【前編】ADR(裁判外紛争解決手続)とは?協議/調停離婚との違いを解説

更新日: 2024年09月06日

当人同士が行う協議離婚でもなく、裁判所で行う調停や裁判離婚でもなく、「ADR」によって「穏やかで納得のいく解決」を目指すことができるといいます。ADRとはどのような制度なのでしょうか。家族のためのADRセンター代表の小泉道子さんに解説いただきました。

高い専門性と柔軟な解決「ADR」

――まずはADRがどのような制度なのか教えてください。

ADRの正式名称は「裁判外紛争解決手続」といいます。

iStock.com/Nadezhda Kozhedub

家庭裁判所の離婚調停も「裁判外」なので裁判所が行うADRといえますが、一般的には「民間機関が行う裁判外紛争解決手続」を指します。

また、ADRには法務大臣の認証を受けたものと受けていないものがあります。法務大臣の承認を受けていないADRを行えるのは弁護士のみです。

――裁判という制度があるにも関わらず、なぜADRがあるのですか?

ADRの対象となる事案は、医療過誤や海外企業のM&Aに関する紛争、災害に関する紛争から保険などの金融トラブル、隣人との騒音トラブルや隣地境界線の争いに至るまで多岐にわたります。

専門性が高い紛争では、裁判官が判断するよりも専門家に委ねた方が互いによい結果が得られる場合があります。あるいは、弁護士さんに依頼すると弁護士費用の方が高くつく場合もありますし、親族間の争いでは穏やかに進めたいといった場合もあるでしょう。

※写真はイメージ(iStock.com/maruco)

こうした問題をケースに応じて早期に専門性高く、柔軟に解決できる点がADRの一番の意義です。

――ADRの解決方法について教えてください。

ADRには「あっせん」、「調停」、「仲裁」の三種があります。

あっせんと調停は当事者間の話し合いが中心で、内容はほぼ同じですが比較するとあっせんの方がより自由度の高い解決方法というイメージですね。

仲裁は仲裁法という法律があるほど、最も拘束力が強い手続きです。当事者は仲裁判断を拒否することができず、仲裁がなされたケースについて原則的に裁判を起こすことができません。

私たち家族のためのADRセンターではADRによる調停を行なっています。

ADRと協議離婚、調停離婚の違い

――親族間紛争、とりわけ離婚を扱う家族のためのADRセンターではどのようなことを相談できるのでしょうか。

ADRは相談機関ではなくあくまでも調停機関です。ただ、当センターでは離婚カウンセリングや夫婦カウンセリングも行っており、相談機関を兼ねているため、離婚に関するどんなことでもご相談いただけます。

※写真はイメージ(iStock.com/fizkes)

――依頼者は離婚に関してどのようなタイミングでADRに相談されるのでしょう?

最も多いのは、離婚するために自分で頑張ってみたけれど、どうしてもそれ以上進まないという方。

相手に離婚したいと伝えたけれど応じてもらえない、何かしらアクションを起こしたけれど家を出てくれない……でも弁護士費用は高いし、裁判というと大げさだし、ここからどう進めていけばよいかわからないという方が多いですね。

――ADR調停と当事者間の協議離婚のすみ分けについては、どのようにお考えでしょうか。

ADRと家庭裁判所のそれぞれに何を求めるのか。そのニーズの差だと思っています。

まず、ADRの調停を行う方々の半分は紛争性が低い方々だと感じます。

法律的な知識はないけれど互いに妥当な結論を導きたいと考える方々は、間に専門家が入り、同席で話し合いが可能です。こうした方々にとっては、ADRという解決法はメリットが大きいのではないでしょうか。

※写真はイメージ(iStock.com/kazuma seki)

もう半分のある程度紛争性が高く、同席の話し合いができない方々はADRと家庭裁判所のすみ分けについて考える必要があるかもしれません。

私は家庭裁判所で働いていたため、どちらのメリットに惹かれるかを見極めれば、ADRでも家庭裁判所での解決でもどちらでもよいと考えています。

弁護士を立てなければ家庭裁判所の調停離婚の方が費用は抑えられます。また、ADRであれば話し合いの場に来なくても、家庭裁判所に呼ばれたら来るという方もいるかもしれません。そういった意味で裁判所には権威性もあります。安さと権威性を求める方は裁判所での解決がよいでしょう。

一方で、多少の費用を払ってでも専門性の高い調停人に入ってもらい、穏やかに柔軟な解決を望む方はADRが向いていると感じています。

――2024年にはADR法が改正され、特定条件下において強制執行が可能となります。そうなると、裁判所の調停とほぼ変わらなくなるのではないでしょうか?

大枠に違いはありませんが中身は少し違います。

ADRによる合意内容に執行力を持たせるためには、まず、特定和解という合意を行います。それだけでは強制執行はできず、裁判所で執行決定を受けるというワンステップが入ります。

また、離婚成立の瞬間も異なります。裁判所の調停は調停調書を提出し、調停成立すれば離婚したことになりますが、ADRは協議離婚の域に入るため双方が離婚届に記載し受理されたときに離婚が成立します。

ADR調停のプロセスと「冷静な話し合い」ができる理由

――ADRの流れについて教えてください。

当センターのADRによる調停手続きの流れは、以下の通りです。

※費用は変更になる可能性があります。詳しくは家族のためのADRセンターホームページをご確認ください。

1回目の調停では、主に感情面や希望する離婚条件についてお話いただきます。源泉徴収票や預貯金など、相手に求めたい資料を次回までの宿題としてご用意いただき、2回目では資料の精査を行います。

それ以降は合意に向けた話し合いを重ね、成立すれば合意書の読み上げと説明を行い終了となります。

――調停は1回1時間とのことですが、通常何回ほど行うのですか。

お子さんのいないケースでは3回ほど、お子さんがいるケースでは3~5回ほどです。

――原則同席ということですが、その場で話し合いがこじれて揉めることはないのでしょうか。

ADRの調停は同席といっても9割がオンラインで行われます。

調停の際には簡単なルールを二つだけお願いしています。一つは、「誰かが喋っている時は最後まで聞いてください」ということ。もう一つは、「お互いに話すのではなく調停人に話してください」ということです。

※写真はイメージ(iStock.com/PeopleImages)

このルールに則って冷静な話し合いが行われることがほとんどです。どちらかというと家庭裁判所で行われる別席調停の方がヒートアップしやすい傾向にあるかもしれません。

また、期日費用を頂戴していることも心理的に作用していると感じます。限られた時間内の話し合いに費用がかかることを認識し、みなさん理性的にタイムマネジメントされています。

――話し合いを円滑に進める調停人のスキルの高さも関係しそうです。

当センターでは、調停技法やハーバード流交渉術などを学びながら、当事者おふたりの納得が最大になるような話し合いを目指しています。

自分が望むA案か、相手が望むB案か、というときにA’,B’といった折衷案を探るだけではなく、双方が納得できる別のC案を探すという協議姿勢が大切になってきます。

 

後編:【取材】ADRが向いているのはどんな人?家族のためのADRセンター代表インタビュー

小泉 道子(こいずみ・みちこ)/家族のためのADRセンター代表。平成14年4月 家庭裁判所調査官補(国家公務員一種)として採用。以降、各地の家庭裁判所にて勤務。平成29年3月 東京家庭裁判所を最後に辞職。平成29年4月 家族のためのADRセンター離婚テラス設立。行政職員向け等研修講師。法制審議会仲裁法制部会会議及び法制審議会家族法制部会会議に参考人として参加。

※この記事は2024年4月9日に公開しました

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