"子どものため"の共同親権とは?「本音」を聞き取るための"斜めの関係"づくりへの提言

更新日: 2025年01月30日

2歳と16歳のときに親の離婚を経験し、貧困母子家庭で育ちながらも、現在は一般社団法人ペアチル代表理事として子ども支援を行う南翔伍さん。そんな南さんに、共同親権の導入を見据えながら「親の離婚と子どもの声」をテーマとして、お話をうかがいました。

離婚する際の問題のひとつとして「子どもの声が十分に反映されていないのではないか」ということが指摘されるようになりました。親の離婚は子どもの人生にも大きな影響を与えるにもかかわらず、子どもの意見が聞かれる機会は限られているのが実情のようです。

そのような中、共同親権の導入が決まったことで「共同親権における子どもの声の導入」に注目が集まっています。しかし、具体的にどのような形で子どもの意見を取り入れていくべきなのか、また現状のどこに課題があるのかについては、まだ十分な理解が広がっているとは言えません。

実際に「子どもの立場」として親の離婚を経験した、一般社団法人ペアチルの代表理事、南 翔伍さんは、この問題についてどう考えているのでしょうか。

大きな影響を与えるからこそ、子どもの声を聞くのは当然

――2024年5月に共同親権の導入が決まりました。共同親権の導入において離婚の形も変化する可能性があると思いますが、どのような側面で子どもの声を反映させる必要があるとお感じでしょうか。


子どもがいる大半の家庭において、子どもへの影響を深く考えることなく、親の判断だけで離婚が決められています。もちろんさまざまな事情があると思いますから、それを咎めたりする気持ちはありませんが、皆さんが思っているよりも離婚という事実は子どもにとって影響が大きいことなのです。

まだ言語が未発達の子どもでも、言葉にならない痛みや不安があって、成長したときに結果としていろいろな影響が生じてしまいます。

だから共同親権に関しても、子どもの声を反映するのは当然だと思うんです。もしそれをしないのであれば、一体誰のことを思ってこの共同親権を議論しているのでしょうか。子どものための制度だというのであれば、まず子どもの声を聞く。それは当たり前のことだと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Vladimir Vladimirov)

"本当の声"を聞くために必要な"斜めの関係"

――子どもの意見を反映させることの難しさとはどこにあるのでしょうか?

子どもが本当に思っていること、つまり「真実の声」を捉えることが難しいのだと思います。いきなり大人に囲まれた堅苦しい場で「どう思うか?」と聞かれても、子どもだって表面的な意見しか答えられません。

――では、子どもの意見を反映させるために必要なこととは、どのようなことだとお感じになりますか。

親や兄弟といったいわゆる「縦横の関係」ではなく「斜めの関係」の人が重要だと考えています。「斜めの関係の人」というのは、たとえば「同じような家庭環境で育った成人している人」などのように「近しい部分」を持つ人のことです。そのような人が年間を通じて子どもの声を聞いていくことが必要だと思います。

――離婚の話し合いに子どもが参加することについて、ご自身の経験からどうお考えですか?

私の場合は2歳と16歳のときに親が離婚しました。2歳はさすがに無理でしたが、16歳のときは僕も話し合いにしっかりと参加していました。その経験を踏まえると、できるのであれば、子どもも話し合いに入ったほうがいいと思います。

人生において親が離婚をして両親と別々に暮らしはじめるというのは、子どもにとって大きな変化ですよね。ひとり親家庭が増えてきているとはいえ、まだまだ少数派です。

自分の意見を伝えられないまま、その後の人生でモヤモヤした状態が続くくらいなら、親の話し合いに割って入って「私はこう思う」と伝えるだけでも、その子自身の人生でわだかまりが残りにくいのではないかと思います。

本音を話せる"安心できる第三者"の存在を

――離婚に際して、親子以外の第三者が子どもの意見を聞く仕組みは必要だと思いますか?

難しい問題ですが、直感的にはやはり第三者機関は存在したほうがいいと思います。両親のやり取りを見て「本当はこう思っているけど言えない」という気持ちを抱えている子どもの声がきっとあるはずだからです。

そういうときに斜めの関係の誰かがいてくれて「この人になら話せる」という状況を作ったほうがいいのではないかと思います。私の場合、近所のお姉ちゃんが相談できる存在でした。

母親にも話すけれど、やはり母も自分の気持ちを全部見せないように気を遣ってくれているはずだから、そこまで踏み込んで話すのは難しかったですし、友達にも話せない。そんなとき、教師を目指していた友達のお姉ちゃんに相談できたんです。

もちろん、子どもが話した内容を第三者が親に共有するかどうかはまた別の議論が必要になりますが、安心して話せる存在がいることが大切です。

※写真はイメージ(iStock.com/itakayuki)

――現在、子ども家庭庁が「子どもの声を聞く」取り組みを進めていますが、南さんからご覧になって課題はどのようなところにあるのでしょうか。

率直に言って、子どもたちが本音を話せる環境づくりができているのかという点に大きな課題を感じています。たとえば、スーツを着た見知らぬ大人が来て話を聞こうとしても、子どもは緊張してしまって、なかなか本音は語れないですよね。

そういう意味で、子ども家庭庁には直接的な聞き取りではなく、子どもたちが本音を話しやすい、信頼関係を築きやすい団体への委託を検討してほしいと考えています。

この「機関の選定」も重要で、子どもの支援は、ひとり親支援とはまた異なる専門性が求められます。そのため、ひとり親支援の実績があるというだけでなく、子どもと直接向き合い、信頼関係を築きながら話を聞き取ってきた経験やスキルを持った団体を選ぶために、実践的な経験や専門性を重視した審査プロセスを設けることが必要だと感じています。

声を届けられた経験が、父との関係を変えた

――親の二度目の離婚時にご自身の声を届けられたことは、その後の人生にどのような影響を与えましたか?

父は酒を飲むと暴力的になることがあって、私と母はかなり怖い思いをしてきました。そんな恐怖政治のような家の中で、父親に対して意見を言えたという経験は、僕にとってすごく大きかったですね。

その経験があったからこそ、今では父とそれなりにいい関係を築くことができました。しこりを残すとどこか前に進みづらくなってしまう。そして、しこりというのは家族にまつわるものがいちばん根深い。家族に関連したわだかまりはできるだけ減らしていった方が、人生は明るくなるとすごく思います。

 

▼南さんの過去の記事はこちら
【取材/前編】「父に勝つため筋トレに励んだ」ペアチル代表が語る壮絶な過去と今ある幸せ
【取材/後編】母のような「ひとり親の孤立を解消したい」さらに先を見据えたペアチルの挑戦

【座談会①】離婚すると“子どもの権利”はどうなる?家族法研究歴50年、二宮周平先生と考える
【座談会②】共同親権についてどう思う?子どもの立場から見た「親の離婚」

▼ペアチル
https://service.parchil.org/

※この記事は2025年1月30日に公開しました

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