【取材】弁護士に依頼した方がよいケースとは?元調査官×元書記官・現弁護士の視点から
更新日: 2024年10月01日
日常生活で「法律」を意識することが少ない人も、離婚を考えるタイミングで初めて「裁判離婚」「訴訟」「調停」などの法律用語身近に感じることがあるかもしれません。北松戸ファミリオ法律事務所で弁護士事務所を開業する前は長年裁判所書記官として働いていた鈴木 秀一弁護士と、互いを「戦友」と称える元家庭裁判所調査官の河合明博さんに、裁判の基本や弁護士に依頼した方がよいケースなどを聞きました。
離婚の4つの種類
――普段生活をしていると法律を身近に感じる機会は少ないですが、離婚を考えるタイミングで初めて離婚が成立するまでの仕組みを意識する人は多いと思います。
鈴木弁護士(以下、鈴木):まず、離婚には4つの種類があります。
1.協議離婚
2.調停離婚
3.審判離婚
4.裁判離婚
大前提として、協議離婚ができるのなら裁判所に行く必要はありません。しかし、相手が「ノー」と言って離婚に応じず、離婚届にハンコを押さなければ、そこで行き詰ってしまうため第二段階に進む必要が出てきます。そこから裁判所が関与する形になるのです。
まれに、始めから裁判を望む方もいますが、日本の法律では調停前置主義が取られており、裁判や訴訟を提起する前に、調停委員という第三者を入れて話合いをする調停を経なければ、次のステップに進むことはできません。
調停に関しては、ご本人で申し立てる方も多いですし、実際に可能です。東京と地方では割合は異なりますが、私の肌感覚では半数近くが弁護士をつけずに、ご本人で調停を申し立てている印象です。
調停段階から弁護士に依頼した方がよいケース
――調停から弁護士さんにお願いした方がよいケースはありますか?
鈴木:離婚については合意があるけれども、養育費、慰謝料、財産分与などの財産的な条件が合わない場合です。
裁判所から養育費や婚姻費用の算定表が公表されている通り、お金の話はある程度割り切って進めようというスタンスが決まっています。
※画像はイメージ(iStock.com/tommy)
――算定表は一般の方も見ることができますが、弁護士さんを頼んだ方が有利に進められるのでしょうか。
鈴木:基本的には算定表の原案の範囲内で設定しますが、その範囲から逸脱するならば、確たる証明をしなければ難しいでしょう。
河合明博さん(以下、河合):ただ、持病があるのですぐに働けないといった事情を抱えている場合など、調停委員は、事案ごとに事情を考慮して、算定表の枠内で調整しながら提案することもあるようです。また、子どもが私立に通っている場合、合意の有無などの事情を考慮して、枠を超えて私学加算がプラスされることもあります。
そういった特別な事情は、おそらく弁護士がついた方が説明しやすいですよね。
――弁護士さんがついているか、ついていないかによって調停委員の対応が変わると耳にしたことがありますが、これについてはいかがでしょう?
河合:それは全く関係ありません。
鈴木:むしろ、ご本人の場合だとより耳を澄まして話を聞かなければ……という意識が働くかもしれませんね。
河合:場合によっては、弁護士さんが代弁しすぎることによって、ご本人の気持ちが聞けないこともあるようですからね。
鈴木:あくまでも調停は本音を突き合わせる場です。裁判所はご本人の本音を聞きたいのです。
※画像はイメージ(iStock.com/SHIROKUMA DESIGN)
河合:鈴木さんは裁判所で働いていた経験と弁護士の経験があるためよくわかっていると思うのですが、調停と訴訟では進め方を変える必要がある場合もあるでしょう。
調停の段階で訴訟的に相手の悪いところを責め立てるばかりだと、最後まで「なぜ離婚したいのか」という本当の理由、まさに本音が分からないまま不成立になってしまうこともあります。
鈴木:こじれてしまうのですよね。訴訟に進めば、ある作戦を立てる必要がありますが、まずは本音を言ってお互い納得して解決できるところを探す。それが調停の役割です。
とはいえ、2013年に家事事件手続法が施行されてから、調停もある程度は訴訟的に進めることになっているため、お金の問題などが争点になっている場合には、弁護士をつけた方がいい、という言い方もできるかもしれません。
離婚に関わる裁判所の登場人物
――親権や、離婚に応じる・応じないといったお金で割り切れない問題が争点になっている場合は平行線を辿り、調停で不成立になりやすいということですよね。
鈴木:たとえば、養育費を月3万円にするか3万5000円にするかといった細かなこと以外全て合意できているのに、ここが決まらないばかりに不成立となりそうな場合には、裁判所の職権によって決定する審判離婚となり、最近は微増傾向です。
しかし、調停で不成立になったら訴訟、つまり裁判離婚に進むことになります。
離婚後の面会交流などは養育費と違い、一律の基準が決まっていません。これに関しては細かな配慮が必要なので調査官が入ります。
昔は婚姻費用を算出するために、調査官が1枚1枚レシートを確認していた時代がありましたが、家庭裁判所の調査官の本分は行動科学(心理学や社会学など)の専門知識を活かして、お子さんの調査を行い裁判官に報告することだろうと。
✅【元調査官】「会いたい」も「会いたくない」も子どもの本心【後編】
――裁判に至るまでに裁判所でどのような人たちと関わることになるのか、改めて教えていただけますか。
鈴木:簡単にお伝えすると、以下の通りです。
裁判官・・・・・・・当事者の言い分を聞き、当事者が提出する証拠を調べるなどして、事案に応じて、家庭裁判所調査官の報告や参与員の意見を聞くなどした上で判断をする人
裁判所書記官・・・・裁判手続に関する記録等の作成・保管を行う事務及び裁判官の行う法令や判例の調査の補助といった仕事をする人。裁判官の秘書的な役割であり、裁判のマネジメントを行う
家庭裁判所調査官・・子どもに面接をして、問題の原因や背景を調査し、当事者や子どもにとって最もよいと思われる解決方法を検討し、裁判官に報告する人。裁判官にない知識をサポートする、家庭裁判所のみに置かれた職種
調停委員・・・・・・当事者双方の話を聞き、紛争の解決に当たる人。調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれる。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士。、不動産鑑定士。、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれている
一部『家事事件の登場人物』(裁判所)を参照
財産的な基準は明確に、割り切れない場合は個別に
――家庭裁判所にお勤めだった頃から数えて、お二人とも長いキャリアを積み重ねてこられたのだと思いますが、裁判所の方針や意向について近年どのような変化を感じますか?
鈴木:ブラックボックスだといわれる家庭の中の手続をより明確にするよう、法律が変化してきたと感じます。
家庭裁判所はある意味で感情を扱う場でもあるため、昔は今よりも柔軟な対応が求められていました。養育費算定表など誰が見てもわかる基準を作ることで効率的に進めることが、社会情勢として裁判所に求められているのだろうと思います。
河合:家庭裁判所は国民に一番近い存在です。そのため国民の意識を反映しやすい。
面会交流については、20年ほど前までは、「別れた親子が会うことが当たり前」ではない時代がありました。しかし、今ではDVなどの事情を加味し、ケースごとに考慮しつつ、交流を絶やさない方がよいというスタンスです。ただし、直接会うことだけが「交流」ではありません。Zoomを使ったり、手紙のやり取りをしたりといった、間接的な交流も「交流」です。
鈴木:社会の流れに合わせて、ケースごとにボトムアップで変化していく。これは必然なのではないかと思います。
この記事は2024年1月17日に公開しました。
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