【取材/前編】面会交流支援団体代表・古市理奈さんに聞く「面会交流のキホン」

更新日: 2023年06月02日

「面会交流」という言葉ができる以前から面会交流支援団体を立ち上げ、親子のサポートをしてきた一般社団法人 びじっと・離婚と子ども問題支援センター代表・古市理奈さんに面会交流の基本的な仕組みや利用までの流れを教えてもらいました。

離婚後に子どもと離れて暮らす別居親が、一定の取り決めのもと、定期的に子どもと会って交流することを面会交流といいます。子どもの福祉の面から、必要不可欠な交流だと言われており実施する親も増えていますが、まだまだ日本には普及していない状態です。

その背景には、おたがいの協力が不可欠な面会交流において離婚後の父母同士の関係に強い葛藤があると、子どもの面会交流が実施されないという問題が指摘されています。

子どもが健康に育つためにも両親との交流は重要な要素です。そして、お父さんにとってもお母さんにとっても、離婚後の人生を幸せに過ごすためには子どもとの健全な交流が必要です。面会交流という仕組みを知り、それを円滑に進めるための方法や支援団体の利用の仕方、さらには親としての「心得」を紹介したいと思います。

今回はそんな面会交流に関して、「面会交流」という言葉ができる以前から面会交流支援団体を立ち上げ、親子のサポートをしてきた一般社団法人 びじっと・離婚と子ども問題支援センター代表・古市理奈さんにお話をうかがいました。前半では面会交流の基本的な仕組みや利用までの流れを教えてもらいたいと思います。

古市理奈(ふるいちりな)/1971年8月13日生まれ。東京都府中市出身、千葉県茂原市在住。佛教大学文学部史学科地域文化専攻。2005年生まれの子を持つ。2007年 びじっと設立。2011年 日蓮宗宗教師認証。現在は大法寺副住職の任にある。2012年 面会交流の象徴として、『あいぼりーりぼん』を生み出す。離別の「あいまいな喪失」ケアの為に面会交流支援団体『びじっと』を立ち上げる。寺院のみならず、SNS等も活用して、人生会議(ACP)、離婚後の子育てサロンを定期的に開催。他、若年層妊産婦から終末期までの居場所、並びに児童ファミリーホームを含めた『生老病死』トータルサポートケア施設の建立を構想中。

最近よく聞く「面会交流」ってなんですか?

――本日はよろしくお願いいたします。まず、単刀直入にお聞きしますが「面会交流」とはひと言でいうとどのようなものなのでしょうか?

面会交流とは、「別居や離婚後に子どもを養育・監護していないほうの親によって行われる子どもとの面会および交流」のことを言います。法律の側面から見れば、民法766条が2011年に改正されたことで明文化され、2012年4月1日から施行されました。いまからちょうど10年前のことですね。ここで面会交流と養育費のことが盛り込まれました。

――法律では明文化されている「面会交流」にもかかわらず、なぜ実際には普及しておらず認知度も低いのでしょうか。

民法第766条では「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める」と決められています。

ただし、「協議で定める」ことは法的義務ではありません。面会交流と養育費を決めなくても日本では離婚が可能なんです。

ほとんどの夫婦がこれを決めずに離婚をし、離婚後に面会交流や養育費などの決め事をしています。なぜ離婚時にしないかというと、最も多い理由が「相手と関わりたくないから」です。ですから、そもそも約束事を取り決めずに離婚しているという背景があります。

また、もし協議や家庭裁判所の調停で面会交流条件を取り決めたとしても、取り決めたとおりに面会交流を実施することをと義務づける「法律規定」もありません。諸外国では調停条項や審判条項など法廷で決めたことに従わなければ「法廷侮辱罪」という罪になり罰則を受けます。しかし日本の法律には法廷侮辱罪という罪が存在しないので、決めたことを守らなくてもなんの罪にもなりません。だから面会交流の約束があっても守られておらず、普及していないのです。

結果として、親権者となれなかった親(別居親)は親権者(同居親)が面会を拒否すると面会自体を諦めざるを得ないのが現状です。

―――面会交流が民法に明文化される前はどのような状況だったのでしょうか?

そもそも夫婦の別れが親子の別れでした。言い方も「面会交流」ではなく「面接交渉」でしたね。「面接」なんだから別居親は会えばいいだけ、親子の「交流」があるとは言い難いというのが当たり前の状態でした。

ちょうど10年前に面会交流が明文化されました。しかしそれでも法廷侮辱罪がないので、「決めたとしても守らなくていい」と考える人もいて、別居親が子に会えない現状は数多く生まれています。いま共同親権が強く求められているのも、そのような背景があります。

サービス内容は利用者によって大きく「4パターン」

―――団体を利用して面会交流支援を受ける際の、基本的な流れや支援内容はどのようになっているのでしょうか。

びじっとを利用する子どもの末子(末っ子)の年齢は、面会交流開始時で約60%が1〜5歳の乳幼児です。面会交流支援はおもに次の4つの利用の仕方があります。

①連絡調整型
父とびじっと、母とびじっとでそれぞれ別々にコミュニケーションを行い、面会交流の日時、場所を調整します。必要であればプレゼントについての事前情報共有も行います。面会交流当日に交通渋滞による遅刻連絡などがあればリアルタイムで中継します。

②受渡し型
連絡調整型と同じく、事前の調整を行います。それに加えて、面会交流当日はスタッフが受け渡し場所で待機し、同居親から別居親へ子を受け渡すことで父母が受け渡し時間を守ることを支援し、顔を合わせずにすむよう配慮します。面会交流終了時には、別居親から同居親へ子を受け渡します。父と母が顔を合わせずにすむことに配慮した方法です。

③付添い型
連絡調整型と同じく、事前の調整を行います。それに加えて、面会交流当日、別居親と子の面会交流にスタッフが付き添い、面会交流を見守ります。父母のニーズに応じて、養育に不慣れな親の場合遊びに誘導するなど、面会が楽しくスムーズに進むよう支援します。

④付き添い型(オンライン型)
Zoomを利用したオンライン面会です。連絡調整型と同じく、事前の調整を行います。それに加えて、面会交流当日、別居親と子の面会交流にスタッフが付き添い、面会交流を見守ります。

以上の4つに加えてびじっとには、写真のやり取りなどを支援する情報連絡支援、両親が自分たちでやり取りする際に冷静なやり取りを保てるようLINEグループに第三者として入る見守り支援、非利用者向けの相談、利用者向けの傾聴や裁判外紛争解決サポート「ADRくりあ」という面会交流の策定・合意調整支援などがあります。

(※ADRとは「裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)」といわれるもので、裁判によることもなく、法的なトラブルを解決する方法、手段など一般を総称して用いられる言葉です。たとえば、仲裁、調停、あっせんなど、様々なものがあります。裁判所ではなく民間が運営する点が特徴的で、解決までの期間が比較的短いなどのメリットがあります)

――面会交流に関して第三者機関が入ることのメリットはどのような部分でしょうか。

面会交流において大切なのは「ルールを守る」ということです。当事者間で作ったルールを守れないケースがたくさんあります。たとえば、10時から15時までの交流という約束だったのに、別居親が子どもとごはんを食べていて「やっぱり19時にして」と約束の時間に戻ってこない、といったことが起こります。

そうすると夕ご飯の準備をしていた同居親は困りますよね。すると、「こんなに自分勝手な人と子どもを会わせたくない」という気持ちが強くなって、面会交流がストップしてしまうのです。

そういうことをなくすために第三者機関が入って調整をしています。第三者が入れば誰であれ、ある程度の配慮が働きますよね。第三者を何時間も待たせるわけにはいかないので遅刻がなくなる、連れ去りなどの行為がなくなるなど、トラブルを未然に防ぐことができるのです。

――利用者の属性としてはどのような方が多いのでしょうか。

30代なかばから40代なかばくらいの親が多いですね。離婚再婚しているというケースもあります。ほとんどが係争中の人で、弁護士、もしくは当事者から連絡が入ってくる、という流れです。依頼自体は同居親側のほうが多いですね。

―――最初に依頼に来た相談者にはまずどんな面談をするのでしょうか?

「こういう案件だと受けてくれますか」「どういうことを決めたら支援を受けられるのか」などといった「お問い合せ」が来て、それに対してメールで答えられない範囲のものは有料の相談を行います。それを踏まえた準備を整え、相談者が支援を受けたいです、となれば受理面談を行います。

利用する際には、利用者向けの利用ルールがあるので、受理面談ではその利用ルールに沿って説明をして理解していただきます。これを守っていただくことを前提に支援がスタートしていきます。

※写真はイメージ(iStock.com/kazuma seki)

気になる利用料、いったいいくら?

――面会交流支援を依頼した際、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。

いまはそれぞれの団体が各自で決めている状態ですね。私たちの利用料に関してはホームページに細かく掲載しているので、詳しくはそちらを確認してもらえればと思います。支援タイプによってかかる費用も異なり、連絡調整代や交通費などの規定についても細かく公開しています。たとえば受け渡し型だと9900円(税込)と交通費が全体の費用です。

支援団体を選ぶ際にまず見てほしいのは「料金設定の仕方」です。そこから自分に合った団体を見極めてほしいと思います。

――たとえば料金設定のどんな点に気をつけて見極めるのがいいでしょうか。失敗しないコツやポイントがあればお願いいたします。

費用をあとから上乗せしてくる団体もあります。1回2万円くらいで支援を受けられると思ったら上乗せが入って10万円でした、というケースもあるようです。「付き添い型3時間でいくらになりますか」などということを具体的に聞いてみるといいですね。

その質問に的確に答えられる団体を利用することです。また、「別途相談を受けると30分いくらです」などという有料案件をちゃんと提示してくれるところはいい団体だと思います。

相手と係争中でも、利用できるのか

――現状では、利用者は係争中の方が多いということですが、どのような争いをしている方が多いのでしょうか。

面会交流の回数や、どの支援タイプで利用するかで合意できないケースが主です。同居親は付添い型がいいと主張しますが、別居親は子どもと会うのに監視がつくように感じて嫌がることが多いですね。

――実際の係争案件を多数見ていると、おたがい自分の権利を主張している人が多い印象があります。そういう意味では少しでも相手を思いやれる人が利用者になっている、ということでしょうか。

支援団体を利用すればその団体ごとにルールが定められています。私たちは子どもの権利擁護のために支援をしていますが、それは基本的な人権保障をしているということです。

お父さんお母さんには、「子どもの権利を守るためにルールがある、それを理解していますか」ということを必ず伝えます。本来であればお父さんお母さんが子どもの権利を保障しなければいけないはずなのに、自分たちの幸福追求論ばかり話していて、それではよろしくありませんね、とお話しさせていただいております。

ルールを本人同士で定めたり守ったりするのが難しいから私たちのルールを利用するわけですし、「大人の幸福追求権はわかりましたので、一歩引いて、子どもの権利を中心におきましょう」という話なのです。ルールを理解することで、父母が互いに一歩を引くのだとご納得いただける人が利用者になっていかれますね。


【取材/後編】同居親、別居親の“心得”とは?面会交流支援の役割

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