【座談会②】共同親権についてどう思う?子どもの立場から見た「親の離婚」
更新日: 2023年10月31日

「離婚しても、子どもに対する関心を失ってはいけない」家族法研究歴約50年、一般社団法人 面会交流支援全国協会(ACCSJ)の代表理事も務める立命館大学名誉教授の二宮周平先生はそう語ります。親の離婚を経験した、かつての子どもたちは離婚後共同親権について何を思うのか――。二宮先生と親の離婚を経験した4名の座談会を実施しました。
離婚後共同親権への歩み
――2023年8月29日、法制審議会家族法制部会で「離婚後の共同親権」が選択できるという法改正のたたき台が公表されました。離婚後共同親権導入の背景について、二宮先生にご教示いただければと思います。
二宮:まずは、共同親権がどういうものなのか説明しますね。
現行法は1947年に作られました。婚姻中は父母の共同親権ですが、当時、離婚後に父母が協力して子どもの監護や養育をすることは想定されていなかったために、離婚後は父母どちらか一方が親権を持つ単独親権となったのです。
単独親権者になった親は子どもについて全責任を負います。名字の変更や再婚相手と養子縁組するかどうかも、その親の一存でできます。
手続きとしてはシンプルかもしれませんが、非親権者は子どもと接点が減るため、親としての自覚が乏しくなり、結局離れて行ってしまうといったことがあります。

※写真はイメージ(iStock.com/Nazan Akpolat)
養育費の分担や、面会交流が続かないといったことの背景には、子どもとの関係が切れてしまうことが関わっているのではないか――だから、離婚後も子どもに対して父母共同の責任があることを明らかにするために離婚後の共同親権への議論が進んでいるのです。
多くの国では、5年から10年ほど選択的共同親権の経験を積むと、徐々に離婚後も親が関わった方がよいことがわかってくるので、原則共同親権に改正していくという変化があります。しかし日本にはまだ土壌がないので、選択性で、できる人からやりましょうというわけです。
したがって、離婚後共同で親権を行使するだけの協力関係があり、話し合いができる父母に限られるかもしれませんね。
南さんのように、お父さんに暴力を振るわれていたケースでは、離婚後に子どものことを一緒に考えるのは難しい。そうした場合は単独親権にならざるを得ないでしょう。
ただし、他の3名の方の場合は虐待やDVはなく、いろいろな事情や価値観の違いで離婚することになったということですから、これは大人の事情であって子どもには関係ない。
それならば、もう少し子どものために歩み寄る努力をしてみませんか? というような親のためのガイダンスがあれば、共同親権を選ぶことができるかもしれません。
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仮に再婚家庭があったとしても、子どもに対しての親であることに変わりなく、責任があるのは当然です。子どもに対する関心を失ってはいけません。
離婚時の親向けガイダンスが徹底されている欧米
――みなさんは既に成人されているので直接関わることではないかもしれませんが、先生のお話を受けて、共同親権についてのお考えを教えてください。
井上:私の場合、母の再婚相手の父とうまくいかなくて、それこそDVのような感じだったんです。高校生の時に養子縁組を解消したいと言われ、母方の祖父母の戸籍に入りました。だから戸籍上、母とは姉妹なんです。
その頃、共同親権の制度があったとして、一切連絡をとっていなかった実の父と暮らすことは選択肢になかったと思います。
共同親権は理想的だと思いますが、その一つしか選べないと少し難しいのではないかと感じます。

※写真はイメージ(iStock.com/designer491)
中沢:私の父親は元気でパワフルで、悪い人ではないと思うけれど本当にちゃらんぽらんで。親権についての意識が父と母で差があったというか、そもそも父がどれほど親権について知っていたのか疑問です。
二宮:婚姻中、うまくいっているときはいいのですが、離婚して非親権者になるとはどういうことか、お父さんはほとんどご存知なかったのかもしれませんね。だからこそ、夫婦が別れる時にはガイダンスが必要なのです。
共同親権が原則の欧米諸国は裁判離婚しかないため、離婚手続きに入る時に、裁判所の外部機関である家族センターなどでガイダンスを受け、親の責任について学びます。
それと同時に、養育費の分担や面会交流について取り決めなければ離婚できません。原則、共同親権なので、進学、入院、転居、教会など重要な事項は父母の協議で決めます。
松田:すごいですね。

成年年齢引き下げにより、奨学金手続きは親の同意が不要に
南:一点、二宮先生に質問してもいいですか? 両親が離婚する時に、父親名義の借金を押し付けられたくなかったので、すごく確認した記憶があって。親権者は子どもに借金を背負わせたり、子ども名義でお金を借りることができたりするのでしょうか。
二宮:親の借金は子どもと無関係です。ただし、親権の有無ではなく実の親子関係があるため、親が亡くなった時には子どもが相続人になります。
相続はプラス財産だけでなく、マイナス財産も継承する。そのため、もし借金が莫大なら相続放棄をすることも可能です。
ただし、親権者には財産管理権があり、子の代理をすることもできます。たとえば、子どもが私立大学に入学した時など、学費として親が子ども名義で借金をすることができます。
南:子どものための前向きなお金の使い方ならいいんですけどね。
二宮:なお、借入型の奨学金の場合、未成年者は親権者の同意が必要でしたが、今は18歳から成人なので、大学入学時には自分で手続きをとることができます。
南:そうなのですね。他のことがわかっていないと、自分の中で共同親権についてイエス/ノーは出てこないですね

できる人から取り組み、社会をアップデートできればいい
――松田さんのご意見をお聞かせいただけますか。
松田:経済的依存もなく、お互いに自立している状態で別れる人たちも増えている印象なので、対話できる関係性であれば選択肢の一つとして、共同親権はいいなと思ったのが、お話を聞いた感想です。
「こういう制度もあるよ」と理想を示した上で、それを選んだ元夫婦や親子が素敵な関係を築いているモデルケースがあると、目指そうと思える人たちも増えていくのではないでしょうか。
ただ、私の親は、あの状態で共同親権があったとしても難しかっただろうなと。それでも、「別れてもああいう関係っていいよね」という思いが広がってきたら、きっと何かしらの光が見えるかもしれません。
親側のリテラシーもアップデートされて、子どもには同じ思いをさせないように協力しようという対話が生まれるきっかけになりそうな気がします。

二宮:ありがとうございます。私が言いたいことを全部言ってくれた。
一同:(笑)。
松田:昨年、娘を出産したのですが、夫も娘を溺愛していて。でも、私の親は離婚をしているから「どんなに大好きでも離婚は無いことではない」という想定はしています。
今の関係性の中だと、仮に離婚という選択をとっても、夫も娘とずっと関わり続けられる共同親権という選択肢もいいなと思いました。
気持ちを押し殺すことは思いやりではない、思うことは伝えていい
――共同親権の場合も、基本的にはどちらかの親と暮らすことになると思うのですが、そうなると、子どもとしては同居する親の顔色が気になると思います。
二宮:親の意識を変えなければいけないし、子どもにもSOSを出していいことや、親に対してもっと意見を言っていいんだという、子どもへの情報提供やガイダンスも必要ですよね。
相手の気持ちを忖度して遠慮することが思いやりだからと、自分の気持ちを押し殺してはいけません。子どもだって思うことがあるのだから、親子ゲンカだって当たり前。思っていることは伝えていいのです。
そんなふうに日本社会が変わっていくといいという期待を持っています。
毎年、若年人口が減っていますから離婚件数は減少しているものの、19万から20万人弱の未成年子が親の離婚を経験しています。その子どもたちの、約87%は母親が親権者で、約11%は父親。兄妹別々の親権者が約3%。
もちろん、もう一方の親に全く会えない状況でも構わない子どももいると思います。でも、口には出さなくても「どうしてるかな」「自分のことをどう思っているんだろう」と気になったり、心配になったりする子どももいるでしょう。
できるだけ別居している父母との関係性を途絶えさせない方がいい。そうすると、同居する親の手を離れて大人になっても、もう一方の親と会いやすくなりますから。

それぞれに異なる、子から親への思い
――最後に、親の離婚を経験した子どもの立場から、今現在、離婚を考えている方に向けてどんなことを伝えたいですか。
中沢:親は話してもわからないと思って、面と向かって話さなかったのかもしれませんが、親が思う以上に子どもは家庭の空気に敏感です。
10歳くらいでもすごく親のことを見ているし、気になっているので、もう少し話し合いの場があるとよかったなと思います。子どもを子ども扱いせず、家族の一員として、一人の人間として向き合ってほしいです。
南:母と過ごしてきて思うことは、子どもに対して謝罪よりももっと感謝していいのではないかということです。
母が選んだ人と別れることにより、確かに僕自身にもいろいろな影響がありましたけど、謝ってばかりだと、なんというか一緒に暮らしてても楽しくないんですよね。謝罪は胸の内に留めておいて、「幸せ」とか「ありがとう」とかそういう言葉を口にしてもらった方がいいのかなと思いますね。
中沢:母親が幸せそうにしていたら子どもは安心するし、「まぁいいか」と思えますよね。

※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)
松田:私は、離婚する前の母は泣いていた記憶が多いので、別れた後に吹っ切れてハツラツとした母に戻った時は、よかったなと思いました。それに、「お父さんとは夫婦ではなくなったけど、あなたのお父さんと結婚してよかった」と、ずっと私に伝えてくれたのは強いなと。
その一方で、進路のことで私が仲介役として父に連絡をとった時に、母のメンタルの揺らぎや不機嫌さを敏感に感じていました。「私のせいでこんな気持ちにさせちゃってごめんね」というか。
大人として演じ切ってほしかったですし、「大人なんだから事務連絡くらいちゃんとしてよ!」と思いました。子どもが関わらなくていいことには、適度な距離感を置いてもらう配慮があれば嬉しかったです。
井上:私自身は小学校一年生ながら、どちらの親と暮らすか選ぶ権利をもらえましたし、自分が選んできた道に後悔はありません。
自分で選択した責任は、子どもながらに理解している部分もあると思うんです。だからもっと子どもの意見が尊重される形になればいいなと思います。
選択の責任を負うのは親
――二宮先生は、4名のお話を聞いてどう思われましたか。
二宮:まずは、井上さんにお聞きしたいことがあります。
『子どものためのハンドブック 親の別居・親の離婚』に「Having a voice、No choice. 」という標語があります。大人が子どもの意見を聞くことは大事です。でもそれは、大事なことを子どもに決めさせる、ということではない。
子どもの意見を参考に、大人たちが一生懸命考えるから、あなたは安心して意見を伝えていいんだよ、というメッセージなのです。
井上さんは、自分の思いを伝えて選択したとおっしゃっていましたが、つらくなかったですか?

井上:父と二人きりでコミュニケーションをとる機会が少なかったので、母を選ぶことに迷いはなかったです。
ただ、母の一方的な気持ちを聞いて判断してしまったので、父の思いを直接聞いていたら、もしかしたら考えが変わったり、悩んだりしていたかもしれません。
二宮:やはりケースバイケースで考えざるを得ませんね。そうしたことがたくさんあるのだと、よくわかりました。
私は法学の研究者なので、どうしても研究目線になってしまうんですよね。そのため、「これが最も理想的な制度で、こうすればよくなるのではないか」と制度を作ることについて一生懸命考えているんですけれど、それが全てのケースに当てはまるとは限らない。それぞれ抱えている事情が違いますからね。
それでも親には、子どもの本当の思いに気づく大人であってほしいと願います。そのためにも離婚前の親に向けた教育の場が必要ではないかと思いました。
今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。
――ありがとうございました。

この記事は2023年10月31日に配信しました。
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