『俺の家だから出ていけ』と言われた…法的な効力はある?
夫による妻へのDVやハラスメントが問題となる中、夫から日常的に「誰に食わせてもらっているんだ」「俺の家から出ていけ」などと暴言を浴びせられている妻も少なくありません。
実際に自宅の名義が夫で、住宅ローンも夫が負担している場合、夫の言い分にも一理ありそうな気がして、反論できずに黙りこんでしまうという人もいるのではないでしょうか。
筋が通っているようにも聞こえる主張ですが、実は法的には夫の言い分には全く根拠がありません。むしろ、不法行為になる可能性すらあります。つまり、妻には家に住み続ける権利があるということです。
なぜ「出ていけ」と言われても妻は住み続けられるのか、夫の発言にはどのような心理が働き、法的にどのような問題があるのかを詳しく説明していきましょう。
法律的には夫名義でも家から出ていく必要はない
「俺の家から出ていけ」という夫の暴言に妻が従う必要がないのは、2人が夫婦だからです。民法に次のような条文があります。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
つまり、結婚している以上、夫と妻は同居し、互いに助け合わなくてはならないのです。もちろん、仕事の都合などの理由で2人の合意があれば、別居していても問題はありません。しかし、正当な理由なく一方的に同居を拒むことはできません。
また、法律では結婚後に築いた財産は、基本的に夫婦の協力によって得られたものだと見なされます。どこまでが「結婚後に築いた財産」なのか争いになることも多いので、一概には言えませんが、少なくとも夫の「自分が稼いだ金や、自分が費用を負担したものは全て俺のものだ」という言い分が全面的に認められることはありません。
ですから、妻は堂々と家に住み続け、夫の収入に頼っているからといって引け目を感じることはないのです。
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「俺の家から出ていけ」という典型的な発言は法的に正当なものではありません。とはいえ、夫側から嫌がらせを受け続けるような場合には出てしまった方がよい場合もあります。
『出ていけ』と言われて本当に出て行ったら離婚に不利になる?
夫に「家から出ていけ」と言われても妻は出ていく必要はない、と言うのが理屈です。しかし、妻も「出ていけ」と何度も言われたり普段から心無い言葉を投げつけられたりしていれば、「出て行ったほうが良いのではないか」という心理状態に陥ってしまいます。
一方で、自分から出て行ってしまえば夫の思惑通りに事態が進み、妻側が不利な立場に置かれる可能性があります。逆に、夫はそんな深刻な事態になるとは思ってもいなかったということも考えられます。
一刻も早くつらい状況から逃げ出したいと考えることもあるでしょうが、先を見据えた慎重な対応も欠かせません。「出ていけ」と言われて、本当に家を出たときのリスクや注意点などを解説します。
『同居義務違反』で不利になる?
夫婦は、民法が定めるように同居して、互いに協力、扶助する義務があります。夫が妻に「出ていけ」というのは、この民法条文に反することになりますが、一方、妻も一方的に家を出ていくと、民法に反するのではないかと不安になる人もいるでしょう。
一度、冷却期間を置いて元通り同居するようになれば、そうした問題も起きないのですが、そのまま離婚することになったとき、「妻の家出が離婚のきっかけとなった」と夫側が主張する恐れもあります。
しかし、正当な理由があれば、家を出ても同居義務違反を問われることはありません。そして、ハラスメントを逃れるために家を出ることは、ほとんどの場合、正当な理由と判断されます。心配な場合は専門家に相談してみるといいでしょう。
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実務上、別居をしたことが同居義務違反で違法と判断されることはまれです。なぜなら、別居をしたいと考えるには相応の理由が伴うからです。とはいえ、実際に別居に踏み切るときに不安を感じるようでしたら、事前に弁護士に相談してください。
無理に追い出された場合は夫側が不利になる
夫が「出ていけ」と言葉で言うだけでなく、暴力的に家に出るよう迫るケースもあります。また、連日のように執拗に「出ていけ」と言い続ける夫もいます。こうなると、一時的な口喧嘩や「売り言葉に買い言葉」というレベルではなく、モラハラやDVにあたる可能性があります。
このような状況になっているときは、一刻も早く家を出たほうが良いでしょう。できる事なら、夫の暴言や暴力的な振る舞いを録画や録音で残しておきましょう。妻を無理に追い出す行為は不法行為と認められる可能性があります。その場合、妻側から損害賠償を請求できることもあります。
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出ていけと言われれても、鵜呑みにする必要がありませんが、トラブルになり心身に危険が生じることは避けなくてはいけません。夫側の言動に不安や恐怖を感じる場合には、悩まずに警察や行政、弁護士に相談をしてください。
『出ていけ』という夫の心理は?
妻に対し「出ていけ」というとき、夫はどのような心理状態なのでしょうか。よくある理由を紹介します。
妻を支配したいから
妻に対して「出ていけ」という夫は、妻に対して優位な立場にたち、支配したいという心理状態の可能性があります。妻がすぐには出ていくことができず、もし家を出ても生活に困窮するだろうと見越して、「出ていけ」と言っているのです。
実際、何度も夫に「出ていけ」と言われるうちに、夫の機嫌を損ねないように顔色をうかがいながら生活するようになってしまう妻もいます。
自分が常に正しいと思っているから
妻に「出ていけ」という夫は、自分が常に正しいと思っているのかもしれません。そういう人は自分と違う考えを認めようとせず、協調性がありません。
中には自分の考えを押し通すために、自分勝手な主張を展開し、相手を一方的に非難したり高圧的な態度に出たりする人もいます。こうした人は心理的に優位に立つことで、相手に自分の正しさを認めさせようとします。
妻の愛情を試したいから
妻の愛情を試すために、わざと乱暴な言い方をする屈折した心理状態の夫もいます。こうしたタイプの夫は自分に自信がなく、誰かに自分のことを認めてもらおうと望んでいます。
妻に対しても、自分のことを認めてほしいと願い、妻の愛情が自分に向いていないのではないかと不安を抱いています。「出ていけ」などと心にも無いことを言ってしまったと後悔し、自己嫌悪に陥ることも多いタイプです。
自分を強く装いたいから
自分の弱さを隠したいという心理の裏返しから、暴言を吐いたり高圧的な態度をとったりすることもよくあります。そこには、自分に従順な人間をそばに置くことで安心したいという心理が働いています。
相手に反論されると、より一層強く見せようとして逆上し、さらに暴言や暴力的な行為がエスカレートすることもあります。
自分の親もそのように振る舞っていたから
家族に対して高圧的な態度を取る親の姿を見て育つと、結婚してから家族に対し、同じような態度を取ることがあります。親から十分に愛されず、愛情の表現の仕方が分からないという人もいます。
親から何かと干渉され、自分で物事を決められずに育った人も、必要以上に他人に干渉する傾向があるようです。
『出ていけ』と言われた時の対処法は?
夫に「出ていけ」と言われたら、どう対処すればいいのでしょうか。たとえ「出ていけ」と言われても、決して出ていく必要はありませんし、夫も本心から言っているとは限りません。
それまでの夫婦関係や、その時の状況によって夫の心理状態も異なりますので、妻は感情的にならずに冷静に対応することが大切です。妻側も興奮して言い返したり、家を飛び出したりしてしまうと、関係修復の機会を逃してしまうかもしれません。
無計画に家を飛び出てしまうと、離婚問題に至ったときに協議を有利に進められない場合もあります。離婚の話になったときのことも考え、慎重に行動しましょう。
冷静な態度で相手にしない
「出ていけ」と言われて、一番いけないのは相手と一緒になって感情的になることです。互いに感情的になると、暴言もエスカレートし、どちらかが暴力を振るいかねません。
ささいなことで喧嘩をして、夫が一時的に興奮している場合には、一緒になって口論をしてしまうのではなく、お互いが冷静になって話し合えるようにすることが重要です。
自分に非がなければ謝らない
夫が妻を批判しながら「謝らなければ、出ていけ」と言うこともあります「とりあえず謝っておけば、この場は収まるだろう」と思うかもしれませんが、夫にモラハラの傾向がある場合、逆効果になる可能性があります。
「自分が強い態度に出れば、妻は自分のいう事を聞く」と思い込めば、夫のモラハラがエスカレートするかもしれません。自分に非がなければ謝る必要はありません。たとえ、謝るにしても相手が感情的になっているときに謝るのは得策ではありません。
身の危険を感じたら出ていく
「出ていけ」と言われたのが初めてではなく、回を重ねるごとに言動がエスカレートしているのであれば要注意です。夫は妻を屈服させるために、より強い態度に出ようと考えている節があります。
最初は言葉だけでも、しだいに大きな音を立てたり、物を投げつけたりするようになり、最後には暴力を振るうようになるかもしれません。
身の危険を感じたら、そのときは家を出ることも考える必要があります。
証拠を残しておく
もし、家を出る決断をしたとき、離婚にまで話が発展する可能性があります。家を出て別居してしまうと、離婚協議の中で「先に家を出て夫婦関係を破綻させたのは妻だ」と夫が主張する恐れがあります。
家を出たことが不利な材料にならないよう、家を出ざるを得なかった証拠として、夫の言動を記録しておきましょう。録音や録画をするのが理想ですが、日記に書き残しておくだけでも証拠になります。
第三者や専門家に相談する
夫の言動が夫婦喧嘩の言い合いのレベルを超えてきたと感じたら、モラハラの可能性があります。特に「ここは俺の家だから出ていけ」や「誰に食わせてもらっていると思っているんだ」などと強権的な暴言を発するようになったら要注意です。
第三者や専門家に相談して、対処法などについてアドバイスを受けましょう。モラハラは、被害者当人が「自分が悪い」と思い込み、被害に気付かないこともあります。客観的な目で状況を判断してもらうことも必要です。
「出ていけ」と言われた理由を考える
夫がなぜ「出ていけ」と言ったのか、冷静になって考えてみましょう。一時の感情で暴言を吐いてしまうこともあります。夫が反省しているようなら、「そんな人を傷つけるような言葉は言わないでほしい」と伝えることも必要です。
夫が妻よりも優位に立ちたいと考えているのなら、モラハラの可能性がありますし、何か理由があって本当に妻を追い出そうとしているのかもしれません。相手の考えによって対応も変わります。冷静になって、夫が「出ていけ」と言った理由を考えてみましょう。
別居や離婚を検討する
周囲から見ても夫の言動は明らかなモラハラで、妻も耐えられそうにない場合、別居や離婚を検討することも必要です。もし夫が別居や離婚を望んでいるのであれば、いつまでも家に居続ける理由はありません。
ただし、何の準備もなく単に家を飛び出すと、離婚協議になったときに夫に主導権を握られてしまうかもしれません。 離婚を前提にして弁護士に相談するなど準備を進めておきましょう。
『出ていけ』という夫はモラハラ気質?
何か気に入らないことがあったり、妻が不満を漏らしたりすると、すぐに感情的になって「出ていけ」という夫は、モラハラの気質があるかもしれません。
一般的にモラハラ夫は負けず嫌いの性格で、自分を偉く見せようとする傾向があるとされます。いわゆる亭主関白のタイプです。
頻繁に言われる場合はモラハラの可能性も
頻繁に夫から「出ていけ」と言われているのなら、夫の言動はモラハラに当たる可能性があります。モラハラは相手の人格を否定する行為であり、ひどい場合には不法行為として慰謝料を請求できることもあります。
また、モラハラによって夫婦関係が破綻したと認定された場合、加害者は離婚の原因をつくった責任を負う「有責配偶者」となります。離婚調停が不調に終わり、離婚裁判になったときには、夫の言動が夫婦関係を破綻させたとして離婚が認められる可能性が高くなります。
『出ていけ』と言われたら記録を残しておくのがおすすめ
夫が「出ていけ」と言った場合、夫婦関係や状況によって心理状態にもさまざまな違いがあります。一度「出ていけ」と言ったからといって、すぐにモラハラと認定されるわけではありません。
また、繰り返し「出ていけ」と言われていても、周囲の人達にもモラハラ被害を認めてもらうには証拠が必要です。度重なる夫の暴言や高圧的な態度に「モラハラでは」と感じたら、将来証拠になるよう、できるだけ記録に残しておきましょう。
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所(東京弁護士会所属)
2009年の事務所開設以来、女性側の離婚・男女問題の解決に注力しています。年間700件以上、累計5000件以上の相談実績があり、多様な離婚のノウハウを蓄積。経験豊富な男女20名の弁護士が所属し、新聞・テレビ・雑誌・Webなど多くのメディアからの取材も受けています。