夫の単身赴任に耐えられなくなり、離婚を考える妻がいます。夫についていければいいのですが、自分も働いていたり子供がいたりするとそうもいきません。どうして単身赴任が離婚を考えるきっかけとなってしまうのか。夫婦関係が壊れる原因や離婚を考えたときの対処法を解説します。
夫の単身赴任に疲れた!離婚したい
夫の単身赴任は、それほど珍しいことではありませんが、夫のいない生活に不安を覚えたり、単身赴任中の夫の生活に疑念を抱いてしまったりする妻は少なくありません。中には気持ちが離れる妻もいて、離婚まで考えてしまうケースもあります。
夫が女性と二人でお酒を飲むような場所に行き、おごっているのが許せないのですが、これは私の心が狭いのでしょうか。
単身赴任をして以来、2年の間にこのような浮気(体の関係がなくても私は浮気だと思っていいます)が3度ありました。大喧嘩になり家庭崩壊寸前でしたが、私もいたらなかった部分を認め反省し、彼も謝ってくれました。最近は落ち着いていたのですが、また食事に誘っているようで、これからずっとこういう状態の繰り返しかと思うと、精神的に疲れてきました。
いっそ、正社員として職に就き、子供と家を出てしまおうか、とも考えています。
単身赴任中の夫
こちらから連絡しなければ
全くしてきません
土日は仕事じゃないのに
まるで独身者気分…
子供や家庭の事は気にならないのでしょうか?もう戻って来る前に離婚ですかね
夫の単身赴任生活に耐え切れなくなり離婚を考えたとき、どのように対処すればいいのでしょうか。離婚の手続きや離婚を検討する際のポイントなどについて解説します。
単身赴任中の夫と離婚はできる?
単身赴任中の夫が妻や子供のことをないがしろにしたり、浮気や不倫に走ったりしてしまった場合、夫と離婚できるのでしょうか。離婚できるケースや離婚手続きの進め方などを解説します。
お互いに合意できれば離婚は可能
離婚は基本的に夫婦の双方の合意によって成立します。どちらかが離婚を切り出したときに、相手も離婚に応じれば離婚は可能です。実際には、財産分与や親権、養育費、慰謝料などの条件について話し合う必要がありますが、条件を含めて合意して、離婚届を役所に提出すれば離婚が成立します。このように話し合いで離婚することを協議離婚といいます。
ただ、相手が離婚を拒否した場合は、一方的に離婚はできません。また、財産分与などの条件をめぐって話し合いがつかないこともあります。相手が単身赴任中だからと言って、勝手に離婚届を出してしまう妻もいますが、夫の同意がなければ離婚は無効になってしまうことがあります。
離婚の合意を得られないときは調停という手も
離婚をめぐる話し合いが決着しない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることが可能です。調停とは裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。しかし、合意できる見込みがないときは調停不調として打ち切られてしまいます。
調停が打ち切られると、再び離婚の話し合いを続けるか、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を求めることになります。裁判で認められれば、相手の合意がなくても離婚が可能です。ただし、離婚裁判を起こすには離婚調停を行うことが前提で、離婚調停を行わずに裁判はできません。
裁判で離婚が認められるには離婚事由が必要に
離婚裁判では、家庭裁判所が証拠に基づいて離婚を認めるべきかどうかを判断します。裁判所は、民法で定められた「離婚事由」があり、夫婦関係の修復が困難だと判断すれば、離婚を認めます。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
しかし「夫が単身赴任をしていて寂しい、つらい」というだけでは、裁判所に離婚を認めてもらうことはできません。単身赴任中の夫が不倫や浮気をしていたのなら、離婚が認められる可能性があります。夫が十分な生活費を渡さず、赴任先で遊びまわっている場合も、離婚事由と判断されやすいでしょう。
しかし、裁判所が「夫婦関係の修復が可能」と判断すると、離婚を認めてもらえないないことがあります。このため、裁判になったときは、夫婦関係が破綻していることを証明しなければなりません。夫婦関係が破綻していることを推認する事情として、相当期間の別居というものもありますが、単身赴任による別居は直ちにこれに該当するわけではないからです。
単身赴任が離婚につながりやすい理由
どうして、単身赴任が離婚の原因となってしまうのでしょうか。単身赴任が離婚につながりやすい理由を説明します。
気持ちのすれ違いが多くなる
夫が単身赴任をすると、夫婦で顔を合わせる時間が減り、会話も減ってしまうため、すれ違いが多くなってしまいます。このため、互いの気持ちが通じにくくなり、口論や喧嘩が増えてしまうことがあります。相談事や悩み事があるときに、相手がそばにいないと相手への信頼感も薄れていくものです。
相手と心理的な距離感を感じ、信頼感が薄れていくと、愛情も失われていくことがあります。また、愚痴や悩みを聞いてくれる人がそばにおらず、寂しいと感じてしまうことなどから浮気に走ってしまう夫や妻もいます。
独身気分になり相手の必要性を感じなくなる
単身赴任で一人暮らしを始めると、独身に戻ったような気分になってしまう夫もいます。それでもまめに家族と連絡を取り、休みの日には帰宅してくれればいいのですが、「仕事が忙しい」などと言って、しだいに帰宅しなくなる夫もいます。そうした夫の変化に妻が疑念を抱くことも少なくありません。
夫のほうはつかの間の自由を満喫しているつもりかもしれません。しかし、そうした生活を続けていくうちに、妻の必要性を感じなくなることがありますし、妻のほうも夫がいなくても生活ができると感じ、気持ちが離れる恐れがあります。
さらに、夫や妻と生活するより一人で自由に生活した方が楽だと考えるようにある人もいて、もともとの夫婦関係がうまくいっていなかったときは、亀裂が決定的になる可能性もあります。互いに「このままずっと単身赴任でいいのに」と思うようになり、赴任期間が終わった後、間もなくして離婚するというケースもあるようです。
金銭トラブルが起きやすい
夫の単身赴任中は、金銭トラブルも起きやすくなります。特に夫のほうは自由に使えるお金が増え、使い道をあれこれ言われなくなるため、浪費してしまうことがあります。ギャンブルや夜遊びにはまってしまうケースも珍しくありません。
一方で妻のほうも、夫の不在をいいことに高価な物を買って散財してしまうことがあります。夫がいないストレスを買い物で発散するという人もいるようです。通常、会社からは単身赴任手当などが出るため、生活に困ることはないはずですが、そうした浪費が身に着いてしまうと、いずれ大きな金銭トラブルから離婚に至る可能性があります。
浮気をしやすくなる
単身赴任をすると、配偶者と離れて暮らすようになり、相手の目を気にする必要がなくなります。そばにいてくれる人がいない寂しさや不安から他の異性に引かれる人がいますし、夜遊びの中で異性と親密になる人もいます。赴任先が遠く、配偶者と会う機会が減るほど「少しの浮気ならバレないだろう」という気持ちになってしまいます。
単身赴任をきっかけとした浮気と聞くと、夫を思い浮かべる人が多いと思いますが、家に残された妻が寂しい気持ちから浮気をしてしまうケースも少なくありません。中には実家に子供を預けて浮気相手と密会するという人もいるようです。
出典: リコ活MEDIA
気持ちが冷めていく
人には、相手との接触回数が多ければ多いほど、相手を気にするようになる傾向があります。つまり、頻繁に顔を合わせる人に対して、好意を抱きやすいということです。これを心理学の用語でザイオンス効果と言います。逆にいえば、顔を合わせる回数が減ってしまうと、相手への関心が薄れやすいということです。
また、夫婦の間に子供がいた場合、夫が単身赴任すると、妻は一人で子供の面倒を見なければならなくなります。ワンオペで家事や育児をすることになれば、当然疲れてしまいますが、家には不平や悩みを聞いてもらえる相手がいません。そうして妻がストレスを溜めこみ、夫への不満から気持ちが離れることもあります。
単身赴任中の夫と離婚する流れ
単身赴任中の夫と離婚したいと思ったとき、どのように進めていけばいいのでしょうか。できるだけスムーズに離婚の話し合いや手続きを進め、後悔しないためのポイントを解説します。
離婚理由を明確にし、証拠を集める
離婚する前に、なぜ離婚するのか、離婚の原因はどちらにあるのかを、自分なりに明確にしておきましょう。夫の浮気や暴力など明確な理由があれば別ですが、夫側に離婚を切り出されるような心当たりがない場合、夫に離婚の理由を説明して理解してもらわなければなりません。
また、裁判になったときのことを想定して、離婚する理由があることと、夫婦関係が破綻していることを証明する証拠も必要です。証拠がそろっていることを知れば、夫も裁判になったら勝ち目がないと、素直に離婚に応じてくれるかもしれません。スムーズに離婚するには、まずは夫を納得させることが大切です。
離婚届を入手する
離婚するには離婚届が必要です。離婚届の用紙は市区町村の役所に置いてあるので、離婚を決めたらできるだけ早く入手しておきましょう。市区町村によっては、ホームページからダウンロードできるので、役所に行くのが面倒だという人はオンラインで入手してもいいでしょう。用紙の様式は市区町村によってわずかに異なっています。
自分が住んでいる市区町村のホームページからはダウンロードできないという人もいるかもしれませんが、用紙は他の市区町村の様式のものを使っても構いません。中には市町村名などがあらかじめ印刷されているものもありますが、普通に訂正して提出すれば問題ありません。
離婚届を入手したら、自分の名前など妻が記載すべき欄をすべて埋めて夫に手渡せば、本気で離婚を考えているのだということが、相手にも伝わるでしょう。
離婚について話し合う
離婚については話し合い、お互い合意できれば、協議離婚が成立するということは、さきほど説明しました。財産分与などの条件を含めて合意したら、合意した内容を離婚協議書という書面にまとめ、公正証書にしておくと、離婚後の「言った」「言わない」のトラブルを防げます。
公正証書は公証役場で作成してもらいます。単身赴任中に離婚の話をする場合は、なかなか顔を合わせられず、電話での話し合いになるかもしれません。しかし、公正証書を作成する場合は、基本的に夫婦2人で公証役場に行く必要があります。
調停で話し合う
夫婦間での話し合いがまとまらず、家庭裁判所に調停を申し立てると、家庭裁判所の調停委員を挟んで夫と話し合うことになります。調停の場で直接話すのは調停委員だけで、基本的に夫と顔を合わせることはありません。
単身赴任中の夫と調停を行う場合、基本的に夫が住む地域の家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。調停が開かれる度に、出向かなければならないことは覚えておきましょう。単身赴任先が遠方だと、時間も交通費もかかります。電話での参加やテレビ会議での出席が認められることもありますが、調停が成立した場合は裁判所まで出向かなければなりません。
離婚裁判を起こす
調停が不成立となり、打ち切られてしまった場合、残された手立ては再度の話し合いと離婚裁判だけです。離婚の理由が離婚事由に当てはまり、夫婦関係の破綻も証明できるときは離婚裁判を考えましょう。裁判の場合は調停と違い、自分が住む地域に裁判所に訴えを起こせます。
裁判所は、すべて証拠に基づいて判断しますから、証拠が十分そろっていなければ、離婚が認められない可能性があります。事前に弁護士に相談するなどして、しっかり証拠集めをしておくことが大切です。
単身赴任中の夫と話し合うべき離婚の条件
夫と離婚の話し合いをする際には、離婚の条件についても話し合わなければなりません。どのようなことを話し合わなければならないのか、協議のポイントとともに解説します。後悔しないよう、よく話し合いましょう。
親権について決める
親権とは、未成年の子供の財産を管理したり養育したりする権利のことをいい、要するに、夫と妻のどちらが子供を引き取るかということです。結婚している間は、両親が共同で親権を行使していますが、離婚すると、どちらか一人が親権者となり親権を持つことになります。
離婚届の中にも親権者を父母のどちらにするのかを記載する欄があります。親権者が決まっていないと、離婚届を窓口で受け付けてもらえません。
婚姻費用分担を請求する
婚姻費用分担とは、生活費のことで、単身赴任中など別居して生活している場合も、夫婦は同水準の生活を維持する必要があります。このため、単身赴任中の夫が十分な生活費を入れてくれないときは、婚姻費用分担を夫に請求できます。つまり、離婚の話し合いの際、支払われなかった生活費についても請求できるのです。
離婚が成立すると、それ以降の婚姻費用分担を求めることはできませんが、子供を引き取った場合、養育費を請求できます。養育費の金額や、いつまで支払うのかといった点についても、離婚協議の中で解決していきます。
浮気が原因のときは慰謝料を請求する
単身赴任中に夫が浮気をしていた場合や、離婚を切り出した妻に夫が暴力を振るうなどした場合、妻は夫に慰謝料を請求できます。慰謝料は被害の程度や事情など、それぞれの状況を判断して決められるので、特に基準はありません。一般的には数十万や数百万円の間でしょう。500万円を超えるような慰謝料は滅多にありません。
協議離婚では慰謝料の額も自由に決められます。支払う側が納得できる額であれば、いくらでも構いません。
夫の単身赴任が我慢できず悩んだら専門家に相談を
最近は、単身赴任にならないようできるだけ配慮したり、帰省できる回数を増やしたりする会社も増えていますが、どうしても長期間単身赴任しなければならないことはあります。単身赴任中の夫が楽しそうに見えたり、なかなか帰ってこなかったりして、夫に疑念を抱いてしまう妻もいるでしょう。
単身赴任中の夫への疑念や不安、ストレスから夫婦関係がうまくいかなくなる人もいます。そうしたときは、夫婦関係に詳しいカウンセラーに相談してみるのも一つの手です。何か良い対処法が見つかるかもしれません。真剣に離婚を決意したときは、弁護士に相談すると法的なアドバイスが受けられます。
塚本 亜里沙/東京山手法律事務所(第一東京弁護士会所属)
20年以上の経験を持つ弁護士。
弁護士が行うリーガルカウンセリングもカウンセリングの一種であり、カウンセリング能力の向上は不可欠であると考え、日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー・(一財)日本能力開発推進協会家族療法カウンセラー・アンガーコントロールスペシャリスト取得。
夫婦関係・離婚のお悩みに真摯に向き合い、幸せな離婚に向けた解決をモットーに全力を尽くしている。