
近年、定年退職後や子どもの独立を機に離婚を考える夫婦が増えているといわれています。特に60歳前後の夫婦に多く見られ、これを一般的に熟年離婚と呼びます。いざ自分の親が離婚を考え始めたと知ると、子どもとしては驚きや戸惑いが大きく、両親が築いてきた家庭が分裂する不安を強く感じやすいものです。このようなとき、まずは客観的な情報を集め、親の気持ちや背景を理解することが重要です。
本記事では、親が熟年離婚しそうなときに子どもが抱える不安やリスク、また離婚を止めるためにできること、なるべく円満に熟年離婚を進める方法などを解説します。
本記事でわかること
・熟年離婚が増えている社会的背景と親が離婚を考える具体的な理由
・親の熟年離婚が子どもに与える精神的・経済的な影響と不安要素
・離婚を避けるために子どもができる具体的なアプローチ方法
・家族で熟年離婚について話し合う際の重要な7つのポイント
・熟年離婚後の親子関係を良好に保つための関わり方
離婚・相続・交通事故など、人生の転機に寄り添う法的サポートを提供。依頼者との信頼関係を重視し、専門的な情報をわかりやすく伝える姿勢に定評がある。
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子どもの権利委員会に所属し、離婚に伴う子どもの問題にも積極的に取り組む。敷居の低い相談スタイルと温かな人柄で、地域に根ざした弁護活動を続けている。

【熟年離婚増加の背景】なぜ今、熟年離婚が増えているのか
高齢になってから離婚する夫婦が増えている背景には、社会的変化や夫婦の関係性の変化が大きく影響しています。
社会保障制度の変化や平均寿命の延びに伴い、夫婦が共に過ごす時間が長くなったことが熟年離婚増加の一因といわれています。昔は“我慢して共に人生を送る”ことが普通とされてきましたが、今は“自分らしく生きる”ことを重視する風潮が強くなっています。退職後の自由な時間を新たな人生のスタートと捉える人が増え、結果として離婚という選択をする人が増えています。
もう一つの要因としては、昔に比べてライフスタイルが多様化し、純粋に夫婦関係を見直す機会が多くなったことが挙げられます。
また、従来は女性側が経済的に自立しにくかった時代背景がありましたが、近年は女性の社会進出が進み、一定の収入を得られるケースも増えました。夫に頼らなくても生活が成り立つ状況になると、離婚に踏み切りやすくなることもあります。こうした価値観の変化が、熟年離婚の増加に影響していると考えられます。
熟年離婚を考える親の気持ちとは?
長年連れ添った夫婦だからこそ、突如としてお互いの価値観や生活習慣の違いが鮮明になることがあります。熟年離婚を検討する親の背景にはどのような思いがあるのか見ていきましょう。

子どもの自立
子どもが自立し、夫婦だけの時間が増えると、それまで育児に追われていた頃には目を向けられなかった問題に気づく瞬間があります。以前は子育てが夫婦の共通目的でしたが、その役割がなくなると互いに向き合う時間が急激に増え、溝が顕在化するのです。こうして“一緒にいる意味”を改めて考えたときに、離婚を選ぶ親もいるのです。
定年退職により夫婦共に家庭にいる時間が増えた
仕事を退職することで、家庭内で夫婦が共に過ごす時間が増えます。今まで仕事で外に出ていた時間が家庭内にシフトすると、これまで見逃していた相手の行動や考え方に不満を覚えることも多くなるのです。定年後の生活の過ごし方に関して意見が合わない場合、離婚が具体性を帯びることになります。
家庭内の役割分担や価値観の不一致
日常の家事や支出の管理、趣味の過ごし方などで昔から昔から意識してこなかった価値観の違いが突然浮き彫りになることがあります。一緒に過ごしてきた時間が長い夫婦ほど、相手への遠慮が減る一方で、不満も口にしやすくなるため、これまで隠されていたすれ違いが一気に噴出しがちです。
自分の親や義両親の介護
介護が必要な状態になると、家族間での負担の分担などが大きな問題として浮上します。どちらの親を中心に介護するのか、費用をどう負担するのかといった現実的な課題に直面することで、夫婦関係に亀裂が入るケースは少なくありません。特に介護をする側のストレスが高まると、それが離婚の引き金になることがあります。
親だけでなく、自分たちの介護を見据えて「こんな相手を介護したくない」という思いがある場合も、体力や気力があるうちに離婚を選ぶ場合もあるでしょう。

長年のすれ違いや浮気問題の再発
長年一緒に暮らしていると、ふとしたきっかけで不信感や過去の浮気問題が再燃することがあります。若い頃に一度は解決したはずの問題が、熟年期に入るとささいなきっかけから再び気になり始めることも珍しくありません。家族のために長年我慢してきた妻の感情が爆発して、離婚したいという結論に行き着く場合があります。

親が熟年離婚しそうなとき、子どもが感じやすい不安
熟年離婚は、すでに成人している子どもにとっても精神面や経済面を含めた影響が出ることがあります。ここでは、親が熟年離婚しそうな場合に、子どもが感じる不安について解説します。

両親の板挟みになる精神的負担
母親から父親への愚痴や相談を受ける一方で、父親の心情を心配する状況など、夫婦間のいさかいにより、子どもは大きな精神的負担を感じます。
どちらの親も大切だからこそ、中立な立場を保とうとする気持ちと、寄り添いたい気持ちの間で揺れが生じるためです。両親の板挟み状態が続くと、ストレスが蓄積し子ども自身の精神面にも影響を及ぼす可能性があります。
離婚後の親の生活への心配
別居や離婚後、両親がそれぞれ一人で生活していけるかという不安は大きな問題です。特に家事を母親に任せきりだった父親の一人暮らしや、母親の経済的自立への心配があります。二人それぞれの老後の生活を想像すると、子どもとしては「大丈夫だろうか」という気持ちが常につきまといます。
経済的サポートへの不安
熟年離婚では財産分与や年金分割が行われますが、それでも両親の生活費が不足する可能性があります。特に母親の専業主婦期間やパート期間が長く、経済的自立が難しい場合、子どもにサポートを求められるケースも少なくありません。
子ども自身の家族もある中で、親への経済的支援をどこまで行うべきか、その負担への不安は大きなストレス要因となるかもしれません。
将来の介護問題への懸念
両親が離婚した場合、将来的な介護の問題がより複雑になります。同居していれば両親で互いに支え合えた部分も、別々に暮らすことで子どもの負担が倍増する可能性があります。父親と母親、それぞれの介護が必要になったとき、対応できるのかという不安は深刻なものでしょう。
親同士の関係が悪いと、将来の介護の話し合い自体も困難になる懸念もあります。

相続・戸籍問題への影響
両親の熟年離婚は、将来の相続や戸籍に関する問題にも影響を与えます。離婚後の財産分与により、相続時の財産構成が変わる可能性があり、子どもにとって予想していた相続内容と異なる状況が生じるかもしれません。
また、両親が別々の戸籍になることで、手続きが複雑化したり、必要な書類の取得に時間がかかるケースもあります。
家族関係の変化に対する戸惑い
長年続いてきた家族の形が変わることで、今後の関係性にどう対処すべきか戸惑いを感じます。お正月や誕生日などの家族行事をどう過ごすか、孫がいる場合の祖父母との関係をどう維持するかなど、具体的な問題が浮かび上がります。これまで当たり前だった家族のつながりが変化することへの不安は想像以上に大きなものです。

親が熟年離婚しそうなときに子どもができること
熟年離婚は夫婦間の問題なので、子どもの意見だけで解決できるわけではありません。子どもとしてできることは限られていますが、状況を緩和する手段はあります。

両親それぞれの思いをくみ取り、意見を尊重する
熟年離婚を考えている両親に対して、まずはそれぞれの気持ちや考えを冷静に聞き取ることが大切です。明らかにどちらか一方に不平等な扱いや悪意がある場合は、客観的な事実を整理し、適切な解決方法を模索する必要がありますが、基本的には、どちらかの味方をするのではなく、父親と母親、どちらの立場も理解しようとする姿勢を示し、それぞれが抱える問題や不満を受け止めることが重要です。
家族全体で話し合いの機会を作る
子どもが中心となって、家族全体で話し合いの場を設けることも効果的なアプローチでしょう。両親だけでは感情的になりがちな問題も、子どもや家族のメンバー、場合によっては親戚が同席することで、より冷静で建設的な話し合いができる可能性があります。
一時的な別居期間や「卒婚」を提案する
離婚という最終手段に進む前に、一時的な別居や「卒婚」という選択肢を提案してみることも有効です。卒婚とは、法律上は夫婦でありながら、お互いに自立した生活を送るスタイルのことです。
完全に関係を断つのではなく、適度な距離を保ちながら新しい夫婦の形を模索することで、両親が冷静に関係を見つめ直すきっかけになります。また、離婚に比べて経済的な負担も軽減され、年金や社会保険制度もそのまま利用できるメリットがあります。

夫婦カウンセリングを勧める
専門的なサポートとして、夫婦カウンセリングを受けることを提案してみましょう。カウンセリングでは、夫婦関係の問題点を客観的に分析し、関係修復の可能性を探ることができます。
夫婦問題の専門家であるカウンセラーが入ることで、両親が感情的にならずに話し合いを進めることができます。修復の可能性がある場合には、具体的なアドバイスを受けることができ、離婚が避けられない場合でも、円満に進めるためのアドバイスを受けることが可能です。
夫婦カウンセリングは、夫婦のどちらか一方でも、夫婦二人でも受けることができます。また、始めに子どもから親が熟年離婚しそうな状況を相談することも可能です。


ADR(裁判外紛争手続き)を勧める
離婚を検討する場合には、なるべく対立構造を深めないADR(裁判外紛争手続き)の利用を勧めることも一つの方法です。ADRは中立的な第三者が仲裁に入り、当事者同士の話し合いをサポートする手続きです。
裁判よりも時間や費用を抑えることができ、プライバシーも守られます。感情的な対立を避けながら、財産分与や今後の生活について双方が納得する形で建設的に話し合うことができるため、円満な解決を目指す場合に有効な選択肢です。
親が熟年離婚しそうで弁護士に相談した方がいい場合

親の熟年離婚で法的な問題や複雑な状況が生じた場合は、弁護士への相談も検討しましょう。
たとえば妻が夫にDVや深刻なモラハラを受けていたり、一方的に不利益を被る可能性がある場合は、弁護士に相談してもよいでしょう。
その他にも、財産の隠匿が疑われる場合、相手が離婚に応じない場合、事業経営がある場合の財産分与、複雑な不動産の処理、年金分割の手続きが困難な場合なども専門家の助けが必要です。相手からの嫌がらせや脅迫行為がある場合には、法的な対応が必要になります。
これらの問題は時間が経つほど解決が困難になるため、子どもとして親の状況を客観視し、必要と判断した場合は早めに弁護士への相談を勧めることが大切です。

高齢の方ほど、友人関係が希薄となり、離婚などの人生に関することは相談しづらい方が多いように思います。身近な相談相手として子どもが選択肢になることは多いように思います。
親から離婚の話をされた際には、「弁護士に相談してみようか。」とアドバイスすることも検討したいですね。


熟年離婚について家族で話し合うときの7つのポイント
デリケートな話題である熟年離婚を話し合う際は、お互いの尊重と将来設計の確認が重要です。ポイントをまとめました。


1.具体的な生活費や財産について整理する
熟年離婚の話し合いでは、具体的な経済面の整理が不可欠です。感情論ではなく冷静な判断ができるよう、以下の項目を明確にしましょう。
整理しておきたいこと
- 現在の家計収支(月々の収入と支出)
- 預貯金、株式などの金融資産
- 不動産(自宅、その他の物件)
- 年金受給額(現在・将来予定)
- 離婚後それぞれの生活費見込み
- 財産分与の具体的な方法
- 住居の継続使用者
2.将来の介護や老後の計画を確認する
両親が高齢になった際の介護体制や老後の生活について、家族全体で確認しておくことが重要です。離婚した場合、それぞれが一人で生活することになるため、事前の準備が必要です。
確認しておきたいこと
- 現在の健康状態と将来のリスク
- 介護が必要になった場合の対応策
- 子どもがサポートできる範囲
- 介護サービスの利用方法と費用
- 緊急時の連絡体制
- かかりつけ医や病院の情報共有
3.子どもや孫への影響を考慮に入れる
熟年離婚は成人した子どもや孫にも大きな影響を与えるため、家族関係の変化について十分に話し合うことが大切です。
考えておきたいこと
- 今後の家族行事(お正月、誕生日など)の過ごし方
- 孫と祖父母の関係維持方法
- 子どもへの精神的負担
- 子どもへの経済的負担の可能性
- 家族間の連絡方法
- 冠婚葬祭時の対応
4.話し合いの期限や回数を決めておく
熟年離婚の話し合いは長期化しやすいため、あらかじめ期限や回数を設定しておくことが効果的です。例えば「3か月間で月2回話し合い、その後結論を出す」など、明確なスケジュールを決めることで、だらだらと続く議論を避けることができます。
また、各回の話し合いで何を決めるかテーマを明確にし、段階的に問題を解決していくアプローチも有効です。
5.親のプライバシーを守りながら話を進める
熟年離婚の話し合いでは、両親のプライバシーを尊重することが重要です。夫婦間の具体的な問題や過去の出来事について、必要以上に詳しく聞き出そうとするのは避けましょう。
子どもとして知っておくべき情報と、夫婦間だけの問題を区別し、適切な距離感を保ちながら話し合いを進めることが大切です。親が話したがらない内容については無理に追求せず、理解を示すことが重要です。
6.兄妹でよく話し合う
兄妹がいる場合は、お互いに思っていることや不安を言葉にするだけでも支え合う効果があります。たとえ意見が異なっていても、兄妹同士で話すことで気持ちを客観視でき、両親へアプローチする際にも連携が取りやすくなるでしょう。
7.親戚や親の友人と情報を共有し、サポートを得る
身近な親戚、親の友人などに相談することで、新しい視点や具体的なサポートを得られることもあります。家族内だけで問題を抱え込むよりも、周囲に目を向けることで予想外の解決方法が見つかる場合もあるのです。ただし、両親のプライバシーに配慮しながら、どこまで相談するのかは十分検討しましょう。
熟年離婚した後の親と子どもの関わり方
たとえ両親が離婚しても、親子の縁が切れるわけではありません。離婚後の親子関係を円滑に保つためには、新しい環境への理解と役割分担の見直しが必要です。熟年離婚した後の親への接し方や心の持ち方について解説します。


親の新しい人生を尊重する姿勢を持つ
熟年離婚を経験した両親は、それぞれが新しい人生をスタートさせることになります。子どもとしては、親の選択を尊重し、新しい生活スタイルや価値観を受け入れる姿勢が大切です。離婚という決断に至った背景には、それぞれの気持ちや事情があることを理解し、過度に干渉したり批判したりするのではなく、温かく見守ることが重要です。
もし親が離婚後に再婚を考える場合、子どもとしては複雑な思いを抱くかもしれません。しかし、新しいパートナーへの否定的な態度を取り続けると、親との関係に亀裂が生じる危険性があります。
大人同士の決断として、その再婚が親の幸せにつながるなら、まずは受け入れる姿勢を示し、必要なサポートを検討することが大切です。
程よい距離感を保ち、親子関係を維持する
離婚後の親子関係では、適度な距離感を保つことが長期的な良好な関係につながります。離婚によって親が精神的に不安定になったり、寂しさから子どもに過度に依存したりするケースもありますが、親子関係を維持するためには、お互いに自立した関係性を築くことが必要です。
反対に、親の離婚を機に疎遠になるケースもあるため、それぞれとの連絡頻度や方法を事前に話し合って決めておくと安心です。
定期的な連絡や会う機会は大切にしつつも、親の日常生活に過度に介入せず、子ども自身の生活や家族も大切にするバランスを保ちましょう。




親が熟年離婚しそうな場合のQ&A
Q1. 離婚の兆候に気づいたら、すぐに介入すべきでしょうか?
A. 急いで介入せず、1か月程度は冷静に状況を観察しましょう。一時的な夫婦喧嘩と深刻な関係破綻では対応が異なります。ただし、DVやモラハラの兆候がある場合は迅速な対応が必要です。
Q2. 片方の親だけから相談を受けた場合、どう対応すればよいですか?
A. 一方の話だけを鵜呑みにせず、両方の意見を聞く機会を作りましょう。相談してきた親の気持ちは受け止めつつ、「お父さん(お母さん)の気持ちも聞いてみたい」と伝えることが大切です。
Q3. 親が「子どものために我慢している」と言われた場合、どう答えるべきですか?
A. 「私たちのことは心配しないで、自分の幸せを考えて」と率直に伝えましょう。「どちらを選んでも、あなたを大切に思う気持ちは変わらない」というメッセージも併せて伝えると効果的です。
Q4. 離婚手続き中に親から金銭的な援助を求められたら?
A. 具体的な金額・期間・用途を明確にしてもらい、自分の家計に無理のない範囲で判断しましょう。配偶者がいる場合は必ず相談し、援助する場合は条件を明文化することが重要です。
Q5. 親の熟年離婚について職場の人や友人に相談してもよいでしょうか?
A. 親のプライバシーを最優先に考え、「家族のことで悩んでいる」程度に留めましょう。信頼できる人に相談する場合は、事前に守秘をお願いすることが大切です。
Q6. 親の離婚が原因で兄弟姉妹の意見が分かれた場合はどうすればよいですか?
A. お互いの考えを尊重し、「正解はひとつではない」ことを理解しましょう。定期的に兄弟姉妹だけで話し合いの場を設け、情報共有を心がけることが大切です。最終的には個別に親子関係を築くことになっても、兄弟姉妹の絆は保ちましょう。
親が熟年離婚しそうな場合に子どもができることを理解しておく
親の熟年離婚は、子どもにとって予想していなかった大きな出来事となるかもしれません。
離婚が避けられない場合でも、適度な距離感を保ちながら、それぞれの新しい人生を尊重し、必要なサポートを提供することで、離婚後も良好な関係を築いていけるでしょう。親の熟年離婚は子どもにとって試練となりますが、家族がお互いを思いやる気持ちがあれば、新しい形の家族関係を築いていくことができます。