モラハラ気質のパートナーにどのように接すればいいのか分からないという妻や夫も多いでしょう。モラハラは「自己愛性パーソナリティ障害」と関係していると言われます。自己愛性パーソナリティ障害とはどのようなものなのか、チェックする方法や接し方とともに紹介します。
モラハラ加害者は自己愛性パーソナリティ障害の可能性がある?
夫や妻に暴言を吐いて人格攻撃したり、あからさまに見下す態度を取ったりするのがモラルハラスメント、いわゆるモラハラです。モラハラをする原因は、もともとのプライドの高い性格や、子供の頃に親からモラハラを受けるなどの家庭環境にあると言われています。中には「自己愛性パーソナリティ障害」という人格障害が関わっていると見られる人もいます。
モラハラの原因となっている可能性のある自己愛性パーソナリティ障害とはどのようなものなのか。その特徴や診断基準、夫婦としての接し方などについて説明します。
自己愛性パーソナリティ障害は病気の一種
パーソナリティー障害とは、簡単に言えば、物の考え方や言動に著しい偏りが見られる病気で、特徴によって自己愛性パーソナリティー障害のほか、妄想性パーソナリティー障害、反社会性パーソナリティー障害などに分類されます。
自己愛性パーソナリティー障害は、周囲からの注目や賞賛を求め、周囲の人たちを見下すのが特徴で、傲慢で尊大な態度を取ります。パーソナリティー障害は人格障害とも呼ばれ、「性格や人格に問題があり、治らない」と思われがちですが、心理療法や服薬で改善が期待できる病気です。もともとの資質と成育環境の組み合わせで発症すると考えられています。
自己愛性パーソナリティ障害をチェックするには
モラハラ的な言動が見られる夫や妻が自己愛性パーソナリティかどうかを知るにはどうすればいいのでしょうか。自己愛性パーソナリティーは考え方や言動をもとに診断されます。その診断基準にあてはまるかどうかをチェックすれば、ある程度の目安はつきます。
米国の医療マニュアル「MSDマニュアル」に掲載されている自己愛性パーソナリティ障害の診断基準を紹介しますので、パートナーの言動が気になる方はチェックしてみてください。ただし、専門医でなければ、診断を確定させることはできません。当てはまるのではないかと思ったら、専門医に相談してください。
診断基準となる9つの言動でチェック
自己愛性パーソナリティー障害の診断基準は次の通りです。自分への賞賛を求める言動や誇大な優越感、他人の共感の欠如などの言動が繰り返し見られると自己愛性パーソナリティー障害の可能性があります。判断のもととなる言動は9つあり、このうち5つ以上当てはまるのが基準です。
自己愛性パーソナリティ障害の診断を下すには、患者に以下が認められる必要がある
・誇大性、賞賛の要求、および共感の欠如の持続的なパターン
このパターンは,以下のうちの5つ以上が認められることによって示される
・自分の重要性および才能についての誇大な,根拠のない感覚(誇大性)
・途方もない業績、影響力、権力、知能、美しさ、または無欠の恋という空想にとらわれている
・自分が特別かつ独特であり、最も優れた人々とのみ付き合うべきであると信じている
・無条件に賞賛されたいという欲求
・特権意識
・目標を達成するために他者を利用する
・共感の欠如
・他者への嫉妬および他者が自分を嫉妬していると信じている
・傲慢、横柄
また、症状は成人期早期までに始まっている必要がある。
誇大性、賞賛の要求、共感の欠如という特徴が、どのようなモラハラ言動として現れるのかを詳しく説明しましょう。
誇大性によるモラハラの言動
誇大性とは、自分の能力や存在価値、成果などについて、根拠もなく過大評価することです。自分は特別な人間であると空想し、その裏返しで他人を過小評価し、見下すこともあります。実績をともなわない尊大な自信家といえるでしょう。
夫婦関係ではたとえば、専業主婦の妻に夫が「誰のおかげで飯が食えると思っているんだ」と言ったり、妻が夫に「私がいないと何もできない無能な人ね」と人格を否定するような暴言を投げかけたりします。
賞賛の要求によるモラハラの言動
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分は周囲にとってかけがえのない存在だと思っていて、自分への賞賛を求めます。このため、家庭の中では、自分への賞賛が足りないと感じると怒り出します。「自分を認めてほしい」という承認欲求が強いタイプとも言えます
例えば、妻がなにか不服そうな顔をすると「家のために俺がどれだけやっているのか、わかっているのか。少しは感謝したらどうだ」と怒鳴り声を上げ、感謝できないことを謝罪するよう求めます。これは、妻も同じで、自分の貢献に対して感謝するよう求めます。ただし、モラハラをする側が相手に感謝することは滅多にありません。
共感の欠如によるモラハラの言動
共感性の低さとは、相手の気持ちを推し量ったり、相手の気持ちに配慮して行動したりすることが苦手だという意味です。相手には、自分の優秀さや存在価値を理解してほしいと思っているのに、相手の喜びや悲しみは理解しようとしません。例えば、夫や妻が喜びを共有しようと話をしても「ああ、そう」とつまらなそうな顔をします。
また、悩みを相談している相手に対し、「そんなくだらないことで悩んでいるのか」「お前の話なんてどうでもいい」「ダメな人間だから、そんなふうに感じるのよ」などと言って、かえって相手をおとしめることもあります。
自己愛性パーソナリティ障害のモラハラは治らない?
自己愛性パーソナリティーによるモラハラは治らないのでしょうか。結論を言えば、自己愛性パーソナリティー障害をそのままにしていると、モラハラ言動が改まることはありません。おそらく言動はエスカレートしていくでしょう。しかし、自己愛性パーソナリティー障害を治療できれば、改善できる可能性もあります。
自己愛性パーソナリティー障害の治療法とは
自己愛性パーソナリティー障害は、生まれつきの性格や資質と、子供の頃の成育環境の組み合わせで引き起こされると考えられています。「生まれつきの性格だから治らない」と言われることもありますが、治療法の研究が進み、欧米では効果的な精神療法プログラムも開発されています。薬物療法も一定の効果が期待されています。
しかし、治療には長期間かかることも多いうえ、本人にモラハラなどの自覚がなく、自己愛性パーソナリティー障害の治療を拒否することもあります。本人に意思がなければ、治療ができないため、根本的な問題が解決されずモラハラも改善されないというケースは少なくありません。
自己愛性パーソナリティ障害の対処法・接し方は?
夫や妻に自己愛性パーソナリティー障害の疑いがあるときや、自己愛性パーソナリティ障害と診断されたとき、どうすればいいのでしょうか。本人の性格や特徴、自覚があるかどうかで対処法も変わりますが、一般的に有効だと思われる方法を紹介します。
専門医の診察を受ける
自己愛性パーソナリティ障害の診断基準を紹介しましたが、最終的な診断は専門医に任せる必要があります。素人判断で決めつけると、誤った判断をしてしまう可能性がありますし、別の病気を見逃してしまうこともあります。治療も専門知識がなければできません。疑わしいと思ったら、本人に病院での診察を勧めてみましょう。
ただし、無理矢理診察を受けさせるのはいけません。本人が病気を自覚し、自分から診察を受け、治療を受けたいと思わない限り、改善は見込めません。自己愛性パーソナリティ障害の人はプライドが高く、自分の弱みを認めようとしないので、最初から素直に診察を受けようと思う人は非常に少ないということは覚えておきましょう。
このため、最初は相手とよく話をすることが大切です。モラハラ的な言動がつらいこと、悩んでいることを伝え、改善してほしいと思っていることや、改善には治療も選択肢の一つであることを説明し、自覚を促すしかありません。時間がかかる方法ですが、相手も、まだ愛情が残っているのなら、耳を傾けてくれるかもしれません。
病気について理解する
モラハラ的な言動をする夫や妻が、自己愛性パーソナリティ障害の疑いを自覚してくれないのなら、まずは自分が病気への理解を深めましょう。病気を理解すれば、対人関係をうまく構築できず、承認欲求が強い配偶者の考え方や不安などを理解できるはずです。また、適切な接し方もわかっていきます。
相手の考え方がわかれば、なぜ急に怒り出したのか、どうすれば機嫌よくなるのかが分かりますし、相手に振り回されることなく穏やかに接することもできるようになります。これまで我慢していたため蓄積されていたストレスも解消されるでしょう。
距離を取る
自己愛性パーソナリティー障害の人は、自分のことを優れた特別な人間だと思っているので、周囲からのアドバイスにもあまり耳を傾けません。このため、配偶者が相手を理解したうえで、改善を求めても、それに応じない可能性は十分にあります。それどころか「病人扱いするのか」と態度を硬化させることもあるでしょう。
自分のモラハラ的言動や病気に向き合えず、言動をエスカレートさせるようなら、そうした夫や妻からは距離を取る必要があります。普段できるだけ顔を合わさないようにすればやり過ごせることもありますが、逆に怒らせてしまうとそうもいきません。耐えきれないときは、弁護士といった専門家にも相談し、別居や離婚も検討しましょう。
自己愛性パーソナリティ障害の人の弱点は?
自己愛性パーソナリティー障害の夫や妻に対処するには、相手の弱点や弱みを知っておくことも大切です。モラハラ的な態度を取られたとき、弱点を利用して反撃できるかもしれませんし、相手のコンプレックスも理解できます。自己愛性パーソナリティー障害に共通する弱点を3つ紹介します。
自分より強い人に勝てない
自己愛性パーソナリティ障害者は傲慢な態度を取りますが、それは自分に自信がないことの裏返しでもあります。自分に自信がないからこそ、強気に振る舞い、相手に自分を認めさせようとするのです。このため、怒りの矛先も、自然と自分より弱そうな人に向かいます。決して自分より立場が上の人や、実力のある人には歯向かいません。
立場や実力が上の人だけでなく、自分の意見をしっかり持っている人、論理的に反論してくる人も苦手です。そうした人には自分の主張が論破されてしまいそうで、あまり強いことは言えません。
相手にされないと不安になる
周囲からの賞賛を求めている自己愛性人格障害の人は、孤独になり、自分を賞賛する人が周りからいなくなることを恐れています。このため、相手にされないと不安を覚えます。そうした状況に置かれると、本来、自分に自信がないため、とたんに弱気になってしまいます。
相手が自慢話をしたり、強気の態度をとったりしたときに、「ああ、そう」と軽くいなして相手にしないと、最初は怒るかもしれませんが、しだいに不安になっておとなしくなるかもしれません。
嘘や見栄で自滅する
自己愛性パーソナリティー障害の人は、虚勢を張るために嘘をつくことがあります。嘘をついたり、話を誇張したりしてでも、自分を優秀な人間であるかのように装いたいのです。しかし、そんなことを続けていると、いつかメッキははがれてしまいます。嘘や誇張がバレて、周囲からの信用を失ってしまいます。
また、謝ったり、自分の非を認めたりすることができないため、失敗したときも見苦しい言い訳をし、嘘でその場を繕おうとすることがあります。やはり、こうした行為も対人関係を損なうので、しだいに相手にされなくなってしまいます。無意識に嘘や見栄を並べ立て、自滅するのが最大の弱点といえるかもしれません。
自己愛性パーソナリティ障害の配偶者と離婚するには
自己愛性パーソナリティー障害の夫や妻によるモラハラ的言動に耐えかね、離婚を決意したとき、どのように話を進めていけばよいのでしょうか。具体的な進め方とポイントを紹介します。
話し合いによる離婚は難しい
基本的に、離婚するときは夫婦双方の合意が必要です。二人で話し合い、条件にも合意して離婚することを「協議離婚」といいます。協議離婚では、どのような理由でも離婚できます。 しかし、相手が自己愛性人格障害の場合、協議離婚できる可能性は低いのが実情です。
自己愛性人格障害の妻や夫は、自分の考えが正しく、間違ったことはしていないと思っているので、まさか自分が離婚を請求されるとは思っていません。また、離婚は「結婚の失敗」ともとられます。自分の失敗を認められないため、理由はともかく「離婚」という事実は決して受け入れられません。離婚に応じたとしても、自分に不利な条件は決して認めないでしょう。
早めに弁護士に相談する
自己愛性パーソナリティー障害の夫や妻に、いきなり離婚の話を切り出すのはやめたほうがいいでしょう。おそらく話し合いにはならず、頭ごなしに否定されたうえ、丸め込まれてしまうかもしれません。その後、相手のモラハラ的言動がますますエスカレートする恐れもあります。
離婚を切り出す前に、まずは弁護士に相談しましょう。夫婦間の話し合いで離婚できなければ、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立て、それでも離婚できなければ「離婚裁判」を起こすという流れになります。法律や離婚の実例に関する知識も必要になるので、法律の専門家にいつでも相談できれば安心です。
離婚を切り出す前から弁護士に相談していれば、話し合いの進め方や、調停や裁判の見通し、必要な証拠などについてもアドバイスしてもらえます。心強い味方がいれば、モラハラ的な言動を繰り返す夫や妻にも対抗していけるでしょう。
配偶者に自己愛性パーソナリティ障害の疑いがあるときは専門家に相談を
自己愛性パーソナリティー障害の夫や妻は、自分の配偶者より常に上の立場にいて、相手を支配しようとします。配偶者が愛情を持って接していても、その愛情さえ利用しようとします。関係修復に努力しても、改善の兆しが見えず、耐えられなくなったら、専門家に相談しましょう。
まだ、関係修復に望みを持っているのなら、精神科の医師に相談するといいでしょうし、別居や離婚を検討しているのなら弁護士がいいでしょう。どちらを選ぶか迷っているのなら、夫婦関係に詳しいカウンセラーに相談してみるのも一つの手です。決して一人で悩まず、専門家に相談してみてください。きっと、よい解決法が見つかるはずです。
遠藤 裕子
自己愛性パーソナリティ障害は、本人の自覚と治したいという意識と専門家による治療のどれが欠けても改善が難しいと言われています。
私のご相談者様も、効果的な対処法を求めてというよりも、既に離婚を決めている、もしくは離婚の準備を進めつつ、離婚までの日々を少しでも穏やかに生活したい、とメンタルケアをカウンセリングの目的としている方が多いです。
一人で抱えるのは辛い問題です。一緒に考えますので、ぜひご相談ください。
遠藤 裕子
これまで2,000人以上の相談実績を持つ離婚カウンセラー。
過去に年間1,600件の調査を担う探偵事務所にいた経験から、多角的な現状分析、効果的な問題解決方法の提案に定評がある。
自身でも夫の浮気を経験し、夫婦関係を修復したことから、夫婦問題の解決まできめ細かいサポートに注力している。
【保有資格】
日本家族問題相談連盟 離婚カウンセラー
NLPマスタープラクティショナー
LABプロファイルプラクティショナー
ホームカウンセラー