【体験談/後編】実感した地域による「離婚観」の違い。閉じた価値観から逃れるために

更新日: 2023年01月25日

「親権は夫、監護権は妻の両親に」という元パートナーからの主張を退け、親権を得るために国家資格を取得後、仕事を得るために双子と共に東京へ引っ越した亜矢子さん。その際に感じた地域による価値観の違いや、離婚後の子どもたちのメンタルケアについてお話を聞いた。

地域による価値観の違いを目の当たりに

前編:【体験談/前編】離婚条件は親権者を夫、監護者は妻の両親に?主婦だった私が双子を連れて地元を離れるまで

――弁護士を立てた後、スムーズに離婚できましたか。


知人に紹介してもらった弁護士さんにお願いしたのですが、その方が離婚事案に強い方ではなかったんです。旦那側の弁護士の方が強く、当初100%負けると言われていました……。

それというのも、その時点では国家資格の勉強中だったので資格は持っていませんでしたし、調停委員の方からは「福岡から東京に行くこと自体が子どもにとっていいことではない、あなたは自分のことしか考えていないね」と言われました。

それでも私は、今の状況を脱するために東京行きを諦めきれなかった。関東圏のシングルマザー協会に相談すると「こちらでは、あなたの考え方はとても前向きでいい選択だと捉えますよ」と言っていただいて。

同じ日本でも考え方や価値観はこんなにも違うものかと感じた瞬間でした。

東京や都市部では離婚が当たり前になっていても、田舎では「あの人シングルマザーらしいよ」と噂になったり。現在小学5年生の子どもたちも、学校で親が離婚していることについて後ろ指を指されることはないと言いますが、田舎ではまた違ったかもしれません。

また、私が住んでいた地域では「男性を立てる」という風習が根強く残っていたので、夫の暴力やモラハラに対してうまく立ち回れない私の方が悪いと思われていたこともあるでしょう。

私の両親が世間体を気にして、結婚の取りやめを許さなかったことや、再同居を勧めたことも、地域の閉じた価値観に縛られていたからかもしれないですね。

負の連鎖を断ち切るために必要な選択

――住み慣れた土地を離れ、双子の育児と家事をこなしながら国家資格の勉強をするというのは大変だったと想像します。当時の亜矢子さんの原動力とは何だったのでしょうか。

他所の家庭や仲のよさそうな夫婦を見て、すごく羨ましく思っていました。結婚してからというものこちらはケンカばかりですから。

溜まったフラストレーションをママ友に話していましたが、それで状況が変わるわけではありません。頭ではわかっていても今の状況をどうやって変えたらいいかわからない……。
※写真はイメージ(iStock.com/recep-bg)

そんな状況が何年か続き、私が33歳の時、同級生が病気で亡くなったんです。たった一回きりの人生、このまま過ごしていてよいのだろうかと自問して。「子どもが成人するまで離婚は我慢しなさい」と言われても、それまで生きている保証はどこにもないわけですよね。

そう思った時に、自分らしく生きたいなと。その頃読んでいた、古代中国の春秋戦国時代における戦争を背景としたマンガ『キングダム』の主人公の生きざまが心に刺さって、私のロールモデルになっています。

負の連鎖を私が終わらせたかったんですよね。私の母も祖母から正しい愛情をもらえていなかったようですし、私自身も子どもに暴言を吐いてしまったことがないわけではありません。子どもが結婚して子育てしていく中で、同じことを繰り返してしまったら……。

子どもたちを守るためにも、まずは資格を取得して何としてもこの環境から抜け出したいという強い思いが原動力になっていました。

愛されて生まれたことを子どもたちに伝えたい

――子どもたちと元パートナーの、現在の関係について教えてください。

養育費は毎月きっちり支払ってもらっていて、遠方ということもあり子どもの長期休みのタイミングで会っています。

――離婚することはどのように伝えましたか。

子どもの方から「離婚したら?」と提案されるくらいだったので、驚きはなかったようです。

ただ、私は離婚をマイナスに受け止めてほしくなかったので「パパだけが悪かったのではなく、ママにも悪いところがあったんだよ。弁護士さんに入ってもらって話し合ったけれど、うまくいかなかったから離婚という選択をする。でも、あなたたちのパパであることには変わりないから、会いたければ会っていいし、会わなくてもいい。それはあなたたちが決めていいことだから」と話しました。

自分たちのせいで離婚してしまったのでは……という考えから、生まれてきたことを後悔することがないように、今でも意識して伝えていることがあります。
離婚という選択をしたけれど、パパとママは愛し合っていた時代があって、あなたたち二人は望まれて生まれてきたのだということ。パパはもちろん、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、周りの大人たちみんなに愛されているのだと。

だから周囲の人々への感謝の気持ちを忘れないでほしいと伝えています。

ー子どもをめぐる権利についてー

包み隠すことなく正直な思いを伝えてくれた亜矢子さんは、今後の目標について聞くと、「どんな人にも能力はあります。自分らしさを武器にお金を生み出していける、そういった社会貢献活動をしてみたいと思います」と教えてくれた。

自分の夢を決して諦めることなく前を向く亜矢子さんのしなやかな芯の強さを伺い知ることができるインタビューだった。

亜矢子さんは現在双子と共に暮らし親権を持っているが、元夫の主張通り親権者と監護者を分けることは現実問題としてあり得るのだろうか。Authense法律事務所の木村光伸弁護士に見解を聞いた。

【Authense法律事務所 木村光伸弁護士監修】親権者と監護権者を分けることは可能か

親権者と監護者を分けるメリットは、監護者でない親が「親権者」という肩書があることで、離婚後も子どもとの関わり合いをもつことができることがあります。

反面、デメリットとしては、子どもの財産管理や処分について、子どもの監護者である親は、もう一方の親権者である親の同意を得ないと、子どもの財産管理や処分ができないため、両親同士が離婚後も争う余地があることです。

正確な件数は不明ですが、親権者と監護権者を分けるのは、極めてまれなケースだと思います。

これについて、福岡家庭裁判所平成26年12月4日審判(平成24年(家)第1139号、平成24年(家)第1140号、平成24年(家)第1392号、判例時報2260号92頁)は、「子の身上監護を行うべき親に監護権を含む親権を委ねることが子の福祉にかなう場合が多いことから、親権と監護権とを分属させないことが原則であるけれども、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情がある場合にはその限りでないと解される。例えば、①親権者となった一方の親の事情あるいは子の事情で、子が直ちに親権者となった親のもとで生活できず、しばらく他方の親のもとで生活させる必要がある場合や、②一般的に監護者に監護をさせながら、子の監護に重大な問題について、親権者を関与させる余地を残し、共同監護の実を挙げさせる必要がある場合などにおいて、親権と監護権とを分属させることが相当な場合がある(斎藤秀夫=菊池信男「注解家事審判法〔改訂〕」三四九頁、清水節「親権と監護権の分離・分属」、判例タイムズ一一〇〇号一四四頁参照)」と判示しています。

また、専業主婦であるかどうかは、親権取得とは直接関係がありません。離婚裁判で親権者が争われる場合、子どもの福祉の観点から、「父親と母親のどちらが親権者となるか相応しいか」を裁判所が判断することになります。

親権者となる母親が、父親から養育費を十分にもらえる場合は、経済的な問題はあまりありませんが、そうでないときは、やはりある程度、母親に経済力があれば安心だとは思います。

「子どもを養育するために資格を取得する」「仕事を得るために引っ越しをする」というのは、それだけで親権者を取得できるかどうかの判断に直結はしないと思いますが、親権を取得するうえで、プラスの方向に働くとは思います。
avatar

弁護士: 第二東京弁護士会

木村 光伸

Authense法律事務所 六本木オフィス

〒107-6222 東京都港区赤坂9丁目7-1ミッドタウン・タワー22階

24時間受付(平日/土日祝)

初回無料

*料金詳細は各弁護士の料金表をご確認ください

その他の記事

離婚、夫婦問題・修復も オンラインで無料相談

離婚なら

弁護士を探す

夫婦問題・修復なら

カウンセラーを探す