
離婚調停を始めるにあたり、まずは別居の可否や別居期間がどのように離婚の成立に影響するかを押さえておくことが重要です。本記事では離婚調停中や調停前後の別居におけるメリットや注意点、長期化した場合の影響など、具体的なポイントを網羅的に解説します。
別居の決断には、婚姻費用や財産分与などの生活費の問題、子どもの親権や面会交流、不貞行為のリスクなど多面的な観点が関わってきます。記事の最後には別居と離婚調停に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事でわかること
・離婚調停中の別居は法的に認められており、有利なケースも
・別居する際の注意点とリスク回避法
・別居中に考慮すべき婚姻費用や財産分与の基準日
佐々木 裕介/チャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所(第二東京弁護士会所属)
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離婚調停中に別居してもいい?離婚調停中の別居が認められる理由
調停は夫婦間の話し合いによる解決を目指す手続きですが、同居を強制するものではありません。調停離婚では、夫婦双方が離婚に合意すれば、別居期間に関係なく離婚できます。そのため、法律上の決まった別居期間はありません。むしろ以下の理由から、別居が推奨される場合もあります。
精神的負担の軽減
- 家庭内の緊張状態から解放される
- 冷静に離婚条件を検討できる環境が整う
- ストレスによる体調不良の改善
調停への影響
- 夫婦関係の破綻を客観的に示す証拠となる
- 調停委員に状況の深刻さを理解してもらいやすい
- 感情的な対立を避けて建設的な話し合いが可能
別居で離婚が成立しやすくなる理由と注意点
長期的な別居は裁判所で婚姻関係がすでに破綻していると認定されやすくなる大きな要因です。
ただし、別居の経緯や期間の長さ、子どもの養育状況なども総合的に判断されるため、一方的な家出のような形での別居は個々の状況により悪意の遺棄、同居義務違反、または子どもの連れ去りとみなされるリスクもあります。別居を有利に進めるためには、別居前に可能な限り夫婦で話し合い、日常生活費や子どもの生活習慣などをできるだけ明確にしておくことが重要です。
離婚はどのくらいの別居期間で認められる?
裁判に及ぶ場合、通常は別居期間が長いほど、夫婦関係が修復不可能なほど破綻していると判断されやすいため、離婚成立の後押しになることが多いです。
ただし、単に別居が長ければよいというわけではなく、その間の生活実態や夫婦間のやりとりが継続していないかなども精査されます。一般的な目安や有責配偶者の場合の注意点を見ていきましょう。

一般的に考慮される別居期間の目安
法的な離婚理由を構成するうえで、別居期間が3年から5年程度あると婚姻関係の破綻が認められやすくなるという説があります。
もっと短い期間であっても、互いに修復の意思がないことが明確であれば離婚が認められる可能性はありますが、統計的には5年以上の別居が大きな判断材料になることが多いです。
また、家庭内別居のように同居していながら関係が完全に途絶しているケースは、実際に裁判所がどの程度それを別居とみなすかが問題になります。
有責配偶者からの離婚請求と必要とされる長期別居
不貞や暴力の加害者側など有責配偶者が離婚を求める場合は、さらに長期の別居期間が必要とされるケースがあります。
一般的には8年以上の継続的な別居を示すことで、婚姻が事実上修復不能になっていると認められる可能性が高まります。加害者側が真摯に反省し、別居期間中に誠実な対応をしていることも判断要素となるため、態度次第で結果が変わる場合もあります。
「悪意の遺棄」「婚姻を継続し難い重大な事由」とは
法律上、配偶者が正当な理由なく同居や協力、扶助の義務を果たさない場合を悪意の遺棄と呼びます。
さらに暴力やハラスメント、長期別居などが重なり、夫婦関係を継続することが著しく困難であると判断される場合には、婚姻を継続し難い重大な事由として離婚が認められる可能性が高まります。
別居に踏み切る際には、こうした法的用語の意味や成立要件を理解しておくと、トラブル回避につながります。
別居を決断する前に考えるべきこと
離婚調停中の別居は、多くの場合、双方にとってメリットが大きい選択肢です。ただし、個別の事情によって最適な対応が異なるため、弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。
チャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所 佐々木 裕介別居は「離婚の入口」であると同時に、婚姻費用の具体的な支払いや共有財産形成の終期を形成するなど「証拠と責任の分岐点」でもあります。
夫婦での話し合いを伴わない感情的な家出は、時として法的責任を招くことになりますし、何より相手の納得感を得られないことにより離婚調停や離婚訴訟の長期化を招くリスクを高めます。
DV等の緊急性がないがないのであれば、可能な限り別居前に夫婦で住居・生活費・子の監護体制を話し合い、整理することが推奨されます。焦らず“戦略的に距離を取る”——それが後悔しない別居の条件です。
以下に別居をする前に考慮すべきことをまとめました。
別居に同意を得る必要はあるのか
法律上は配偶者の同意なく別居を始める場合でも、ただちに違法になるわけではありません。
しかし、一方的な家出とみなされた場合には悪意の遺棄の疑いが生じる可能性があり、後々の離婚調停や裁判で不利になるリスクがあります。円満な離婚や別居を目指すのであれば、できるだけ事前に話し合いをしてから別居を開始することが望ましいです。
子どもを連れて別居する際のリスクと注意点
子どもを連れて別居する場合、相手側から「子どもの連れ去り」として反発を受ける可能性があります。
親権や監護権の帰属が確定していない段階での別居は、後々の調停や裁判で争点となるため、事前に弁護士など専門家と相談し、正当な理由や子どもにとっての最善の環境を示す準備が重要です。
DVやモラハラなど緊急避難的なケースへの対応
暴力行為やモラルハラスメントなどが原因で別居を決断する場合は、身の安全の確保を最優先すべきです。
各地域のシェルターや行政機関の支援策に頼りながら、住民票の移動先を非公開にする制度なども利用できます。DV被害の事実を客観的な証拠として残すためにも、医師の診断書や録音・日記などを整理しておくことが重要です。
別居の長期化がもたらす影響と婚姻費用の増減
離婚が成立しないまま別居状態が続くと、精神的ストレスに加えて婚姻費用の支払い義務も長期化する可能性があります。
別居期間の長さによっては裁判で離婚が認められる材料にはなるものの、その間の生活費負担や子どもとの関係維持など、マイナス面も見逃せません。生活費に不安がある場合は、早めに婚姻費用分担請求など法的な手続きを取ることが有効です。
別居中に考慮すべき生活費~婚姻費用や財産分与等の基礎知識
離婚調停中や別居期間中には、生活費の確保と将来的な財産分与について重要な問題が発生します。
別居によって夫婦が別々に暮らすようになると、経済的負担の分担方法が大きく変わります。特に専業主婦(夫)にとって、別居後の日々の生活費をどのように確保するかは深刻な問題となるでしょう。
また、財産分与については別居開始のタイミングが重要な意味を持ちます。別居によって事実上の夫婦共同生活が終了したとみなされるため、財産分与の対象期間を明確にするうえで別居の事実とその開始日を正確に記録しておくことが重要です。


婚姻費用分担請求のポイント
婚姻費用分担請求は、別居後に生活費を補償してもらうための重要な手続きです。
この手続きでは夫婦の収入や資産状況をもとに支払い額が算定されるため、以下の書類を正確に準備する必要があります。
必要な準備書類
- 収入証明書(給与明細、源泉徴収票など)
- 支出状況がわかる資料(家計簿、レシートなど)
- 預貯金残高証明書
- 子どもにかかる費用の詳細
調停や裁判では、これらの資料をもとに適切な支払い額や支払い方法を定めてもらうことが可能です。婚姻費用は離婚が成立するまで継続して支払われるため、生活の安定を図る重要な制度といえます。
財産分与の基準時と別居の開始日
財産分与では、夫婦が共同で財産を形成していた期間を明確にすることが重要です。
一般的には夫婦の実質的な共同生活が終了した時点が基準時とみなされるため、別居の開始日が重要な目安となります。この基準時によって財産分与の対象範囲が決まるため、正確な記録が必要です。
財産分与で注意すべき点
- 別居後に築いた財産は基本的に分与対象外
- 別居前の共有財産は分与対象となる
- 資産の移動や大きな買い物は記録を残す
- 不動産の評価は別居時点が基準
別居後の資産形成については個人の財産とみなされる場合が多いため、別居のタイミングと財産の状況を正確に把握しておくことが、後の財産分与交渉を有利に進めるポイントとなります。


別居調停とは?~別居そのものを調停で決める場合
離婚調停とは別に、まずは別居の可否や条件を話し合うための「別居調停」という手続きがあります。
この制度は、離婚に至る前の段階で夫婦が一時的に別居することについて、家庭裁判所の調停委員を交えて話し合う手続きです。相手が別居に反対している場合や、別居の条件について合意が得られない場合に活用されます。


別居調停のメリット
別居条件を調停で定める最大のメリットは、調停委員という第三者を交えてルールづくりができるため、正当性が高い形で別居を開始できる点です。
調停で成立した内容は調停調書として残り、法的な拘束力を持ちます。これにより、約束が守られない場合の対処も可能になります。意思疎通の難しい相手との交渉において、弁護士や調停委員の力を借りることで感情的にならずに冷静な話し合いを進められます。
別居調停のデメリット
調停手続きには一定の時間と費用がかかります。数回の期日を重ねる必要があり、解決まで数か月を要する場合も珍しくありません。話し合いがうまくいかない場合、結局は離婚調停や訴訟に移行する恐れもあります。当初の目的である別居が実現できずに時間だけが経過するリスクがあります。
別居調停成立後に起こり得るトラブルへの対処
調停でいったん合意した内容が後になって変更を余儀なくされる場合もあります。住宅事情の変化や子どもの年齢・学校問題など、時間とともに状況が変わったときには再度協議の場を設ける検討が必要です。
合意違反を防ぐためにも、各種文書で取り決めを明確化しておき、必要であれば弁護士に相談しながら修正手続きを進めるようにしましょう。
別居中の浮気・不倫はどう扱われる?~慰謝料請求のポイント
別居中の配偶者の不倫や浮気が発覚した場合、離婚調停において大きな争点となり得ます。
別居によって夫婦関係が冷え込んだ状態であっても、法律上は依然として婚姻関係が続いていることになります。そのため、別居中の不貞行為が発覚すれば相手に慰謝料を請求できる可能性があります。


家庭内別居からの不貞行為と証拠収集
家庭内別居のように同じ家で暮らしていても、会話や生活の実態が全くない状況からの不貞行為は近年増えつつあります。しかし法的には婚姻関係が継続しているとみなされるため、不貞行為の証拠集めは怠れません。メールやSNSの履歴、探偵の調査報告など、公的に認められるレベルの証拠を確保することで調停や裁判を有利に進められます。
別居中の恋愛が離婚調停に与える影響
別居中に恋愛関係を築くこと自体は個人の自由ですが、離婚調停や裁判では不貞と疑われるリスクが高まります。もし離婚条件交渉の中で問題視されると、慰謝料増額や親権・財産分与の不利な取り扱いを招く可能性があります。別居後も法的な婚姻関係が継続している以上、プライベートな行動には十分に注意が必要です。
別居や離婚調停についてよくある質問(Q&A)
別居や離婚調停に関する疑問点について、代表的な質問をピックアップして回答します。
離婚調停や別居にまつわる疑問は多岐にわたります。ここではよくある質問と、その対処方法や注意点をまとめました。参考にしながら、自分のケースに合う方法を取り入れてみてください。
Q1:別居しているのに相手が離婚に応じてくれません。どうしたらいいですか?
相手が離婚に応じない場合でも、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることが可能です。調停では調停委員が双方の主張を整理し、合意点を探ってくれます。必要書類や手続きの流れは自治体や裁判所のウェブサイトにも案内があるため、まずは情報を収集し、さらに不安であれば弁護士へ相談するとスムーズに進められます。
Q2:離婚調停中の別居で親権は不利になりますか?
別居中に子どもと離れて暮らすと、子どもの日常的なケアに関与していないと見なされる可能性があり、親権の獲得に不利として働く場合があります。ただし、面会交流を積極的に実施し、子どもの福祉を最優先に行動している姿勢を示すことで影響を軽減できることもあります。環境面や収入面の安定など総合的に判断されるため、一概に不利とは限りません。
Q3:有責配偶者ですが、別居すれば離婚請求は通りやすくなりますか?
不貞や暴力など有責があるとされる配偶者が離婚を請求する場合、一般的には長期の別居期間が必要とされることが多いです。別居している時間が長く、夫婦関係が修復不能と見なされれば離婚が認められる可能性は高まりますが、裁判所は有責側の反省や誠実な対応も重視します。別居期間だけでなく、どのように相手への配慮をしているかも重要なポイントです。
Q4:別居が長期化した場合、婚姻費用や財産はどうなりますか?
別居が長期化すると、婚姻費用の支払いが続き、経済的負担が増大することがあります。また、この間に財産分与の対象となる時期も実質的に終わっていると判断されるケースが多いため、別居後に得た収入や財産は分与対象外となる場合があります。長期化に伴うトラブルを避けるためには、早い段階で婚姻費用分担請求や財産分与の整理を進めておくのが得策です。
別居と離婚調停を円滑に進めるために
別居と離婚調停の進め方や重要なポイントを総合的に振り返り、スムーズな問題解決への道筋を示します。
別居と離婚調停には、法的・経済的・心理的な側面から多角的な準備が求められます。経済的には婚姻費用や財産分与、子どもの面においては親権や面会交流、さらに証拠収集などのデリケートな課題も含まれるため、焦らず一つひとつ対策を講じることが大切です。
また、別居期間が長期化すれば離婚を認められやすくなる一方、悪意の遺棄とみなされる可能性や生活費の負担が続くリスクもあります。複雑な局面では専門家の力を借り、交渉や裁判の進め方を含めた対策を踏まえながら、最終的に自分と家族にとって最善の結果を得られるよう行動することが重要です。

