最近は子育ての支援制度が拡充され、特に収入が低い家庭や一人親家庭への支援が手厚くなっています。ところが、そうした支援をメリットと考え、偽装離婚する夫婦が増えているそうです。偽装離婚がバレても大丈夫なのでしょうか?偽装離婚に本当にメリットがあるのかを解説します。
偽装離婚はバレる?違法?
役所に離婚届を提出しておきながら、別居もせず2人の生活を続けることを偽装離婚と呼ぶことがあります。わざわざ、なぜそんなことをするかというと、離婚して一人親になると、国や自治体からの支援などを受けられる可能性があるからです。実際、「近所の夫婦が戸籍上、離婚しているのに同居生活を続けて不正をしている」という話を聞くことがあります。
友人が偽装離婚し、児童扶養手当てを貰ってます。
私も母子家庭なので児童扶養手当てを頂いてます。
児童扶養手当てを頂いている事に関しては、有り難く思っております。
友人は偽装離婚し、夫婦の所得はうちの倍くらいあり、児童扶養手当ても入れると、かなりの収入になります。
私は当たり前ですが、私の給料で2人の子供を育てていますので、毎月やりくりしながら生活してます。
上記の件を市役所に相談すると、偽装離婚に関しての調査は現状難しいとの事。
偽装離婚をしている友人を許せないと思うのはおかしいでしょうか?
偽装離婚はバレますか?
近所に離婚をしたのに一緒に暮らしている人がいます。旦那さんが実家に帰ったことになっていると小耳にはさみました。母子家庭になると、市営住宅や医療費、学費やらいろいろと
補助がありますよね。どうやらそれが目的らしいです。いつかバレないのかなあと余計なお世話ですけど思ってしまいます。
離婚届を出した後も同居生活を続けた場合、何が問題となるのでしょうか。また、不正と認められた場合、どのようなペナルティを受けることになるのでしょう。偽装離婚について詳しく解説します。
偽装離婚とは
偽装離婚とは、実際には結婚生活が続いていながら、形式上は離婚したことにして、何らかのメリットを得ようとすることを指します。主にひとり親に対する支援を受けるのが目的であることが多く、税金を逃れたり、財産を隠したりしようとする人もいます。
法律上は、夫婦が同意して離婚届を提出すれば離婚が成立しますし、結婚していなくて同居しているカップルは珍しくありませんから、偽装離婚自体は違法とはいえません。しかし、偽装離婚の目的によっては、不法とみなされることもあります。偽装離婚とは、どのようなものをいうのか、具体的に説明します。
離婚届を出したのに同居している
よくあるケースは、離婚届を提出したものの、同居を続けているケースです。普通は離婚すると、すぐに別居しますが、不正目的で離婚している場合は別居する必要がありません。そして、単身者やひとり親向けの支援に申し込むなどして、何らかの経済的メリットを得ようとするのです。
しかし、引っ越し先が見つからず、しばらく同居する場合もあります。また、結婚して姓が変わったものの、仕事などの都合で旧姓に戻したいので、戸籍上は離婚するというカップルもいます。こうした場合、不当な利益を得ようとしているわけではないので、偽装離婚とはいいません。
ただし、そうしたケースでも、同居したまま単身者向けやひとり親向けの制度などを利用しようとすると、偽装離婚と見なされる恐れがあるので注意しましょう。
離婚の手続きが終わり別居しているのに、生活費は同じ
離婚届を提出し、別居をしたうえで、生活費を一緒にしているケースもあります。この場合は、偽装離婚が発覚すると困ると自覚していることが多く、悪質だともいえるでしょう。本人たちは法律や制度の盲点を利用したつもりで、それほど悪気がないかもしれませんが、発覚した場合、罪に問われる恐れがあります。
偽装離婚をする目的は?
わざわざ偽装離婚をする人たちは、どのようなメリットを得ようとしているのでしょうか。よくある偽装離婚の目的について解説します。
生活保護や手当を不正受給するため
偽装離婚の目的で最も多いのは、生活保護や児童扶養手当などの受給資格を得ることです。離婚して収入が減ったといえば、国や自治体によるこうした支援を受けられる可能性があります。
生活保護は、憲法で保障された健康で文化的な最低限の生活を維持するために、国と自治体から支給されます。受給には条件がありますが、「離婚して単身となり、収入も減り、経済的に苦しい」といって、自治体の窓口に申請すれば、受給が認められる可能性があります。
また、ひとり親家庭に対しても、条件によって児童扶養手当などが支給されます。児童扶養手当は母子手当とも言われることがありますが、条件を満たせば父子家庭でも需給が可能です。支給額は収入や子供の数によって異なりますが、満額受給できれば、月6万円以上になることもあります。ほかにも自治体によって、ひとり親家庭に対するさまざまな支援があります。
節税をするため
誰かにお金を譲ったり、誰かから受け取ったりして、お金が移動したとき、一般的には所得税や贈与税、相続税などの税金がかかります。しかし、離婚時の財産分与や慰謝料に対しては、税金がかかりません。
このため、離婚して財産分与分や慰謝料などを支払ったことにして、妻に財産を移すケースがあります。この場合は、税金がかからないので、節税になるというわけです。しかし、財産分与や慰謝料の額が大きすぎると、税務署に調べられ偽装離婚による脱税と判断されてしまう恐れがあります。
財産を隠すため
多額の借金を抱えて、自己破産などで借金を整理しなければならなくなった人の中には、破産などの手続きをする前に妻と離婚し、財産分与や慰謝料名目で妻に財産の一部を移してしまう人がいます。借金の整理には、基本的に財産を全て差し出さなければなりませんから、妻に渡して少しでも財産を残すのが目的です。
しかし、破産手続きなどをすると、裁判所から任命された破産管財人が、詳しく財産状況を調べます。資産の動きは過去にさかのぼって調べますので、妻に財産分与などをしたことも把握されます。このため、偽装離婚の疑いがあったり、額が多すぎたりした場合は、妻に渡した財産の全部か一部を差し出すよう求められますので、財産を隠すことはできませんし、破産申立をした夫が免責されない(債務がなくならない)といった可能性もあります。
借金の経歴を隠すため
事業の失敗や浪費などで多重債務の状態だったり、借金の返済滞納があるとクレジットカード会社や消費者金融など金融機関のブラックリストに入ってしまうことがあります。ブラックリストというのは、信用情報機関という個人の信用情報を取りまとめている機関が保有している個人データに、滞納などの情報が記載されることを指します。
カード会社やローン会社は、信用情報機関の情報をもとにカードの発行や借入の審査を行いますので、滞納などの情報が記載されていると利用を断られてしまいます。このため、離婚したことにして、名字を旧姓に戻せば、審査を通るはずだと考える人がいます。中には頃合いを見計らって離婚と再婚を繰り返す人もいるようです。
確かに名字が変われば、カードを作ったり、お金を借りたりできるかもしれませんが、そんなことをしても、更に借金の返済に追われるようになるだけです。
保育園に入園しやすくするため
都会では保育園に入園したくても、なかなか入園できない待機児童の数が問題になっています。保育園の入園を決めるのは市区町村などの自治体で、多くの場合、家庭の事情を点数化して、点数の高い家庭から園児を受け入れています。このため、少しでも「自宅で子供を見られる」と判断されると、入園できない可能性が高くなります。
また、2人目以降の子供が生まれて育休を取得した場合、保育園に通っていた子供の退園を求められるという育休退園という制度が一部の自治体にあるようです。一度保育園を退園すると再び入園できる保証はありませんから、これも親にとっては切実な問題です。
こうしたとき、ひとり親なら点数も加点されるはずだと偽装離婚する夫婦がいます。しかし、なんとか入園できても、保育園や周囲の保護者に偽装離婚を見抜かれ、退園を求められるというケースも少なくないようです。
偽装離婚がバレる理由とは
普通は離婚届さえ出せば離婚が認められるため、「偽装離婚してもバレないだろう」と考えている人がいます。しかし、社会の目は不正に厳しいもの。さまざまことをきっかけにバレてしまうことがあります。偽装離婚はどのようにバレるのか、よくあるケースを紹介します。
自治体の調査でバレる
生活保護を受給すると、ケースワーカーと呼ばれる自治体の職員が、月に数回程度、自宅を訪問します。生活保護は自立生活を手助けするものですから、自立生活に向けた相談やアドバイスが主な目的ですが、不正受給をしていないかチェックするという目的もあります。生活保護は税金でまかなわれていますから、これも当然です。
また、不正受給が多い自治体では生活保護Gメンという不正受給の調査専門の職員がいるところもあります。こうした職員の調査で不正が発覚することは少なくありません。
住民や保育園関係者からの通報
「離婚したと聞いたのに、夫婦で同居しているようだ」「離婚した夫婦がこっそり2人で会っている」といった住民からの通報が役所に入り、それがきっかけで偽装離婚が発覚することもあります。隣近所の目は意外と厳しく鋭いものです。
偽装離婚で不正に保育園に入所した場合も、ほかの保護者や保育士からの通報で偽装離婚が発覚することがあります。保育士は虐待などが起きないよう家庭環境に注意を払っているものですし、園児同士の会話から実際は両親が離婚していないことがわかることもあります。隠し通すことは難しいと思ったほうがいいでしょう。
不正に対する周囲の目は厳しい
生活保護や児童扶養手当は税金でまかなわれています。特に税金の使い道には世間の目は厳しいものです。「不正受給は絶対に許さない」と考える人は少なくありません。偽装離婚している本人たちが思うより、ずっと世間の目は鋭く、厳しいと思っていたほうがいいでしょう。
住民から通報があったからといって、役所が全てに対応できるとは限りませんが、「不正受給の疑いがある」と目をつけられる可能性は十分にあります。
バレたらどうなる?偽装離婚のリスク
バレないと思っていた偽装離婚が発覚し、不正を指摘されたらどうなるのでしょうか。安易に偽装離婚をしてしまう人は、発覚したときのデメリットをあまり真剣に考えていないのも特徴です。
不正目的の偽装離婚が発覚したときのリスクやデメリットも知っておきましょう。
自治体から返還を求められる
生活保護や児童扶養手当の不正受給が発覚すれば当然、支給は打ち切られます。それだけではなく、受け取った手当なども全額返還しなければなりません。返還できない場合、状況によっては財産などを差し押さえられる可能性もあります。不正に入園した保育園からも退園を求められるでしょう。
ちなみに返還請求を受けるのは、手当などを受給していた本人です。偽装離婚した相手が、不正が発覚した途端、「離婚しているので関係ない」と逃げ出してしまうこともあるので、気を付けてください。
逮捕や起訴の恐れも
不正目的の偽装離婚がバレると、罪に問われることがあります。たとえば、離婚したとして嘘をつき、担当の職員に虚偽の戸籍を作成させれば、公正証書原本不実記載罪に該当する可能性があります。不正の目的や額によっては逮捕、起訴されることもあるでしょう。
自己破産前に偽装離婚して財産を隠そうとした場合は、詐欺破産罪に問われる恐れがあります。公正証書原本不実記載罪で有罪になると、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。詐欺破産罪の量刑は10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金です。両方合わせて科せられることもあり、「偽装離婚くらい」と甘く見てはいけません。
社会的信用を失う
偽装離婚による不正が発覚すれば、手当の支給が直ちに打ち切られたり、保育園からの退所を求められたりします。なぜ、突然退所しなければならなくなったのか、と噂になることもあります。不正が発覚すれば、近所の人たちからの信用も失われ、肩身の狭い思いをしなければならないこともあるでしょう。
税金逃れや財産隠しなど犯罪となる可能性が高い不正で、逮捕されたり起訴されたりすると、会社にまで不正が知られてしまう恐れがあります。社会的な信用は相当なダメージを受けると覚悟したほうがいいでしょう。
家庭環境が悪化する
親の不正受給がバレて、多額の返還金を求められたり、両親が刑事責任を問われたりすると、家庭内は暗くなってしまいます。子供の成育にも悪影響を及ぼすでしょう。子供自身も保育園を通えなくなり、ショックを受けるかもしれません。
また、親が「利益が得られるのなら、多少の不正も構わない」という考えでいると、子供もそうした考えを持つようになってしまうかもしれません。大人になって、親と同じように不正に手を染めてしまう恐れもあります。
偽装離婚を考える前に
不正を目的に偽装離婚をしてしまうと、さまざまなデメリットやリスクがあり、最悪の場合に罪に問われてしまう恐れがあります。偽装離婚を考える前に、もっと別の方法がないか考えてみましょう。
ほかの解決法を考えよう
子育てにはお金がかかるものです。お金に困り、偽装離婚を考えてしまうこともあるでしょう。しかし、本当に偽装離婚しか手立てがないのか、もっとよく考えてみましょう。もっと収入を得る方法はないか、支出を減らすことはできないかを考えることが必要ですし、親族や知人らに助けを求める方法もあります。
借金でどうしようもないのなら、覚悟を決めてイチから出直すのも一つの方法です。自治体に窮状を相談すれば、利用できる支援なども教えてくれるでしょう。偽装離婚ではなく、夫婦2人で協力して困難を乗り越える方法を考えましょう。
弁護士に相談する
借金の問題で解決方法がわからないときは、弁護士に相談してみましょう。偽装離婚のような不正な方法でなく、法律に基づいて問題を解決し、再起を図る方法を一緒に考えてくれるはずです。
偽装離婚は犯罪になることも!困ったことがあれば専門家に相談を
安易な気持ちで偽装離婚をして、不正な方法で手当などを申請したり、財産を隠そうとしたりすると罪に問われる恐れがあります。困ったときは、自治体の窓口で利用できる制度がないか相談してみましょう。借金問題などを抱えている場合は、弁護士に相談すると、問題解決に向けたアドバイスが受けられます。
塚本 亜里沙/東京山手法律事務所(第一東京弁護士会所属)
20年以上の経験を持つ弁護士。
弁護士が行うリーガルカウンセリングもカウンセリングの一種であり、カウンセリング能力の向上は不可欠であると考え、日本メンタルヘルス協会基礎心理カウンセラー・(一財)日本能力開発推進協会家族療法カウンセラー・アンガーコントロールスペシャリスト取得。
夫婦関係・離婚のお悩みに真摯に向き合い、幸せな離婚に向けた解決をモットーに全力を尽くしている。