【体験談③】「お前には無理」と言った継父を見返したい一心で叶えた夢

更新日: 2023年03月02日

親の離婚、そして再婚は子どもの人生にどのような影響を与えるのだろう。現在22歳になった井上詩穂さん(仮名)に当時を振り返っていただいたインタビューの第3回。継父の暴力や養子縁組解消など壮絶な学生時代を経て、社会人になった彼女の現在地。

継父への反骨心を燃料に掴んだ夢

――進路はどうやって決めたのですか?

バレー部が忙しくてバイトは増やせなかったし、遠征費用などの出費が多かったので大学受験のための塾に行きたいなど、これ以上のことを祖父母に望むことはできませんでした。

それならば同年代の子たちよりも早く仕事をして、自分で稼ぐ力を身につけたらいいんじゃないかと思ったんです。

まだ父と暮らしていた中学生の頃、好きなアーティストがテレビに出ていて「この人たちと一緒に働きたいな」と何気なく口にしました。すると、それを聞いていた父に「お前が働けるわけないだろ」と言われたんです。

ショックを受けたと同時にすごく腹が立って、本当に一緒に働けたらどうするの!?という反骨精神が芽生え、そのまま私の目標になりました。

入りたかった会社に新卒で入るには、大卒以上もしくは専門的な知識が必要だったんです。それでも、憧れの人たちと一緒に働くためにはどうしたらいいか。入りたい会社のあるエリアで、こんな関係の仕事をしたらこんな繋がりができるのではないかと、逆算して行動して。

高校卒業後、出版社とイベント企画会社を経て現在3社目、夢が叶ってあの頃入りたかった会社で働いています。

――有言実行ですね。仕事は楽しいですか?

想像もできないようなことが頻繁に起こる刺激的で楽しい日々です。

でも今、充実した毎日を送れているのは、父への反骨精神があったからで。決してネガティブな意味での復讐心からではなく、わかりやすく言えば、父が私と同じ年齢の時と比べて2倍の収入を得ていたら父は何も言えないんじゃないかと。
※写真はイメージ(iStock.com/Asia-Pacific Images Studio)

高卒の私でもできることはあるんだぞと、これまで父から受けた否定の言葉を覆したいという思いが今の私を作っているのだと思います。今はそう思えるけれど、こんなふうに思えるまでは本当に大変でしたが。

――お父さんは井上さんが夢を叶えたことは知っているのでしょうか。

父と二人で会うことはまずないのですが、関係修復のために母を交えて時々会うことがあり、その時に仕事の話をしました。仕事内容を聞いた途端、私への態度がすごく変わったんですよ。

これまで努力や過程は認めてもらったことがないけれど、仕事などのわかりやすい部分だけは評価する人なのだなと思いましたね。でも、父に認められたのでスッキリした部分はあります。目標は達成したから、この先どうしようかなと(笑)。

生き急いでいたかもしれない、でも後悔はない

――親の離婚や再婚が自分に影響を与えたと思うところはありますか。

いい意味でも悪い意味でも、人の言葉の裏側や本心を探ってしまいます。元々、些細なことを気にしやすい性格ではあったのですが、離婚や再婚を経てさらに「本当はこの人は何を考えているのだろう……」と考えすぎて疲れてしまうことがあるんです。

でも反対に、微妙なニュアンスまで読み取ることができるので、仕事では長所として活きている部分でもあって一長一短ですね。

――これまで大変なことがたくさんあったにも関わらず、井上さんからは誰かのせいにするといった他責的な要素が感じられません。

誰かのせいにして恨んでも自分が消耗するだけだということは、なぜか昔からわかっていたような気がします。早く大人になりたいと思っていたし、生き急いでいたんですよね。

中高生の頃、やりたいことがあってもできなかったからこそ、いかに親の手を借りずにやりたいことをやれるかを考える力が身についたというか。
※写真はイメージ(photoAC)

元の性格は辛いことがあると、とことん落ちてしまうタイプだったのですが、できるだけ自分がすり減るようなことはしたくなくて。辛いことがあっても次の日にまで引きずらないよう、気持ちを強く持つ術を学んだり、今も努力を続けています。

――今振り返って、辛かった頃の自分に声をかけるとしたら何と言いたいですか。

これまで自分のやってきたことに対して「あの時こうしておけばよかった」という後悔の気持ちはあまりないんです。今言えるとしたら、そのまま頑張っていたら夢が叶うよって、それくらいですね。

ー親を選べない子どもが「自分」を守るためにー

子どもは家族や育つ環境を選ぶことはできない。しかし、井上さんの場合は幼い頃から「どうしたら親の手を借りずにやりたいことができるか」を考え続け、その時にできる最善の選択肢を選び取ってきたからこそ夢を叶えることができた。

取材では、言葉の端々から幼い妹たちや母親への気遣いが伝わり、彼女の思いやりの深さを感じる一方で、当時の井上さんも「子ども」と呼ばれる年齢だったはずなのに、子どもが子どもらしく生きることを手放すしかなかった現実があったのではないかと感じた。

井上さんは「後悔はない」と話すが、親を選ぶことができない子どもという立場では、自立するまで親から逃れることはできないのだろうか。Authense法律事務所の白谷英恵弁護士に聞いた。

【白谷英恵弁護士監修】親から逃れたい子どもの相談先は?

仮に、子どもが親から過去に受けた虐待について法的措置を望んだ場合、時間が経っていると訴えることは難しいのか――。

民事的な観点からいうと、子どもへの暴力を不法行為ととらえ、虐待の当事者である親に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行う余地があります。もっとも、原則、不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年経過した場合、時効によって消滅してしまいます。

仮に時効の問題がなかったとしても、虐待の内容やけがの程度によっては時間の経過とともに立証が困難となるため、請求が認められない可能性が高くなります。

刑事的な観点からいうと、虐待の内容が暴力であれば暴行罪や傷害罪、児童に性的な行為を強いる内容である場合は強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪、暴言であれば脅迫罪などが成立しうる犯罪となります。

もっとも、民事と同様、時間が経過すればするほど、虐待の内容やけがの程度によっては立証が困難となります。いずれにしても、法的措置を望む場合は、なるべく早く学校の先生や弁護士などに相談する、診断書などの証拠を残しておくなど、行動に移すことが重要です。

また、すべての国民には、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合に、児童相談所や福祉事務所などに通告する義務が課せられています(児童福祉法25条、児童虐待防止法6条)。 

そのため、まずは学校の先生や友人など、相談できる周りの人に虐待の現状を伝えることが重要です。

もちろん役所や児童相談所、弁護士に相談することも可能です。各都道府県の弁護士会は、弁護士が相談に対応する子どもの相談窓口を設けています。相談の際の費用は無料です。

また、未成年の子は、法定代理人の同意がなければ弁護士に依頼することができないのが原則です。しかし、日弁連では、「子どもに対する法律援助」として、法定代理人の同意なしで、援助を受けて、子ども自ら弁護士に依頼できる制度を用意しています。

これにより、法定代理人となる者がまさに虐待の当事者である親で、同意を得ることができない場合でも、弁護士が子どもを守るために動くことができます。
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弁護士: 神奈川県弁護士会

白谷 英恵

Authense法律事務所 横浜オフィス

〒220-0004 神奈川県横浜市西区北幸1丁目11-20相鉄KSビル6階

24時間受付(平日/土日祝)

初回無料

*料金詳細は各弁護士の料金表をご確認ください

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