日本ではセックスレスの夫婦が多いと言われます。「セックスレスで離婚して後悔しないだろうか」と悩む妻や夫も多いようです。セックスレスを理由に離婚して後悔するケースや後悔しないための対処法、セックスに応じない相手に慰謝料を請求できるか、などについてまとめました。
セックスレスが理由で離婚する人は多い?
日本ではセックスレスの夫婦が多いと言われます。2020年に一般社団法人 日本家族計画協会が、20歳~69歳までの男女を対象に実施したアンケートによると、セックスレスの夫婦は51.9%にのぼりました。
実際にセックスレスに悩む夫や妻は多く、中には離婚を考える人もいます。しかし「セックスレスで離婚しても後悔しないだろうか」と離婚をためらったり、相手から「離婚はしたくない」と言われたりするケースも少なくないようです。
先日離婚届を目の前に出され離婚したいと持ちかけられました。
妻としては、2人目が生まれてから今までセックスレスだったことで精神的に非常に苦痛を感じたことから慰謝料を請求したいとも言われました。
妻は妻で苦しかったのかもしれませんが、自分も十分苦痛を感じていました。これが子供がいなければ多少の慰謝料払ってても即離婚を決断していたと思います。
ただ子供の事を考えると離婚が正しい判断なのか迷ってしまいます。
自分も可能であれば子供のそばにいて成長を見守っていたいと考えています。
子供のためを思うなら両親が喧嘩している環境よりも離婚した方がいいのでしょうか。
元々レス気味、淡白な夫と結婚しました。
その時は、仕事が激務なので、落ち着けば変わると信じて結婚しました。
しかし、状況は変わらず、妊娠の時の子作り以降、1度も手も繋がず、ハグ、キス等全てのスキンシップはゼロ、当然セックスレスもなしです。
何度か話し合いをし、すまないと思ってる、改善しようと思ってるとは言ってくれますが、実際の行動としては変わらず、「考えて欲しい」と伝えると「俺には優先順位が低いことなんだよ、面倒くさい」と言われてします。
いわゆる高収入なこと、子供にとっては非常にいい父親で何不自由なく子供が暮らしていけること、とにかくパパっ子なことから離婚に踏み切れません。
しかし、この愛のない生活に限界を感じています。
スキンシップが全くないことも辛いですし、私には興味がないように見え、必要なこと、子供のこと以外の会話はありません。
世間的には家族としては仲が良いので、仲良し家族かもしれません。
子供を幸せにしたい、子供から父親を奪いたくないという気持ちと、私自身も幸せになりたい気持ちで悩んでいます。
セックスレスを理由に離婚して後悔しないようにするには、どうすればいいのでしょうか。最終的に離婚するにせよ、関係修復を図るにせよ、選んだ道で後悔しない方法について解説します。
セックスレスが原因で離婚した人が後悔する理由
セックスレスが原因で離婚したものの、「やはり離婚するんじゃなかった」と後悔する人がいます。どのような理由で後悔するのか、よくあるケースを紹介します。
生活が苦しい
セックスレスによる離婚に限らず、離婚後に後悔する理由で多いのが、離婚後の生活苦です。特に専業主婦だったり、パート勤務だったりした妻は離婚後に十分な収入を確保できず、「こんなに生活が苦しいのなら、旦那と離婚しなければよかった」と悔やむことが多いようです。
子あり夫婦の離婚で子供を引き取った場合も、子供の教育費に困る人が多く、養育費を受け取り、さまざまな公的支援を受けても、離婚前の生活水準を維持するのは大変です。しっかり先を見据えて準備をしなければ、「もっと離婚後の生活を考えておくべきだった」と頭を抱えることになってしまいます。
寂しさを感じるようになる
セックスレスを理由に離婚したものの、離れて暮らしてみると、相手への愛情が残っていたことに気づき、寂しさから離婚したことを後悔する人もいます。夫婦にとってセックスは重要なことですが、それが全てではなく、一緒に暮らすだけで安らぎを覚えることもあるということなのでしょう。
また、女性の場合は妊娠、出産によるホルモンバランスの変化によって、一時的に夫への愛情が薄れてしまうことがあります。そうした時期に感情の赴くまま離婚してしまうと、後から夫が恋しくなり、離婚を悔やむことになってしまいます。
セックスレス解消のために努力しなかった
セックスレスになっても、その後の夫婦の努力でセックスレスを克服する人もいます。一方で、何度かセックスを相手に拒否されたのをきっかけにセックスレスになり、関係修復の努力もせず離婚してしまう人もいます。セックスレスの解消に取り組まなかった人の中には「離婚を回避する方法があったのではないか」と後悔する人もいるようです。
セックスレスの解消には、夫婦間でよく話し合い、一緒に過ごす時間を増やすなど時間をかけて関係を修復していく必要があります。ただ、時間をかけたからと言って、うまくいくとは限りません。結果はどうなったかはわかりませんが「セックスレス解消に自分は努力しただろうか」という思いが後悔につながります。
子供が悲しい思いをしている
子あり夫婦の場合、離婚する際に心配なのは子供への影響です。セックスレスが理由で離婚した場合は、正直に離婚の説明をするわけにもいきません。突然、理由もよくわからないまま、親と離れることになり悲しい思いをする子供の姿に胸を痛めることもあるでしょう。
両親との関係も良好だった子供は、離婚の後、ふさぎ込んでしまう可能性があります。親の離婚が心の傷として残るケースも少なくありません。そうした子供の様子を見て「よく子供のことを考えて、もっと慎重に判断すべきだった」と後悔することもあります。
セックスレスが理由で離婚する場合に慰謝料請求できる?
相手に拒否されたためにセックスレスとなり、離婚を考えている人の中には「夫婦なのにセックスを拒否するのはおかしい。慰謝料を請求したい」と訴える人もいます。子供を望んでいたのに「子なし夫婦になったのは、相手がセックスを拒否したからだ」と相手を恨めしく思っている人もいるでしょう。
相手に拒否されてセックスレスになってしまった場合、離婚だけでなく慰謝料まで請求できるのか、慰謝料請求の根拠や慰謝料が認められるケースなどについて解説します。
セックスレスを理由に慰謝料を請求できる?
離婚したときに、慰謝料の請求が認められるのは、相手の不法行為によって精神的な苦痛を被ったときです。相手のどのような行為が、自分のどのような権利を侵害したのかを明らかにする必要があり、ただ「相手のほうが悪いから」「離婚の責任は相手側にある」と主張するだけでは、慰謝料の請求は困難です。
実際の裁判では多くの場合、「性の不一致」を理由に慰謝料請求が行われますが、性の不一致とは、セックスレスだけでなく、病気などによる性交不能、過度な性交要求、性癖の違いなども含まれます。
セックスレスの原因にも、ただ「性欲がなくなった」というだけでなく、「相手の性癖に耐えられない」「疲れているのに頻繁に求めてくる」といったもともとの事情があるはずです。こうした事情や理由によって、慰謝料請求が認められるかどうかが変わります。
慰謝料を請求できる可能性があるケース
セックスレスで慰謝料が認められる可能性があるのは、相手の不法行為によって権利を侵害され、精神的な被害を被った場合です。たとえば、相手の浮気が原因だったケースが当てはまります。浮気は民法の「不貞行為」にあたる不法行為で、「平穏な結婚生活を送る」という権利の侵害にもなります。このため、慰謝料請求が認められることがあるのです。
将来、子供が生まれることを前提に結婚したのに、年齢が若くセックスには何ら問題がないのにもかかわらず、一方的にセックスを拒否された場合も、慰謝料を請求できる可能性があります。この場合、子供を希望していたのに、セックスに応じないことが「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるのか、離婚の責任が相手側にあるのかが論点となるでしょう。
慰謝料請求が困難なケース
セックスレスを理由に離婚が可能でも、慰謝料の要求は困難なケースもあります。主なケースとしては次の3つです。
・病気などが原因でセックスできない
・互いにセックスに積極的ではない
・たまにセックスをすることがある
・病気などが原因でセックスできない
夫婦のどちらか、または双方に、セックスする能力がない場合は慰謝料を請求するのは難しいでしょう。たとえば、病気でセックスができない場合は本人に責任はありません。また、体力が弱っている場合や、高齢になって自然にセックスへの関心が薄れた場合も請求が認められる可能性は低いと思われます。
・互いにセックスに積極的ではない
互いに仕事が忙しく、タイミングを逃しているうちにセックスレスになってしまうケースがありますが、この場合もどちらかに責任があると判断するのは困難でしょう。また、どちらもセックスに積極的ではなく、いつのまにかセックスレスになる場合もあります。「求めたけれども拒絶された」というケースでなければ慰謝料の請求は難しいでしょう。
・たまにセックスをすることがある
セックスレスとは言っても、期間が短い場合や程度が軽い場合は慰謝料が認められる可能性が低くなります。たとえば、出産直後で子育てに忙しかった場合は、子育てが一段落した時点でセックスレスが解消する可能性があります。また、3カ月に1回くらいはセックスに応じていたというケースも慰謝料請求は難しいでしょう。
セックスレスで離婚したときの慰謝料の相場とは
「よく慰謝料の相場はいくらぐらいですか」と尋ねる人がいますが、慰謝料の額は個別の事情で決められるので、一概にいくらぐらいとは言えません。過去の判例などを考えると10万円前後から多くて300万円くらいでしょう。セックスレスだけでなく、不倫や暴力も原因に加わり、夫に多額の収入や資産がある場合は、もう少し多額の慰謝料が認められることもあります。
また、結婚から一度もセックスをしていない、セックスを拒否しながら不倫をしている場合など精神的なダメージが大きな場合は、多額の慰謝料が認められやすくなります。
加藤 惇
慰謝料を請求して離婚をしたいという場合、当事者間での解決は困難です。また、自分一人では十分な証拠を集めることができない場合もあります。離婚するときに慰謝料を請求したいという場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
セックスレスを理由に離婚して後悔しないために
セックスレスを理由に離婚を考えたとき、「セックスレスを理由に離婚するのはおかしいだろうか」「いずれ後悔することになるのではないか」などと悩む人もいます。セックスレスで離婚して後悔することがないよう離婚を決める前にやっておきたいことを紹介します。
夫婦でよく話し合う
セックスレスでの離婚に限らず、しっかりやっておきたいのが夫婦での話し合いです。セックスレスがつらく苦しいのなら、その気持ちを素直に伝えましょう。そして、相手の気持ちや言い分もしっかり聞くことが大切です。
話し合いをするときは感情的にならないように気を付けましょう。感情的になって相手を責めたり、不満をぶちまけたりしても相手は反発するだけです。また、相手の話を最後まで聞き、決して頭から否定しないことも肝心です。互いが双方の言い分を理解し、前向きな話し合いができるよう心がけましょう。
関係修復は不可能なのかよく考える
離婚を決断する前にもう一度、関係修復は不可能なのかを考えてみましょう。離婚したものの「関係修復ができたのではないか」と後悔する人は少なくありません。セックスレスで仲良く暮らしている夫婦もいます。そうした道を選ぶことができないのかも考えてみましょう。
女性の場合、出産前後や子育てのストレス、閉経などでホルモンバランスが変わり、セックスを避けるようになる人もいます。男性も仕事の疲れやストレスによってセックスをする気がなくなることもあります。このように一時的にセックスレスに陥っているだけではないかと考えることも大切です。
子供の気持ちを確かめる
子あり夫婦が離婚する際、忘れられがちなのが子供の気持ちです。「離婚したほうが子供のためだ」「子供が多感な時期だから離婚は先延ばしにしよう」などとたいていの親は子供への影響を考えますが、直接、子供の意見までは聞かないという親は少なくないようです。
セックスレスは子供には説明が難しい問題ですが、「お父さんとお母さんは、一緒に生活するのがつらくなったんだ」などと、子供にわかるように正直に説明することが必要です。親の離婚が子供の心の傷になることもあります。親の離婚で苦しむ子供の姿を見て後悔することがないよう、子供ともしっかり話し合いましょう。
セックスレスでもスキンシップで円満な夫婦も
セックスレスになると、夫婦仲が悪くなるのかと言えば、決してそうではありません。世の中にはセックスレスでも円満に暮らしている夫婦は数多くいます。アダルトグッズの製造販売を行っているTENGAが2022年に行った20代から40代を対象にしたアンケートによると、セックスレスでもカップルの関係が良好と答えた人が70%にのぼりました。
さらに、セックスレスの人にスキンシップの有無を尋ねたところ、「行っている」という人は42%。行っている人の91%が関係は良好だと答えていました。このことから、セックスレスであっても、スキンシップがあれば夫婦仲を円満に保てる可能性があることがわかります。
スキンシップと言っても、手をつなぐことから、ハグ、キス、肩を抱くなどさまざまです。互いに肩をもむ、腕や脚をマッサージするのもいいでしょう。少しずつスキンシップを増やすことで愛情を感じることができるようになりますし、気分が盛り上がって互いに求めあうこともあるかもしれません。
セックスレス離婚で離婚しないために互いを理解しよう
セックスレスにも、夫婦それぞれに事情や理由があります。離婚しても後悔しないかどうかも、それぞれの夫婦の事情しだいということになるでしょう。しかし、離婚前には、可能な限り互いに話し合い、相手を理解し合うことが大切です。話し合いを十分しないまま離婚してしまうと、多くの場合、後悔につながります。
そして、相手も望むのなら関係修復も試みてみましょう。夫婦でカウンセリングを受けてみるのも一つの方法ですし、小さなスキンシップから始めるのもよい方法です。それだけやっても、夫婦仲が戻らなければ離婚もやむを得ません。やるだけのことはやったという気持ちがあれば、離婚を後悔することもないでしょう。
加藤 惇/CSP法律会計事務所(第一東京弁護士会所属)
弁護士として、婚姻費用・財産分与・養育費・慰謝料・不貞・親権・面会交流など、離婚にかかわる事件を特に重点的に取り扱う。依頼者の意向を丁寧にくみ取り、常に依頼者の利益を最大化することを目標に活動している。離婚事件のほか、いじめなどの学校事件も多く扱っており、子供に関する問題にも詳しい。CSP法律会計事務所所属。