【取材/後編】母のような「ひとり親の孤立を解消したい」さらに先を見据えたペアチルの挑戦

更新日: 2023年10月10日

「ひとり親家庭の親子のウェルビーイング最大化」をビジョンに活動する一般社団法人ペアチル。前編では、代表の南さんの生い立ちを聞かせてもらいました。後編では、ペアチル開発までの道のりと、南さんたちが見据える未来について詳しく聞いていきます。

グレートティーチャーの道ではなく、“自分が選ぶ道”を正解にする

【取材/前編】「父に勝つため筋トレに励んだ」ペアチル代表が語る壮絶な過去と今ある幸せ

 

――南さんは国立大学を卒業されていますが、あまり学校に行かなかった頃も成績はキープしていたのですか?

悪かったです。というのも、三重県で一番偏差値の低い夜間高校を退学して鉄筋屋さんをやる、という南家の王道キャリアがあるのですが、「その高校にすら入れない」と中3直前の三者面談で先生に告げられました。

今までどんなに悪さをしても「若いからしゃーない」という感じの母ながらも、さすがにショックが大きかったようです。顔面蒼白で魂の抜けたような……これまで見たことのない母の表情を見て、さすがにこれ以上迷惑をかけられないと悟りました。

そこからやっと授業に出るようになったのですが、その頃に友だちの家で読んだ漫画『GTO』に衝撃を受け、「グレートティーチャー南になるから!」と勉強を頑張りました。血が滲むとはこのことか……というほど打ち込み、中学はオール5で卒業することができたんです。

※写真はイメージ(iStock.com/Chinnapong)

――大学では教育を学び、卒業後は一般企業に務めています。どういった心境の変化があったのでしょう。

当初から「貧困」と「障がい」の領域に特に強い問題意識を持っていたので、大学在学中に立ち上げた団体やNPO団体でいろいろな活動をしてきました。

そんな中で、次第に“先生”は手段の一つなのかもしれないと考えるようになったんです。先生になったとしたら、いつまでたっても日本の社会問題を解決しきれない、と。先生として目の前の子どもに向き合うことは大事ですが、仕組みを変えるのは難しいんですよね。

教員採用試験の勉強を進める大学3年生の頃は、ずっと教師になるべきか悩んでいました。ちょうどその頃、貧困問題を研究している社会活動家の方と一緒にイベントをすることになり、その時の葛藤をぶつけたんですよ。

そうしたら「南君は、自分の選んだことを正解にできる人だと思う」と言ってもらって。その言葉で一気に視界が開けて、先生の道をやめる決心がつきました。

テクノロジーで「孤立」を解消したい

――社会問題へのアプローチ方法を見直す契機になったのですね。

ある日「テクノロジーだ!」と降りてきて(笑)。そして渋谷のIT企業への入社を決めました。

※写真はイメージ(iStock.com/webphotographeer)

その会社ではSEOコンサルを経験し、その後転職して、発達障害のある方へ就労支援する企業のWEBメディアを立ち上げたり、法的被害者を支援するプラットフォーム事業のマーケティング責任者を経験したりしました。

――先ほど、「貧困」と「障がい」に問題意識を持っているというお話もありましたが、一貫して、テクノロジーを利用した支援に携わってきたのですね。

貧困問題は僕が育ってきた環境が影響していますが、障がいについても他人事とは思えなかった。

後になってから知ったことなのですが、2,3歳の頃にASDの診断を受けていたそうです。学校や社会生活で生きづらさというか、周囲と感覚の合わなさを感じていたのはそういうことかと。

これまで事業として携わっていた問題は、一見すると異なって見えるかもしれません。でも、やはり似ている部分がある。それは「孤立」です。僕はこの孤立を解消したい。

ペアチルは審査を通過し、内閣官房「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」に参画している

 

“気兼ねなく話せる存在”は生きる気力になる

――それが一般社団法人ペアチルの設立に繋がると。ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」を始めようと思った理由について教えてください。

いろいろな背景があるのですが、一つはずっと母に恩返しをしたかったからです。

幼い頃から「当たり前」とは思えない環境で育ってきたので、離婚後、当たり前のように高校生活を送っていいのだろうか……という葛藤がありました。

アルバイトをして家計を助けた方がいいのではと、母に打ち明けたところ、それまでほとんど怒られたことがなかったのに、「そんなことは考えなくていい」と怒られたんですよ。

そのことがあったから、割り切って自分の夢を実現させる気合が入りました。

それでも、母に対して何か返したいと思い続けていたので、離れて暮らしても毎日LINEで連絡を取っていました。同時に、母のように孤立するひとり親の方々の気が和らぐような何かができたらという思いを抱くようになったのです。

――「孤立」を解消するには、直接的な支援も考えられそうですが、なぜアプリだったのでしょう。

ひとり親への世の中にある支援を見渡すと、就労支援や食糧支援、住まいの支援といったハード面の支援はある程度整いつつあると感じました。

ソフト面の支援については、自治体さんが主導するコミュニティなどがありますが、ひとり親の方々にお話を聞くと「仕事と育児と家事をワンオペで回す中で、なかなか時間調整ができない」という物理的な難しさと、「気力がない」というメンタル面の難しさがあることがわかったのです。

僕は、ここが問題だと思っています。なぜなら、ひとり親に向けた素晴らしい就労プログラムがあったとしても、気力がなければたどり着けないし、継続できません。

なぜ気力が湧かないのか考えると、その一つには、“ちょっとしたことを気兼ねなく話せる存在”が近くにいないからではないかと考えたのです。僕の母もそうなのですが、ひとり親の方々はそういった関係を作りづらい状況が生まれている。

ひとり親という同じ境遇の方々が出会って、雑談や情報交換ができる仕組みが世の中に必要だと思い、このアプリを作りました。

ひとり親のための制度改革を見据えた3ステップ

――ローンチ後、課題はどこにあると感じますか?

これまで活動してきた中で感じるのは、「ひとり親」と一括りにしてはいけないということです。

当然ながら、子どもの人数や年齢、異性の子どもがいるか、障がいを持っているかなど、変数が多いゆえに悩み事や状況が異なります。同じひとり親の方でも、話が合わなかったり、悩みをわかってもらえなかったりするという状況が見えてきました。

そのため、詳細な境遇を元にマッチングできるよう設計を見直し、現在は「異性の子どもがいる」「自死遺族」「子育ての相談ができる人がいない」「起業を検討中」といった境遇を表すタグを導入し、境遇の近い方を見つけやすいようアップデートしました。

――子どもを育てる保護者は、相手の性別や属性、そもそも信頼できる人なのか心配になると思います。安全性の担保についてはどのように考えていますか。

既存のSNSであるような心が傷つく体験が増える確率は何としても下げたいので、アプリをご利用いただく方のフィルタリングには力を入れています。

ひとり親の方、再婚など過去にひとり親だった方が安心してご利用いただけるよう、本人確認の書類提出を必須にしています。

――今後の展望についても教えてください。

ファーストステップは、「当事者同士の出会いを最適化すること」。

そして次のステップは、支援団体さんや自治体さんが発信する、ひとり親の方に役立つ情報へのアクセスを「各エリアごとに最適化すること」です。

そうしてデータが集まることにより、リアルな課題が浮き彫りになる。そこで3ステップ目は、制度改革へ向けた活動の根拠となる「データ設計」を行なう必要があると感じています。

――見据えている制度改革とは、具体的にどのようなものなのでしょう。

まずは、ひとり親に対する手当の基準の見直しです。

他にも、支援制度はあっても必要な人がアクセスしにくいという状況があるため、そのあたりを援助するロビー活動が行なえればと思っています。

社会問題領域でビジネスモデルを作る

――社会課題の解決は、これまで行政やNPOが担っていたイメージがあります。

ペアチルではユーザーさんに対するアプリ内の課金はなく、完全無償でご利用できますが、僕はビジネスモデルをしっかりと作りに行くつもりです。

なぜなら、ビジネスモデルがないものは継続できない。ユーザーさんに変な期待と絶望を与えかねないサービスならば、やる価値はないと思っています。

ペアチルは、助成金や寄付金に依存しないビジネスモデルを社会問題領域で作るという、チャレンジの最中でもあるのです。

――これまで解決できなかった問題に挑むことは、険しい道になるかもしれませんが、リコ活としてもその思いに賛同します。

なぜ社会問題があるのか。端的に言えば経済合理性が働かないからだと考えています。

要するに、解決できるビジネスモデルがないからプレイヤーが増えず、プレイヤーが増えないから問題が残り続けている。課題を発見、分析し、それに対するビジネスモデルを構築し、チャレンジするプレイヤーが増えなければ、その社会問題は日本に残り続けてしまうという危機意識があるんですよね。

日本はある意味、社会問題の先進国です。戦後、経済大国として急成長したがゆえに、他国より先にいろいろな問題にぶち当たっているのだと思いますが、それは見方を変えれば産業を生み出すチャンスでもあると思うのです。

経済合理性が働きにくいとされている社会問題領域のビジネスモデルを日本発で生み出すことで、日本の立ち位置を上げることができれば、再び日本が世界で戦う一手段になるのではないかと思っています。

 

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