【座談会①】親の離婚の影響は50代、60代になっても……元子どもの声を聴く
更新日: 2024年11月18日

2023年、離婚を経験した子どもたちの声をまとめた『「離婚の子ども」の物語』が改訂版として、より現代の社会事情を踏まえてバージョンアップされた形で刊行されました。もともとは10年前に第一版が刊行された本冊子ですが、改訂版は朝日新聞など大手メディアにも取り上げられるなど多くの反響を呼びました。
自費出版の冊子にもかかわらずここまでの反響が寄せられているのは、本書の内容がまさに「離婚の子どもの本音や実態」を何よりもリアルに捉えているからではないでしょうか。
そこで今回、冊子制作の発起人で執筆者のひとりである中原和男さん(50代)と、今回の改訂で新しく冊子に「声」を寄せた小林さん(仮名・60代)に集まっていただき、中原さんには「離婚の子ども」の声を集めた本冊子が生まれた経緯や制作に込められた思いについて、小林さんには参加を決意した理由や社会に伝えたかったこと、自身の離婚体験を語って感じたことなどについて、親の離婚を経験した当事者であり公認心理師としての立場から共同執筆者を務めた筆者がインタビューを行いました。
「同じ人が全国にもいるんじゃないか」離婚の子どもの声を聴く
――まずは、冊子を作ったきっかけを教えてください。
中原:2006年にSNSサービスのmixiで「親の離婚を経験した子ども」というコミュニティを立ち上げたところからスタートしました。そこにはいわゆる未成年の「子ども」ではなく、大人になった「元子ども」がたくさん参加してくださったんです。
そこで大人になった当事者たちが当時を振り返って話せる場というのが自然と生まれていき、「これってけっこう大事なことなのではないか」と思うようになったんです。

※写真はイメージ(iStock.com/Tippapatt)
その当時もコミュニティ参加者の方がちょっとした取材を受けることはありました。しかし実際に出来上がった記事を読んでみたところ「当事者の視点からはちょっと違うな」と感じることが多かったんです。
――たしかに私も親の離婚を経験した子どもの当事者という視点から見たときに、体験者ではない方が書かれたものというのはリアリティに欠けるなと思うことがほとんどです。たとえば、医者が医療ドラマを見たときに感じる違和感、のようなものに近いでしょうか。また、制度やお金がどうのということばかりに注目して、肝心の「子ども」の部分が抜け落ちているのを感じていました。
中原:そんなある日、偶然目にした文章にはなぜか心を揺さぶられました。その文章は離婚を経験した人が書いていたんです。それを見て、「もしかして自分以外にも同じような『離婚の子ども』の立場の人が全国にはいるんじゃないだろうか」と思うようになり、2012年に企画を考えて、すでに活気づいていたコミュニティの掲示板に賛同者を募ったところ、想像以上の反響をいただき、取材をスタートさせたのが、冊子制作の始まりです。
――最初に作成した時と、10年後に改訂版を制作する際では、冊子に対する思いに変化はあったのでしょうか。
中原:最初に作ったときは、一対一でほかの当事者と話をすることが目的のひとつでした。みんなの声も聞けたし、それを文章にまとめて形にできたという満足感がまずありました。

※写真はイメージ(iStock.com/Comeback Images)
でも、そこから10年の時間が経っても、親の離婚を経験した子どもを取り巻く社会の状況は全然変わっていませんでした。だからこそ、改訂版ではどうしても入れたかった小林さんはじめ、2名の方のエピソードを追加し、新たに考察も加えてより「伝える」ことを意識してまとめたんです。
「母親はお前を産んですぐに死んだ」と聞かされていた幼少期
――小林さんは、どのような「親の離婚」を経験したのでしょうか。
小林:私の場合は、10歳のときに父が離婚届を書いて別居したものの母はそれにハンコを押さなかったので、「正式には離婚していないけれども、実質的には離婚している」というような状態が20年間ずっと続きました。
私の結婚を機にようやく区切りがついたということで離婚をしたわけですが、私の人生を考えると、20年も待たずにはっきり離婚してくれていたほうが区切りはついたのかもしれません。ずっと中途半端な気持ちでした。
中原:私の場合は、両親の離婚が生後半年でしたからね。母親は実家に帰ってしまい、私は父方の祖父母が親代わりで面倒を見てくれました。母親については「お前を産んですぐに死んだ」と言われていたことを信じていました。
今の時代の感覚だと嘘をつくなんてとんでもないでしょうけど、昔の感覚で言えば「赤ちゃんは理解できないんだからそう言っとけばいいよ」という認識だったと思います。それをすべて否定するつもりもなくて、ある意味、そうだろうなという思いもありますね。
小林:でも、その事実に自分で気づいたわけでしょう?
中原:生きていると、家族のことでわからないことが出てくるんですよ。だって母方のお墓参りに行ったことがないし、母方のおじいちゃん、おばあちゃんの写真もないしで。高校生のときに聞いたら、離別だったとわかりました。それで「お母さんは今どこでどうしているの?」と聞いたら「あんな女のことを聞くのか!」と言われました。
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この記事は2024年9月17日に公開しました。
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