
夫婦関係がこじれた場合でも、円満に修復できる可能性を探るために利用されるのが円満調停です。しかし、必ずしも関係改善に結びつかないケースも存在し、時間や費用などの面から慎重に判断する必要があります。
本記事では、円満調停の特徴やメリット・デメリットを整理し、行うかどうか迷った際のポイントを解説します。また、実際の手続きの流れや、行わない場合の選択肢なども含めて総合的にご紹介します。
本記事でわかること
・円満調停をしないほうがいいと言われる具体的な理由
・円満調停のメリット・デメリットと判断のポイント
・円満調停以外の夫婦問題解決の選択肢
離婚・相続・交通事故など、人生の転機に寄り添う法的サポートを提供。依頼者との信頼関係を重視し、専門的な情報をわかりやすく伝える姿勢に定評がある。
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子どもの権利委員会に所属し、離婚に伴う子どもの問題にも積極的に取り組む。敷居の低い相談スタイルと温かな人柄で、地域に根ざした弁護活動を続けている。

円満調停とは?
円満調停は、夫婦関係の修復を目的とした家庭裁判所での手続きです。その基本的な仕組みと、離婚調停との違いを説明します。
円満調停の基本的な目的
円満調停は正式には「夫婦関係調整調停(円満)」と呼ばれ、夫婦間のトラブルや感情的対立を解決して関係修復を目指す手続きです。審判や離婚調停とは異なり、家庭裁判所が強制的な判断を下すわけではなく、あくまでも中立的な場を提供して話し合いをサポートする点に特徴があります。
調停委員や裁判官が第三者として仲介することで、感情的になりがちな夫婦の話し合いを冷静かつ客観的に進められます。
離婚調停(夫婦関係調整調停・離婚)との違い
円満調停は「離婚を前提としない」関係修復が目的です。一方、離婚調停は離婚することを前提として、具体的な条件(親権・財産分与・慰謝料など)を話し合います。
離婚の意思が固いわけではないが夫婦関係が危機にある場合、まずは自分たちの関係を見直す場として円満調停を利用するケースが多いです。

円満調停をしないほうがいいと言われる背景
円満調停は関係修復を目指す一方で、状況によってはデメリットの方が大きくなる場合があります。円満調停をしないほうがいいと言われる背景を見てみましょう。

夫婦関係がすでに破綻しているケース
夫婦のどちらか一方が「もう関係修復は不可能」と感じている状況で円満調停を申し立てても、建設的な結論に至らない場合があります。すでに別居状態が長期化している等、感情的にも物理的にも距離が離れすぎていると、そもそも話し合いへのモチベーションが生まれにくいためです。
DV・モラハラなど対等な話し合いが難しい場合
身体的暴力はもちろん、精神的な支配や経済的DVなどがあると、調停委員の前でも自分の言い分をきちんと伝えることができません。公正な合意形成が難しいだけでなく、相手と顔を合わせること自体が危険を伴う可能性もあり、円満調停を続けるデメリットの方が大きくなってしまうケースがあります。
相手の離婚意思が固い・円満調停に応じない場合
離婚を既に決心している相手の場合、円満調停の場に足を運んでもらえない可能性が高いでしょう。話し合い自体が成立しないため、申立て費用や精神的労力だけが重なってしまい、結局は時間を浪費する結果になりかねません。
調停が長引くことによる時間・費用面の負担
円満調停は何度か期日が設定される可能性があり、そのたびに仕事や生活との調整を行わねばなりません。さらに弁護士への依頼をする場合、費用面の負担も大きくなります。調停が長引いて最終的に不成立となった場合には、コストをかけるだけに終わってしまうリスクが懸念されます。
円満調停のメリット
調停の手続きには、第三者を交えた話し合いという特徴がありますが、その利点をお伝えします。

第三者を介して冷静に話し合える
家庭裁判所の調停委員は法律や家族問題に通じた専門家であり、双方の意見を丁寧に聴きながら中立的な視点でアドバイスをします。これによって、感情的なぶつかり合いを和らげ、現実的な解決策を探りやすくなるのが大きな利点といえるでしょう。
夫婦関係を修復できる可能性がある
夫婦のすれ違いや誤解の原因を洗い出し、第三者のサポートを受けながら新たなコミュニケーションの手がかりを見つけられる点が期待されています。うまくいけば、家庭生活を再スタートさせるきっかけになり得る貴重な機会と言えます。

円満調停のデメリット
反対に、円満調停にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。デメリットの方が大きいようであれば、円満調停はしないほうがいいかもしれません。

調停が成立しても法的拘束力が限定的
円満調停は夫婦関係の継続を念頭に置いた合意内容となるため、離婚時に必要な財産分与や親権のような具体的取り決めとは異なります。そのため、合意事項そのものに強い強制力やペナルティが伴わないことが少なくありません。
離婚調停に移行されるリスク
互いに話し合ううちに、修復よりもむしろ離婚を選ぶ方が良いと感じる場面が出てくることもあります。この場合、円満調停が途中で不成立となり、そのまま離婚調停や離婚裁判に発展していく可能性がある点は理解しておきましょう。
円満調停を行うか迷ったときの3つの判断ポイント
調停を申し立てる前に、夫婦のコミュニケーション状況や費用面などを総合的に考慮することが大切です。円満調停を行うべきか判断に迷ったときのポイントをお伝えします。
夫婦間の対話状況を客観的に把握する
まずは日々のやり取りや、別居中であれば連絡の頻度・内容を振り返り、どこにすれ違いの原因があるのか整理します。相手への不満や感情的負担が大きい場合でも、専門家を交えれば解決する余地があるかどうかを客観的に見極めることが重要です。
また、相手が話し合いに応じる意思があるか、建設的な議論ができる状態にあるかも重要な判断材料となります。
民間の夫婦カウンセリング等で代替可能か
円満調停は家庭裁判所での公的手続きで、成立時には法的拘束力がある調停調書が作成される一方、費用は数千円程度と安価です。しかし平日日中の出頭が必要で、手続きに時間がかかります。民間の夫婦カウンセリングは心理的サポートに特化し、柔軟な日時設定が可能ですが、1回1万円前後かかり、法的拘束力はありません。
問題の根本原因が心理的なすれ違いや価値観の違いなら、まず民間カウンセリングやオンライン相談を試すことも有効です。一方、同居・別居の条件や生活費分担など具体的な取り決めが必要な場合は、法的効力のある円満調停の方が適しています。

問題解決までにかかる時間や費用を考慮する
調停が長期化すると複数回の期日に出頭する必要があります。経済的・時間的コストがどれほど負担となるか把握しておくと、円満調停を申し立てるべきか否かが判断しやすくなります。一般的に調停は数ヶ月から1年程度かかることが多く、この期間中の精神的負担も含めて総合的に検討することが大切です。
円満調停の手続きの流れ
ここでは円満調停を実際に始める場合の、大まかな流れと裁判所での進行方法を解説します。

円満調停手続きの流れ
円満調停の申立てから終了まで、どのような流れで進むのかを順を追って説明します。不成立になった場合の対応も含めて解説します。
申立てから第1回期日まで
家庭裁判所に申立書と必要書類を提出し、申立て費用(収入印紙1,200円と郵便切手)を納付します。申立て後、約1〜2ヶ月で第1回調停期日が設定され、当事者双方に呼出状が送付されます。期日は平日の日中に設定され、通常は月1回程度のペースで開催されます。
調停期日の進行
調停は非公開で行われ、夫婦は原則として別々に調停委員と話し合います。調停委員が双方の意見を聞き取り、問題点を整理しながら解決策を提案します。1回の調停は通常2~3時間程度で、複数回にわたって継続されることが一般的です。
夫婦関係調整調停(円満)成立の場合
夫婦間で合意に達すると調停成立となり、合意内容を記載した調停調書が作成されます。この調停調書は判決と同じ法的効力を持ち、約束が守られない場合は強制執行も可能です。
夫婦関係調整調停(円満)不成立の場合
話し合いを重ねても合意に至らない場合、調停不成立となります。不成立後は、離婚調停への移行、再度の円満調停申立て、または夫婦間での自主的な話し合い継続などの選択肢があります。調停不成立自体に法的なペナルティはありませんが、費やした時間と費用は戻りません。
円満調停が不成立になった場合の対応
円満調停が不成立に終わる原因としては、夫婦双方の溝が深すぎることや、一方だけが修復意思を持つなど温度差が激しい状況が考えられます。不成立となった場合、次の手段を考える必要があります。
再度の円満調停申立て
不成立から一定期間後に、改めて円満調停を申し立てることは可能です。時間の経過により双方の感情がクールダウンし、新たな視点で話し合いができる場合があります。ただし、根本的な問題が解決されていなければ、再び同じ結果になるリスクもあるため、申立て前に状況の変化を慎重に見極める必要があります。
離婚調停への移行は避けられない?
円満調停が不成立になっても、必ずしも離婚調停に移行するわけではありません。ただし、調停を通じて「修復は困難」と双方が認識した場合、いずれかが離婚調停を申し立てる可能性は高くなります。円満調停での話し合いが離婚の意思を固める結果になることも少なくないのが現実です。一方で、時間を置いてから関係改善に向けて再チャレンジするケースもあります。
円満調停をする場合、弁護士に頼んだほうがいい?
円満調停において弁護士への依頼は必須ではありませんが、状況によっては依頼を検討すべきケースがあります。


弁護士に依頼したほうがよいケース
相手がすでに弁護士を立てている場合、法的知識の差が不利に働く可能性があるため、弁護士依頼を検討したほうがよいでしょう。また、DV・モラハラがある場合、財産関係が複雑な場合、相手の主張に法的な問題がある場合なども、専門家のサポートが必要になります。調停での発言が後の離婚調停や裁判に影響する可能性も考慮すると、法的リスクを避けるために弁護士の助言は有効でしょう。

配偶者の一方が離婚を強く希望している場合など、円満調停を申立する必要性が乏しい場合やデメリットが多い場合もあります。
そもそも円満調停を申立するかどうかの判断について、弁護士のアドバイスを受けた方が良いと思います。


弁護士なしでも対応可能なケース
夫婦間の感情的なすれ違いが主な問題で、法的な争点が少ない場合は、弁護士なしでも対応可能です。調停委員が中立的な立場でサポートしてくれるため、複雑でない事案であれば当事者だけでも進められます。
円満調停をしない場合の具体的な選択肢
必ずしも家庭裁判所での調停手続きだけが解決策ではありません。円満調停を行わずに夫婦関係の修復を試みる場合、他にも活用できる手段があります。


夫婦間協議で合意点を探る
夫婦が同席して冷静に話し合えるなら、円満調停を経ずに協議を行い、問題点を洗い出しながら合意の糸口を見つける方法もあります。第三者を挟まない分、費用や時間的コストは比較的少なくて済む利点があります。


夫婦カウンセリングの利用
夫婦間の対立が深刻化しているものの、話し合い自体はなんとか成立しそうなときには、夫婦カウンセラーに相談して問題を整理することが可能です。心理的なサポートを受けながら、具体的な夫婦間の問題の解決策やコミュニケーション方法などのアドバイスを受けることができます。
結果として離婚を選ぶことになった場合でも、夫婦カウンセラーが客観的な立場からアドバイスを提供してくれるはずです。夫婦カウンセリングは一人でも、夫婦二人でも受けることが可能です。


ADR(裁判外紛争解決手続き)
ADRとは、裁判所を通さずに第三者が仲介して紛争解決を図る民間の調停制度です。家庭裁判所の調停と比べて、話し合いの場所や時間設定に柔軟性があり、平日夜間や土日の利用も可能な場合があります。
手続きが比較的簡素で、当事者のニーズに応じたオーダーメイドの解決策を探ることができます。ただし、相手が応じることが前提なので、ケースによっては成立しにくい場合もあります。
離婚問題へ直接移行する場合
もし夫婦ともに関係修復は困難と判断した場合、最初から離婚調停を選ぶことが現実的な選択肢となるでしょう。子どもの親権や財産分与など具体的な条件を早期に整理でき、時間のロスを最小限に抑えられる可能性があります。
円満調停に関するQ&A
ここではよく聞かれる質問をピックアップし、簡潔にまとめました。詳細な事情がある場合や複雑な問題を抱えている場合には、専門家へ直接相談することをおすすめします。
Q1. 円満調停を途中でやめたい場合、どうすればいい?
申立人はいつでも「調停取下書」を家庭裁判所に提出することで調停をやめることができます。相手方の同意は不要ですが、申立て費用は返還されません。取り下げ後の再申立ても可能です。
Q2. 相手から円満調停を申し立てられたが応じたくない場合の対処法は?
出席は法的義務ではないため欠席できますが、正当な理由なく欠席を続けると5万円以下の過料が科される可能性があります。調停委員に応じたくない理由を説明し、調停不成立や離婚調停への変更を求めることができます。
Q3. 円満調停をしないほうがいいと弁護士に言われた理由として考えられることは?
夫婦関係が修復不可能な状態、相手の離婚意思が固い、DV・モラハラで対等な話し合いができない、調停での発言が後の離婚裁判で不利になるリスクがある、時間的・経済的コストに見合う効果が期待できない場合などが理由として挙げられます。
Q4. 円満調停をしなかった場合、後で不利になることはある?
円満調停をしなかったこと自体で法的に不利になることはありません。離婚調停や裁判でも問題視されることは基本的にありません。ただし、離婚訴訟前には離婚調停を経る必要があります(調停前置主義)。
Q5. 円満調停中に別居や離婚準備を進めても問題ない?
法的には問題ありませんが、関係修復を目的とする調停の意義が問われる可能性があります。財産隠匿や相手に黙って子どもを他の場所へ連れて行くなど、後の離婚手続きで不利になる行為は避けるべきです。弁護士に相談しながら慎重に進めることをおすすめします。
Q6. 円満調停を申し立てると相手にバレる?秘密にできない?
必ず相手に知られます。家庭裁判所から相手方に呼出状が送付されるため、秘密にはできません。ただし、調停内容は非公開で行われ、調停委員には守秘義務があります。秘密にしたい場合は、夫婦間での直接的な話し合いやカウンセリングを検討してください。
円満調停をしないほうがいい場合もある
円満調停には冷静な話し合いができるメリットがある一方、長期化や不成立のリスクもあります。夫婦の対話状況、問題の性質、解決コストを総合的に判断し、関係修復の見込みが低い場合は無理に円満調停を選ぶ必要はありません。
円満調停をしないほうがいいケースはあります。 既に関係が破綻している場合、DV・モラハラがある場合、相手の離婚意思が固い場合などでは、時間と費用を浪費するだけの結果に終わることも少なくありません。
民間カウンセリングや夫婦間協議など他の選択肢も検討し、状況に応じて円満調停をしないという判断が、かえって適切な解決につながる場合があることを理解しておきましょう。迷った場合は専門家に相談し、最適な方法を慎重に選択することが重要です。