離婚の理由に「性格の不一致」を挙げる夫婦は少なくありません。しかし、もともと他人だった夫婦の性格が異なるのは当然で、「辛抱が足りず、わがままだ」と言われるのではないかと離婚をためらう人もいます。性格の不一致という離婚理由は本当にわがままなのかを解説します。
性格の不一致で離婚するのはわがまま…?
結婚生活が長くなり、お互いの性格がわかってくると、受け入れられない部分や理解できない部分がでてきます。それを「性格が違うのは当たり前で、お互い様」と納得できれば問題がないのですが、我慢できなくなって離婚を考える人は少なくありません。中には老後は配偶者に邪魔されずに楽しみたいと熟年離婚も離婚する人も増えているようです。
性格の不一致による離婚は、離婚を申し出た方のワガママなのでしょうか?
結婚三年目、子供1人。マイホームあり。私は妻側です。
度重なる喧嘩、話の通じない話し合い、もう疲れてしまいました。
とはいえ家事はそこそこやってくれるし、子供の事も可愛がっています。
ですが、この先もずっとこの人と生きていく自信がありません。
性格不一致の夫と離婚したいですが夫は拒否です。
理由は子供と離れたくないからです。
なので子供が巣立ってから離婚は応じると思います。
子供は今4歳と8歳です。
ただ私は、正直言いますと、恋人が欲しいのです。
あと20年近くも今のような、誰にも愛されない人生が辛いです。
こんなことを言ったら母親として最低な気がするのですが、子供を連れて、第二の人生を歩みたいです。
わがままでしょうか?
性格の不一致で離婚したいと思っても「わがままだ」と言われて離婚できないこともあるのでしょうか。子供がいると、「子供のために我慢すべきだ」と言われることもあります。性格の不一致を理由に離婚したいときのポイントを解説します。
性格の不一致での離婚がわがままではない理由
離婚は夫婦双方の合意がある限り、離婚の理由は問われません。性格の不一致で一緒に暮らすのがつらくなれば、離婚を考えるのも当然で、わがままとは言い切れないでしょう。また、裁判になったときも、裁判所は夫婦関係が修復不可能になっているのかどうかを重視する傾向があるため、性格の不一致で離婚が認められる可能性も十分にあります。
愛情がなくなれば性格の不一致が耐えられない
よく「性格の不一致で離婚するのはわがままだ」という人がいます。「他人同士で性格が違うのは当たり前だ」というのは、その通りなのですが、性格の違いを受け入れ、折り合えるのは相手に愛情があるからです。愛情が薄れてしまえば、相手の短所や、自分との価値観の違いが許せなくなってしまいます。
つまり「性格の不一致で離婚したい」というのは、「相手への愛情がもうなくなった」という意味なのです。単に喧嘩が多い、気に入らない点があるというだけではありません。愛情を抱けない相手と一緒に生活を続けるのは苦痛です。「性格の不一致」は「愛情がなくなった」という意味だと考えれば、必ずしも、わがままとは言えないでしょう。
出典: リコ活MEDIA
裁判で離婚理由として認められることも
ただ単に「性格の不一致なので離婚したい」と訴えても、裁判で離婚が認められる可能性はそれほど高くはありません。しかし、全くないというわけではなく、事情によっては離婚が認められることがあります。
具体例としては、俗っぽいことを嫌い神経質な夫が価値観の違う妻との離婚を求めた裁判で、2審の東京高裁が、生活感や人生観の違いによって夫婦関係が破綻したとして離婚を認めたケースがあります。(東京高裁判決昭和54年6月21日)。
裁判所は、結婚生活が破綻して修復不可能な状態にあるのかを重視する破綻主義の傾向があるといわれます。このため、性格の不一致を理由に離婚裁判になった場合、夫婦関係が破綻しているかどうかが争点になることが少なくありません。夫婦関係を再構築する余地があると判断されると、「性格の不一致」の主張は「わがまま」とされてしまうこともあるでしょう。
離婚原因で「性格の不一致」は男女ともに最も多い?
「性格の不一致」を理由に離婚する夫婦はどれくらい多いのか、正確な調査結果や統計はないので、実際のところはわかりません。「性格の不一致」を理由に挙げていても、それが不満の1つに過ぎないこともありますし、本当は別の理由があっても、周囲にはその理由を隠して「性格の不一致」と説明しているという場合もあります。
夫婦にはそれぞれ事情があり、他人にはうかがい知れない感情的な行き違いや不満もあります。そうしたことをいちいち説明するのは面倒なので「性格の不一致」としておくケースもあるでしょう。そもそも、離婚する理由が1つしかないということはあまりなく、さまざまな理由が重なって離婚を決意するというのが一般的です。
離婚調停申し立ての理由の一番は「性格が合わない」
最高裁判所は毎年、離婚裁判や離婚調停に関する統計を公表しています。2022年の一年間では、離婚を申し立てた5万7062人のうち、「性格が合わない」を理由に挙げたのは、男女ともに一番多く、2万5278人で44%でした。ただし、回答は複数回答なので「性格が合わない」という理由だけで、離婚を求めたというわけではありません。
また、男女別にみると、男性が60%を占めたのに対し、女性は39%にとどまりました。男性のほうが性格の不一致を理由に挙げることが多いようです。
性格の不一致で離婚するときのポイント
性格の不一致だけでなく、配偶者の浮気や暴力など決定的な離婚の原因がある場合は、離婚の話し合いがうまく進まなくても、最終的には裁判で離婚できる可能性があります。しかし、性格の不一致以外に主な理由がない場合、離婚は可能なのでしょうか。性格の不一致で離婚するためのポイントを解説します。
基本的に協議離婚となる
性格の不一致のほかに、決定的な離婚の理由がない場合、裁判で離婚が認められる可能性は低くなります。できるだけ、話合いでの解決を目指すのがいいでしょう。話し合いで離婚に合意することを協議離婚と言います。協議離婚の場合、互いの合意さえあれば、離婚の理由や条件を問われることはありません。
相手が再構築を求めるなど、話し合いで離婚に合意できない場合、家庭裁判所に間に入ってもらう離婚調停という方法もあります。離婚調停では、裁判所の調停委員に双方の言い分を聞いてもらい、双方が合意できるよう意見の調整をしてもらいます。この場合は、離婚を求める十分な理由があると調停委員に納得してもらえる根拠を示すことが重要です。
調停委員が離婚に応じない配偶者側の言い分に納得してしまうと、逆に関係修復を勧められたり、相手に有利な形で話し合いが進められたりしてしまうかもしれません。離婚調停を申し立てるときは、自分の言い分に説得力があるのか、よく考えることも大切です。
解決金を支払うことも
離婚調停や離婚裁判になっても、離婚の理由に乏しく離婚できそうもないというときは、相手に解決金を支払って離婚するという方法もあります。いわば、手切れ金や、明確な理由がないのに離婚を申し入れた迷惑料のようなものです。ある程度の金額を提示すれば、相手も離婚協議に応じてくれる可能性があります。
ただし、解決金には法的根拠がなく、多額の金額を受け取ると税務署から「贈与」とみなされ、課税される可能性があります。慰謝料の場合は原則として非課税になるので、この違いには注意しておきましょう。
裁判で離婚が認められるケースとは
離婚裁判で離婚を認めてもらうには、民法で定められた離婚事由が必要です。裁判所は離婚事由があり、夫婦関係の修復が困難だと判断したときに離婚を認めます。離婚事由とは、次の5つの事情です。
・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある
「性格の不一致」を理由に離婚を求める場合は、一般的に、性格の不一致によって「婚姻を継続しがたい」状況に陥り、夫婦関係の修復が困難だと主張することになります。結婚生活を続けるのが困難であることを示す証拠も必要です。
裁判所は個別の事情で離婚を認めるかどうかを判断しますので、似たような状況であったとしても、夫婦間の事情や話し合いの経緯などによって判断が分かれることがあります。どのような状況であれば離婚が認められるのか、事前に弁護士に相談したほうがよいでしょう。
加藤 惇
法律上離婚事由がないからといって、離婚を諦める必要はありません。離婚事由がない場合でも離婚に向けて進めていくことは可能です。少しでも離婚をしたいと考えた場合には、弁護士に相談をすると良いでしょう。
性格の不一致で離婚したい人がすべきこと
性格の不一致で離婚したい場合、配偶者とどのように話し合いを進めればよいのでしょうか。離婚の話し合いを進めるときのポイントを解説します。
相手とよく話し合う
性格の不一致だけを理由に離婚するには、離婚理由について相手に納得してもらうことが大切です。相手が再構築を望んでいる場合、調停や裁判になると、「性格の不一致」だけでは離婚の理由として調停委員や裁判官に納得してもらうことが難しく、離婚が認められる可能性は低くなります。
話し合いでは、感情的にならず冷静になることが大切です。その上で、自分の気持ちや離婚の意思、離婚の条件などを明確に伝えましょう。ただし、一方的に言い分を伝えるのではなく、相手の主張にもしっかり耳を傾け、最大限受け入れることも必要です。譲歩して相手に有利な離婚条件を提示することも検討しましょう。
夫婦関係が破綻していることを証明する
相手の拒絶で協議離婚できないことを考え、夫婦関係が破綻し、修復の見込みがないことを証明する証拠も収集しておきましょう。普段の夫婦の喧嘩の内容や話し合いの記録、日記なども証拠になります。家庭内別居の状態になっているときは、2人が別々に生活していることも証明できるようにしておくといいでしょう。
性格の不一致以外にも、浮気やDV、モラハラなどがあるときは、そうした行為を証明する証拠があると、調停や裁判を有利に進められます。特に浮気やDVは、離婚事由として認められるので、離婚できる可能性が高くなるでしょう。
出典: リコ活MEDIA
別居を検討する
長期間別居をしていると、夫婦の実態が保たれていないとして裁判でも離婚が認められる可能性が高くなります。別居してすぐに離婚できるわけではありませんが、3年から5年くらいの別居期間があれば、夫婦関係が破綻していると判断されやすいといわれます。しかし、3年以上別居していても、離婚が認められなかったケースもあり、裁判所の判断次第です。
ただし、別居した場合、相手より収入が多いときは、相手に生活費を支払う必要がでてきます。経済的負担が大きくなりますので、弁護士とも相談して慎重に検討したほうがいいでしょう。
性格の不一致で離婚したいときは専門家に相談を
性格の不一致といっても、夫婦の事情はさまざまです。本当の理由を隠すために「性格の不一致」と周囲に言っているだけのこともありますし、どちらかが一方的に「性格が合わないので離婚したい」と言っていることもあります。
もし、離婚調停や離婚裁判を考えているのなら、どのような点が不満で夫婦関係が破綻したのかをきちんと説明できるようにしておくことが大切です。どのように離婚話を進めればよいのかわからないときは、夫婦関係に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
加藤 惇/CSP法律会計事務所(第一東京弁護士会所属)
弁護士として、婚姻費用・財産分与・養育費・慰謝料・不貞・親権・面会交流など、離婚にかかわる事件を特に重点的に取り扱う。依頼者の意向を丁寧にくみ取り、常に依頼者の利益を最大化することを目標に活動している。離婚事件のほか、いじめなどの学校事件も多く扱っており、子供に関する問題にも詳しい。CSP法律会計事務所所属。