【取材/後編】同居親、別居親の“心得”とは?面会交流支援の役割

更新日: 2023年07月12日

面会交流支援団体の役割とはどのようなものなのでしょうか。面会交流支援団体が持つ機能、とくに親と子がいかに成長する場を創出しているのか、一般社団法人 びじっと・離婚と子ども問題支援センター代表・古市理奈さんのインタビュー後編です。

古市理奈(ふるいちりな)/1971年8月13日生まれ。東京都府中市出身、千葉県茂原市在住。佛教大学文学部史学科地域文化専攻。2005年生まれの子を持つ。2007年 びじっと設立。2011年 日蓮宗宗教師認証。現在は大法寺副住職の任にある。2012年 面会交流の象徴として、『あいぼりーりぼん』を生み出す。離別の「あいまいな喪失」ケアの為に面会交流支援団体『びじっと』を立ち上げる。寺院のみならず、SNS等も活用して、人生会議(ACP)、離婚後の子育てサロンを定期的に開催。他、若年層妊産婦から終末期までの居場所、並びに児童ファミリーホームを含めた『生老病死』トータルサポートケア施設の建立を構想中。

支援機関を使うメリット、デメリットとは?

――面会交流支援団体を活用することによって、同居親、別居親、子ども、それぞれにはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、それは利用者にも直接伝えているのでしょうか。

それぞれにメリットはありますし、お伝えしています。同居親は仕事もあるし、育児もあるし、親の介護もあるかもしれないしで、なかなか自分のために使える時間が持てないように感じています。

例えば、美容院でおしゃれすることもなかなかできません。お父さんと子どもが面会交流をしているあいだ、自分の時間が3時間でも4時間でも8時間でも取れますよと。もし2泊3日でお父さんのところに行かせればぜんぶ自分の時間になるから、自由につかえる時間を持つことができる。そのように意識をプラスにチェンジされてみるということをお伝えします。

すると「自分の時間を持っていいんですね。確かにそうですよね!」と気づかれるく同居親さんが多いですね。

――別居親の方に対しては、お子さんと定期的に確実に会えるということがまずメリットとして挙げられると思いますが、そのほかにはどのようなことが考えられますか。

別居親にしてみれば面会交流は「トライ」なのです。たとえば始めは「付添い型3時間」の合意をしましたが、ステップアップがその先にあることを期待していたのに、1年も2年も3年も変わらなかったら「トライ」が「エラー」になるのです。

そうなると、「結局、ステップアップは同居親の意向次第ですよね」とネガティブな気持ちに陥って、お子さんとの交流まで途切れてしまうという最悪なケースにもなりかねません。それは、子どもからしたら片方の親に自分は見捨てられたと思ってしまいかねないことなのです。せっかくの「トライ」が「エラー」とならないためには、ADR(裁判外紛争解決手続)で親子の交流条件を見直したほうがいいと思っています。

私たちは年に一回、支援の見直しをなんらかの形で取り入れられないか検討することを考えています。そういう後押しがあることでステップアップにつながりやすいことが、別居親のメリットになると思います。

面会交流を通して「子どもの権利」を学ぶ場に

――「子どもが嫌がっている」と訴え面会交流自体が子どもの福祉に反する、と主張する人もいますが、そのような意見についてはどうご対応されているのでしょうか?

そもそも子どもは自分が生存するため、本能的に、お父さんの前ではお父さんにあわせて、お母さんの前ではお母さんにあわせた発言をします。

「会いたくないと言っている子どもの意見を聞いてください」と言う同居親がいれば、子どもの感情や思いを私たちは聞くし、それを尊重しますが、面会交流するかしないかという父母の間の対立を「子どもに決めさせることで子どもに責任を負わせて解決する」ことはしません。子どもの言葉だけを根拠に面会交流をストップするのが子どもの最善の利益かというとそれは違います。

子どもの気持ちを丁寧に聞くと、「お父さんは嫌だってママが言っているから嫌だ」と言う子もいます。「それってママの意見だよね」というと、子どもは「ん?」という顔をして黙ってしまいます。このように子どもが素直に自分の気持ちを自分の言葉で声に出していない場合もあります。

――同居している親の意見を子どもが代わりに表明してしまっているケースということですね。どのようなケースが実際にあるのか、よろしければもう少し具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか。

3歳の男の子で、こんなケースがありました。別居親のお母さんが子どもの目の前で英語をスラスラとしゃべっているのに、子どもは「お母さんの英語はインチキだ!」と言い始めるので「じゃあ何語なの?」と聞いたら「デタラメ語!」と言うのです。

そこで同居親のお父さんに話を聞くと子どもに「お母さんの英語は嘘なんだよ」といってしまっていたことがわかりました。

私たちスタッフは、子どもには「あなたが見ているもの聞いているものが事実なんだよ」ということを伝えます。そして同居親に対しては、別れた相手への恨みつらみをいいたくなるのもわかる。しかし、自分の感情のままにふるまえば、子どもの権利を保障するはずの親が子どもの権利を害することになってしまうのではないかと問い、ご自身の気持ちの整理をしていただきます。

「子どもが嫌がっている」からといって面会交流をさせないことが子どもの「最善の利益」ではない、ということを徹底して伝えていく。そうやって、子どもの権利を学ぶ場にもなっているのです。

――実際の現場で同居親から「子どもが会いたくないと言っている」と言われた場合や、実際に子どもが嫌がっているような様子が見受けられた場合などは、どのような対応をしているのでしょうか。

同居親から「子どもが嫌だといってきた」と連絡があった場合には、まずはちゃんと同居親に対して傾聴をします。なんで子どもがそうやって嫌がってるのか、何が問題だと考えているのかを聞いていきます。

たとえば、「父親が子どもの意に反したことをさせるからだめなんです」と同居親が言っているケース。子どもは絵本を読みたいのに、外に行こうとしたり、です。

その場合、「絵本を読みたいって言ってますよ」と私たちから指摘するようにしています。また、お子さんには「お父さんが嫌だなと思う行動が出たらサインを決めよう」といって、たとえば「頭に手を当てるのを嫌だと言うサインにしよう」と決めます。そうすると子どもは安心して面会交流に臨めるのです。そのサインを作れば不安感はだいぶ解消されるので、面会交流を中止にする必要はなくなります。

親の変化が子の成長に、子の変化が親の成長になる

――面会交流を行った後、それぞれの親子関係や家族関係はどう変化するのでしょうか。また、そもそも子どもは面会交流に対してポジティブに関わるものなのかも含めて教えていただければと。

多くが幼児期ということもあり、ほとんどの子どもは面会交流にポジティブです!

たとえば、生まれてから一度も別居親に会っていなかった子どもが、5年間裁判をして面会交流がやっと決まりました。

はじめて別居親のお父さんと交流したとき、その子はお父さんの肩から腕までをそーっとさわって、「これが私のお父さんなんだ!」って生存確認をしたりするのです。シャイで素直に交流できない場合もありますが、第三者が介入して親子の距離を詰めていきます。

例えば、「はい、手に持ったボールを今度はお父さんに投げてみようか」とキャッチボールをして徐々に距離を詰めたり、おままごとなどの日常的な遊びを中心に交流をおこなっていきます。

――その一方で、お子さんが別居親に素直になれないケースもあるのではないでしょうか。

たとえば、2歳だった子どもが別居親に対して「自分は捨てられた」という怒りがあって、ゴミを投げつけたケースもあります。その子はお父さんが抱くと嫌がって泣くので慌てて離すと、ケロリとした顔で逃げていく。つまり、嘘泣きをしてみせるのです。

この子の怒りを真摯に受け止めて、これまでの一年間、会わなかったことを謝罪してみたらいかがでしょう? という提案をいたしました。別居親にしてみたら、勝手に子どもを連れ去られたゆえの別居であり、自分は会いたくても、相手になかなか会わせてもらえなかったんだというお気持ちがあります。

しかし、夫婦がどのような理由で争っていたとしても、子どもには夫婦の争いは関係ありません。

お父さんはその場で土下座をして、お子さんに対して、『これまで会わずにすみませんでした。これからは、親としてきちんとお前を育てる責任と義務を果たしていきます。どうか許してください』と仰られたのです。

お子さんは黙ってそのお父さんの姿を見下ろしていましたが、やがて一人、滑り台へと歩いていき、そしてお父さんの方を振り向きました。はじめて、お父さんと向かい合った瞬間です。私はお父さんにお子さんの方へ早くいくように促しました。その後は仲良く遊んで、親子の縁を結びなおされました。

――面会交流支援があったからこその変化ですね。とてもすてきなお話です。子ども自身の成長、親としての成長という意味ではどのような変化があるのでしょうか。

総じて意見をちゃんと表現するようになりますね。ときには、その過程のなかで親に意見を言えない子が私を叩くようになることがあります。親は「叩いちゃだめ!」と子どもを叱るのですが、「いやいや、お子さんが本当にたたきたいのは私ではなくあなたたちなのかもしれませんよ」と話します。本当に叩きたいのは親ではないかと子どもに聞くと「うん」と。

※写真はイメージ(iStock.com/Ole Schwander)

それを見ると親たちもさすがに反省して親として成長しようと考えはじめますね。「子どもにとってあなたたちが身近な社会規範となるのです」と現場でお伝えするよう心がけています。

「シンプルにできる」体制づくりこそ、子どもも親も幸せにする

――繊細な判断や観察眼も求められる現場ゆえにスタッフ教育もしっかりと行っているとお聞きしました。立ち上げ時に比べてスタッフの質が向上したことで、どのような変化が生まれましたか。

安定的に支障なく面会交流ができているというのがいちばんです。しかも多くの場合、本人たちが希望した通りにできているので、利用者からの不平不満もありません。その意味では、お父さんお母さん双方にとって最低限の幸福追求の一助となっているのではないかと思います。

――スタッフの教育が徹底されたことで、具体的に現場レベルで変わったことといえば、どのような点でしょうか。

とにかく面会交流がスムーズに行えるようになりました。現在は、誰でも同じように支援ができています。全員がスマートにシンプルにできるようになったというのは、面会交流支援においては非常に重要なことです。利用者の満足度も高くなりました。

――びじっとさん、ならびに面会交流支援団体としての今後の展望などがあれば最後にお願いいたします。

共同親権を見据えた機運が高まりを見せていますが、両方が親権者であっても「監護者」は基本的にはどちらか一方です。同居親も別居親も同じ権利を持つ親権者であるがゆえに、子の養育をめぐってその権利を主張する人が増えていくことが予想されます。

でもその親権はお父さんお母さんが子どもを育むための権利であって、自分たちの幸福追求権を満足させるための権利ではないのです。本人たちはそう思っているかもしれないけど、その前に大人ですから自分たちの「我」は横に置いておいて、おたがいを尊重してほしいと願っています。

また、同じルールで何度も約束を破ってしまう人、自分の権利のみに固執する人、自己肯定感を満足させるためにやっている人などさまざまいます。それはもう「社会福祉」の領域にも入ってくる問題です。

私たちとしては、そういった親の意見に振り回されずにシンプルに子どもの権利を追求していくことをこれからも大事にしていきます。そして社会福祉の要素も持ちあわせた対応をすることが、今後の面会交流支援団体全体の動きとしても、ますます重要だと考えているところです。

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