既婚者なのに性風俗店で遊ぶのが好きな人がいます。そして、それを良く思わない妻は少なくありません。既婚者なのに風俗店に通う夫を許すことができず離婚を考える人もいます。夫の性風俗店通いを理由に離婚はできるのでしょうか。慰謝料請求が可能なのかを含めて解説します。
旦那の風俗通いが許せない!不倫・不貞行為になる?
「旦那が結婚後も風俗店通いをやめない」と悩んでいる妻は少なくありません。「風俗店で遊ぶために借金をしている」という夫から「風俗店で性病をうつされた」「風俗店で知り合った女性とプライベートでも会っている」という夫まで、さまざまなケースがありますが、どのようなケースでも妻は深く傷つきます。
風俗店に通う男性は「付き合いで行っただけ」「お金だけで割り切った関係」「妻への愛情は変わらない」などと言い訳するようです。しかし、妻は「旦那を信じていたのに裏切られた」「ほかの女性を抱いた手で触れられたくない」「気持ち悪い」などと悲しみや失望、不信感、嫌悪感を抱きます。中には精神科を受診しなければならないほど、ショックを受ける妻もいます。
このように妻の心を傷つける既婚者の風俗店通いですが、不倫として離婚や慰謝料を請求できるのでしょうか。風俗店の利用は法律上の「不貞行為」にあたるのか、夫や相手の風俗嬢に慰謝料請求は可能なのかを解説します。
既婚者の風俗通いは不倫?不貞行為とは
法律に照らすと、既婚者の風俗店通いは不倫にあたるのでしょうか。また、不倫にあたるのであれば、離婚や慰謝料の請求は可能になるのでしょうか。既婚者の風俗店通いに関する法律上の問題点を整理していきましょう。
不貞行為は不倫・浮気の一部
よく「不倫」「浮気」という言葉が使われますが、不倫や浮気は法律用語ではなく、正確な定義もありません。「不倫」というのはたいてい、既婚者が配偶者以外の異性と交際することを指し、「浮気」は既婚者以外も含めてもう少し幅広い意味で使われえているのではないでしょうか。また、浮気には性的関係のない場合も含むイメージもあります。
こうした不倫や浮気を、法律用語では「不貞行為」と呼びます。しかし、不貞行為の範囲は厳格で、既婚者が配偶者以外の異性と性的関係を持つことを指します。性的関係とはセックスだけでなく、手や口による性器への刺激や裸で抱き合うことなども性交類似行為として含まれます。よく「挿入していないから不倫ではない」という男性がいますが、それは誤りです。
配偶者以外と性的関係を持てば不貞行為に
このため、法律上は既婚者が配偶者と性的関係を持てば、不貞行為となり、離婚裁判を起こす理由にもなり得ます。「体だけの割り切った関係」などと言うこともありますが、不貞行為に恋愛感情があるかどうかは関係ありません。
また、不貞行為は離婚の理由となる不法行為というだけでなく、「互いに貞操を守る義務」(貞操義務)に反し、「婚姻共同生活の平和の維持」の権利を侵害しているとみなされる可能性があります。貞操義務に反したり配偶者の権利を侵害したりしたと裁判所が認めた場合、慰謝料の支払いを命じられる恐れがあります。
風俗通いを理由に旦那と離婚できる?
法律上、既婚者の風俗店通いは不法行為とみなされる可能性があります。しかし、実際に裁判になった場合、個別の事情も加味されて判断されるため、必ずしも離婚が認められるとは限りません。過去にどのようなケースで離婚が認められたのか、裁判の判例とともに解説します。
夫婦関係を破綻させたと判断されれば離婚できることも
風俗店で性行為を行うことは不貞行為にあたり、離婚裁判を起こす理由となるのですが、それだけですぐに離婚できるというわけではありません。離婚裁判では夫婦関係が破綻しており、修復が困難な状態にあることを、妻が証明する必要があります。
夫婦関係が破綻し、関係修復が困難な状況とは、次のようなケースが考えられます。
・風俗店に通うため十分な生活費を家計に入れない
・風俗店の利用や風俗嬢へのプレゼントのため多額の借金をした
・夫の風俗店通いが原因でセックスレスになった。
・風俗店通いをやめるよう妻が懇願したが、夫が聞き入れず別居した
こうした状況を証拠で証明できれば、裁判で離婚が認められる可能性が高くなります。
回数や期間によっては離婚が認められないことも
風俗店の利用頻度によっては、「離婚原因としての不貞行為とまでは認められない」と判断されることもあります。有名なのは、平成31年3月27日の横浜家庭裁判所判決でしょう。この裁判では、夫がデリヘルを利用して風俗嬢と性行為をしたことなどを理由に妻が離婚を求めました。
裁判所は判決で、夫がデリヘルを1度利用したことを認めましたが、夫が妻に謝罪し、今後は風俗店を利用しないと約束していることを理由に、仮にほかに数回利用していたとしても「この点のみをもって、離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できない」と判断。離婚を認めませんでした。
つまり、性風俗店を数回利用した程度で、本人も反省していれば、離婚の理由にまではならないということです。
また、令和3年11月29日の東京地裁判決では、ピンクサロンのポイントカードを持っていた夫に対して離婚を求めた妻の主張を認めませんでした。判決では、ポイントカードだけでは性的サービスの内容や、それを実際に受けたかどうかまでは証明できず、夫に不貞行為があったとまでは認められないと判断しました。
こうした判例を見ると、風俗店の利用で離婚を求める場合は、夫が何度も継続して風俗店で性的サービスを受け、反省も見られないことや、夫婦関係の修復が困難なことを証明する必要があるようです。
旦那の風俗通いを理由に慰謝料請求できる?
既婚者が風俗店に通っていた場合、慰謝料請求は可能なのでしょうか。また。相手の風俗嬢への慰謝料請求ができる場合はあるのでしょうか。
精神的苦痛を受けたかどうかが問題
慰謝料とは、損害賠償の一種で不法行為によって受けた精神的苦痛に対して支払われます。風俗店の利用に対する慰謝料の理由としては、不貞行為のほか、夫婦の貞操義務違反、婚姻共同生活の平和の維持の権利の侵害が考えられます。
ですから、夫の風俗店通いによって、夫婦の信頼関係が損なわれ、夫婦関係の修復が困難な状態に陥った場合、慰謝料を請求できる可能性があります。ただし、風俗店通いが理由で夫婦関係が破綻したという点がポイントで、風俗店を利用した時点で、既に夫婦関係が損なわれていた場合は、慰謝料請求は難しくなります。
風俗嬢に慰謝料請求するのは難しい
夫の風俗店通いが原因で夫婦関係が破綻した場合、「相手の風俗嬢にも慰謝料を請求できないか」と考える妻もいるでしょう。しかし、一般的に風俗嬢への慰謝料は難しいと考えられています。なぜなら、風俗嬢は相手が既婚者であるかどうかを知らず、商売として性的行為に応じただけだからです。
昭和54年3月30日の最高裁判決では、不倫相手への慰謝料の請求について、故意または過失がある限り、その経緯は問わず、不倫相手にも慰謝料支払いの義務があると判断しました。つまり、裏を返せば、相手が既婚者と知らなかった場合、故意も過失もないので、支払う義務はないということになります。
たとえ、夫と風俗嬢が「結婚しているんですか」「はい」というやり取りをしていたとしても、風俗嬢が「ただの雑談で、本当かどうかまで確認したわけではない」と主張すれば、慰謝料請求は難しいでしょう。
また、商売という点については平成26年7月27日の東京地裁判決があります。この裁判はクラブのホステスが既婚者と性的行為を繰り返していたことに対する慰謝料の請求でしたが、裁判所は、いわゆる「枕営業」は顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎないとして慰謝料の請求を認めませんでした。
しかし、風俗嬢が風俗店をやめた後も、風俗店以外で夫と風俗嬢が性的行為を繰り返していたケースでは、店外の性的行為について風俗嬢に慰謝料の支払いを命じた例があります。
離婚や慰謝料請求をするのなら証拠の収集を
離婚や慰謝料の請求は、双方の話し合いで決着することもありますが、相手が拒否したときのことを考え、裁判を想定して準備しておくことが大切です。裁判で、夫の風俗店通いを理由とした離婚や慰謝料請求が認められるために必要な証拠について解説します。
風俗店で性的サービスを受けたことの証明
肝心なのは、夫が結婚後も継続的に何度も風俗店で性的サービスを受けていたことを証明することです。風俗店のサービス券やポイントカードを持っていたり、店に何度も電話をしたりしていたという程度では、性的サービスを受けていたとまでは認められない可能性があります。具体的なサービスの内容を証明する必要があります。
性的サービスを受けた証拠となるもの
・風俗嬢と会っている際の写真
・サービス内容が類推できる風俗店の領収書
・性病の治療を受けた際の医療機関の明細書、医師の診断書
・サービス内容を含む風俗嬢との間のSNS
・風俗店を利用したことを認める夫の弁明の音声録音
・風俗店を利用したことを認める夫の謝罪文・誓約書
風俗店通いによって夫婦関係が破綻したことの証明
夫の風俗店通いによって夫婦関係が破綻したことを証明することも大切です。特に慰謝料を請求するときは、風俗店通いが夫婦関係を損ねる原因の一つとなったことを明確にする必要があります。
風俗店通いで夫婦関係が破綻した証明となるもの
・夫婦の会話やSNS、メールのやりとり
・日記
・子供の証言
風俗通いの旦那への制裁を考えたら弁護士に相談を
既婚者の男性の中には「商売だから浮気にならない」「妻が相手をしてくれないから仕方がない」などと風俗店通いを正当化する人もいますが、それは誤りで配偶者以外の異性と性的行為を行えば、不貞行為と判断されます。しかし、実際に離婚や慰謝料を請求するには証拠や法的な知識が必要です。
「隠れて風俗通いを続けていた旦那が許せない」「旦那にいくら頼んでも、風俗通いをやめてくれない」などの悩みを抱え、離婚や慰謝料請求を考えている場合は、弁護士に相談して、適切なアドバイスを受けましょう。
大将法律事務所(第一東京弁護士会所属)
2019年事務所開設以来、一人一人の想いを大切に、紛争の抜本的解決を目指しております。法的な問題は、ご依頼者様によって事情が違い、解決方法はひとつということはありません。そのような一人一人の想いやご事情を詳しく丁寧におうかがいして、一緒に解決までの道を歩んで参ります。