
離婚問題を解決する新しい選択肢として注目される「離婚ADR(裁判外紛争解決)」。裁判所を利用せず、中立的な専門家のサポートのもとで夫婦が話し合いを進める制度です。柔軟なスケジュール調整と短期間での解決が期待でき、プライバシーも完全に保護されます。本記事では、ADRの基礎知識から具体的な手続き、メリット・デメリットまで詳しく解説します。
この記事でわかること
・離婚ADRの仕組みと裁判所調停との違い
・利用時のメリット・デメリットと費用・期間
・申立から合意書作成までの具体的な流れ

竹内 裕美/弁護士法人鬼頭・竹内法律事務所(愛知県弁護士会所属)
離婚事件を中心とした家事事件に25年間携わる。2016年アメリカ国務省IVLPプログラム参加。
愛知県弁護士会紛争解決センター副委員長・国際ADRあっせん仲裁人、公益社団法人日本仲裁人協会常務理事・中部支部長として、ADRの普及に尽力。

離婚ADRの基礎知識
離婚ADRとは、夫婦間のトラブルを裁判所外で解決するための制度です。
公的機関の関与が少ないぶん、当事者の意向を尊重した解決策を柔軟に探ることができるとされています。国内では法務大臣から認証された機関や民間の専門家集団が調停役となり、あっせん(※)や話し合いをサポートしていきます。
離婚問題では、養育費や親権、財産分与や慰謝料など多角的な争点が生じやすい一方で、夫婦間の感情的対立も深刻化しやすいものです。裁判という形で闘争的に解決を図ると長期化する恐れがあるため、トラブルを最小限の負担で解消したい場合にADRの利用が増えつつあります。
特に親権や子どもの健全な成長への影響を重視する場合、紛争をエスカレートさせないよう柔軟な話し合いを継続することが重要です。離婚ADRは、当事者同士が中立的な専門家とともに解決策を模索することで、双方が納得できる離婚条件を導きやすい点が魅力と言えます。
※あっせん: 中立的な第三者が当事者間に入り、双方の話し合いを促進して合意形成を支援する紛争解決手続きの一つ。

ADRが離婚問題で注目される理由
離婚問題は感情が絡み深刻化しやすい傾向がありますが、ADRでは中立的な調停人が両者の言い分を整理し、互いに歩み寄れるポイントを洗い出すサポートを行います。
夫婦それぞれの意向やライフスタイルを踏まえ、子どもの福祉にも配慮した話し合いを進められるため、今後の家族関係をより良い形で収束させる一助となります。
さらに、調停人には元家庭裁判所調査官や弁護士、カウンセラーなどが関わるケースも多く、法律だけでなく心理的な側面にも配慮が行き届きやすい制度設計になっています。特に、感情面での整理や将来を見据えた具体的な解決策は、紛争解決後の生活にも大きな安心感をもたらすでしょう。
弁護士法人鬼頭・竹内法律事務所/竹内 裕美弁護士離婚後の共同親権が選択肢として加わることによって、離婚するときにも、離婚した後も、親権者や監護者の指定、親権者の変更、特定事項に関する親権行使者、監護の分掌(分担)など、子どもの養育について取り決める決める場面が広がります。
ADRは、当事者を対立構造にするのではなく、その後の関係性にも配慮しながら、中立的な調停人が当事者間の話し合いをサポートするのが特徴です。
ADRで話し合う主なテーマ
離婚に伴う問題は財産分与、養育費、面会交流など多岐にわたり、それぞれが複雑に関連しています。ADRでは当事者双方の状況に応じて柔軟にテーマを設定し、調停人が専門的な視点からバランス良く進行します。複数の問題を並行検討できるため、効率的で現実的な解決が期待できます。


財産分与の詳細な取り決め
- 不動産・預貯金・株式等の分割方法
- 住宅ローンの処理と名義変更
- 退職金・保険の取り扱い
養育費の金額と支払い条件
- 収入状況に応じた適正金額の算定
- 支払い期間と支払い方法
- 将来の変更条件と見直し時期
面会交流の具体的な実施方法
- 面会頻度・時間・場所の設定
- 子どもの年齢に応じた配慮事項
- 長期休暇や特別な日の取り決め
慰謝料の算定と支払い方法
- 不貞やDV等の責任に応じた金額設定
- 一括払いか分割払いかの選択
- 支払い能力を考慮した現実的な条件
親権・監護権の取り決め
- 単独親権か共同監護の選択
- 日常的な監護者の決定
- 重要事項決定時の協議方法
婚姻費用と生活費の精算
- 別居期間中の生活費負担
- 子どもの学費・医療費の分担
- 過去分の清算と今後の取り決め
離婚ADRと裁判所調停・裁判との違い
離婚解決手段として広く知られる家庭裁判所調停や裁判との比較を行い、手続きの特徴を整理します。


手続きの柔軟性と自由度の違い
離婚ADRは当事者のスケジュールに合わせた柔軟な対応が可能です。裁判所調停では平日日中の決められた期日に出席する必要がありますが、ADRなら夜間や土日の開催も相談できます。
仕事や育児で忙しい夫婦にとって、調停日程を調整しやすいのは大きな利点と言えます。各自が都合の良い日時に参加できれば、継続的な話し合いが円滑になり、合意までの時間が縮まることが期待されます。
費用面での比較
ADRの費用は機関によって異なりますが、裁判所調停より高額になるケースが多いのが実情です。調停なら申立手数料1,200円程度で済みますが、ADRでは数万円から十数万円かかることもあります。
裁判所調停に比べると若干の費用がかかる場合もありますが、長期化した裁判に比べれば負担を抑えられることが多いです。
特に弁護士に依頼しないケースでは、双方の弁護士費用が抑えられるため、大きな費用削減となるでしょう。
解決までの期間とスピード感
裁判所による離婚調停は申立てから第1回期日まで1〜2ヶ月要するのに対し、ADRは数週間で開始できることが多いです。
話し合いの頻度も月1回程度の調停より密に設定でき、当事者の都合に合わせて集中的に協議を進められるため、裁判所調停では1年~1年半かかる事案でも、ADRは2~3カ月以内に解決に至るケースも多くあります。早期解決を望む場合には大きなメリットとなるでしょう。
プライバシー保護と秘匿性
ADRは完全非公開で秘密保持が徹底されているのが特徴です。裁判所調停も非公開ですが、調停調書は公的記録として残ります。
合意内容の法的効力と強制執行
強制力の面では、ADRの合意内容そのものには法律上の執行力がありません。しかし、合意内容を基に公正証書を作成すれば、強制執行認諾文言を付加し、後日支払い義務などを履行させることが可能になります。
ADRを利用する場合でも、合意後に公正証書化を検討することで、安全性と確実性が高まります。
当事者の参加姿勢と心理的負担
ADRは対話と相互理解を重視した協調的なアプローチが特徴です。裁判所調停は対立構造になりがちで心理的負担が大きくなりますが、ADRでは調停人が双方の気持ちに寄り添いながら合意形成を支援します。
特に子どもがいる夫婦にとって、今後の離婚協議や関係性を考慮した解決が期待できます。


離婚ADRを利用するメリットとデメリット


メリット
プライバシー・秘匿性
- 完全非公開で話し合いが進行
- 秘密保持が徹底され外部漏洩の心配なし
時間・スケジュールの自由度
- 夜間・土日・祝日対応で働く人にも便利
- 当事者の都合に合わせた柔軟な日程調整
- 短期間で集中的な話し合いが可能
専門性とサポート体制
- 機関によってはカウンセリングを受けることができる
- 心理面でのきめ細かいケア
- 感情的な対立を防ぐ中立的な進行
迅速な解決
- 申立てからすぐに話し合いが開始可能
- 裁判所調停より早期解決が期待できる
- 長期化によるストレス・費用負担を軽減
関係性重視のアプローチ
- 対話とWin-Winの合意形成を基本とした協調的解決
- 子どもがいる夫婦の今後の関係性を配慮
オーダーメイド解決
- 裁判所では難しい柔軟な取り決めが可能
- 当事者のニーズに応じたカスタマイズ
- 画一的でない個別性の高い合意内容
デメリット
費用面
- 裁判所調停より費用が高額になるケース多数
(※ただし弁護士に依頼しない場合は大幅な費用削減が見込める)
法的効力の限界
- 合意書の強制執行力が限定的
- 別途公正証書作成や調停調書化が必要な場合あり
対象事案の制約
- 相手方の合意がないと開始できない
- DVや重篤な精神的問題があると利用が難しい場合がある
機関選択の難しさ
- 認知度が低く情報収集が困難
離婚ADRの具体的な流れ
離婚ADRを利用する場合の一般的なステップを把握して、スムーズな準備を目指しましょう。


申立から合意形成までのステップ
離婚ADRの手続きは、まず申立人となる当事者のいずれかがADR機関への申立と必要書類の提出を行うことから始まります。このときにADR機関を通じて、相手にADRを行う合意を得る必要があります。
初回カウンセリングで問題の概要をヒアリングし、双方の状況や希望を整理したうえで、日程調整とともに本格的な手続きがスタートします。
その後、調停人との数回にわたる協議セッションを通して解決案を模索していきます。オンラインや個別面談を柔軟に活用しながら、双方の主張をすり合わせて納得できる条件を見つけていくのが一般的な流れです。
合意に近づくにつれ、具体的な金銭条件や子どもの監護方針、公正証書の作成などの実務的事項も詰めていき、家庭裁判所よりも短期間での解決が期待できます。
合意書作成と法的効力の確保
合意がまとまった際には、口約束ではなく必ず書面化することが重要です。特に財産分与や養育費など金銭が絡む事項は不履行トラブルが起きやすいため、将来の紛争防止のためにも合意書の作成は欠かせません。
さらに、ADR合意内容に法的拘束力を付与するには公正証書化が効果的です。強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、万が一相手が支払いを滞納した場合でも強制的な履行を求めることが可能になります。
書類作成や公正証書化の手続きでは、細かな文言の違いが大きな影響を及ぼすリスクもあるため、確実な合意成立のためにも弁護士や司法書士などの専門家のサポートを受けながら進めると安心です。
離婚ADRを利用する際のQ&A
離婚ADRに関してよく寄せられる疑問と、その回答をまとめました。
Q1.離婚ADRはどこで申し込むことができますか?
民間のADR機関や法務大臣認証の機関、さらには弁護士事務所などで対応している場合があります。まずはウェブ検索や自治体の情報コーナーなどを活用し、信頼できる機関を探してみましょう。
Q2.調停人に知り合いがいる場合はどうなりますか?
公平性が損なわれる恐れがあるため、調停人を変更できる制度が設けられていることが多いです。事前に申し出れば担当者を変更してもらえる場合がありますので、必ず遠慮なく相談しましょう。
Q3.相手がADRに応じない場合はどうすればいいですか?
相手の協力が必要な話し合いであるため、強制的に参加させることは困難です。その場合は、家庭裁判所の調停を利用するか、やむを得ないときは裁判へ進む選択肢を検討してください。
Q4.ADRで決めた内容に相手が従わなかった場合の対処法は?
ADR合意書自体には強制執行力がないため、相手が約束を破った場合は直ちに法的措置を取ることができません。事前に公正証書化しておくことで強制執行が可能になるため、合意時に必ず公正証書の作成を検討しましょう。公正証書がない場合は、改めて家庭裁判所での調停や訴訟を検討する必要があります。
Q5.離婚ADRは子どもがいない夫婦でも利用できますか?
もちろん利用可能です。子どもがいない場合でも、財産分与や慰謝料、年金分割などの取り決めが必要になることが多く、ADRの柔軟な話し合いが効果的です。特に不動産や事業資産など複雑な財産がある場合は、専門知識を持つ調停人のサポートが役立ちます。
Q6.ADRの調停人はどのような資格や経験を持っていますか?
ADR機関によって異なりますが、元家庭裁判所調査官、弁護士、カウンセラー、社会保険労務士などの専門家が調停人を務めることが多いです。法律と心理の両面からサポートできる体制が整っている機関を選ぶことが重要です。事前に調停人の経歴や専門分野を確認し、自分たちの問題に適した専門性を持つ機関を選びましょう。
Q7.ADR手続き中に弁護士に依頼することはできますか?
はい、ADR手続き中でも弁護士に依頼することは可能です。複雑な財産関係や法的な判断が必要な場合は、弁護士のアドバイスを受けながらADRを進めることで、より安全で確実な合意を目指せます。ただし、弁護士費用が追加でかかるため、費用対効果を検討して判断することが大切です。
Q8.ADRの話し合いが途中で決裂した場合はどうなりますか?
ADRで合意に至らなかった場合でも、話し合いで整理された論点や相手の考えは家庭裁判所での調停に活かすことができます。争点が明確になることで、その後の手続きがスムーズに進む場合も多くあります。
円満離婚を目指すためにADRを上手に活用しよう
離婚ADRの特徴や手続きの流れを踏まえ、上手に活用して納得のいく離婚を実現しましょう。
離婚ADRを賢く活用することで、夫婦それぞれの事情や感情に寄り添いながら、穏便かつ効率的に合意を形成することができます。裁判ほどの緊張感や硬直した手続きがないぶん、双方が納得できる条件を探り当てる可能性が高まるでしょう。
専門家のサポートを受けたうえで合意内容を公正証書化すれば、離婚後のトラブルを大きく減らすことができます。離婚は人生の大きな転機であるからこそ、ADRの柔軟な仕組みを活用することをおすすめします。円満な新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
