【体験談②】「ふざけるな」行き場のない怒り… 親の離婚を経験した私が伝えたいこと
更新日: 2024年12月02日

親の離婚を経験した子どもたちの声をまとめた冊子『「離婚の子ども」の物語』にも登場する1人、羽津千幸さん(仮名)。お金の問題で苦労した子ども時代のエピソードや母親への思いをお話いただいた前編に続き、現在の羽津さんの心境や離婚を考える方に伝えたいことをお届けします。「離婚の子ども」の当事者かつ公認心理師の立場から冊子の共同執筆者を務めた筆者がインタビューを行いました。
20年たっても消えない親の離婚による苦しみ
前編:【体験談①】離婚後、家に帰らず私を置いて出産していた母
――羽津さんは今も親の離婚の影響によって苦しむ場面があると冊子で書かれていました。親の離婚から20年以上が経った今でも続く苦しみには、具体的にどういう苦しみがありますか。
先ほど触れた「自己否定がなかなか解けない」というのも、親の離婚による長期的な影響の一つだと思います。私の場合、それを克服してもお金の問題が長く続きました。たとえば、相続の問題です。父が住んでいた家があり亡くなった後もずっと未相続になっていたのですが、司法書士さんに頼むお金もないし、修繕するにも、解体するにもお金がかかります。そんなお金はとてもありませんでした。
結局、固定資産税もずっと払っているし、稼いだお金が全部解体費用に消えていくのをみていると「私、なんのために働いているんだろう」という気持ちに襲われ絶望しました。親が離婚するのは仕方ないとしても、数十年先の将来まで考えて財産や相続の問題はちゃんと整理してほしいなと思います。この一点だけを考えても、何十年にもわたり、何重苦にもなって親の離婚の影響は子どもに振りかかってきます。
――子どもにとって親の離婚はどのようなものだと感じますか。
まず「悲しいもの」ですよね。10歳よりも小さい子どもたちが親と会えないのはつらいことだなと思います。私も子どもたちが生まれた後で離婚してしまうかもしれないという時期がありました。
でも子どもたちのことを見ていたら、できないなと思ったんです。子どもたちは両方の親が好きなので、これで離婚したら子どもたちの心が絶対壊れるなと思いました。それぞれの家族の関係性にも影響されると思いますが、「お父さんもお母さんも大好き」という子どもほど親の離婚がつらくないはずがありません。

※写真はイメージ(adragan - stock.adobe.com)
――それはどういう種類の「つらい」なのでしょうか。
「会えなくてつらい」という側面は大きいと思います。大人からすれば死んで会えないわけではないと思うかもしれませんが、子どもたちにとっては目の前から突然存在が消え、どこにいるかもわからず、会える手段もないので「死んだも同然」に近いと思います。急に身近な人が死んだら誰だってつらいですよね。それと同じです。
「ふざけるな」という怒りと苦しみ 再婚時期は慎重に
――親が離婚をするときに気をつけてほしいことについて、羽津さんはどうお感じになりますか。
平易な言葉にはなってしまいますが、まずは第一に子どものことを考えてほしいと思います。そのなかでも特にお伝えしたいのは、再婚はすぐにしないでほしいということですね。
自分の恋愛感情をコントロールするのはたしかに難しいかもしれません。再婚するなとは言いませんが、子どもの年齢が10歳くらいだとまだ早いから、せめて成人手前くらいにする、などと配慮してもいいと思います。
成人手前になれば、子どもの理解度も深まってくるので、親の背中を押してくれることもあるかもしれません。小学生や中学生といった思春期のうちは「彼氏(彼女)」という立場であっても同じです。
仲良くできる子どももいると思いますが、少なくとも私は拒否感を抱いていました。子どものことを考えずに親が自分の恋愛に走っていると感じたら、その瞬間に親子関係にひずみが生まれます。
――「離婚の子ども」たちは、「一般家庭の子」にはない努力や我慢をしていますからね。そのような逆境的な状況のなかで、社会的にも周囲からの理解を得られずに精神的に追い詰められてしまいます。
私の場合は、母親が家に帰って来ずに、別の男性と子どもを作っていたわけです。「ふざけるな」という気持ちが次第に怒りに変わっていきました。その怒りはやがて「社会への怒り」のような感情へと成長し、気づけば「行き場のない処理しきれない怒り」になり、苦しみました。
いま思えば、精神的に追い詰められていたのかもしれません。その怒りを誰かにぶつけてしまうことがあったらと思うと、そういう怒りを持つ自分こそ怖いなと思うようになっていました。

※写真はイメージ(Photo Sesaon - stock.adobe.com)
どんな家庭の子でも「子どもの権利」を守りたい
――羽津さんはいま子育て支援に携わっているということですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。
ベビーマッサージの先生です。「なぜ私がベビーマッサージをするのか?」と考えたこともありました。そのときに、やっぱり「子どもを守りたい」という気持ちが自分のなかにあると気づいたのです。
もちろん保護者の方の支援も大切なのですが、幼少期に自分が権利を脅かされた時期があったからこそ、どんな家庭に生まれたとしても、子どもたちの権利をちゃんと守りたいと思ったのです。
――羽津さんは自分自身が「頑張らないと存在価値がない」と思い込み、自己否定ばかりする幼少期を過ごしていたとのこと。だからこそ、冊子では「幸せになってもいいんだよ」というシンプルなメッセージを掲げて社会に投げかけているようにもみえます。
ご指摘のとおり、私は自分自身を「存在価値がない人間」だと思い込み、自己否定ばかりして生きてきました。その思い込みを解くのには、とても長い時間がかかってしまいました。
今の子どもたちも同じで「こんなことで悩む自分は駄目だ」などと、自己否定する子どもがたくさんいます。だからこそ、私と同じようになってほしくないし、「幸せになっていいんだよ」というメッセージを伝えたいと思っています。

※写真はイメージ(Dmitrii Kotin - stock.adobe.com)
もうひとつ伝えたいことがあって、それは「もがくことは間違いではない」ということです。親が離婚すれば家庭内ではいろいろなことが起こり、誰だって自分を否定したくなるし、もがく状況に陥る。それは特殊なことではなく、必要だからもがくわけであって、当たり前のことだと知ってほしいと思います。
第三者が「子どものことを子どもに聞く」社会に
――最近では夫婦の離婚を考えるにあたって「子の福祉」が大事だということも以前より言われるようになってきた一方で、具体的な内容が伴っていないのが現状です。羽津さんは「子の福祉」とはどのようなものだとお感じになりますか。
シンプルに表現するなら「子どものことは子どもに聞く」を実践することです。子どもに聞いた結果、「よくわからない」でもいいと思うんですよ。たとえば「お父さんとお母さん離婚したけど、どんな気持ち?」とか「しんどいことない?」といういうように、親以外の人が客観的に聞いてくれることが大事だと思います。
親はどうしても主観が入りますし「お父さんとお母さん、どっちがいいか」という比較になりがちです。そうではなくて「今の状況をあなたはどう思ってるの?」と客観的に聞いてもらえる機会が必要です。自分の気持ちを言葉で表現することで自分の気持ちに気づくことや、自分の気持ちを整理して「私ってこう思ってたんだ」と再認識することもあります。そうしてはじめて、子どもは自分の気持ちを大事にできるのです。
子どもに我慢をさせてはいけません。無理やり聞き出そうとするのはよくないけど、誰かが気持ちを聞いて子どもが意見を表明できる、それが子どもの権利を守ることでもあり、「子の福祉」ではないかと思います。

文中に登場した冊子はB4判112ページで、税込み千円(送料別)。問い合わせは、「『離婚の子ども』の物語」事務局(rikonnokodomo@gmail.com)へ。
※この記事は2024年11月27日に公開しました
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