、それにより顕著な苦痛感や、社会生活や日常生活の機能に支障をきたしている場合、医学的にPTSDと診断されます。
一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会ホームページから引用しました。
ハラスメントや虐待が引き起こす複雑性PTSD
生死にかかわる大きな出来事を体験したときだけでなく、DVや虐待、ハラスメントなどを持続的に受けていると、やはり被害体験がトラウマとして心に残り、さまざまな症状を引き起こすことがあります。近年、こうした症状を「複雑性PTSD」と呼び、PTSDと区別するようになってきました。
複雑性PTSDもPTSDに似た症状ですが、十分な研究が進んでおらず、有効な治療法の確立に向けた検証などが行われています。
複雑性PTSDの症状とは
複雑性PTSDの症状はPTSDとほぼ同じですが、それに加え次のような症状が深刻となり、長く続きます。
・感情コントロールが困難になる
・トラウマとなった出来事に恥辱感や罪悪感などを覚え、「自分はダメな人間だ」「自分には価値がない」などと考える
・人間関係を維持し、他者に親密さを感じることが困難になる
【体験談】モラハラ後遺症のよくある症状とは?
モラハラ被害によるトラウマに悩まされた人には、具体的にどのような後遺症がでるのでしょうか。体験談とともに紹介します。
やる気を失い憂鬱な気分が続く
モラハラによって長く不安や絶望感を抱き続けると、心から笑ったり、物事を楽しめなくなってしまいます。以前は楽しめていた趣味を再開しようと思っても、やる気が起きず、落ち込んでしまう人もいるかもしれません。憂鬱な気分はしばらく続くかもしれませんが、時間をかけてゆっくり心を癒していきましょう。
やっと元夫からのモラハラから逃げられたと思ったのに、出来なくなったことがあります。それは楽しかったことが楽しめない、興味がわかない、やる気が出ない。自分が思っていた以上に心の傷は深かったのでしょう。どうにか気持ちを立て直したいです。
イライラしやすく自分の感情をコントロールできない
感情が不安定になり、イライラしやすくなる人もいます。これも長く蓄積したストレスのせいです。心身をともに休めて、ストレスを解消していけば、しだいに気持ちも落ち着き、感情をコントロールできるようになっていくでしょう。
天気が悪いと気持ちが引っ張られて不安感が強くなったり、孤独感が強くなったりします。今まで気に留めなかったような、ほんの些細なことでイライラが止まらなかったり。
恋愛に恐怖感を覚える
モラハラ後遺症で、異性を見る目に自信がなくなりました。自分に見る目がないのでは?モラハラを見抜けなかったのは自分に落ち度があったのでは?と思ってしまうからです。
自己肯定感が低い・自分に自信が持てない
モラハラによって長い間、相手から責められ、見下され続けていると、自分に自信がなくなり、自己肯定感が低くなっていきます。好きなことやできることから始めて、少しずつ自信を取り戻していきましょう。
元夫によって失敗したことを異常に責められる日々から下げられた自己評価がなかなか戻りません。自己肯定感を上げる努力しているけど思うようにいきません。
パニック障害やうつ病などの精神疾患を発症する
ふとした瞬間にモラハラをした相手の顔や言動を思い出し、心身の不調を覚える人もいます。中には立ち上がることもできなくなる人もいて、パニック障害という診断を受ける人もいます。うつ病を発症する人も少なくなく、心身の不調を感じたら心療内科や精神科を受診したほうがよいでしょう。
フラッシュバックに悩まされています。「モラハラを受けて苦しい思いをしたけど、今は大丈夫」と何度も自分に言い聞かせて、息を整えたら少しずつですが落ち着きます。モラハラ後遺症がこんなにも辛いとは、思いもしませんでした。
元妻に似た人を見かけたときや相手から突然連絡が来たとき、動悸がして呼吸も乱れます。情けないことに涙が勝手に出てくることも。思い出したくないあの頃に引き戻されます。
モラハラ後遺症を克服するには
モラハラ後遺症は、モラハラをする相手が目の前からいなくなっても、被害者を長く苦しめ続けます。しかし、どのような症状がどのくらいの期間続くかは、モラハラ被害の程度や本人の性格によって異なるので一概には言えません。
日常生活や対人関係に支障をきたすような自覚症状があるのであれば、専門医の治療が必要になりますが、程度が軽ければ、時間がトラウマを癒してくれることもあります。モラハラ後遺症を克服するために、自分でできる対処法を紹介します。
ゆっくり体を休める
日常的にモラハラを受け続けていると、精神的に相当なダメージを受けます。精神的な疲労は体の不調としても現れるため、被害者は心身ともに疲弊しているはずです。弱った心と体を癒すには、まずは休息が必要です。ゆっくり体を休めましょう。
現在、感じている不安や無力感にどう向き合うのか、今後どうしていけばいいのか、考えなければならないことも多いと思いますが、疲れた状態では考えもまとまりませんし、気力も出ません。抱えている問題の中には、時が解決してくれるものもあるはずです。無理をせず、心身の健康を取り戻すことを優先しましょう。
打ち込めるものを探す
モラハラ被害のトラウマを克服し、前向きな気持ちになるには、気分を変えたり環境を変えたりすることも大切です。仕事や趣味、ボランティア活動など何か打ち込めるものを探してみましょう。新しいことに挑戦すれば、嫌な記憶も次第に薄れていくでしょう。
何かに打ち込むことができれば、毎日の生活に張りが出ますし、仲間もできます。仲間に励まされることで、失っていた自信も取り戻せることでしょう。自分のつらい思いを打ち明けられる友人もできるかもしれません。そうした経験の積み重ねで本来の自分を取り戻せるはずです。
専門医の診察を受ける
体を休め、環境を変えることで、時とともにトラウマを癒すこともできますが、なかには大きなトラウマを抱え、自分の力だけでは克服できない人もいます。そうした場合は心療内科や精神科など専門医の診察と治療を受けましょう。既に鬱病などを発症している場合は、早めの治療が大切です。
トラウマからの回復には、投薬のほか認知行動療法などいくつかの治療法がありますが、人によっては克服まで長期間の治療が必要です。また、複雑性PTSDと診断された場合、極めて専門的な治療が必要になることもあります。
モラハラ後遺症の克服には時間がかかることも
モラハラ後遺症の症状は人によってさまざまです。本人に自覚がなく、周囲からは普通に見えても、深い傷を負っていて、何かのきっかけで突然症状が現れることもあります。モラハラ被害に遭っていれば、程度の差はあれ、なんらかの傷を負っているのは当然。自覚がなくても、できるだけ心にゆとりを持ち、心身の回復に努めましょう。
塚本 亜里沙/東京山手法律事務所(第一東京弁護士会所属)
20年以上の経験を持つ弁護士。
弁護士が行うリーガルカウンセリングもカウンセリングの一種であり、カウンセリング能力の向上は不可欠であると考え、日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー・(一財)日本能力開発推進協会家族療法カウンセラー・アンガーコントロールスペシャリスト取得。
夫婦関係・離婚のお悩みに真摯に向き合い、幸せな離婚に向けた解決をモットーに全力を尽くしている。